[請負契約]現場編 ビー玉が転がる新居。「屋根があるから完成」で600万円は払えません
「完成しました」
という言葉は、便利です。
完成した家。
完成した道路。
完成した料理。
完成した宿題。
完成した原稿。
最後の二つは、ときどき本人しか完成したと思っていません。
そして不動産の世界にも、
本人だけが、
「完成した」
と言い張るものがあります。
――建物です。
昭和六十三年。
大槻不動産に転生して、まだそれほど経っていないある朝。
私は、事務所の入り口から聞こえてきた怒鳴り声で、湯飲みを落としかけました。
「だから完成してるだろうが!」
「どこがですか!」
「屋根がある! 壁がある! 戸も閉まる!」
「床が傾いてるんですよ!」
私は急須を持ったまま、真壁さんを見ました。
「……朝から元気ですね」
「お前、感想それか」
「喧嘩ですか?」
「まだ法律相談だ」
「“まだ”って言いました?」
「早く茶出せ」
嫌な予告編だなあ。
応接室へ入ると、二人の男が向かい合っていました。
一人は四十代半ばほどの男性。
日に焼けた顔。
作業着。
太い腕。
見るからに建築関係者です。
こちらが工務店社長の黒川正治さん。
そして向かいには、三十代後半くらいの痩せた男性。
こちらは高瀬浩一さん。
去年結婚して、奥さんと二人で暮らす家を建てたばかりだそうです。
――正確には。
建てたばかりの家について、今まさに揉めている。
「高瀬さん、お茶です」
「あ……ありがとう」
高瀬さんは湯飲みに手も伸ばさず、所長へ向き直りました。
「大槻さん、本当に見てください。昨日引渡しだったんです。でも家に入ってみたら、明らかにおかしいんですよ」
「何がです」
「床です」
高瀬さんはテーブルの上に写真を置きました。
一枚。
二枚。
三枚。
ビー玉が床を転がっている。
古典的。
でも分かりやすい。
「ここ、居間です。置いたビー玉が全部同じ方向に転がるんです」
「そんなもん、木造なら多少はある」
黒川さんが吐き捨てる。
「多少じゃありません!」
「じゃあ何度傾いてるんだ」
「そんなもの知りませんよ!」
「測ってもないのに欠陥だ欠陥だって騒ぐな!」
ああ。
最悪の会話です。
一方は感覚で怒っている。
一方は数字がないことを盾にしている。
そして真ん中にいるのが不動産屋。
なぜ。
世界は揉め事が起きると、だいたい不動産屋へ持ち込むんでしょう。
「まず」
所長が低い声で言いました。
二人とも黙る。
すごい。
大槻所長の声、法的強制力ないのに仮処分くらい効きます。
「契約内容を確認しましょう」
高瀬さんが鞄から書類を取り出しました。
「これです」
新築住宅の建築請負契約書。
請負代金、一千八百万円。
工期六か月。
昨日、完成引渡し予定。
私は横から覗き込みました。
――請負契約。
頭の中で、前世の宅建テキストが開く。
注文者が請負人に、
「これを完成させてください」
と頼む。
請負人は、
「完成させます」
と約束する。
そして仕事の完成に対して、報酬を払う。
委任とは違う。
委任は事務を処理することが中心。
請負は、結果を完成させることが中心。
この違い。
宅建で何度も殴られたやつです。
「それで」
所長が黒川さんを見る。
「黒川さんは、代金を請求している」
「当然です。完成したんだから」
「残代金はいくらです?」
「六百万円」
高瀬さんが机を叩きました。
「こんな状態で六百万払えっていうんですよ!」
「だから完成してる!」
黒川さんも声を張る。
「屋根も壁も設備も全部入ってる! 住める! 何が問題なんだ!」
私は思いました。
――住める。
この言葉も、危険です。
雨漏りする。
傾いてる。
扉が閉まらない。
でも寝ようと思えば寝られる。
だから住める。
そういう理屈を通したら、洞窟も住宅です。
「黒川さん」
私は口を挟みました。
「何だ、お嬢ちゃん」
出ました。
