[債権者代位]現場編 あなたが取り立てないなら、私が取り立てます
借金というものは、不思議です。
貸した側は、返してもらえるまで一円単位で覚えているのに。
借りた側は、なぜか時間が経つほど記憶が薄くなる。
しかも、都合よく。
「いやあ、金がないものは仕方ないじゃないですか」
そう言った男の顔を見た瞬間、私は思いました。
――仕方ないで二千万円が消えてたまるか。
大槻不動産の応接机を挟んで座っているのは、坂井隆三、四十二歳。
町外れで材木問屋をやっていた人です。
……正確には、やって「いた」。
景気のいい頃に倉庫を増やし、土地も買い、トラックも増やした。
ところが取引先が一社飛んだところから、歯車が外れた。
今では倉庫は抵当に入っている。
トラックは売った。
自宅にも銀行の抵当権。
それでも本人だけは、やけにふっくらしています。
借金すると、人間は痩せるものだと思っていたのですが、そうでもないらしい。
「坂井さん」
正面に座る真壁さんが、怖い顔をさらに怖くして言いました。
「話を整理しますよ」
「はいはい」
「あなたは二年前、うちのお客さんの長谷川さんから二千万円借りた」
「ええ」
「返済日は先月末」
「そうでしたかね」
「契約書に書いてある」
「ああ、そうそう」
そうそう、で済む金額ではありません。
二千万円です。
今の私の給料を積み上げたら、何回生まれ変われば届くんでしょう。
しかも。
この人は本当に金がない。
銀行預金はほぼ空。
めぼしい不動産には抵当権。
他に換価できそうな財産もない。
そのため、二千万円を貸した長谷川さんは、とうとう大槻不動産へ相談に来たのです。
不動産屋なのに借金相談?
と思うかもしれません。
でも、田舎の不動産屋というのは、土地と建物の話をしているうちに、相続も借金も夫婦喧嘩も近所の犬の脱走も相談されます。
町の困り事相談所に、宅建業の看板が付いているようなものです。
大槻所長は坂井さんをじっと見ました。
「返す意思はあるんですか」
「ありますよ、そりゃあ」
「では、どう返します」
「そこですよ」
坂井さんは、なぜか被害者みたいな顔をしました。
「今はないんです。金が」
でしょうね。
それを確認するための話を三十分しています。
「じゃあ、仕方ないでしょう?」
坂井さんは両手を広げました。
「長谷川さんには悪いけど、ない袖は振れないっていうし」
私はお茶を置きながら、心の中で訂正しました。
袖はない。
でも、あんたには別の人から金を取り立てる権利がある。
話の始まりは、その日の朝でした。
長谷川さんが持ってきた古い帳面の中に、不思議な記載があったのです。
坂井隆三。
貸付金 二〇〇〇万円。
そしてその隣に、別の走り書き。
――坂井より、木村製材へ貸付一〇〇〇万円ありとの話。
私はそこを二度見しました。
「真壁さん」
「なんだ」
「坂井さんって、人にお金貸してるんですか?」
「は?」
「これ」
帳面を見せると、真壁さんの眉が動きました。
「……木村製材、一千万?」
「長谷川さん、これ、何です?」
尋ねると、長谷川さんは首をかしげました。
「ああ、それね。坂井が昔言っとったんですよ。木村の親父に一千万貸してあるから、いざとなったら返してもらえるって」
「返してもらったんですか?」
「いや」
「どうして?」
「知らんよ。仲がいいから待ってやるとか何とか」
私は思わず天井を見ました。
自分は二千万円返さない。
でも、自分が貸した一千万円は取り立てない。
……何その優しい世界。
長谷川さん以外にとってだけ。
その時。
頭の中で、前世の宅建テキストが勢いよく開きました。
AがBに金を貸す。
BがCに金を貸している。
Bは金がない。
でもCから取り立てようとしない。
そこでAが――。
「……債権者代位」
思わず口から出ました。
真壁さんが振り返ります。
「なんだそれ」
「坂井さんが木村さんから一千万円を返してもらえるなら……」
私は帳面を指差しました。
