[分別の利益]現場編 半分は、あなたの分じゃない
世の中には、「みんなで負担する」と言われると、急に安心してしまうものがあります。
町内会の草むしり。
宴会の会計。
引っ越しの荷物運び。
そして――保証。
ただし最後の一つだけは、安心する前に契約書を三回くらい見たほうがいいです。
なぜなら法律の世界では、
「二人いるから半分ずつでしょう」
が正しいこともあれば、
「二人いても、あなたに全部払ってもらいます」
が正しいこともあるからです。
やめてほしい。
同じ“保証人”という日本語の中で、難易度を変えないでほしい。
昭和六十三年、七月。
その日は朝から、事務所の扇風機が全力で首を振っていました。
右。
左。
右。
左。
でも全然涼しくない。
「これ、風送ってるんですかね」
「送ってるだろ」
真壁さんが新聞をめくりながら言いました。
「熱風を攪拌してるだけでは?」
「気の持ちようだ」
「冷房を精神論で代用しないでください」
「昔はみんなこうだったんだよ」
「今も昔なんですよ、私にとっては」
「何言ってんだ?」
そうでした。
私だけ時代認識がおかしい。
昭和六十三年に転生してから、こういう事故がよくあります。
私は帳簿に視線を戻しました。
その時です。
入口のドアが開きました。
「すみません……」
入ってきたのは、五十代くらいの女性でした。
白いブラウス。
紺色のスカート。
手には、使い込まれた布の鞄。
見るからに真面目そうな人です。
そして、真面目そうな人ほど、こういう場所に来る時は大抵困っています。
「大槻さん、いらっしゃいますか」
「おりますよ」
私は立ち上がりました。
「お名前を伺っても?」
「森下と申します。森下和子です」
その名前を聞いて、真壁さんが新聞から顔を上げました。
「森下さん?」
「はい」
「西町の文房具屋の?」
「……主人がやっております」
「ああ」
真壁さんの顔が少し柔らかくなった。
「息子が小学校の頃、鉛筆買ってた店だ」
「真壁さん、息子さんいるんですか?」
「いるよ」
「初耳です」
「俺の家庭事情を何だと思ってる」
「謎設定」
「設定言うな」
そんな会話をしている場合ではありません。
森下さんは、鞄から一通の封筒を取り出しました。
「これが、昨日届きまして……」
差出人は、東都信用組合。
私は所長の机にお茶を運びながら、ちらりと文面を見ました。
残債、八百万円。
保証債務履行請求。
その文字だけで、口の中が乾きます。
「借金されたんですか?」
私が聞くと、森下さんは首を振りました。
「いいえ。私ではないんです」
また来た。
この業界、「私の借金じゃありません」から始まる話、多くないですか。
所長が封筒の中身を確認しました。
「主債務者は……小野寺商事」
「はい」
「森下さんは保証人」
「はい」
「八年前に?」
「ええ」
森下さんは膝の上で両手を握りました。
「小野寺さんは主人の幼なじみで……倉庫を買う資金を借りるということで」
不動産絡みですね。
「保証人が二人必要だからと言われて、私と、もう一人、坂本さんという方が……」
私は顔を上げました。
二人。
「契約書はありますか?」
「コピーなら」
森下さんが折り畳んだ紙を差し出します。
大槻所長が開いた。
私も横から覗き込みました。
主債務者、小野寺商事。
保証人、森下和子。
保証人、坂本清。
――保証人。
私はもう一度見ました。
連帯保証人、ではない。
ただの保証人。
「所長」
「ああ」
所長も同じところを見ていました。
森下さんが不安そうに聞きます。
「昨日、信用組合の方から電話もあったんです」
「何と?」
「小野寺さんが倒産したので、残りの八百万円を払ってくださいと」
真壁さんが眉をひそめました。
「八百万全部?」
「はい」
「もう一人保証人いるんでしょう?」
「それを言ったんです」
森下さんの声が少し震えました。
「坂本さんも保証人ですよね、半分ではないんですかって。でも担当の方が……」
そこで、森下さんは唇を噛みました。
「“保証人になった以上、全部払う責任があります”って」
――ん?