昭和男性特有の、十八歳女子を法律論から排除する魔法の単語。
お嬢ちゃん。
効きません。
「契約どおりの家なんですか?」
「当たり前だ」
「設計図どおり?」
「ああ」
「仕様書どおり?」
「そうだ」
「だったら確認しましょう」
黒川さんの眉が動きます。
「何を」
「本当に契約どおりか」
真壁さんが横で、小さく笑いました。
「お前、また始める気だな」
「何がです?」
「過去問みたいな顔してる」
失礼ですね。
でも合ってます。
私は高瀬さんに聞きました。
「他にもありますか?」
「あります」
高瀬さんは次々に写真を出しました。
「二階の窓が一つ、図面より小さい」
「はい」
「洗面所の床材が、契約したものと違う」
「はい」
「あと……」
一枚。
写真を見て、真壁さんまで眉をひそめました。
「おい」
浴室。
壁と床の境目に、明らかな隙間がある。
「これ昨日の状態か?」
「はい」
黒川さんが口を挟む。
「そこはコーキングすりゃ済む」
「じゃあ済ませてないじゃないですか」
私が言う。
「細けえな」
「住宅の水回りで“細かい”は怖いです」
黒川さんが睨みます。
「お前、建築分かるのか?」
「建築は分かりません」
「なら黙ってろ」
「でも契約は少し分かります」
私は写真を指差しました。
「問題は、この家が“建ったか”じゃないです」
「何?」
「契約した内容に合ってるかどうかです」
応接室が静かになる。
私は続けました。
「請負って、“何か作れば終わり”じゃありませんよね」
「……」
「頼まれた仕事を完成させる契約です」
「完成してる」
「契約と違うものができていても?」
黒川さんが黙った。
「窓の大きさが違う」
一つ。
「床材が違う」
二つ。
「浴室の仕上げも終わってない」
三つ。
「さらに床が傾いている疑いがある」
四つ。
私は手を下ろしました。
「これで、“建物が存在してるから完成”は、ちょっと雑じゃないですか」
真壁さんがぼそっと言いました。
「だいぶ雑だな」
「真壁!」
「俺に怒るなよ」
高瀬さんが身を乗り出しました。
「じゃあ、払わなくていいんですか?」
――そこも違う。
私はすぐ答えませんでした。
こういう時。
依頼者側が一気に、
「じゃあ全部払わなくていい!」
へ飛ぶことがあります。
人間は自分に有利な結論だけ、法解釈が速い。
「全部払わなくていい、とまでは今の段階では言えません」
「え?」
「請負人には仕事を完成させる義務がある。一方で、注文者には報酬を払う義務がある」
「……はい」
「ただ、目的物の引渡しと報酬の支払いは、基本的に同時履行の関係です」
黒川さんが顔をしかめる。
「同時履行?」
「引き渡します。払います。基本は同時です」
「なら昨日引き渡しただろ」
「でも」
私は言いました。
「仕事の完成そのものは、その前提です」
黒川さんが黙る。
「完成していないのに、“引渡しだけしたから全額払え”は違います」
高瀬さんの顔に、少し光が戻りました。
「じゃあ……」
「まず本当に契約どおり完成しているのか確認する」
私は所長を見る。
「ですよね?」
「そうだ」
所長が頷いた。
「ここで感情論をやっても仕方ない。第三者に建物を見てもらおう」
「第三者?」
「建築士だ」
黒川さんの顔が明らかに嫌そうになりました。
分かりやすい。
所長は続けます。
「傾斜も測る。図面との差も確認する。施工不良があるかも見る」
「そんな大げさな……」
「六百万請求するんでしょう?」
所長の一言。
黒川さんが止まる。
「なら六百万払える状態かどうか、確認されるのも当然です」
正論が重い。
所長、今日も逃げ道を閉鎖しています。
その日の午後。
私と真壁さんは、高瀬さんの新居へ向かいました。
建築士の村瀬先生も一緒です。
家は外から見ると、普通でした。
白い外壁。
新しい瓦。
小さいけれど、明るい庭。
玄関には、まだ表札さえ付いていません。
「奥さんは?」
