雪山の合流――肩に矢を負った穴持たず
午後の捜索が始まってしばらく経った。
コタンからかなり離れ、襲撃を受けたコタンとの中間にある山へ入ったころだった。
先頭を歩いていたシレトクが突然、片手を上げた。
「止まれ」
少弐とライラが即座に足を止める。
シレトクは雪の上にしゃがみ込んだ。
「……あるぞ」
雪の上に残された、はっきりとした足跡だった。
午前中に見つけた古い痕跡とは違う。
シレトクは雪に触れ、足跡の輪郭を確かめる。
「新しい」
少弐も少し離れたところから覗き込んだ。
「大きくないな」
「そうだな。小さい」
だがシレトクは首を振った。
「子熊じゃないと思う」
ライラが尋ねる。
「大人なのか?」
「たぶんな。小柄な成獣だ」
足跡は山の斜面を横切るように続いている。
しかも歩幅には乱れが少ない。
シレトクはしばらく観察してから立ち上がった。
「動きが速そうだ」
「厄介だな」
少弐が呟く。
巨大な熊なら恐ろしい。
しかし小柄で素早い熊には、また別の危険がある。林の中では姿を見失いやすく、距離を詰められるのも早い。
そのとき、後方から声が聞こえた。
別方向を捜索していた戦士たちが、数人の見知らぬ男たちを伴って近づいてきた。
襲撃を受けたコタンから来た戦士たちだった。
彼らのコタンは、ここでは**「ペナウシ」**と呼ばれていたことにしよう。
「川上に木の多いところ」という意味合いをもつ地名として、山と沢に囲まれた小さなコタンだった。
ペナウシの戦士は足跡を見るなり、顔を険しくした。
「たぶん、こいつだ」
少弐が尋ねる。
「大きさも同じか?」
「ああ。大きくない」
男は手で熊の背丈を示した。
「初めは若い熊だと思った。だが違う。もう大人だ。小さいだけだ」
別の戦士が続ける。
「それに、すばしっこい」
彼は苦々しそうに言った。
「大きな熊なら、まだ動きを読める。あいつは木の間を走る。向きを変えるのも速い」
ライラが眉をひそめた。
「それでコタンへ?」
「夜明け前だった」
ペナウシの戦士たちは、襲撃時の状況を説明し始めた。
最初に犬が騒いだ。
熊は食料を置いていた場所へ入り込み、干した魚や肉を荒らした。
人々が騒ぎ始めても、すぐには逃げなかった。
「普通なら人が集まれば逃げる」
シレトクが言う。
ペナウシの男がうなずいた。
「だからおかしいと思った」
戦士たちが槍と弓を持って集まった。
熊はそこでようやく逃げ始めたが、まっすぐ山へ向かわず、家々の間を素早く動いた。
そして追い詰めようとした戦士の一人へ突然向きを変えた。
「襲ってきたのか?」
少弐が聞く。
「そうだ」
迎撃した。
その際、弓を持っていた戦士が至近から一本を射込んだ。
男は自分の肩を指した。
「ここだ」
熊の肩。
「深く刺さった?」
「刺さった」
戦士は悔しそうに首を振る。
「だが、止まらなかった」
矢を肩に刺したまま熊は走った。
血も出ていた。
それでも動きはほとんど鈍らなかったという。
ライラが驚く。
「矢を受けたまま走ったのか」
「熊だからな」
シレトクは淡々と言った。
「人間と同じようには考えるな。身体が頑丈だ」
ペナウシの戦士もうなずく。
「あいつは特にそうだった。矢が刺さったのに、ものともしていないように見えた」
少弐はそこで重要なことに気づいた。
「待て。その矢は抜けたのか?」
「いや」
「なら――」
少弐とシレトクがほぼ同時に熊の足跡を見る。
ペナウシの戦士もうなずいた。
「まだ刺さっているかもしれない」
これは大きな目印になる。
山に熊が何頭いようと、
肩に矢を刺した小柄な成獣。
これなら誤認する可能性をかなり減らせる。
「矢には特徴があるか?」
少弐が尋ねる。
射た本人らしい若い戦士が、自分の矢筒から一本を抜いた。
「俺のだ」
羽根の付け方と矢柄に特徴がある。
少弐はそれを覚えた。
ライラも手に取って観察する。
「これと同じ矢が肩に刺さっている熊なら、間違いないな」
「たぶんな」
しかしシレトクだけは表情を緩めなかった。
「それと、もう一つ悪いことが分かった」
「何だ?」
少弐が尋ねる。
シレトクは雪の足跡を指した。
「矢を受けた熊なら、これは手負いだ」
沈黙が走った。
ただでさえ冬眠していない穴持たず。
人の食料を覚え、コタンへ入り、人間を恐れなくなりつつある。
そのうえ手負いになっている。
「さっき長が言っていたな」
ライラが呟いた。
「手負いにして逃がすのが一番危険だと」
「ああ」
少弐は足跡の向かう先を見る。
そしてペナウシの戦士に尋ねた。
「襲撃からどのくらい経っている?」
答えを聞いたシレトクは、改めて足跡を調べた。
「なら、おそらく同じ奴だ」
少弐は即座に追跡を命じなかった。
むしろ逆だった。
「全員、ここから勝手に先へ行くな」
ペナウシの戦士の一人が驚く。
「追わないのか?」
「追う」
少弐は答えた。
「だからこそ、一度考える」
少弐は雪の上にしゃがみ、現在地、室蘭側のコタン、ペナウシ、そして足跡の向きを簡単に描いた。
「こいつが本当にペナウシを襲った熊なら、問題は熊を見つけることだけじゃない」
指が二つのコタンの間を動く。
「こいつはすでに、人のいる場所から人のいる場所へ移動できる位置にいる。」
その言葉で戦士たちの顔つきが変わった。
ペナウシへ戻るかもしれない。
こちらのコタンへ来るかもしれない。
あるいは別の場所へ向かうかもしれない。
シレトクは槍を握り直した。
「それに、この足跡が本当にあいつなら――」
雪の上には、小柄な熊の足跡が山の奥へ続いている。
「俺たちはもう、悪いカムイの後ろにいる」
風が木々を揺らした。
誰もすぐには動かなかった。
肩に矢を負いながら、人の集落を離れ、なお山中を素早く動いている小柄な穴持たず。
ようやく捜索は、探索から追跡へ変わろうとしていた。




