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銀の継ぎ目――宇喜多直家、少弐冬明を測る

二度目の会見は、備前で行われた。


今度は宇喜多直家の側が少弐冬明を迎える。


だが前回とは少し事情が違った。


少弐は客でありながら、いくつもの包みを抱えて現れたのである。


直家はそれを見て笑った。


「少弐殿は、会うたびに何か持ってこられる」


「癖のようなものです」


「聞いております。明智殿には酒を渡されたとか」


少弐が少し驚いた。


「もうご存じで?」


「この辺りでは、面白い話はよく伝わります」


やはり嫌な男だ。


少弐は笑いながら、心の中ではそう思った。


だが今日は政治の話をするつもりはなかった。


少弐は最初の包みを開いた。


「宇喜多殿」


「何でしょう」


「兵庫から瀬戸内の商いが再び盛んになれば、西からもいろいろなものが入ってくるようになります」


博多。


対馬。


朝鮮。


琉球。


そして南蛮船が運んでくる、さらに遠い土地の品。


少弐が兵庫津に清盛館を築こうとしている目的は、単に備前や播磨の商品を堺へ運ぶためだけではない。


瀬戸内を再び一本の道にする。


そうなれば東から西へ物が流れるだけではない。


西から東へも珍しいものが入ってくる。


「例えば、こういうものです」


少弐が包みから取り出した。


「犀の角です」


直家が眉を上げる。


「犀?」


「南方にいる獣です」


直家は手に取って眺めた。


「これは……角なのですか」


「ええ」


直家には、いまひとつ価値が分からなかった。


珍しい。


それは分かる。


だが何に使うのかが分からない。


少弐は余計な説明をしなかった。


続いてもう一つ。


「それから、珍香を」


今度は直家の反応が違った。


「ほう」


香木だった。


茶席にも使える。


直家は手に取り、香りを確かめた。


「これはよい」


「お気に召しましたか」


「ええ」


直家は少弐を見る。


「少弐殿」


「はい」


「私について、随分お調べになったようですな」


少弐は笑うだけだった。


「今日は友好の証として、二つとも差し上げます」


「これはありがたい」


直家は珍香をもう一度眺めた。


茶を好むことまで調べてきた。


そう考えるのが自然だった。


だが――。


直家は犀角へ目を戻した。


なぜ、これを一緒に持ってきた?


