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宅建見習い栞の人情事件簿 〜転生したら昭和の不動産屋だったので、巻き込まれているうちに宅建過去問が解けるようになりました〜  作者: 条文小説
〈権利関係 配点14点/50点〉 代理

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30/154

[無権代理]法理編 栞とお勉強

挿絵(By みてみん)

 夕方の事務所で、私はノートを開きました。


 今日の事件を、もう一度、最初から整理してみる。


 土地の所有者は、沢村清吉さん。


 その甥の健二さんが、


「叔父に任されている」


 と言って、勝手に清吉さんの土地を高瀬さんへ売った。


 でも実際には、清吉さんは健二さんに土地を売る代理権なんて与えていなかった。


 つまり――。


 無権代理。


「……名前からして、もう駄目そうなんだよなあ」


「何がだ?」


 振り返ると、真壁さんがコーヒーを飲みながら立っていました。


「無権代理です」


「権限がない代理だろ?」


「はい」


「だったら簡単じゃねえか。無効」


「それが、簡単じゃないんですよ」


「また始まったな」


「何がです?」


「宅建の『一見簡単だけど実は面倒です』シリーズ」


「シリーズ化しないでください」


 でも、その通りだった。


 無権代理は、


 代理権がない。


 だから終わり。


 ……ではない。


 むしろ、そこからが本番です。


 私はノートの一番上に、大きく書きました。


 無権代理とは?


