[消滅時効]現場編 十年前の請求書で家まで取るな
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古い紙には、妙な威圧感があります。
新品の請求書に「二百八十万円払え」と書いてあれば、まず疑います。
何のお金ですか。
契約しましたか。
請求額、間違ってませんか。
ところが紙が黄ばんでいて、日付が十年以上前で、角に古びた会社印なんか押してあると、人間は急に弱くなる。
――昔のことだから、私が忘れているだけかもしれない。
そんな気がしてくるのです。
古文書と請求書には、似たところがあります。
読めないほど、強そうに見える。
その日の朝、大槻不動産に飛び込んできた森田さんも、そんな顔をしていました。
「家を……取られるかもしれないんです」
開口一番、それでした。
私は持っていた湯飲みを危うく落としかけた。
朝九時十二分。
まだ今日のお茶すら一巡していません。
不動産トラブル、もう少し助走してから来てくれません?
「座ってください」
真壁さんが椅子を引きました。
顔は怖いですが、こういう時の動きは早い。
森田康夫さん、五十八歳。
十一年前に、今住んでいる土地と建物を買った人です。
奥さんと二人で暮らしていて、息子さん夫婦は隣町。
その森田さんが震える手で出したのは、一通の内容証明郵便でした。
差出人は、
――黒川債権管理。
名前からして朝のお茶に合わない。
「昨日、これが届いたんです」
私は書面に目を落としました。
請求額。
二百八十万円。
理由。
十一年前の土地売買に伴う「造成工事分担金未払金」。
支払期限。
十日以内。
そして、その下には太字でこうありました。
支払いがない場合には、土地建物に関する権利関係についても法的措置を検討する。
なんですか、その便利な「法的措置」。
内容を具体的に書かないことで怖さだけ三割増しにする、日本語界の暗黒魔法です。
「この二百八十万円、心当たりは?」
所長が聞きました。
「……あるような、ないような」
「そこ、大事ですよ」
真壁さんが言うと、森田さんは申し訳なさそうに頭を下げました。
「十一年前ですから……」
ですよね。
昨日の夕飯ですら怪しいのに、十一年前の二百八十万円を鮮明に覚えていろという方が無理があります。
森田さんによれば、十一年前、この土地は東栄開発という会社から購入したそうです。
土地と中古住宅で二千四百万円。
代金は決済時に全額支払い、所有権移転登記も済んでいる。
ただし、購入当時、裏手の造成工事をめぐって追加費用の話が出た記憶がある。
「払ったかどうかが、分からないんです」
「領収書は?」
「引っ越しを二回してまして……」
真壁さんが額を押さえた。
「契約書は?」
「あります」
「それは偉い」
真壁さん、褒める水準が急激に下がりましたね。
でも不動産実務では、本当に偉いらしい。
森田さんが大きな封筒から売買契約書を取り出しました。
私は横から覗き込みます。
土地売買代金二千四百万円。
決済日。
十一年前の九月十五日。
別紙には、造成工事分担金として二百八十万円。
支払期限は――。
「十一年前の十二月末日」
私が読み上げました。
「そうだな」
所長が頷く。
私は、その日付をもう一度見ました。
十二月三十一日。
確定した期限。
つまり、その日を過ぎれば、債権者は請求できる。
そこから時計が動き始める。
頭の中で、前世の宅建テキストが開きました。
債権。
消滅時効。
権利を行使できることを知った時から五年。
または、
権利を行使できる時から十年。
どちらかが先に来れば――。
「……十一年」
私は呟きました。
真壁さんがこちらを見る。
「何だ?」
「これ、本当に十一年間、一度も請求されてないんですか?」
森田さんが頷きました。
「はい。少なくとも私は」
「電話も?」
「ありません」
「督促状も?」
「ありません」
「一部だけ払ったとか」
「ありません」
「『そのうち払います』みたいなことを言った覚えは?」
「ないです」
「裁判を起こされたことは?」
「もちろんありません」
私は腕を組みました。
もちろん、だけでは足りない。
時効というのは、カレンダーだけ見て「はい終了」と言えるほど単純ではない。
途中で何があったか。
そこが大事です。
でも――。
「所長」
「ああ」
所長も同じところを見ていました。
「まず、時効を調べる価値はあるな」
森田さんが顔を上げました。
「じ、時効……?」
来た。
昨日まで問題集で何度も見た言葉なのに、現実の人が口にすると重さが違います。
「請求権って、永遠に残るとは限らないんです」
私は言いました。
「一定期間、権利を行使しない状態が続けば、消滅時効が問題になります」
「じゃあ……払わなくていいんですか?」
「まだそこまでは言えません」
私は即答しました。
ここ大事。
法律をちょっと知った人間が一番危ない瞬間です。
数字を一個覚えて、
十年経った!