「長谷川さんが、坂井さんの代わりに、その権利を行使できる可能性があります」
「人の貸した金を、別の奴が取り立てるのか?」
「はい」
「怖ぇ制度だな」
「借金を返さない人から見たら、たぶんそうでしょうね」
でも。
本当は逆です。
債権者代位権は、他人の財布を勝手に漁る制度じゃない。
債務者が、自分の財産を守るための権利を使わず、そのせいで債権者が回収できなくなる。
そんな時に、債権者が債務者の権利を代わりに使う制度です。
つまり。
――あなたが自分の財産を回収しないせいで、こっちの債権まで潰れるなら、私が代わりに動かしますよ。
という話。
前世で過去問として見た時は、
A、B、C。
三文字しか登場しないくせに人間関係がやたら面倒で、大嫌いでした。
でも、実際の人間に置き換えると、妙に生々しい。
A――長谷川さん。
B――坂井さん。
C――木村製材。
そして今。
Bが目の前で、
「ない袖は振れません」
と言っています。
いや。
袖、木村さんのところに一千万円分ぶら下がってますけど。
「坂井さん」
私は口を挟みました。
「木村製材さんに、一千万円貸しているそうですね」
その瞬間。
坂井さんの顔が変わりました。
ほんの少し。
でも、変わった。
「……誰から聞いたの」
「長谷川さんです」
「ああ……昔の話ですよ」
「返してもらってないんですか?」
「まだね」
「返済期限は?」
「とっくに来てますよ」
――来た。
今度こそ、頭の中でカチッと部品が噛み合いました。
「じゃあ、取り立てればいいじゃないですか」
私が言うと、坂井さんは鼻で笑いました。
「そう簡単じゃないの」
「なぜです?」
「木村とは昔からの付き合いなんですよ」
「はい」
「あそこも今、資金繰りが厳しい。俺が催促なんかしたら困るでしょ」
長谷川さんの顔が引きつりました。
「……わしは困ってええのか?」
「いやいや、そういう意味じゃ」
「二千万貸したわしは困ってええのに、一千万借りとる木村さんは困らせたらいかんのか?」
「だから事情が――」
「わしにも事情はあるわ!」
初めて長谷川さんが声を荒らげました。
六十を過ぎた、小柄な人です。
奥さんを亡くして一人暮らし。
貸した二千万円は、老後の蓄えの大半だった。
坂井さんが「半年で返す。商売を立て直す」と頭を下げたから、貸したのです。
それが二年。
返済日は延ばされ。
とうとう期限を過ぎても、一円も返ってこない。
なのに坂井さんは、自分が他人に貸した金だけは、
友情だから。
付き合いだから。
と言って取り立てない。
それは友情ではありません。
他人の財布でやる人情です。
「坂井さん」
所長が低い声で言いました。
静かです。
でも事務所の温度が二度くらい下がりました。
「あなたが木村さんを待つ自由は、普通ならあります」
「でしょう?」
「普通なら、です」
坂井さんの笑みが止まる。
「あなた自身に十分な財産があって、長谷川さんに返済できるなら、好きに待てばいい」
所長は机の上の契約書を指先で押さえました。
「だが今のあなたには、長谷川さんへの二千万円を支払う資力がない」
「……」
「その一方で、木村さんに対する一千万円の債権を持っている」
「だからって」
「しかも返済期限は来ている」
所長は淡々と続けました。
「それを放置した結果、長谷川さんが回収できないというなら、話は別です」
坂井さんが初めて、私たち三人を順番に見ました。
「何をする気です?」
私は答えました。
「長谷川さんが、あなたに代わって木村さんへ請求します」
「は?」
「債権者代位権です」
坂井さんがぽかんとしました。
「……勝手に?」
「条件を満たせば」
「俺の金だぞ」
「そうです」
「俺が貸したんだぞ!」
「そうです」
「じゃあ俺が、いつ取り立てるか決めるだろ!」
「本来は」
私は言葉を切りました。
「でも、そのまま放置すると、長谷川さんが困るんです」
「関係ないだろ!」
「あります」
自分でも驚くほど、きっぱり言えました。