私が聞くと、高瀬さんが苦笑しました。
「実家にいます」
「まだ住んでないんですか」
「昨日、一緒に入る予定だったんです」
声が少し沈む。
「妻がずっと楽しみにしてたんですよ」
玄関の横には、小さな鉢植えが置いてありました。
新居祝いでしょうか。
その横に、段ボール箱。
生活は、もうここへ来るはずだった。
でも止まっている。
家って、建物だけじゃないんですよね。
引越しの日。
最初の夕飯。
家具の置き場所。
誰がどこで寝るか。
そういう未来ごと一緒に建てるものです。
だから、欠陥住宅って、木材やコンクリートだけの問題じゃない。
予定していた生活まで傾く。
「じゃあ測ります」
村瀬先生が水平器を置きました。
数か所。
何度も。
そして表情が変わりました。
「これは……」
黒川さんも立ち会っていました。
「何だよ」
「傾斜があります」
「木造なら多少はある!」
「多少ではない箇所があります」
村瀬先生は淡々としていました。
「原因までは調査が必要ですが、少なくともこの状態をそのまま問題なしとは言えません」
高瀬さんが唇を噛む。
さらに二階。
窓寸法。
やはり図面と違う。
洗面所。
床材も仕様書と違う。
浴室。
施工未了。
そして決定的だったのは、基礎部分でした。
「ここ」
村瀬先生がしゃがみ込む。
基礎の一部。
ひび。
一本ではない。
「黒川さん」
真壁さんの声が低くなります。
「これ、知ってたか」
「……」
「知ってたのか?」
「表面のクラックだ」
「なら何で高瀬さんに説明してない」
「問題ないと思ったからだ!」
「“思った”で六百万取るのか」
真壁さんの顔が怖い。
普段から怖いのに、本気になると加算されます。
私は黒川さんを見ました。
「検査、したんですか?」
「してる」
「記録は?」
「……会社にある」
「じゃあ出してください」
「何でお前に」
「高瀬さんにです」
私は言いました。
「注文した人でしょう」
黒川さんが舌打ちした。
そこまで。
私の中で、だいぶ整理できました。
仕事の目的物が、契約内容に適合していない。
なら。
契約不適合責任。
追完。
減額。
損害賠償。
解除。
前世のテキストで、四点セットのように覚えたところ。
ただし。
ここで一気に、
「全部やれ!」
ではない。
要件がある。
順序もある。
責任の有無も見る。
さらに。
もし注文者が持ち込んだ材料や指図が原因なら、話が変わる。
請負人側に責任がない場合がある。
だから私は、高瀬さんに聞きました。
「床材って、高瀬さんがこれに変えてくれって言ったことあります?」
「ありません」
「窓の寸法も?」
「ないです」
「基礎や構造について、何か特別な指示は?」
「全然。私は素人ですよ」
黒川さんが急に言いました。
「いや、でも浴室は高瀬さんが変更した」
高瀬さんが振り返る。
「何の話です」
「途中で棚の位置を変えろって言っただろ」
「棚ですよ!」
「指図は指図だ!」
――来た。
私は思わず息を吐きました。
「黒川さん」
「何だ」
「棚の位置を変えたせいで、床が傾いたんですか?」
「……」
「窓が小さくなった?」
「……」
「基礎にひびが入った?」
「そういう話じゃない」
「じゃあ今回の不適合の原因とは別ですよね」
真壁さんが吹き出しました。
「逃げ道そこだったのかよ」
「うるさい!」
黒川さんの顔が赤くなる。
でも。
ここで終わりではありませんでした。
村瀬先生が一枚の施工記録を見つけたんです。
現場に残っていたファイル。
その中に。
基礎工事の途中で、地盤の一部が予定より軟らかいと書かれていた。
「これ」
村瀬先生が指差す。
黒川さんの顔が変わった。
「追加対策、してませんね」
「……予算があったんだよ」
「高瀬さんに説明しました?」
「……」
「してないんですね」
高瀬さんが、しばらく何も言いませんでした。
そして。
「知ってたんですか」
静かな声でした。
怒鳴るより怖い。
