↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
709/1028

鷹の名――「愛しき人」

少弐は腕に据えた鷹をしばらく眺めていた。


北の空を飛んできた若い鷹。これから自分たちと旅をし、いずれ遠い土地を見ることになるかもしれない。


「この子は雌か?」


シレトクが鷹を見て答えた。


「雌だ。若いな」


「そうか。雌か」


少弐は少しだけ考えた。


そして、ごく自然に言った。


「では――ハビービにしよう」


ライラが、はっと少弐を見た。


ほんの一瞬だった。


シレトクにはただ異国風の名に聞こえただろう。


だがライラには分かる。


ハビービ。愛しき人。愛する者。


そして何より――少弐はその意味を知らずに口にしたのではない。


旅のあいだ、彼は彼女たちからポルトガル語を学び、ライラからは北アフリカの言葉も少しずつ教わっていた。


以前、自分が教えた言葉だ。


だからライラは驚いた。


「……その名前にするのか?」


少弐は鷹から目を離さない。


「ああ。いい名だろう」


「意味は……」


そこまで言って、ライラは止めた。


聞く必要などなかった。


少弐がわずかに笑ったからだ。


「覚えているよ」


それだけだった。


シレトクは二人の顔を交互に見る。


「なんという意味だ?」


少弐は鷹の羽を撫でながら答えた。


「モロッコの言葉だ」


だが、意味までは言わなかった。


ライラも言わない。


「ハビービ」


少弐がもう一度呼ぶ。


鷹が彼の腕の上で首を傾げた。


ライラはその横顔を見つめた。


自分に向けて言われたわけではない。


鷹の名前なのだから、そう言われればそれまでだ。


けれど――少弐は意味を知っている。


そして、この場でその意味が分かるのは、自分と少弐だけ。


それだけで十分だった。


ライラは鷹に手を伸ばし、小さく笑った。


「……いい名前だ」


少弐もそれ以上は何も言わなかった。


二人の間にだけ、**「愛しき人」**という言葉の意味が残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。