 代理権がない者が、本人の代理人として契約すること。


「今日の健二さんですね」


「ああ。清吉さんの土地を勝手に売った」


「そうです」


 私は人物関係を書きました。


 本人A = 清吉さん


 無権代理人B = 健二さん


 相手方C = 高瀬さん


「まず、この三人をちゃんと分けます」


「またABCか」


「試験問題は大体これです」


「人間の名前で出してくれたほうが分かりやすいんだけどな」


「全国の受験生が思ってます」


 私は続けます。


 Bには、Aを代理する権限がない。


 それなのに、


「Aの代理人です」


 と言ってCと契約した。


「で、その契約はどうなる?」


「原則として、本人Aには効果が帰属しません」


「帰属しない?」


「つまり――」


 私は少し考えて、もっと簡単に書きました。


 本人は、勝手に契約の当事者にされない。


「これです」


「分かりやすいな」


「でしょう?」


 健二さんが勝手に清吉さんの名前を使っても、


 それだけで清吉さんが土地を渡す義務を負うわけではない。


「じゃあ高瀬さんは土地をもらえない」


「清吉さんが何もしなければ、そうです」


「何もしなければ?」


「はい」


 私は丸で囲みました。


 追認。


「ここが一つ目の重要ポイントです」


「追認って、あとから認めるやつだろ?」


「その通りです」


 本人は、無権代理人が勝手にした契約をあとから認めることができます。


 本人が追認する


  ↓


 無権代理行為が有効になる。


「今日、清吉さんが『まあいい、売るよ』って言ってたら?」


「契約は有効になってました」


「いつから?」


「原則として、契約した時にさかのぼります」


「さかのぼる?」


「はい」


 私は矢印を書きました。


 無権代理人Bが契約


    ↓


 本人Aが後日追認


    ↓


 原則として契約時に遡って有効


「後から認めたのに、最初から有効だった扱いか」


「そうです」


「法律ってタイムマシン好きだな」


「取り消しも解除も遡及効も出てきますからね」


「やっぱり面倒くせえ」


「だから宅建なんです」


 私はさらに書きます。


 そして、本人にはもう一つある。


 追認拒絶。


「今日の清吉さんがこれです」


「『売るわけないだろ!』ってやつだな」


「見事な追認拒絶でしたね」


「声でかかったけどな」


「元気そうで何よりです」


 本人は、


 無権代理人がした契約を認めない。


 と主張できます。


 本人が追認拒絶


  ↓


 無権代理行為の効果は本人に帰属しない。


「つまり清吉さんは土地を渡さなくていい」


「はい」


「じゃあ終わりじゃねえか」


「本人側は、かなり整理されました」


「本人側は?」


「問題は相手方です」


 私は高瀬さんの顔を思い出しました。


 パン屋を開こうとしていた。


 手付金三百万円まで払っていた。


 代理権があると信じて契約した。


「本人だけ守って終わったら、高瀬さん困るだろ」


「その通りです」


 だから無権代理では、


 相手方にもいくつか武器があります。


「武器?」


「試験上の武器です」


「物騒だな」


「真壁さんの顔より平和です」


「どういう意味だ」


 私は聞かなかったことにして、見出しを書きました。


 相手方の権利。


 まず一つ目。


 催告権。


「催告?」


「本人に聞けるんです」


「何を?」


「この契約を追認するのか、しないのか」


「なるほど」


「いつまでも宙ぶらりんだと困りますからね」


 相手方Cは、本人Aに対して、


 相当の期間を定めて、


 追認するかどうか答えてください。


 と催告できます。


「高瀬さんなら清吉さんに聞ける」


「そうです」


「高瀬さんが、健二に代理権がないって知ってたとしても?」


「催告はできます」


「へえ」


「ここ、重要です」


 私は赤鉛筆を持ちました。


 催告権は、


 善意でも悪意でも使える。


「悪意って?」


「無権代理だと知っていた、という意味です」


「ああ。法律の悪意な」


「そうです。性格が悪いって意味じゃありません」


「健二はどっちも――」


「真壁さん」


「なんでもない」


 私は続けました。


 では、本人が返事をしなかったら?