「土地が弱いって」
「弱いってほどじゃない」
「記録には書いてある」
「だから問題ないと判断して――」
「だったら」
高瀬さんの声が震えました。
「なんで言ってくれなかったんですか」
黒川さんが黙る。
「追加費用が必要なら、相談してくれればよかった」
「……」
「家を建てるんですよ」
高瀬さんは壁を見ました。
「車じゃない。家具じゃない。たぶん、俺たちが一生住む家なんですよ」
そこには怒りより、悲しさがありました。
そのほうが、ずっと効きました。
翌日。
再び大槻不動産。
今度は怒鳴り声がありませんでした。
テーブルの上には、
契約書。
図面。
仕様書。
建築士の確認結果。
全部並んでいます。
所長が言いました。
「黒川さん」
「……はい」
「このまま残代金六百万を全額請求するのは難しいでしょう」
黒川さんは何も言わない。
「契約内容と違う点が複数ある。施工未了もある。傾斜についても原因調査が必要だ」
「……」
「まず是正する」
「どこまで」
「契約どおりになるまでです」
黒川さんが苦い顔をしました。
「全部直せって?」
私は言いました。
「原則、追完を求められます」
「追完?」
「契約どおりじゃないなら、契約どおりにしてください、ということです」
「簡単に言うな。家だぞ」
「だから重要なんです」
私はまっすぐ見ました。
「靴の色が違うって話じゃないんです」
高瀬さんが黙って私を見ている。
「家なら、なおさらでしょう」
黒川さんはしばらく机を見つめました。
「全部俺が悪いっていうのか」
その言葉に、私は少し迷いました。
こういう時。
カタルシスだけ考えれば、
「そうです!」
と言い切れば気持ちいい。
でも法律は、気持ちよさのためにあるんじゃない。
「全部かどうかは調査しないと分かりません」
私は言いました。
「でも少なくとも、契約と違う部分はあります」
「……」
「そして地盤のことを知っていたなら、本当は高瀬さんに説明して、どうするか相談すべきだったんじゃないですか」
黒川さんの肩が少し落ちました。
「……工期が押してた」
「はい」
「追加工事になったら、また金の話になる」
「はい」
「高瀬さん、予算ぎりぎりだったろ」
高瀬さんが頷きました。
「そうです」
「だから……なるべく増やしたくなかった」
黒川さんは唇を噛んだ。
「俺なりに考えたんだ」
高瀬さんが静かに言いました。
「だったら相談してくださいよ」
「……」
「金がかかるって言われたら、俺が決めます」
「……」
「家なんだから」
沈黙。
黒川さんが、やがて小さく頭を下げました。
「悪かった」
高瀬さんの目が揺れる。
「傾きの原因、ちゃんと調べる」
「……はい」
「悪いところは直す」
「はい」
「窓も仕様どおりにする。床材も替える。浴室も仕上げる」
「……はい」
「それから」
黒川さんは大きく息を吐きました。
「基礎の件も、第三者入れて確認する」
所長が頷く。
「それがいい」
高瀬さんはすぐには笑いませんでした。
当然です。
家はまだ直っていない。
信頼だって、直っていない。
でも。
少なくとも昨日まで、
「完成してる。六百万払え」
だけだった話が、
「どこが契約どおりで、どこが違うのか」
へ変わった。
理不尽な押し合いが、整理された。
法律って、たぶんこういう時に役に立つんです。
誰が強いかじゃない。
誰が大声かでもない。
何を約束したか。
何ができたか。
何が違うか。
それを、一つずつ机に並べる。
それだけで、人は少し話ができるようになる。
一週間後。
高瀬さんが事務所へ来ました。
「こんにちは」
「高瀬さん」
顔が少し明るい。
「どうでした?」
「原因調査、始まりました」
「そうですか」
「黒川さん、毎日来てます」
「毎日?」
「はい」
高瀬さんは笑いました。
「今度は、頼んでもないことまで説明してくれます」
それは極端から極端ですね。
「奥さんは?」