「長谷川さんは、あなたの債権者だから」
事務所が静かになりました。
真壁さんが私を横目で見ています。
たぶん、
十八歳の見習いが何でそんな単語を知ってるんだ。
という顔です。
今は放っておいてください。
私も説明できません。
「ちょっと待ってくれ」
坂井さんが身を乗り出しました。
「そんなの、何でもありじゃないか。俺に何か権利があったら、長谷川さんが全部勝手に使えるのか?」
「いいえ」
「なら何が違う」
来た。
ここ。
私は一瞬だけ迷いました。
前編で講義を始めると、読者が逃げます。
なので、簡潔に。
「何でも代わりに行使できるわけじゃありません」
「例えば?」
「本人だけが決めるべき権利は駄目です」
「本人だけ?」
「たとえば――離婚に関係するような、本人の意思に強く結びついた権利まで、債権者が『借金あるから俺が代わりに決める』なんてできません」
「そりゃそうだ」
真壁さんが言いました。
「借金取りに離婚まで決められたら世も末だ」
「世紀末より嫌です」
「昭和六十三年だぞ」
「知ってます」
そこじゃない。
「でも木村さんへの貸金請求は?」
所長が私を見る。
「坂井さん本人にしか行使できない性質のものじゃありません」
「そういうことだ」
所長が頷いた。
坂井さんはしばらく黙っていました。
そして、苦し紛れのように言いました。
「でも、長谷川さんの返済期限だって、まだ少しくらい待てるでしょう」
「来てます」
私が即答しました。
「先月末です」
「一か月くらい」
「契約上の一か月は、一か月です」
「融通利かないなあ」
お金を借りた人ほど、返済期限に対しておおらかなのはなぜでしょう。
「期限が来る前から、何でも代わりに行使できる制度じゃありません」
私は続けました。
「少なくとも今回、長谷川さんの債権はもう履行期が来ています」
「……」
「坂井さんには他に十分な財産もない」
「……」
「木村さんへの一千万円は、返済期限が来ている」
「……」
「それでも取り立てない」
一個ずつ並べる。
こういう時、法律は強い。
感情で押すと、人は感情で逃げます。
でも事実を一つずつ机に置いていくと、逃げ道は少なくなる。
私は最後に言いました。
「だから、長谷川さんが動ける可能性があります」
坂井さんの顔から、さっきまでの軽さが消えました。
長谷川さんは黙っています。
怒っているというより、疲れていました。
「……木村さんのところへ行きましょう」
真壁さんが立ち上がりました。
「今から?」
「今からです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「待つのは長谷川さんが二年やった」
真壁さんが言う。
怖い顔で言うから、説得力が三割増しです。
「今度は坂井さんが付き合ってください」
木村製材は、町の北側にありました。
鋸の音。
木屑の匂い。
積み上げられた材木。
事務所から出てきた木村さんは、五十前後のがっしりした男でした。
「坂井?」
私たちを見るなり、木村さんの顔が曇りました。
「なんだ、大勢で」
坂井さんは気まずそうに頭を掻きました。
「あー……昔貸した金のことなんだけど」
「金?」
「一千万」
木村さんの表情が固まります。
「あれは、待ってくれるって話だったろ」
「俺はそう思ってたんだけど……」
「何だよ」
木村さんがこちらを見る。
真壁さんが一歩前へ出ました。
「大槻不動産の真壁です。こちら長谷川さん」
「長谷川?」
「坂井さんに二千万円貸してる人です」
木村さんの目が丸くなりました。
「……は?」
話を聞き終えた木村さんは、しばらく何も言いませんでした。
怒るかと思いました。
でも。
出てきた言葉は、意外なものでした。
「お前……」
木村さんは坂井さんを睨みました。
「長谷川さんに二千万返してねえのか?」
「まあ……」
「まあじゃねえよ」
「木村」
「俺の一千万、取りに来ないから、てっきり余裕あると思ってたんだぞ!」
――そこ?
