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宅建見習い栞の人情事件簿 〜転生したら昭和の不動産屋だったので、巻き込まれているうちに宅建過去問が解けるようになりました〜  作者: 条文小説
〈権利関係 配点14点/50点〉 代理

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26/156

[代理]法理編 栞とお勉強

挿絵(By みてみん)

 夕方の事務所で、私はノートを開きました。


 今日の事件を、もう一度最初から整理します。


 杉浦義一さんは、自分の土地を売るために、孫の健太郎さんへ代理権を与えた。


 健太郎さんは十七歳。


 つまり未成年者。


 でも、それでも代理人にはなれる。


 そして。


 契約書には「売主杉浦健太郎」と書いてしまった。


 本来なら、


「売主杉浦義一 代理人杉浦健太郎」


 と書くべきだった。


 でも買主の河西さんは、健太郎さんが義一さんの代理人として契約していることを知っていた。


 だから。


 その売買契約の効果は、義一さんに帰属する。


「……代理って、地味にややこしいな」


 私はノートの端を鉛筆で叩きました。


「地味に?」


 後ろから真壁さんの声がしました。


「また勝手に覗いてますね」


「見える位置で書いてるお前が悪い」


「その理屈、泥棒みたいですよ」


「ひどいな」


「で、何です?」


「代理ってのは、もっと単純かと思ってた」


「本人の代わりに契約するだけ、と?」


「ああ」


「私も最初はそう思ってました」


 私はノートに大きく書きました。


 代理


「簡単に言えば」


 私は続けます。


「本人に代わって、代理人が契約などの法律行為をすることです」


「そこまでは分かる」


「問題は、代理人がした行為の効果が、代理人じゃなくて本人に直接帰属するところです」


「本人が契約したのと同じになる?」


「そうです」


 私は図を書きました。


 本人A

   ↓代理権

 代理人B

   ↓契約

 相手方C


 そして。


 契約の効果

 → AとCの間に生じる。


「Bは契約したのに、Bのものにはならない」


「そうです」


「土地を売った代金も?」


「本人Aに帰属します」


「なるほどな」


 私は次の見出しを書きました。


 代理が成立するための基本


「三つあります」


「三つ?」


「はい」


 私は一つずつ並べます。


 ① 代理権があること。


 ② 本人のためにすることを示すこと。


 ③ 有効な代理行為をすること。


「二番目が昨日出たやつだな」


「顕名です」


「名前を顕す?」


「そうです」


 私は赤鉛筆で書きました。


 顕名

 =「私は本人のために代理人として行為しています」と相手方に示すこと。


「今日の健太郎なら?」


「本来なら」


 私は書きました。


 売主 杉浦義一

 代理人 杉浦健太郎


「これなら誰が見ても分かります」


「でも実際は」


「売主杉浦健太郎、と書いてしまった」


「失敗だな」


「失敗ですね」


「4,800万円」


「それはもういいです」


 私はため息をつきました。


「原則として、顕名をしないと、その行為は代理人自身のためにしたものと扱われます」


「じゃあBとCの契約?」


「はい。原則は」


 真壁さんがにやっとしました。


「また“原則”か」


「法律で一番怖い言葉です」


「例外がある?」


「あります」


 私は書きました。


 代理人が顕名しなかった場合


 原則

 → 代理人自身の行為になる。


 ただし、

 相手方が本人のための行為だと知っていた、

 または知ることができた場合


 → 本人に効果が帰属する。


「今日の河西は知ってた」


「そうです」


「だから義一さんとの契約になった」


「はい」


 私は大きく丸をつけました。


 超重要!