「追認したことになる?」


「逆です」


「拒絶?」


「はい」


 相当の期間内に本人が確答しなければ、


 追認を拒絶したものとみなされる。


「沈黙は承諾じゃない」


「無権代理では、そう覚えておくといいです」


 私は大きく書きました。


 催告


 →善意・悪意を問わない


 →期間内に返事なし


 →追認拒絶とみなす


「次です」


「まだあるのか」


「ありますよ」


 二つ目。


 取消権。


「これは今日、高瀬さんが使ったやつです」


「契約を取り消したな」


「はい」


 相手方は、


 本人が追認しない間であれば、


 無権代理人との契約を取り消すことができる。


「いつでも?」


「条件があります」


 私は線を引きました。


 相手方が善意であること。


「善意?」


「無権代理だと知らなかったことです」


「高瀬さんは知らなかった」


「だから取消しができました」


 でも。


「もし高瀬さんが最初から『健二さんには代理権ないけど、まあ契約しちゃえ』って知ってたら?」


「取消せない?」


「そうです」


 悪意の相手方には取消権がありません。


「なんでだ?」


「代理権がないと知って契約したんですから」


「ああ……自分で危ない橋を渡ったわけか」


「そういうことです」


 私はまとめました。


 取消権


 相手方が善意 →使える


 相手方が悪意 →使えない


「善意無過失じゃなくて?」


「取消権については善意で足ります」


「また出たな」


「何がです?」


「善意なのか、善意無過失なのか問題」


「宅建受験生を殺しにくるやつですね」


「物騒だな、お前も」


 でも、ここは本当に重要です。


 催告権  →善意・悪意を問わない


 取消権  →善意ならOK


 責任追及 →原則、善意無過失


「……増えたな」


「今からその責任追及です」


「まだ増えるのかよ」


 私は笑いながら三つ目を書きました。


 無権代理人への責任追及。


「今日なら健二さんですね」


「あいつか」


「本人が追認しない場合、一定の条件を満たせば、相手方は無権代理人に責任を追及できます」


「どんな責任?」


「二つあります」


 私は指を二本立てました。


 履行請求。


 または、


 損害賠償請求。


「相手方が選べるのか?」


「はい」


「健二に『土地を渡せ』って言える?」


「理屈の上では履行責任という形があります。ただし、実際にその土地を健二さん自身が所有していなければ、履行できない場合もあります」


「そりゃそうだ」


「なので現実には、損害賠償のほうが問題になりやすいですね」


 ここで私は、今日の三百万円を思い出しました。


 もっとも、三百万円の返還問題そのものと無権代理人の責任は、きちんと分けて考えなければいけない。


 法律は、似た話を雑に混ぜるとすぐ怒ります。


 たぶん所長より厳しい。


「で、責任追及できる条件は?」


「ここが試験で重要です」


 私は赤鉛筆で書きました。


 原則として、


 相手方が善意無過失。


「善意だけじゃ駄目?」


「責任追及は、原則として無過失まで必要です」


「さっきの取消権より厳しいんだな」


「そうです」


 整理すると。


 取消権


 →善意でよい。


 無権代理人への責任追及


 →原則として善意無過失。


「この違い、絶対試験に出したい顔してるな」


「出題者の性格を読むのやめてください」


「でも出るだろ?」


「出ます」


 私はさらに一つ付け加えました。


 そして、無権代理人が制限行為能力者の場合。


「未成年とかか」


「はい。成年被後見人なども含みます」


 その場合、


 無権代理人としての責任を負わせることはできない。


「なんで?」


「制限行為能力者を保護する制度なのに、代理をした途端に重い責任を負わせたら、保護制度の意味が薄れますから」


「なるほど」


「なので、ここも覚えます」


 無権代理人が制限行為能力者


 →無権代理人の責任を負わない。


「じゃあ、未成年が勝手に代理人になったら相手方が困るな」


「だからこそ、相手方も代理権を確認しなさい、という話になります」


「今日の高瀬さんも委任状見てなかったしな」


「はい」


 善意無過失かどうか。


 そこにも関わってきます。


 私は少し息をつきました。


「で、もう一個あります」


「まだあるのかよ!」


「表見代理です」


「ああ。それは次回の大物だな」


「そうですね」


 表見代理。


 実際には代理権がない。


 でも本人側にも、


 「代理権があるように見える原因」


 があり、


 相手方が善意無過失など一定の要件を満たせば、


 本人に契約の効果を負わせることがある。


「今日の清吉さんには?」


「今回は表見代理が成立しない前提で整理しましょう」


「本人が勝手に代理権があるような見せ方をしたわけじゃないからな」


「そういうことです」


 そして。


 ここからが、宅建の無権代理で急に難しくなるところです。


 相続。


「出た」


 真壁さんが嫌そうな顔をしました。


「無権代理と相続」


「顔がもう嫌そうですよ」


「嫌だからな」


「私も前世で嫌いでした」


「前世?」


「気のせいです」


 私はノートに二つ書きました。


