一五七一年二月――坂東から来た四
一五七一年二月――坂東から来た四つの種
暖房の工事が一段落したころ、少弐冬明はポラールからいくつかの袋を降ろさせた。
室蘭の長や、ここ数日の工事ですっかり顔馴染みになった者たちを呼ぶ。
「今度は何を作るんだ?」
誰かが言った。
少弐は苦笑した。
「今日は家を壊さない」
笑いが起こった。
少弐が袋を開ける。
中身は坂東から持ってきたものだった。
蕎麦。
ニンニク。
麻の種。
そして芋――坂東でも栽培され始めているジャガイモである。
「春になったら、これをここに植えてみたい」
少弐は一つずつ見せた。
麻については、まずポラールの索具を指した。
「これは食べるためじゃない。麻が育てば縄を作れる」
船の太い綱を叩く。
「船は木だけ直しても動かない。縄が切れれば帆を扱えない。ここには木がある。麻まで育てられれば、北から戻ってきた船を室蘭でかなり直せるようになる」
これは船に詳しい者ほど興味を示した。
だが、残りの三つについて少弐は難しい説明をしなかった。
「こっちは食べてもらった方が早い」
まず蕎麦。
粉にして練り、簡単に食べられるようにする。
次にニンニク。
これは生のまま齧らせようとして、匂いを嗅いだ者から嫌な顔をされたので、少弐も笑って引っ込めた。
最後が芋だった。
皮を整え、食べやすい大きさに切る。
鍋を火にかけ、油を引く。
そこへ刻んだニンニクを入れると、間もなく強い香りが広がった。
「おっ」
反応が変わる。
そこへ芋を入れた。
じゅう、と音がする。
少弐が木べらで混ぜながら火を通す。
仕上げに塩。
さらに坂東から持ってきた海苔を細かくして散らした。
「できた」
見た目はたいした料理ではない。
ニンニクで炒めた芋に塩と海苔を合わせただけである。
ところが、一口食べた男が黙った。
もう一つ取る。
隣の者も食べる。
「どうだ?」
少弐が尋ねる。
「うまい」
「こっちの芋、もう一つくれ」
「俺にも」
あっという間に手が伸びた。
ニンニクの香りと塩気。
ほくほくした芋。
そこへ海苔の風味が加わる。
酒にも合う。
長も芋を一つ摘まみ、噛んでから頷いた。
「これはいい」
少弐は嬉しそうに笑った。
「なら、春に植えてみる」
すると、暖房工事を手伝った者たちが当然のように言った。
「畑を作るなら手伝おう」
「あそこなら風が弱い」
「土なら――」
また始まった。
少弐は慌てて手を振った。
「いや、いい。今度は手伝わなくていい」
皆が不思議そうな顔をした。
少弐は続けた。
「俺たちの畑は俺たちでやる。皆には皆の仕事があるだろう」
そして芋の入った袋を持ってきた。
「その代わり、これを持っていってくれ」
長が首を傾げた。
「食べるのか?」
「半分はな」
少弐は芋を一つ持ち上げた。
「残りは春まで取っておいて、植えてみてほしい」
種芋だった。
「大きな畑なんて作らなくていい。家の近くでもいい。少し土を使わせてもらって植えてみるだけでいい」
少弐は何軒かに分けられるよう、種芋を配り始めた。
「俺たちの畑が失敗して、そっちだけ育つかもしれない。逆もある」
一人が笑った。
「育ったら返すのか?」
「いや」
少弐は即答した。
「食べてくれ」
「全部?」
「全部」
少弐は笑った。
「うまかったら来年また植えればいい。増えすぎたら隣にやればいい」
長が少弐を見る。
「お前には何が残る?」
少弐は少し考えた。
「ここで育つかどうかが分かる」
それで十分だった。
「それに――」
少弐は空になりつつある皿を指した。
「せっかくうまいと言ってくれたんだ。俺の畑ができるまで待つ必要もないだろう」
その言葉に、また笑いが起きた。
こうして坂東から持ち込まれた種芋は、一つの畑に集められるのではなく、室蘭のいくつもの家へ分かれていった。
誰かに栽培を命じたわけではない。
年貢を取るわけでもない。
育て方を強制したわけでもない。
ただ食べてみて、
うまいと思った者が、
自分でも植えてみる。
少弐が室蘭へ持ち込んだ最初の畑作は、そんなところから始まった。