 顕名なし

 =必ず代理人本人の契約


 ではない。


「これ、問題で引っかかりそうだな」


「引っかかります」


「即答だな」


「“顕名していないから必ず代理人との契約”って書かれたら疑ってください」


「相手方が事情を知っていたかを見る?」


「そのとおりです」


 私は過去問風に書きました。


 Aから土地売却の代理権を与えられたBが、

 自らを「売主B」と表示してCと契約した。


 ただしCは、

 BがAの代理人として契約していることを知っていた。


 この場合、契約はBC間に成立する。


「×だな」


「正解です」


「AC間に成立」


「そうです」


 真壁さんが少し得意そうに胸を張りました。


「代理、楽勝だな」


「まだ始まったばかりです」


「帰るか」


「早いです」


 私は次の見出しを書きました。


 代理人は行為能力者でなくてもよい。


「今日の一番分かりやすいところです」


「十七歳でも代理人になれる」


「はい」


「なんで?」


「代理人自身の財産を動かすわけじゃないからです」


 私は説明しました。


「未成年者が、自分の土地を売るなら、法定代理人の同意などが問題になります」


「自分の法律行為だから」


「そうです」


「でも他人の代理人として売るなら?」


「効果は本人に帰属します」


「だから代理人本人の行為能力は必須じゃない」


「そういうことです」


 私は書きました。


 制限行為能力者でも代理人になれる。


「じゃあ」


 真壁さんが聞きました。


「未成年者の代理人が契約したあとで、『やっぱり未成年だから取消します』は?」


「できません」


「相手方からも?」


「できません」


「本人からも?」


「未成年であることを理由にはできません」


 私は赤鉛筆で囲みました。


 代理人が制限行為能力者だったことを理由に、

 代理行為を取り消すことはできない。


「今日の河西さんが狙ってたところですね」


「十七歳だから契約無効だろ、ってやつ」


「はい」


「完全に外れ」


「完全に外れです」


 私は続けました。


「ただし、ここで一つ注意です」


「何だ」


「制限行為能力者でも代理人にはなれます。でも、代理人が後見開始の審判を受けたら、代理権は消滅します」


「……あれ?」


「はい」


「行為能力者じゃなくていいのに?」


「ここがややこしいんです」


 私は書きました。


 代理人

 → 行為能力者である必要はない。


 ただし、

 代理人が後見開始の審判を受けた

 → 代理権は消滅。


「矛盾してるように見えるな」


「見えます」


「なんで?」


「代理人として選ばれた時には、制限行為能力者でも構わない。でも、その後に後見開始の審判を受けた場合は、法律上、代理権を終わらせる事由になるからです」


「選ばれた時と、その後の消滅事由は別に考える」


「そうです」


 真壁さんが少し唸りました。


「これ、暗記だけだと混ざりそうだな」


「なので分けます」


 私は新しいページへ進みました。


 代理の種類


「代理には大きく二つあります」


「任意代理と法定代理だな」


「お」


「それくらい知ってる」


「失礼しました」


「もっと敬え」


「考えておきます」


「今すぐやれ」


 私は書きました。


 任意代理

 =本人が自分の意思で代理権を与える。


「今日の義一さんと健太郎さんは?」


「任意代理」


「正解です」


「本人が自分で選んでるから」


「そうです」


 次。


 法定代理

 =法律によって代理権が生じる。


「未成年者の親みたいなものか」


「はい」


「本人が『お母さんを代理人にします』って頼むわけじゃない」


「そうです」


「法律上そうなる」


「はい」


 私は例を書きました。


 任意代理

 → 本人が友人に土地売却を任せる。


 法定代理

 → 未成年者の親など。


「ここまでは分かりやすいな」


「問題はここからです」


 私は少し大きく書きました。


 代理権の消滅


「嫌な予感しかしない」


「今回は表が強いです」


「表?」


「誰が、何になったら消滅するかです」


 私はノートに整理しました。


 【任意代理】


 本人が死亡

 → 代理権消滅


 本人が破産手続開始決定

 → 代理権消滅


 本人が後見開始の審判

 → 原則として代理権は消滅しない


 代理人が死亡

 → 代理権消滅


 代理人が破産手続開始決定

 → 代理権消滅


 代理人が後見開始の審判

 → 代理権消滅


「多い!」


「はい」


「もう少し楽にしろ」


「民法に言ってください」


 私は続けました。


「まず重要なのは、任意代理では本人が破産手続開始決定を受けると代理権が消滅することです」


「なんで?」


「任意代理は、本人が自分の意思で代理人に任せている関係です。その本人が破産すると、財産管理の関係が大きく変わるので、その代理権もそのまま維持されない」


「なるほど」


「一方で」


 私は別欄を書きました。


 【法定代理】


 本人が死亡

 → 代理権消滅


 本人が破産手続開始決定

 → 代理権は消滅しない


 本人が後見開始の審判

 → 代理権は消滅しない


「ここが違う?」


「はい」


「法定代理の本人が破産しても消えない」


「そうです」


 私は大きく丸をつけました。


 超重要!