勝った!
解散!
とはなりません。
世の中そんなに過去問一問四択ではできていない。
「途中で時効に影響する出来事がなかったか、確認しないといけません。それに、この請求をしている会社が、どういう経緯で債権を持ったのかも確認したいです」
所長が内容証明を指で叩きました。
「黒川債権管理、か」
「東栄開発は、七年前に潰れたそうです」
森田さんが言いました。
「この会社は、東栄開発から未回収の債権をまとめて買い取ったと言っていました」
なるほど。
古い会社の倉庫から、埃をかぶった帳簿でも出てきたのかもしれない。
そして、
請求してみよう。
払えば儲けもの。
そんな空気が少し漂ってきます。
私は、こういう「とりあえず怖い手紙を送ってみました」という商売が嫌いです。
福引じゃないんだから。
そこへ電話が鳴りました。
真壁さんが出る。
「はい、大槻不動産……はい?」
顔が険しくなりました。
「森田さんなら、今こちらにいらっしゃいますが」
全員が真壁さんを見る。
真壁さんは受話器を手で押さえました。
「噂をすればだ。黒川債権管理」
早い。
取り立て屋さん、仕事熱心すぎません?
所長が手を出した。
「代われ」
真壁さんが受話器を渡す。
「大槻です」
低い声。
事務所の空気が一段静かになりました。
所長はしばらく相手の話を聞いていました。
「……なるほど」
短い返事。
「ええ」
さらに聞く。
「それは違いますね」
声が少しだけ低くなりました。
私は背筋を伸ばした。
「売買代金とは別債権でしょう。所有権移転登記も十一年前に終わっている。分担金が未払いだからといって、当然に森田さんの所有権がなくなるわけではない」
森田さんが、はっとしました。
電話の向こうで相手が何か強く言っている。
所長の眉がわずかに動いた。
「……所有権も長く行使しなければ時効で消える?」
私は思わず、
「は?」
と声を出してしまいました。
所長に見られた。
すみません。
でも、それは「は?」です。
所長は無言で受話器を私から遠ざけました。
たぶん、顔に出すなという意味です。
無理です。
所有権が、使わなかったから消える?