 ①本人が無権代理人を相続する。


 ②無権代理人が本人を相続する。


「逆になるだけじゃねえか」


「その逆が大事なんです」


 まず。


 本人が無権代理人を相続した場合。


 たとえば、


 健二さんが無権代理をした後に亡くなって、


 清吉さんが健二さんを相続した。


「本人の清吉さんが、無権代理人の地位まで引き継ぐ」


「はい」


 でも。


 本人は追認拒絶できます。


「え? 相続したんだろ?」


「それでもです」


 なぜなら、


 本人はもともと勝手に契約された側です。


 無権代理人を相続したからといって、


 自分の土地を売る契約まで強制的に認めさせるのは酷です。


「じゃあ何も責任なし?」


「そこが違います」


 私は丸を書きました。


 無権代理人の責任も相続する。


「なるほど」


「無権代理人が負っていた損害賠償などの責任まで消えるわけじゃありません」


「本人としては追認拒絶できる。でも相続人として責任を負う場合がある」


「その通りです!」


 私は大きく書きました。


 本人が無権代理人を相続


 →追認拒絶できる


 →ただし無権代理人の責任を相続することがある


「ややこしいな」


「でも筋は通ってます」


「本人としての立場と、相続人としての立場を分けるわけか」


「そうです」


 次。


 無権代理人が本人を相続した場合。


「今日で言えば?」


「清吉さんが亡くなって、健二さんが単独相続する場合です」


「健二が本人の地位まで引き継ぐ」


「はい」


 では健二さんが、


「清吉の立場を相続したので、追認拒絶します」


 と言えるか。


「言わせたくないな」


「法律もだいたい同じ気持ちです」


「お前、法律の気持ち分かるのか」


「今日だけです」


 無権代理人が本人を単独相続した場合。


 追認拒絶はできない。


「自分で勝手に契約しておいて、本人を相続した瞬間に『あの契約は認めません』は通らない」


「そういうことです」


 私は横に書きました。


 無権代理人が本人を単独相続


 →追認拒絶できない


 →無権代理行為は当然に有効となる。


「これは覚えやすいな」


「自分でやったことを、自分でひっくり返すな」


「雑だけど分かりやすい」


「試験勉強は雑さも大事です」


 ところが。


 さらに罠があります。


「まだ?」


「共同相続です」


「もう帰っていいか?」


「駄目です」


 本人が死亡して、


 無権代理人と他の相続人が共同相続した場合。


 たとえば、


 健二さんと別の相続人Dさんが、


 清吉さんを一緒に相続した。


「健二の相続分だけ契約が有効になる?」


「なりません」


「ならないのか」


「共同相続人全員が追認しない限り、原則として無権代理人の相続分だけ当然に有効になるわけではありません」


 私は大きく書きました。


 共同相続は、


 無権代理人の持分だけ勝手に有効化しない。


「一人が追認拒絶したら?」


「契約全体について当然に追認成立とはなりません」


「単独相続と共同相続で違う」


「そこです」


 私は赤線を二本引きました。


 超重要。


 無権代理人が本人を単独相続


 →追認拒絶できない。


 無権代理人が本人を共同相続


 →共同相続人全員の追認が必要。


 →無権代理人の相続分だけ当然に有効になるわけではない。


「これは間違えるな」


 後ろから声がしました。


「所長」


 いつの間にか、大槻所長が立っていました。


 人の背後に無音で立つの、やめてほしい。


 心臓に悪い。


「無権代理をまとめてるのか」


「はい」


「見せてみろ」


 所長は私のノートをしばらく見ていました。


「まあ、悪くない」


「本当ですか?」


「字は相変わらずだ」


「そこはもういいです!」


 真壁さんが笑っています。


「所長、一番試験に出そうなのはどこですか?」


 私が聞くと、所長は少し考えました。


「全部だ」


「一番を聞いたんです」


「なら――」


 所長は私の鉛筆を取りました。


 そしてノートの下に書きます。


 誰が、誰に、何を言えるか。


「これを整理しろ」


「誰が、誰に?」


「ああ」


 所長は順番に指を置きました。


 本人。


 相手方。


 無権代理人。


「無権代理で混乱する奴は、権利を全部一緒に覚えようとする」


「……」


「本人が何をできるのか」


「追認、追認拒絶」


「相手方は?」


「催告、取消し、無権代理人への責任追及。それに要件を満たせば表見代理」


「無権代理人は?」


「本人が追認しなければ、一定の場合に責任を負う」


「そうだ」


 所長は頷きました。


「まず登場人物を分けろ。次に、それぞれの権利を乗せる」


「人間関係を先に整理する」


「法律問題は大体それで半分勝てる」


 なるほど。


 私はノートを整理し直しました。


 【本人A】


 ・追認できる


 ・追認拒絶できる


 【相手方C】


 ・催告できる

  →善意・悪意を問わない


 ・取消しできる

  →善意の場合


 ・無権代理人に責任追及できる場合がある

  →原則として善意無過失


 ・要件を満たせば表見代理を主張


 【無権代理人B】