 本人が破産した場合


 任意代理

 → 代理権消滅


 法定代理

 → 代理権消滅しない


「これは試験で狙われそうだな」


「かなりです」


「また即答」


「だって露骨に対比できますから」


 真壁さんが腕を組みました。


「例で覚えるか」


「はい」


「本人Aが友人Bに土地売却を任せた」


「任意代理です」


「そのAが破産した」


「Bの代理権は消滅」


「じゃあ未成年者Aの親B」


「法定代理です」


「Aが破産した」


「Bの法定代理権は、それだけでは消滅しません」


「なるほどな」


 私はノートに書きました。


 任意代理は本人の意思で生まれる。


 法定代理は法律によって生まれる。


 だから消滅事由も同じではない。


「じゃあ本人が死んだら?」


「原則、どちらも代理権は消滅します」


「本人死んだら終わりか」


「原則として」


 真壁さんが即座にこちらを見ました。


「また原則」


「あります。例外」


「もう驚かんぞ」


「不動産登記の申請代理です」


 私は書きました。


 不動産登記の申請代理権

 → 本人が死亡しても消滅しない。


「なんでだ?」


「売買契約が終わって、いざ登記という段階で売主が亡くなったとします」


「うん」


「そこで司法書士の代理権まで全部消えたら?」


「相続人にまた頼み直す?」


「そうです」


「面倒だな」


「しかも相続人が協力しなかったら、買主が困ります」


「なるほど」


「だから登記申請の代理権については、本人死亡でも消えない扱いがあります」


 真壁さんが感心したように言いました。


「実務っぽいな」


「宅建って、こういうところで急に現場の匂いがしますよね」


「お前も不動産屋の顔になってきたな」


「嫌な褒め方ですね」


 私は次の項目へ進みました。


「あと、代理権の消滅では代理人側も大事です」


「死亡、破産、後見開始」


「はい」


「代理人が死んだら、その子供が代理人を継ぐ?」


「継ぎません」


「相続されない?」


「されません」


 私は書きました。


 代理人が死亡

 → 代理権消滅


 代理人の相続人が、

 そのまま代理人になるわけではない。


「これは分かりやすいな」


「ですよね」


「代理人ってのは、その人を選んだんだから」


「そうです」


「その子供まで自動的に選んだわけじゃない」


「まさにそれです」


 私は過去問風に書きました。


 AがBに土地売却の代理権を与えた。


 Bが死亡した。


 Bの相続人Dは、

 Aの代理人として有効に土地を売却できる。


「×」


「正解です」


「俺、だいぶ強くなってきたな」


「宅建受けます?」


「嫌だ」


「そこは一貫してますね」


 私は笑って、ページをめくりました。


「最後に顕名をもう一度整理しましょう」


「まだやるのか」


「重要ですから」


 私は書きました。


 代理成立の三要件


 ① 代理権の存在


 ② 顕名


 ③ 代理行為


「まず代理権がある」


「はい」


「本人のためだと示す」


「はい」


「実際に契約する」


「そうです」


 私は指を一本立てました。


「代理権がないのに代理人として契約したら?」


「無権代理?」


「そのとおりです」


「次の話だな」


「はい」


「顕名がなかったら?」


「原則、代理人自身の行為」


「相手方が本人のためだと知ってたら?」


「本人に効果帰属」


「よし」


「理解が早いですね」


「今日の4,800万が効いてる」


「他人の教材で学ばないでください」


 そこへ所長がやってきました。


「まとまったか」


「だいぶ」


「じゃあ試験で迷わない形にしておけ」


「どういう形です?」


「誰の話なのかを分けろ」


 所長は私のノートを指しました。


「代理では、本人、代理人、相手方の三人が出る」


「はい」


「代理権が消えるかどうかなら、“本人に何が起きたのか”“代理人に何が起きたのか”を分ける」


「なるほど」


「顕名なら、“代理人が何と表示したか”“相手方が何を知っていたか”を分ける」


「……」


「代理人が制限行為能力者なら、“誰の行為なのか”を見る」


「本人の行為じゃなくて、代理人としての行為」


「そういうことだ」


 私は大きく書きました。


 代理問題は、

 まず「本人・代理人・相手方」を分ける。


「また人間関係ですね」


「民法はだいたいそうだ」


「誰が何をしたか」


「そうだ」


「誰に効果が帰属するか」


「そういうことだ」


 私は最後に、試験直前用としてまとめました。


 ――栞の試験直前メモ――


 【代理の基本】


 ① 制限行為能力者でも代理人になれる。


