一五七一年一月末――継ぎ接ぎの家と、雪原を駆ける坂東馬
工事は、結局一週間ほど続いた。
最初は少弐冬明が朝鮮で見たオンドルをうろ覚えで再現しようとしただけだった。
それが三日目には、もはや何を作っているのか本人にも分からなくなっていた。
「ここ、最初は壁だったよな?」
「寒いから塞いだ」
「こっちは?」
「風が入るから変えた」
「この石は?」
「熱を残す」
「じゃあ、この皮は?」
「寝るところが暖かい」
「……なるほど」
少弐は納得することにした。
アイヌたちが寄ってたかって手を入れた結果、少弐の家は妙な姿になった。
朝鮮式を真似た床下の煙道。
アイヌたちが考えた風除け。
石と土で補強された部分。
獣皮を使った防寒。
途中で煙の流れが悪いと分かって作り直した箇所など、明らかに後から継ぎ足されている。
見た目だけなら立派とは言い難い。
継ぎ接ぎだらけだった。
ところが――。
「暖かい」
少弐は床に座って呟いた。
本当に暖かかった。
外では冬の海風が吹いている。
それなのに床からじんわり熱が伝わってくる。
火のそばだけが暑く、そのほかは寒いという暖まり方でもない。
ライラも靴を脱いで床へ座り込み、手のひらを当てた。
「これ、いいな」
「だろう」
なぜか少弐が自慢した。
すると工事を手伝った男が笑った。
「お前は最初に穴を掘っただけだ」
「……それは言うな」
皆が笑った。
少弐自身も笑った。
それでよかった。
誰が作ったかなど、もうどうでもいい。
暖かければ成功である。
そして一週間も一緒に穴を掘り、石を運び、煙にむせ、失敗しては作り直しているうちに、少弐にはずいぶん知り合いが増えていた。
そこである日、少弐は彼らを海辺に近い開けた場所へ誘った。
「今日は面白いものを見せる」
ポラールには三頭の馬が積まれていた。
少弐たちが坂東から連れてきた馬だった。
船から降ろされた馬を見て、集まった者たちが声を上げる。
大きい。
当時の日本で普通に見る馬より、一回り目立つ体格をしていた。
坂東で代々育てられてきた馬である。
北方に由来する馬の血も取り入れながら、体格と丈夫さを重視して掛け合わせてきた。
そのため寒さには強い。
とはいえ少弐自身、室蘭の真冬に連れ出したらどうなるのか、少し心配していた。
ところが――。
「……元気だな、お前たち」
心配など必要なかった。
冷たい空気を吸った途端、馬たちの様子が変わった。
鼻から盛大に白い息を噴き出す。
耳を立てる。
蹄で地面を掻く。
一頭が待ちきれないように首を振った。
「走りたいのか?」
少弐が笑った。
馬に跨がる。
古傷のある腰と膝には気をつけなければならない。
それでも鞍へ収まった瞬間、長く馬に乗ってきた者の姿勢へ自然に戻った。
「行くぞ」
手綱を緩めた。
馬が飛び出した。
冷たい風を切る。
凍った地面と薄い雪を蹴り、坂東馬が室蘭を駆けた。
二頭も続く。
速かった。
そして何より、楽しそうだった。
寒さに縮こまるどころか、馬たちは普段以上に身体を動かしたがっている。
白い息を吐きながら首を伸ばし、力強く地面を蹴る。
見物していたアイヌたちから歓声が上がった。
少弐自身も驚いていた。
「お前たち――」
馬の首を軽く叩く。
「故郷に帰ってきたみたいだな」
もちろん、この馬たちが室蘭で生まれたわけではない。
坂東の牧で生まれ、人に育てられた馬である。
それでも、その身体のどこかに北方の祖先から受け継いだものが残っているのではないか。
そう思いたくなるほど、生き生きとしていた。
しばらく走らせて戻ってくると、工事を手伝った男たちがすぐ馬を囲んだ。
脚を見る者。
胸を見る者。
毛を触る者。
少弐に飼い方を尋ねる者。
「乗れるのか?」
一人が聞いた。
少弐は笑った。
「もちろん」
そして少し考えてから付け加えた。
「乗ってみるか?」
何人かが一斉に返事をした。
少弐は一瞬、嫌な予感がした。
家を改造したときと同じだった。
一人に聞けば十人が答える。
一人に教えれば皆がやってみたがる。
「待て。一人ずつだ。一人ずつ!」
また笑い声が起こった。
継ぎ接ぎだらけだが暖かい家。
その前を、白い息を吐く三頭の大きな坂東馬が歩いている。
少弐が室蘭へ来て、まだ十日にも満たない。
それなのに彼の周囲には、もうずいぶん人が集まるようになっていた。
商館を建てるという話は、まだ始まったばかりである。
けれど交易より先に、少弐は一緒に家を作り、一緒に笑い、一緒に馬を走らせる仲間を作り始めていた。