私たちは全員、少しだけ目を見開きました。
木村さんは額に手を当てました。
「なんだよ……言えよ」
「いや、お前んとこも苦しいだろ」
「苦しいよ!」
「だから」
「だからって、人の二千万踏み倒して俺に格好つけるな!」
坂井さんが黙った。
木村さんは大きく息を吐きます。
「一千万全部は、今日すぐには無理だ」
長谷川さんの肩が落ちかける。
「でも」
木村さんは続けました。
「三百万なら、今週中に出せる」
「え?」
「残りも月ごとに返す」
「木村……」
「ただし」
木村さんは坂井さんを睨みました。
「俺に恩着せるみたいな顔は二度とするな」
「……」
「お前が勝手に待ってただけだろ」
私は、心の中で拍手しました。
その通りです。
法律論より刺さっている。
「長谷川さん」
木村さんが深々と頭を下げました。
「知らなかったとはいえ、すみませんでした」
「いや、木村さんが謝ることじゃ……」
「俺は坂井に返す金を持ってる。その金が回れば、長谷川さんにも返る」
長谷川さんはしばらく木村さんを見つめていました。
それから、ゆっくり頷きました。
「……分割でええです」
「長谷川さん?」
「一千万全部、一遍に出せ言うたら、今度は木村さんの商売が潰れる」
私は思わず横を見ました。
さっきまで、
他人の財布で人情をやるな。
と思っていた。
でも今、長谷川さんは、自分の財布で待つと言った。
それは全然違います。
自分で負担を引き受ける人情は、ちゃんと人情です。
「書面にしましょう」
所長が静かに言いました。
「金額と支払日を決める。曖昧なままにはしない」
「はい」
「坂井さん」
「……はい」
「あなたの長谷川さんへの残債も、同じように整理する」
「はい」
さっきまで、
金がないんだから仕方ない。
と言っていた男が、ずいぶん小さく見えました。
帰り道。
真壁さんの車の助手席で、私は窓を少し開けました。
木材の匂いが、まだ服についています。
「なあ栞」
「はい」
「一個分からん」
「何です?」
「債権者代位ってやつ」
「はい」
「長谷川さんは二千万貸してるんだろ」
「はい」
「木村から取れるのは一千万だ」
「はい」
「じゃあ、足りねえじゃん」
「足りません」
「解決してなくないか?」
「人生、毎回満額回収できるほど親切設計じゃないんですよ」
「十八歳が言うことか、それ」
「前世が重いので」
「またそれか」
私は笑いました。
「でも、ゼロだった回収可能性が、一千万まで動いたんです」
「なるほどな」
「それに坂井さんも、もう『ない袖は振れない』だけでは済ませられません」
「袖、見つかったもんな」
「木村製材に一千万分」
真壁さんが笑った。
私も笑いました。
事務所へ戻ると、長谷川さんがお菓子の包みを持ってきました。
「栞ちゃん」
「はい?」
「これ、持ってって」
「そんな、いいですよ」
「ええから」
「でも」
「二千万に比べたら安い」
「比較対象がおかしいです」
中身は羊羹でした。
ずっしり重い。
昭和の感謝は、だいたい重力があります。
「それにしても」
長谷川さんは包みを私に押しつけながら、ぽつりと言いました。
「わし、坂井を責めたいだけだったんかもしれんな」
「え?」
「二千万返せ、返せって。それしか頭になかった」
「……当然ですよ」
「でも木村さんの顔見たら、あの人にも商売があって、従業員がおって」
長谷川さんは少し笑いました。
「金ってのは、人から人へ繋がっとるんだな」
私は何も言えませんでした。
たぶん、その通りです。
債権という言葉は、やけに冷たく聞こえる。
貸金債権。
売買代金債権。
賃料債権。
全部、人間をAとかBとかCとかにしてしまう。
でも実際には。
Aにも生活があり。
Bにも事情があり。
Cにも守りたいものがある。
だからこそ、法律は、
誰か一人の気分だけで財産関係が止まってしまわないようにできている。