 → 代理人が未成年者等であることを理由に、

   代理行為を取り消すことはできない。


 ② 代理には二種類。


 任意代理

 → 本人が自分の意思で代理権を与える。


 法定代理

 → 法律によって代理権が生じる。


 ③ 任意代理の本人が破産した。


 → 代理権消滅。


 ④ 法定代理の本人が破産した。


 → 代理権は消滅しない。


 ⑤ 本人が死亡した。


 → 原則として代理権消滅。


 ⑥ 代理人が死亡・破産・後見開始。


 → 代理権消滅。


 ⑦ 代理人が死亡しても、

   その相続人が代理権を相続するわけではない。


 ⑧ 顕名なし。


 原則

 → 代理人自身の行為。


 ただし、

 相手方が本人のための行為だと知っていた、

 または知ることができた


 → 本人に効果帰属。


 ⑨ 不動産登記の申請代理権は、

   本人死亡でも消滅しない。


「……結構あるな」


「ありますね」


「でも今日の事件から考えると分かりやすい」


「そうなんです」


 私は今日の顔を一人ずつ思い浮かべました。


 義一さん。


 本人。


 健太郎さん。


 代理人。


 河西さん。


 相手方。


「教科書だとABCだけなんですよ」


「今日もそうだったな」


「でも実際に顔がつくと分かるんです」


「何が?」


「誰が未成年なのかで、意味が全然違うってことです」


 私は言いました。


「本人が未成年なのか」


「うん」


「代理人が未成年なのか」


「うん」


「それだけで結論が変わる」


「確かにな」


 私はノートの最後に一行書きました。


 代理人の年齢を見る前に、

 その人が「誰のために」行為しているかを見る。


「いいじゃないか」


「でしょう?」


「じゃあもう一行」


「真壁さん、最近それ好きですね」


「代理を一言で言うなら?」


「うーん……」


 少し考えました。


 そして書きました。


 代理とは、

 人に任せることではなく、

 任せた結果を本人に帰属させる仕組み。


 真壁さんがしばらく黙りました。


「今日の義一さんだな」


「はい」


 十七歳の孫に、


 4,800万円の土地売買を任せた。


 怖くなかったはずがない。


 間違えるかもしれない。


 うまく話せないかもしれない。


 でも。


 だから全部自分でやるのではなく、


 任せた。


「代理って」


 私は言いました。


「法律の話ですけど、結構“信用”の話でもありますね」


「そうだな」


 所長が静かに言いました。


「だからこそ、代理権は雑に扱うな」


「はい」


「誰に何を任せたのか」


「はい」


「どこまで任せたのか」


「はい」


「相手方にそれが分かるようにしたのか」


「顕名ですね」


「そういうことだ」


 私は頷きました。


 そしてノートの一番下に、


 今日の事件を一行でまとめました。


 十七歳でも代理人にはなれる。


 顕名を忘れても、相手方が代理だと知っていれば本人に効果は帰属する。


「……よし」


 私はノートを閉じました。


「終わったか」


「終わりました」


「じゃあ帰るぞ」


「はい」


 真壁さんが上着を取ります。


 私は鞄にノートをしまいながら思いました。


 代理という制度は、


 本人がその場にいなくても、


 本人の意思を外へ運んでいく仕組みです。


 だから、


 代理人の名前だけ見ても分からない。


 年齢だけ見ても分からない。


 契約書の肩書きだけ見ても分からない。


 誰から権限をもらい、


 誰のために動き、


 相手方がそれをどう認識していたのか。


 そこまで見て、


 初めて代理になります。


「栞」


「はい?」


「今度、俺が休んだら営業の代理頼むわ」


「嫌です」


「制限行為能力者でも代理人になれるぞ」


「法的にできると、仕事としてやりたいは別です!」


「今日もそれか」


「大事です!」


 所長が笑いました。


 私は電気を消す前に、


 もう一度ノートを開きました。


 最後の一行。


 任せる相手を選ぶのも、

 代理という法律行為の一部。


 それを赤鉛筆で囲みました。


 法律は、


 人に任せる自由を認める。


 でも同時に、


 任せた責任も本人に返してくる。


 だから代理人は、


 ただの使い走りではない。


 本人の意思を、


 外の世界へ届ける人。


 そう思うと。


 「代理人」という三文字が、


 昨日より少しだけ重く見えました。

 以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。

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