北から来た戦士たち――土浦兵学館
十月。
シレトクが土浦の兵学館へやって来た。
少弐から暇をもらい、久しぶりに室蘭へ帰ったはずだった。
それが帰ってきてみれば、一人ではない。
百人を超える男たちを連れていた。
しかも、これで全部ではなかった。
「まだ来る」
兵学館の者に人数を尋ねられ、シレトクはそう答えた。
「まだ?」
「ああ」
「何人だ」
「分からない」
兵学館の者が怪訝な顔をする。
シレトク自身、本当に分からなかった。
室蘭へ帰って少弐の話をした。
西へ戻ったこと。
兵庫津という大きな港にいること。
播磨や備前を歩き、そのさらに先へ道を作ろうとしていること。
すると、
――少弐を助けに行く。
そう言い出す者が現れた。
最初は数人だった。
それが十人になり、数十人になった。
室蘭だけでは収まらなかった。
少弐が北方航路で訪れた土地へ話が伝わっていった。
富内。
哲秀河――チョルガル。
綾部。
大穂田。
大掾家が事情を知り、北方航路を往来する船に志願者を乗せてくれるようになった。
そのためシレトクが土浦へ着いてからも、大掾から書状が届く。
――次の船にも乗せた。
数日後には、
――さらに北から来た者がいる。
シレトクは頭を掻いた。
「だから、何人になるか俺にも分からない」
兵学館側としても、全員が揃うまで待っているわけにはいかなかった。
来た者から訓練することになった。
まず彼らが持ってきた武器を調べた。
弓。
狩猟槍。
小刀。
山刀。
中には、本当に小刀一本だけで来た者までいた。
衣服もばらばらだった。
毛皮を着ている者。
厚い布衣の者。
北方独特の装飾を身につけている者。
誰一人、軍隊らしい格好ではない。
だが実際に動かしてみると、兵学館の評価はすぐに変わった。
山を歩かせる。
速い。
荷物を背負わせる。
平気で歩く。
野営させる。
ほとんど教えることがない。
弓を持たせる。
これも巧い。
獲物を追わせれば、わずかな足跡や折れた枝を見つける。
兵学館の教官が氏治へ報告した。
「兵ではございませぬ」
氏治が眉を上げる。
「弱いのか」
「逆でございます」
教官は困ったように答えた。
「一人一人は、すでに随分と出来上がっております。ただ、軍ではございませぬ」
氏治にも意味は分かった。
ならば一から作り直す必要はない。
「来た者から坂東の装備を渡せ」
氏治は命じた。
まだ専用の軍装など考えていなかった。
とりあえず坂東軍の基準装備を使わせる。
軽量の胸鎧。
坂東サーベル。
軍靴。
氏治は多少嫌がられると思っていた。
北方の者たちには北方の戦装束がある。
ところが意外なことに、評判は悪くなかった。
胸鎧を着た男が腕を大きく回した。
「軽いな」
別の者はしゃがみ込み、そのまま立ち上がる。
「脚が動く」
坂東軍の鎧は、全身を重く覆うことを重視していない。
鉄砲が普及することを見越し、守るべき場所を守りながら、走り、伏せ、立ち、移動できることを優先してきた。
それが北方の戦士たちの感覚と妙に合った。
彼らもまた、山林で身体を重く固める装備を好まない。
「これなら山に入れる」
胸鎧は特に好評だった。
サーベルも馴染むのが早い。
狩猟刀や山刀を扱ってきた者にとって、反りのある片刃の刀は理解しやすかった。
軍靴については、履き慣れない者から文句も出た。
だが何日か歩かせると、
「悪くない」
という者が増えた。
氏治はその報告を面白がった。
「我らが先へ進めようとして作った軽装備が、北の者には当たり前なのか」
技術や理由は違っても、求めた結果が似ていたのである。
問題は一つだった。
銃だった。
氏治は彼らを少弐のもとへ送るなら、単筒を扱えるようにしておきたいと考えた。
そこで射場へ連れていった。
最初の発砲。
轟音に顔をしかめる者がいる。
何人かは思わず耳を押さえた。
シレトクも、
「うるさいな、やっぱり」
と顔をしかめた。
だが撃たせてみると、兵学館の教官たちは意外なことに気づいた。
狙いをつける感覚がいい。
狩猟をしてきた者が多いからだった。
獲物との距離を見る。
身体を安定させる。
撃つべき瞬間を待つ。
そして一発を無駄にしない。
そうした感覚を、すでに身体で知っている。
「思ったより早いな」
教官が感心する。
しかし氏治は、そこで訓練を軽くすることを許さなかった。
「当てられることと、銃を扱えることは違う」
火薬を量る。
弾を込める。
機構を扱う。
湿気から守る。
不発のときに慌てない。
撃った後に手入れする。
そして何より、仲間へ銃口を向けない。
「西へ行ってからも使うのであろう」
氏治は言った。
「ならば身体が勝手に動くまで続けよ」
期限は決めなかった。
いつ全員が揃うかも分からない。
だから来た者から教える。
先に覚えた者は、次に来た者へ教える。
十月の終わり。
また鹿島から知らせが来た。
新しい一団が到着したという。
シレトクが迎えに出る。
ところが戻ってきた者たちの中には、シレトク自身でも言葉を聞き返す者が混じっていた。
「……何て言った?」
隣の男に尋ねる。
「俺に聞くな」
「お前のほうが近いところの言葉だろ」
「少ししか分からん」
さらに北から来た者たちだった。
身振りを交え、別の者を呼び、二つ三つの言葉を経由して、ようやく意味が通じる。
兵学館の教官は呆然とした。
「仲間同士で言葉が通じぬのか」
シレトクは笑った。
「北は広いんだ」
氏治はその話を聞いて、むしろ面白がった。
同時に、一つの問題にも気づいた。
これほど言葉が違う者たちを一つの軍にするなら、共通の合図が必要になる。
笛。
旗。
手振り。
短く単純な号令。
兵学館に新しい課題が加わった。
そして船はまだ来た。
十一月になっても来る。
十二月になっても、北から人が送られてくる。
人数は増え続けた。
先に来た者は、すでに坂東の胸鎧を着ていた。
腰にはサーベル。
足には軍靴。
射場では単筒を撃っている。
新しく来た者たちは、その姿を不思議そうに眺める。
そして数日後には、自分たちも同じ格好になった。
ただし氏治は、彼らを完全に坂東兵と同じ姿にするつもりはなかった。
演習場に並ぶ北方の戦士たちを見ながら考えていた。
胸鎧は、このままでいい。
サーベルもいい。
軍靴も使える。
武具そのものを大きく変える必要はない。
むしろ、この軽装備は彼らによく似合っている。
ならば――
変えるべきは性能ではなく、姿だ。
北方の衣服。
毛皮。
文様。
獣を使った装飾。
彼ら自身の好みを残しながら、坂東の軍装へ組み込めばいい。
氏治は、まだ名前すらないその軍勢を眺めていた。
何人になるのかも、まだ分からない。
いつ西へ送るのかも決めていない。
それでも確かなことが一つだけあった。
北から船が着くたび、
土浦には新しい戦士が増える。
そして先に来た者が、新しく来た者へ銃の扱いを教えている。
ばらばらの言葉を話していた者たちが、同じ笛の音で動き始めている。
氏治は、その光景を見ながら静かに考えていた。
――さて。
こやつらに、どんな鎧を着せてやろうか。




