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昼の評定――見つからない穴持たず

午前の捜索は、日の高くなるころにいったん打ち切られた。


夜明けから戦士たちは三人一組に分かれ、コタンを中心に沢筋、林の縁、鹿の通り道、海岸へ抜ける道を急いで調べた。


少弐、ライラ、シレトクの三人も一組となった。


だが――熊はいなかった。


新しい足跡もない。


荒らされた場所もない。


鹿の死骸や食べ残しらしいものも見つからなかった。


午前中いっぱいを使って調べた範囲では、少なくとも穴持たずがコタンのすぐ近くを徘徊している形跡はなかった。


昼になると全員が長の家へ戻った。


炉の周囲には魚の汁物と干し肉、それに粥が並べられた。少弐たちが持ち込んだジャガイモも少し入っている。


食事を取りながら、そのまま二度目の対策会議が始まった。


「いなかったな」


戦士の一人が言う。


別の男も首を振った。


「北の沢にもいない。足跡も古いものばかりだ」


「海側も同じだ」


それを聞いたライラが少し安心したように言った。


「なら、もう遠くへ行った可能性もあるのではないか?」


だが、シレトクはすぐには同意しなかった。


「ある。だが、そう思ってしまうのが一番怖い」


少弐も汁椀を置いた。


「近くにいないことと、危険がなくなったことは別だな」


長がうなずいた。


「そうだ」


長は炉端の灰を棒でならし、簡単な地図を描き始めた。


中央にコタン。


そこから沢、山、海岸へ線を伸ばしていく。


「ここまで調べた」


午前中に捜索した範囲を囲む。


「つまり、今わかったのはこれだけだ。コタンのすぐそばには、今朝はいなかった」


少弐は地図を眺めた。


「襲われたコタンはどちらだ?」


長が地図の一方を指した。


少弐はそこから指を滑らせる。


「なら、こちらから来たと決まったわけではない。襲ったあと山へ戻った可能性もあるし、海岸沿いに移動した可能性もある」


シレトクが口を挟んだ。


「それに穴持たずなら、普通の熊のようには考えない方がいい。冬なのに歩き回っているんだからな」


「腹を空かせているからか?」


ライラが尋ねる。


「たぶんな。腹が減っているか、怪我をしているか、歳を取っているか……何か理由があるはずだ」


そこで少弐は考え込んだ。


「それなら、熊そのものを探すより――食い物を探した方がいいか」


長が少弐を見る。


「どういうことだ」


「俺たちは熊を探して歩いている。だが熊の方は、俺たちを探して歩いているとは限らない」


少弐は灰の地図を指した。


「熊が腹を空かせているなら、熊が行きそうなところを探す。魚の残っている場所、鹿の多いところ、死んだ獣、人の食料があるところだ」


シレトクが少し笑った。


「その方がいい」


そして地図の何か所かを指した。


「鹿の通り道ならこっちだ。沢にも魚がいる。それと――」


少し離れた場所を指す。


「獣を捨てる場所も調べた方がいい」


ライラが納得する。


「なるほど。熊を追うのではなく、食卓を先に見つけるのか」


「そういうことだ」


少弐はうなずいた。


だが長は、もう一つ重要なことを付け加えた。


「それと、午後は午前より遠くへ行く。だから急ぐな」


午前中はコタン周辺の安全確認だった。


午後からは本格的に山へ入る。


それなら危険はむしろ増す。


「三人一組は変えない。一人にならない。足跡を見つけても勝手に追わない」


戦士たちがうなずく。


「死んだ鹿を見つけても?」


一人が尋ねた。


シレトクが即答する。


「近づくな」


少弐も続けた。


「特に土や雪、枝をかけて隠してあるなら、その場から離れる。熊が食べ物を隠している可能性がある」


「場所だけ覚える?」


「そうする」


長が決めた。


「見つけた者は戻って知らせる。それから人数を集めて調べる」


ライラは少弐の方を見る。


「もし午後、足跡を見つけたら?」


「追跡はする」


少弐は答えた。


「ただし仕留めるためじゃない。向かっている方向を知るためだ」


「熊を見つけても?」


「遠ければ見るだけだ」


シレトクもうなずいた。


「それが普通の山のカムイなら、こちらから戦う必要はない。今回探している奴なのかも分からないからな」


ここは重要だった。


山には今回の穴持たず以外の熊もいる。


熊を見つけたから敵とは限らない。


まして親子熊などを誤って刺激すれば、別の事故を起こしてしまう。


長は食事を終えると、灰の地図をもう一度指した。


「午後はここだ」


午前よりさらに山側。


沢が二つに分かれ、その先に鹿の通り道がある。


「ここから先を調べる」


少弐は地図を頭に入れる。


シレトクは立ち上がる前に念を押した。


「少弐、ライラ。今度は午前とは違うぞ」


「分かっている」


「本当に分かっているか?」


シレトクは珍しく真剣だった。


「足跡がない場所を歩くのと、足跡を見つけてから歩くのは違う」


そして自分の槍を手に取った。


「新しい足跡を見つけたら、そこから先は俺が先頭を歩く。」


少弐は異論を唱えなかった。


この山ではシレトクが先生だった。


こうして昼の評定は終わった。


午前の捜索で得られた成果は、「熊を発見できなかった」ということだけだった。


しかし、それは失敗ではない。


少なくともコタンのすぐ周囲に穴持たずが潜んでいない可能性は高くなった。


そして午後。


捜索隊は「熊そのもの」を探すのをやめる。


熊が何を食べ、どこを通り、どちらへ向かっているのか。


その痕跡を探すため、午前より深い山へ入ることになった。

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