少弐は説明しない。


その代わり、さらに別の箱を出した。


「今日はもう一つあります」


「まだ?」


「これは献上品というより、私が使いたいものです」


箱を開く。


備前焼だった。


直家の目が止まった。


古い。


新しく焼かれたものではない。


長く人の手を渡ってきた古備前。


そして一度割れた痕がある。


その傷が――


銀で継がれている。


直家は思わず身を乗り出した。


「これは……」


「堺で見つけました」


少弐は少し得意そうだった。


「よいでしょう」


直家はしばらく答えなかった。


器を見る。


渋い。


落ち着いている。


備前の土そのものの色がある。


余計な飾りがない。


それなのに、傷を走る一筋の銀だけが静かに光っている。


金ではない。


銀。


そこがいい。


もし金なら、器より継ぎ目が勝ってしまったかもしれない。


銀だから古備前の土味を邪魔しない。


むしろ年月を経た器に、冷たい光が一本だけ加わっている。


直家の好みに、見事にはまった。


「……よいものを見つけられた」


「でしょう?」


少弐は嬉しそうだった。


それが外交上の演技なのか、本当にこの器が好きなのか。


直家には、まだ分からない。


「今日は私が茶を入れます」


直家が顔を上げる。


「少弐殿が?」


「習い始めたばかりですが」


少弐は少し恥ずかしそうに笑った。


「前回は宇喜多殿に入れていただきましたから」


直家は覚えていた。


前回。


自分が勧めた茶に、この男は一度も口をつけなかった。


煙管ばかり吸っていた。


直家は気づいていた。


警戒されていたのだ。


だが、それについては何も言わなかった。


「では、お手前を拝見しましょう」


「期待しないでください」


少弐が茶を点て始めた。


手つきはまだ慣れていない。


直家から見れば分かる。


少しぎこちない。


だが妙に真剣だった。


やがて茶が出される。


そして少弐は、さらに包みを取り出した。


直家が笑う。


「今度は何です」


「茶請けです」


包みを開く。


黄色い菓子だった。


直家が見たことのないものだった。


「これは?」


「カステラというそうです」


「かすてら」


「南蛮人の菓子です。堺で手に入れました」


卵。


砂糖。


小麦。


南蛮から伝わった製法で作られた甘い菓子。


少弐は一切れ取った。


「どうぞ」


直家も口にする。


柔らかい。


そして――甘い。


「……これは」


少弐が少し期待した顔をする。


「どうです?」


直家はもう一口食べた。


「うまい」


少弐が笑った。


その表情を見て直家は理解した。


どうやらこの男自身も甘いものが好きらしい。


茶。


珍香。


甘い南蛮菓子。


そして銀継ぎの古備前。


直家は改めて卓上を見る。


そこで、一つの考えが浮かんだ。


銀。


南蛮人は、銀器が毒に反応すると信じて使うことがあると聞く。


そして先ほどの犀角。


東方でも、犀角は古くから毒を退ける霊薬のように語られることがある。


直家の目が細くなった。


――なるほど。


自分について調べたのは、茶の好みだけではない。


宇喜多直家。


敵を謀で倒す男。


毒を使うとも噂される男。


その評判まで調べたのだ。


そのうえで――


犀角と、銀で継がれた茶器を持ってきた。


直家は少弐を見る。


少弐は何食わぬ顔でカステラを食べている。


偶然か?


それとも意図的か?


分からない。


そこが直家には面白かった。


「少弐殿」


「はい?」


「一つ聞いてよろしいか」


「どうぞ」


「茶器は、どういうものがお好きです?」


少弐は少し考えた。


「難しいですね」


「唐物は?」


「好きですよ」


少弐は茶器を眺めながら答えた。


「博多にはよく行きましたから」


博多の商人のところには、明から渡ってきた器がある。


朝鮮から来るものもある。


少弐自身、対馬を越えて朝鮮へ渡ったことがある。


「朝鮮や明の器を見ると、懐かしく感じます」


直家には、その答えが少し意外だった。


価値ではなく――懐かしい。


と答えたからだ。


「では、唐物がお好みで?」


「いや」


少弐は首を振った。


そして銀継ぎの備前焼を見た。


「最近は、これが好きです」


「備前が?」


「ええ」


少弐は器を持ち上げる。


「渋いでしょう」


直家が笑う。


「備前の者に備前の渋さを説かれますか」


「だから聞いてほしいんですよ」


少弐も笑った。


「派手じゃない。でも見飽きない」


指先で銀の継ぎ目をなぞる。


「それに、この銀がいい」


「金ではなく?」


「金だと、俺には少し派手すぎます」


直家の笑みが深くなった。


そこまで同じか。


「備前の土の色なら、銀くらいがちょうどいい」


少弐は本当にそう思っているらしい。


直家は少弐という男を、少しだけ理解した気がした。


この男は遠い国へ行く。


朝鮮へ行く。


琉球へ行く。


北の果てまで行く。


南蛮人とも話す。


それでも、訪れた土地で自分の価値観を押しつけるのではない。


その土地のものを調べる。


その土地の者が何を大切にしているのかを見る。


そして、それを尊重する。


備前へ来れば、備前焼を見る。


宇喜多直家と会うなら、宇喜多直家が何を好むか調べる。


茶。


香。


甘味。


そしておそらく――


毒についての評判まで。


直家は茶を飲んだ。


少弐も今度は、自分で点てた茶を飲んでいる。


前回とは違う。


二人とも同じ茶を口にする。


だが――。


直家は思った。


信頼してもよい。


この男は相手を尊重する。


故郷を大切にする者の気持ちも理解する。


約束を結べば、それを軽々しく破るような男でもなさそうだ。


しかし。


信用してはいけない。


少弐冬明は、人が良いだけの男ではない。


宇喜多直家について、ここまで調べてから会いに来た。


砂糖の流れ。


茶器の流れ。


茶席の好み。


香。


備前焼。


そして毒の噂。


どこまで知っているのか分からない。


直家はカステラを一切れ取った。


「少弐殿」


「はい」


「これは、また手に入りますか?」


少弐の顔が明るくなる。


「カステラですか?」


「ええ」


「瀬戸内の商いが通れば」


少弐は笑った。


「もっと簡単に」


直家も笑った。


それで十分だった。


今日は政治の話をしない。


織田の話もしない。


毛利の話もしない。


小田家の後ろ盾についても話さない。


ただ茶を飲む。


香を楽しむ。


備前焼を見る。


南蛮菓子を食べる。


それだけだった。


だが宇喜多直家にとっては、最初の会見よりも遥かに多くのことが分かった。


少弐冬明は――


自分を調べている。


そして同時に、


自分を尊重している。


直家はその二つを混同しなかった。


だからこそ。


この日から少弐冬明を――


信頼することにした。


だが最後まで、


信用はしなかった。


そして少弐の側もまた。


宇喜多直家に対して、ほとんど同じ結論にたどり着いていた。

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