 ・本人が追認しなければ、一定の場合に履行または損害賠償の責任


 ・制限行為能力者なら、その責任は負わない


「おお」


 真壁さんが覗き込みました。


「こうすると分かりやすいな」


「でしょう?」


「最初からそれ書けよ」


「今までの私の努力は?」


 私はさらに、その下に相続を書きました。


 【相続】


 本人が無権代理人を相続


 →本人は追認拒絶できる。


 →ただし無権代理人の責任を相続する場合がある。


 無権代理人が本人を単独相続


 →追認拒絶できない。


 →契約は当然に有効。


 無権代理人が本人を共同相続


 →他の共同相続人全員の追認がなければ、無権代理人の相続分だけ当然に有効になるわけではない。


「……これ、試験前日に見たら助かるな」


「真壁さん、受けるんですか? 宅建」


「俺は現場派だ」


「逃げましたね」


「逃げてねえ」


「受験申込書、持ってきます?」


「やめろ」


 所長が小さく笑いました。


 私は最後に、大きく一行書きました。


 無権代理=「勝手に代理したから、本人も当然に責任を負う」ではない。


 本人が追認するのか。


 相手方は善意なのか。


 善意無過失なのか。


 誰が誰を相続したのか。


 そこを一つずつ分けて考える。


 私は鉛筆を置きました。


「栞」


「はい?」


「今日の事件、一言で言うと何だ?」


 所長に聞かれて、少し考えます。


「……甥は代理権じゃない」


「法律用語で言え」


「身内だからといって、当然に代理権があるわけではない」


「よし」


 真壁さんが横から言いました。


「もっと簡単でいいだろ」


「何です?」


「人の土地を勝手に売るな」


「それ、無権代理の説明じゃなくて人生訓です」


 でも。


 私はノートの隅に小さく書いておきました。


 人の土地を勝手に売るな。


 たぶん。


 これが一番忘れません。


 数日前まで、


 無権代理という言葉は、


 私にとって過去問の中にいるだけの存在だった。


 本人A。


 無権代理人B。


 相手方C。


 ただのアルファベット。


 でも今は。


 Aには清吉さんの顔がある。


 Bには健二さんの顔がある。


 Cには高瀬さんの顔がある。


 土地を守りたい人。


 勝手に動かした人。


 それを信じて、新しい店を始めようとした人。


 無権代理という制度は、


 単に、


「代理権がありませんでした」


 で終わる話じゃない。


 本人を、勝手な契約から守る。


 でも一方で、


 何も知らずに契約した相手方まで放り出さない。


 だから、


 追認がある。


 催告がある。


 取消しがある。


 責任追及がある。


 法律は、


 一人だけを見て作られているわけじゃない。


 私はノートを閉じました。


「栞」


「はい?」


 真壁さんが、紙袋を机に置きました。


「麦の灯のパン」


「えっ」


 中を見ると、あんパンが二つ入っています。


「高瀬さんが持ってきた」


「今日は来てたんですか?」


「お前が銀行行ってる間にな」


「私の分は?」


「それ」


「二個とも?」


「一個は俺のだ」


「先に言ってください」


 私は一個を取りました。


 少し温かい。


 契約しかけた土地では開けなかった店。


 でも、別の場所でちゃんと始まった店。


 もしあの日、


「甥なら代理人でしょう」


 で済ませていたら。


 清吉さんは土地を失ったかもしれない。


 高瀬さんも、もっと大きな損をしていたかもしれない。


 代理という制度は便利だ。


 本人が全部自分で動かなくても、


 代理人を使って契約できる。


 でも。


 便利な制度ほど、


 誰にその権限があるのかを確認しなければいけない。


 私はあんパンを半分に割りました。


「真壁さん」


「なんだ」


「今後、代理人が来たら?」


「代理権を確認する」


「身内だと言われたら?」


「関係ない」


「『ずっと任されてる』と言われたら?」


「委任状見せろ」


「完璧です」


「誰に教えてんだ、お前は」


 所長が新聞の向こうで笑いました。


 昭和六十三年。


 今日もまた、


 テキストの一ページが、


 現場の一日に変わっていく。


 無権代理。


 まず覚えるのは、たった一つ。


 代理権のない人が勝手にした契約は、


 本人が追認しない限り、


 原則として本人を縛らない。


 そして、そこから先は。


 本人なのか。


 相手方なのか。


 無権代理人なのか。


 誰の立場から問題を見ているのかを整理する。


 それさえ間違えなければ、


 無権代理は怖くない。


 ……たぶん。


 相続問題が出てこなければ。


「栞」


「はい?」


「最後の顔、すげえ嫌そうだったぞ」


「相続が絡む無権代理を思い出しました」


「ああ」


「真壁さん」


「なんだ」


「もう一個パンください」


「嫌だ」


「精神的損害です」


「法律用語を雑に使うな」


 今日も大槻不動産は平和でした。

 以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。

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