そんなポイントカードみたいな権利だったら、日本中の山林所有者が泣きます。
「黒川さん」
所長が静かに言いました。
「所有権そのものが、十年や二十年使わなかったから消滅時効にかかる、という話ではありませんよ」
電話の向こうが黙ったらしい。
「それと、今回請求されている造成工事分担金。支払期限は十一年前の十二月末ですね」
また何か返事。
「債権を譲り受けたのが先月だから、自分たちは先月初めて知った。だからそこから五年ある?」
私は思わず真壁さんを見ました。
真壁さんも私を見る。
あ。
来ました。
今日の核心。
所長は私に向かって、顎を少し動かしました。
言ってみろ。
そういう顔でした。
十八歳の事務見習いに、電話の向こうの債権回収会社と法律の話をさせる所長。
教育方針が実戦的すぎます。
私は受話器を受け取りました。
「お電話代わりました。藤崎です」
『誰だ、あんた』
「事務見習いです」
『……見習い?』
「はい。でもカレンダーは読めます」
真壁さんが横でむせました。
いけない。
少し喧嘩を売りました。
『何が言いたい』
「黒川さんがその債権を最近取得したことと、元々の債権がいつから行使できたかは、別の話ですよね」
沈黙。
私は契約書を見ました。
「支払期限は十一年前の十二月三十一日です。その翌日には、東栄開発は請求できた」
『だから我々は、その債権の存在を――』
「最近知った」
『そうだ』
「でも」
私は一度、息を吸いました。
「債権を譲れば、時効の時計まで新品になるんですか?」
電話の向こうが止まりました。
事務所も静かだった。
「古い債権を昨日買ったら、今日からまた十年。九年経った債権を別会社に売ったら、そこからまた十年。その会社が九年後にまた売れば、さらに十年」
私は言いました。
「それができたら、消滅時効なんて永遠に完成しません」
真壁さんの口元が上がった。
所長は腕を組んでいる。
『……』
「少なくとも、“うちは最近知ったから今から五年です”だけで、この十一年間をなかったことにはできませんよね」
『……専門家でもない小娘が』
あ。
言いましたね。
私は笑いました。
「そうですね。なので、専門家に確認していただいて結構です」
『何?』
「こちらも確認します」
私は声を落としました。
「その代わり、確認が済むまで、森田さんに“払わないなら家まで失う”という説明をするのはやめてください」
電話口が静かになりました。
「債権の問題と、所有権の問題は別です」
一つ。
「その債権については、いつから権利を行使できたのかを確認します」
二つ。
「十一年間の間に、時効に影響する出来事があったのかも確認します」
三つ。
「その上で、本当に請求できる債権なのかを判断しましょう」
私は最後に言いました。
「古いから払え、ではなく」
契約書の日付を見ながら。
「古いからこそ、順番に確認しましょう」
向こうはしばらく黙っていました。
『……責任者と相談する』
「お願いします」
電話が切れた。
私は受話器を置きました。
手のひらが汗だらけでした。
「…………怖っ」
口から本音が漏れた。
「今さらか」
真壁さんが笑います。
「途中まで威勢よかったじゃねえか」
「電話切った途端に効いてきました」
「喧嘩したあと家帰って震える奴だな」
「喧嘩じゃありません。法律相談です」
「『カレンダーは読めます』は法律相談じゃねえよ」
ごもっともです。
森田さんだけが、ぽかんとしていました。
「じゃあ……家は」
「家が突然なくなる話ではありません」
所長が答えました。
「少なくとも、今回の請求書一枚で所有権まで消えるようなことはありません」
森田さんの肩が、目に見えて下がりました。
ずっと力が入っていたのだと思う。
「よかった……」
その声を聞いた瞬間、私は少し胸が詰まりました。
二百八十万円。
それだけでも大金です。
でも森田さんが本当に怖かったのは、お金じゃなかった。
十一年前に買った家。
奥さんと暮らした家。
息子さんが成人するまで住んだ家。
それを突然、
「昔の金を払わないなら、家まで危ないですよ」
と言われたこと。
人は、分からないものを一番怖がる。
なら、私たちがやることは、まず分けることなのかもしれない。
家の所有権。
造成工事分担金の債権。
その債権が発生した日。
支払期限。
請求できるようになった日。
その後、何があったか。
一つずつ。
絡まった糸は、切る前にほどけばいい。
三日後。
黒川債権管理から書面が届きました。
請求を撤回する。
短い文章でした。
調査の結果、当該債権について長期間権利行使がなされていなかった事実を確認したため、請求を取り下げる。