「まだ実家です。でも」
高瀬さんは紙袋を差し出しました。
「これ、妻から」
「え?」
「皆さんで食べてくださいって」
中には、焼き菓子が入っていました。
真壁さんがすぐ寄ってくる。
「何だ?」
「いただきものです」
「俺にもある?」
「まだ開けてません」
「じゃあ俺の分あるな」
「数学どうなってるんですか」
所長まで新聞の向こうから言いました。
「三等分しろ」
「私の意思は?」
「事務所の共有財産だ」
「所有権を雑に扱わないでください」
真壁さんが笑う。
高瀬さんまで笑いました。
帰り際。
高瀬さんが入り口で振り返りました。
「藤崎さん」
「はい」
「妻が言ってました」
「何をです?」
「家って、完成した日が完成じゃないんですね、って」
私は首を傾げました。
「どういう意味です?」
「住み始めて、家具置いて、飯食って、喧嘩して」
高瀬さんが少し照れたように笑った。
「そうやって、家になっていくんだって」
私は何も言えませんでした。
なんだか。
いい言葉でした。
「だから」
高瀬さんは続けます。
「ちゃんと最初から始めたいと思います」
「……はい」
「直ったら、今度こそ妻と一緒に入ります」
「ぜひ」
頭を下げて、高瀬さんは帰っていきました。
夕方。
私は机で、古い宅建の参考書を開いていました。
請負。
当事者の一方がある仕事を完成することを約し、
相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約。
文字にすると、短い。
でも今日見た「仕事の完成」は、
屋根が乗っていることでも、
鍵がかかることでも、
「完成しました」
と業者が言うことでもなかった。
約束したものを、
約束した内容で、
きちんと完成させること。
そこから外れれば、契約不適合の問題になる。
直してもらう。
代金を減らしてもらう。
損害を賠償してもらう。
場合によっては解除する。
そういう権利が出てくる。
「栞」
「はい?」
真壁さんが焼き菓子を一つ取った。
「あ」
「何だよ」
「それ最後の一個ですよ」
「早い者勝ちだ」
「契約不適合です」
「何がだよ」
「私の期待した分配内容に適合してません」
「知らねえよ」
「追完請求します」
「菓子もうねえぞ」
「損害賠償」
「所長!」
「自分たちで解決しろ」
冷たい。
でも。
私は笑いました。
窓の外では、夕方の町に家々の灯りがつき始めていました。
あの中の一つひとつにも、
誰かが建てて、
誰かが金を払って、
誰かが暮らしている。
請負契約というと、
完成。
報酬。
引渡し。
契約不適合。
そんな硬い言葉ばかりです。
でもその先には、
新しい家で食べる最初の夕飯とか、
夫婦で選んだカーテンとか、
いつか増えるかもしれない家族とか、
そういうものが待っている。
だから。
「完成した」
という一言は、
たぶん請負人が勝手に決めるものじゃない。
約束した仕事が、
ちゃんと相手へ渡せる形になって、
初めて言える言葉なのだと思います。
私は参考書を閉じました。
昭和六十三年。
土地の値段ばかりが上がっていく時代で、
家を「商品」として見る人も多い。
でも。
住む人にとっては、
たった一軒です。
だから契約も、
たった一軒分くらい、
ちゃんとしていてほしい。
「栞」
「はい?」
「明日、黒川さんの現場行くぞ」
「え?」
「直し工事の確認」
「私、事務見習いですよね?」
「そうだ」
「最近、外ばっかりなんですけど」
「勉強になるだろ」
「給料は?」
「上がらん」
所長が即答しました。
「そこだけ毎回完成度高いですね!」
真壁さんが腹を抱えて笑いました。
ひどい職場です。
でも。
少なくとも、
完成してないものを完成したと言い張る人はいません。
……私の給料以外は。
以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。




