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留守にするための館――少弐、兵庫津を託

清盛館を建てる場所を決めたところで、少弐冬明は早くも次のことを考えていた。


館そのものではない。


自分がここにいない間、誰が兵庫津を動かすのか。


下間頼廉とともに港から戻る途中、少弐は松浦鎮興へ言った。


「鎮興」


「はい」


「お前、堺へ戻れ」


松浦は足を止めた。


「……兵庫へ来たばかりでございますが」


「だからだ」


「意味が分かりませぬ」


少弐は笑った。


「俺はたぶん、ここにあまりいない」


渡辺満が横から口を挟む。


「でしょうな」


「満」


「誰も驚いておりませぬ」


ライラまで頷いていた。


兵庫津を与えられた。


ならば普通の武将なら、まず城を築き、家臣団を置き、領内を固める。


少弐は違う。


氏治から与えられた命令は、


――堺から朝鮮まで道を通せ。


兵庫津に座っていては、その道はできない。


播磨へ行く。


淡路へ渡る。


四国へ行く。


必要なら備前へも行く。


船に乗って瀬戸内を西へ進む。


つまり清盛館は、主人が頻繁に留守にすることを前提として造らなければならなかった。


「だから堺との連絡を切りたくない」


少弐は言った。


「兵庫だけ見ていたら、畿内の商いが分からなくなる」


松浦はようやく理解した。


「私を堺の連絡役に?」


「ああ」


少弐が北方へ行っていた間、堺を実際にまとめていたのは松浦だった。


商人たちとも顔がつながっている。


書状を扱える。


帳簿を読める。


佐野との連絡もできる。


そして何より、少弐が突然どこかへ行っても慣れている。


「今までと大して変わらん」


「それを殿ご自身がおっしゃいますか」


「頼りにしているという意味だ」


松浦はため息をついた。


「その一言で何でも済ませられると思っておられますな」


少弐は否定しなかった。


そしてもう一人、兵庫津について頼る相手を決めていた。


今井宗及である。


堺との商いを維持しながら兵庫津に新しい交易拠点を作るなら、少弐家の人間だけで一から始める必要はない。


商人には商人の世界がある。


船を持つ者。


荷を集める者。


蔵を持つ者。


金を貸す者。


遠国の相場を知る者。


そうした人間を集めるなら、今井宗及の力を借りた方が早い。


少弐は宗及へ頼んだ。


清盛館の普請そのものもそうだが、それ以上に、


兵庫津で信用できる商人を紹介してほしい。


蔵を手配してほしい。


堺との荷の往来を作ってほしい。


必要な職人を集めてほしい。


そして少弐が留守でも商いが止まらない仕組みを作ってほしい。


宗及は話を聞いた後、少し呆れた。


「冬明様」


「なんでしょう」


「御館をお造りになるのでしょう?」


「はい」


「御自身がお住まいになるために?」


「たまには」


宗及はしばらく少弐を見た。


「たまに」


「はい」


「では、これは御館というより商館では?」


少弐は考えた。


「それでいいです」


「よいのですか」


「むしろ、その方がいい」


少弐が欲しいのは立派な御殿ではない。


自分が戻ってきたときに報告が集まる場所。


外交使節を迎えられる場所。


商品を保管できる場所。


船を手配できる場所。


そして次の旅へ出られる場所だった。


宗及は笑った。


「分かりました。では商人が使いやすい館にいたしましょう」


「お願いします」


こうして清盛館の普請と兵庫津の商業整備には、堺商人の力が入ることになった。


そして松浦鎮興は、再び堺へ戻った。


ただし以前とは役割が違う。


これまでは、北方へ行った少弐に代わって堺を守る者。


これからは、


堺と兵庫津をつなぐ連絡役。


堺で得た商況を兵庫へ送る。


佐野家からの書状を少弐へ届ける。


兵庫から届いた瀬戸内の情報を堺の商人へ伝える。


必要なら人や物資を兵庫へ送る。


少弐が瀬戸内のどこにいるか分からなくなれば、清盛館を経由して書状を追いかける。


松浦は出発前、少弐へ念を押した。


「殿」


「なんだ」


「せめて行き先だけはお知らせください」


「もちろんだ」


渡辺が横から言った。


「信用できませんな」


「満」


「北方で前科がございます」


エカシロが頷いた。


「少弐は急に行くぞ」


「お前まで言うのか」


ライラも笑っていた。


松浦は頭を抱えた。


「……やはり私が堺にいた方がよさそうですな」


少弐も笑った。


こうして少弐家の西国拠点は、最初から一つの城を中心には作られなかった。


堺には松浦鎮興。


兵庫津には清盛館と今井宗及につながる商人たち。


そして少弐本人は、ライラ、エカシロ、渡辺満らとともに瀬戸内を動く。


主人が動き続けるからこそ、拠点同士を線でつなぐ。


それは北方航路で少弐が学んだやり方でもあった。


一つの土地を固く守るのではない。


港と港をつなぐ。


人と人をつなぐ。


その間を船が行き来する。


清盛館は少弐の居城ではなかった。


少弐が西へ進み、そして再び帰ってくるための――


母港だった。

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