「……ずいぶんあっさり引いたな」
真壁さんが言いました。
「最初から分かってたんじゃないですか」
「さあな」
所長は書面を机に置きました。
「古い債権をまとめて買えば、中には払う人もいる」
「怖くなって?」
「そういうこともあるだろう」
私は眉をしかめました。
「嫌な商売ですね」
「商売そのものを決めつけるな」
所長が言う。
「古い債権でも、請求できるものはある」
「あ……」
「途中で事情が変わっていることもある。だから最初から『古い=全部駄目』と決めるのも危険だ」
「はい」
「逆に」
所長は私を見る。
「請求書が届いたから『書いてある通り全部払わなきゃ』と思うのも危険だ」
私は頷きました。
結局、大事なのは、
年数だけじゃない。
その年数が、
いつから始まったのか。
途中で何があったのか。
そもそも何の権利について数えているのか。
時計だけ見ても駄目なのだ。
どの時計かを先に見ないといけない。
「それにしても」
真壁さんが私を見る。
「お前、よく『所有権は消えません』ってすぐ分かったな」
「そこは宅建で何度も出ますから」
「所有権だけ特別なのか?」
「少なくとも、“持ってる土地を長いこと使わなかったから、所有権そのものが消滅時効で消える”とは考えません」
「ふうん」
「庭を二十年使わなかったら国に没収されたら嫌でしょう?」
「俺、庭ねえし」
「では机」
「机?」
「真壁さん、机の一番下の引き出し、三年間開けてませんよね」
「なんで知ってる」
「そこ、もう所有権消えました」
「消えるか!」
「そういうことです」
「例えが腹立つな」
所長が新聞の向こうで笑いました。
そこへ事務所の扉が開いた。
「こんにちは」
森田さんでした。
前回とは別人みたいな顔をしている。
隣には、小柄な奥さんもいました。
「このたびは、本当にありがとうございました」
二人で深く頭を下げました。
「いや、こちらは確認しただけです」
所長が言います。
「それがありがたかったんです」
森田さんが笑いました。
「あの手紙が届いた日は、女房にも言えなくて」
奥さんが横から口を挟みました。
「この人、夜中の二時まで押し入れひっくり返してたんですよ」
「領収書を探してたんだ」
「十一年前のスーパーのレシートまで出して」
「それは捨てましょう」
私が言うと、奥さんが吹き出した。
「でしょう?」
「栞ちゃん、そこは他人の家だぞ」
真壁さんに注意される。
でも、森田さんも笑っていました。
前回来た時にはなかった笑い方でした。
「それでね」
森田さんが紙袋を差し出します。
「大したものじゃないんですが」
「お気遣いなく」
所長が断ろうとする。
「いや、本当に。女房がどうしてもって」
中には、羊羹が三本。
昭和の感謝、相変わらず糖分で殴ってきます。
奥さんが私を見ました。
「あの子が電話で言ってくれたんですってね」
「え?」
「古いから払え、じゃなくて、古いからこそ確認しましょうって」
私は少し恥ずかしくなりました。
「勢いで言っただけです」
「でもね」
奥さんは笑いました。
「うちの人、それを聞いて安心したんですって」
森田さんが頭を掻いた。
「だって、十一年前なんて、もう分からないでしょう」
「そうですね」
「分からないから怖かった。でも、“分からないなら調べればいい”って言われて」
私は何も言えなくなりました。
法律は、ときどき数字だらけです。
一年。
三年。
五年。
十年。
二十年。
試験問題になると、それを覚えるだけで頭がいっぱいになる。
でも、本当はその数字は、
いつまで人を縛るのか。
いつから人を解放するのか。
その境界線なのかもしれません。
夕方。
森田さん夫婦が帰ったあと、私は自分の机に座りました。
ノートを開く。
大きく書きました。
――消滅時効。
その下に、
「長いこと請求しなかった権利は、ずっと永遠に残るわけではない」
と書く。
「ずいぶん雑だな」
後ろから真壁さん。
「また覗いてます?」
「見えるんだよ」
「個人情報です」
「机の上に全開で置くな」
正論で殴らないでください。
私は続けました。
一般的な債権。
権利を行使できることを知った時から五年。
権利を行使できる時から十年。
どちらかが先に来る。
「五年と十年か」
「はい」
「じゃあ、とにかく古い請求書は十年見ればいい?」
「駄目です」
「即答だな」
「何の債権かで違います。それに、いつから数えるかも違うし、途中で何があったかも確認しないと」
「面倒だな」
「法律ですから」
「便利な返事だな、それ」
私はノートの横に、小さな時計を書きました。
そして矢印。
いつから時計が動く?