その日の夕方。
私は机に向かって、ノートの表紙を開きました。
債権者代位権。
前世では嫌いな論点でした。
AがBに貸して。
BがCに貸して。
AがBに代わってCに請求して。
「もう直接AからCに貸せよ」
何度そう思ったか分かりません。
「何ぶつぶつ言ってんだ」
真壁さんが、後ろから覗き込みました。
「昔の私への愚痴です」
「十八年しか生きてないだろ」
「まあ色々あるんです」
私はノートに書きました。
A――長谷川さん。
B――坂井さん。
C――木村さん。
すると、不思議なことに。
あんなに分かりにくかった図が、今日はすんなり頭に入りました。
「真壁さん」
「ん?」
「法律の問題って、ABCで書くから難しいんでしょうか」
「何言ってんだ」
「顔を書けばいいんですよ」
私はAの横に、長谷川さんの似顔絵を描きました。
「……下手だな」
「うるさいです」
Bの横に坂井さん。
Cの横に木村さん。
真壁さんが覗き込む。
「坂井だけ妙に腹出てるぞ」
「事実に忠実です」
「お前、本人には見せるなよ」
そこへ所長が湯飲みを持ってやって来ました。
「何を遊んでる」
「勉強です」
「どこがだ」
「人物関係の整理です」
所長は私のノートを見て、少しだけ口元を緩めました。
「……まあ、それなら覚えるだろう」
「ですよね?」
「ただし」
所長が指を一本立てます。
「人の権利を代わりに使える制度だからこそ、条件はきちんと確認しろ」
「はい」
「金がないらしい、では足りん」
「はい」
「期限も確認する」
「はい」
「本人だけが行使すべき権利なら、勝手に代位するな」
「はい」
「差押えのできない権利も同じだ」
「はい」
私は慌ててノートに書き込みました。
真壁さんが笑います。
「結局、講義になってんじゃねえか」
「所長が始めたんです」
「俺は実務の話をしている」
「一番怖いやつですね」
「何がだ」
所長はそう言いながら、机の上に羊羹を三等分して置きました。
「あ」
「長谷川さんからだろ」
「はい」
「なら皆で食う」
「私がもらったんですけど」
「事件は三人でやった」
「横暴」
「経費だ」
「羊羹に経費という概念あります?」
真壁さんが吹き出しました。
私は結局、一切れ取って口に入れました。
甘い。
かなり甘い。
今日一日の疲れが、じわっとほどけていきます。
法律は、人間の代わりに生きてはくれません。
借金を返すのも。
謝るのも。
待つのも。
最後は人間です。
でも。
誰かが「何もしない」ことで、別の誰かだけが沈んでいく時。
法律は、ときどき、その止まった関係を動かしてくれる。
あなたが取り立てないなら。
あなたが自分の財産を守ろうとしないなら。
困っている債権者が、代わりにその手を伸ばせる。
それが債権者代位。
昨日までなら、ただの試験用語でした。
今日は違います。
一千万円を動かして。
三人の男を同じ机につかせて。
最後には、羊羹を三人で分けるところまで来た。
私はノートを閉じました。
昭和六十三年。
相変わらず、この時代の不動産と金は、やたら人間を振り回します。
でも。
人の縁が金で切れそうな時に、法律が逆に縁を繋ぎ直すこともある。
そんな日が、たまにはあってもいい。
「栞」
「はい?」
「羊羹、もう一切れ食うか」
真壁さんが言いました。
「食べます」
「即答だな」
「履行期が到来していますので」
「何のだよ」
「私の甘味請求権です」
「そんな権利はねえ」
所長が横から言いました。
「一身専属権です」
「適当なこと言うな」
三人で笑いました。
たぶん明日も、面倒な客が来ます。
でも今日くらいは。
もう少しだけ、この甘さを味わっていてもいい気がしました。
以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。