今日、初めて分かった。
消滅時効の問題は、
「何年?」
だけじゃない。
その前に、
「いつから?」
がある。
さらにその前に、
「何の権利?」
がある。
私はその三つを囲みました。
何の権利?
いつから?
何年?
「なるほどな」
真壁さんが言いました。
「今日の森田さんの話も、それで整理したのか」
「はい」
「造成代の請求権なのか、土地の所有権なのか」
「まずそこ」
「請求できたのはいつからか」
「次にそこ」
「で、何年経ったか」
「最後にそこです」
真壁さんが頷きました。
「順番に並べると簡単だな」
「そうなんです」
私はペンを止めました。
「法律って、難しいんじゃなくて」
「うん?」
「一気に考えるから難しいのかもしれません」
所長が新聞を畳みました。
「それは不動産も同じだ」
「所長?」
「揉め事が起きると、人は全部まとめて話す」
所長は指を一本立てました。
「金を払ってない」
二本目。
「だから契約がおかしい」
三本目。
「だから土地も取られる」
四本目。
「だから人生終わりだ」
「森田さん、そこまで行ってましたね」
「ああ」
所長は湯飲みを持ち上げました。
「だから、こちらが分ける」
静かな声でした。
「債権は債権。所有権は所有権。期限は期限。感情は感情」
私はノートの余白に、そのまま書きました。
真壁さんが覗く。
「最後の、試験に出るか?」
「出ません」
「じゃあ書くなよ」
「でも大事でしょう」
「まあな」
所長が笑いました。
「栞」
「はい」
「今日のところは合格だ」
「今日のところは?」
「調子に乗るからな」
「もう少し褒めても人間は壊れませんよ」
「お前は壊れそうだ」
「どういう意味ですか」
真壁さんが羊羹の箱を開けながら言いました。
「ほら。合格祝い」
「それ森田さんのです」
「事務所にもらったんだからいいんだよ」
三人分に切る。
いや。
真壁さん。
私のだけ薄くない?
「先輩」
「なんだ」
「私の羊羹の所有権が侵害されています」
「まだお前のじゃねえ」
「では取得時効を狙います」
「羊羹を二十年占有するな。腐るわ」
思わず笑った。
窓の外では、夕方の商店街を自転車が通っていく。
昭和六十三年。
まだ携帯電話もなくて、調べ物ひとつするにも本棚をひっくり返す時代。
それでも、人が困る理由は、たぶん未来とそれほど変わらない。
知らない。
分からない。
怖い。
だから誰かの強い言葉を、そのまま信じてしまう。
十年前の請求書。
もっともらしい会社名。
法的措置。
時効。
所有権。
難しい言葉はいくらでも、人を脅す道具になる。
でも。
同じ言葉が、人を守る道具にもなる。
私は羊羹を一口食べました。
甘い。
「真壁さん」
「ん?」
「古い請求書が来たら、まずどうします?」
「捨てない」
「正解です」
「次は?」
「何の権利か確認する」
「次」
「いつから請求できたか確認する」
「次」
「何年経ってるか確認する」
「よくできました」
「なんでお前が先生なんだ」
「では最後の問題です」
「まだあんのか」
私は少し笑いました。
「十年以上使っていない土地の所有権は?」
真壁さんは羊羹を頬張りながら答えました。
「消えない」
「正解」
「賞品は?」
「ありません」
「先生が一番けちだな」
所長がまた笑った。
私も笑いました。
今日覚えたのは、五年と十年。
でも、たぶん本当に忘れたくないのは、その数字だけじゃない。
時間が経つことには、意味がある。
ずっと請求されるかもしれない恐怖から、人を解放するために。
昔の出来事を、永遠に争い続けないために。
法律は、時間にも線を引く。
そしてその線は、ときどき、
十一年間しまい込まれていた一枚の請求書より、
ずっと強い。
私はノートを閉じました。
明日、古い紙が届いても。
もう、黄ばんでいるというだけでは怖がらない。
まず日付を見る。
――宅建受験生としては、たぶんかなり正しい成長でした。
以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。