私の頭の中で、宅建の過去問が一枚めくれました。
保証人。
二人。
共同保証。
しかも、連帯の特約がない。
だったら。
「全部じゃありません」
私は口に出していました。
森下さんがこちらを見る。
「え?」
真壁さんも見る。
「栞?」
「この契約書なら、少なくとも八百万円全部を森下さん一人の負担として請求するのはおかしいです」
「どういうこと?」
私は契約書を指差しました。
「ここです」
保証人。
「“連帯保証人”じゃありません」
事務所が静かになりました。
扇風機だけが律儀に首を振っています。
右。
左。
今はちょっと黙っててほしい。
◇
「栞、説明しろ」
真壁さんが言いました。
「普通の保証人が複数いる場合、原則として保証債務を人数で分けるんです」
「人数で?」
「はい」
私はメモ用紙に書きました。
借金 八百万円
保証人 二人
「二人なら?」
「四百万ずつ?」
森下さんが恐る恐る答えました。
「そうです」
私は頷いた。
「これを“分別の利益”といいます」
「ぶんべつ……」
「名前は難しいですけど、意味は簡単です」
私は紙を二つに折る真似をしました。
「保証人が何人もいるなら、その人数に応じて保証責任を分けてもらえる、ということです」
真壁さんが腕を組みます。
「じゃあ信用組合は、森下さん一人に八百万請求できない?」
「この契約が普通保証で、連帯の特約などがないなら、森下さんの保証債務は原則として四百万円です」
「……」
森下さんはしばらく、私の顔を見ていました。
「本当に?」
「契約書を見る限りは」
「八百万円じゃ……ない?」
「はい」
その瞬間。
森下さんの肩から、目に見えない重しが落ちた気がしました。
でも。
四百万円だって、大金です。
喜んでいい金額じゃない。
それでも、“八百万全部”と“四百万まで”では、人生の景色がまるで違います。
「昨日から……」
森下さんが小さく言いました。
「家を売るしかないと思ってました」
「家?」
所長が顔を上げる。
「主人の店と一緒になっている家です。信用組合の方から、払えなければ不動産を処分することも考えてくださいと」
真壁さんの顔が一気に険しくなりました。
「そこまで言われたのか」
「はい」
私は腹の底が少し熱くなりました。
もちろん、保証した責任はある。
そこは逃げられない。
でも。
本来負わなくていい四百万円まで上乗せして、
「家を売れ」
は違うでしょう。
「所長」
「ああ」
大槻所長は立ち上がりました。
「行くぞ」
「どこへ?」
「信用組合だ」
真壁さんがにやりとする。
「久々に所長が歩くな」
「真壁」
「はい」
「お前も来い」
「はい」
「栞も」
「はい」
……なぜか私まで。
最近、この事務所における“事務見習い”の意味が怪しくなってきました。
◇
東都信用組合は駅前の角にある、茶色いタイル張りの建物でした。
窓口の奥。
応接室。
私たちの向かいには、三十代後半くらいの融資担当者が座っていました。
名前は柴崎。
髪をきっちり固め、ネクタイも一ミリも曲がっていない。
几帳面。
というより、定規で生きてそうな人です。
「森下さん」
柴崎さんは書類を見ながら言いました。
「昨日も申し上げましたが、小野寺商事については回収不能の見込みです」
「はい」
「したがいまして、保証人である森下さんに――」
「八百万円全額を?」
所長が静かに割って入りました。
柴崎さんは一瞬だけ止まりました。
「はい」
「根拠は?」
「保証契約です」
所長が契約書のコピーを机に置きました。
「ここに何と書いてある」
「保証人です」
「連帯保証人とは?」
「書いてありませんが」
「連帯保証の特約は?」
「……」
「保証人同士で連帯する旨の特約は?」
柴崎さんが黙りました。
私は胸の中で、小さく鐘を鳴らしました。
カーン。
一問目、終了。
「保証人は二人です」
所長が続けます。
「森下さんと坂本さん」
「承知しています」
「なら、森下さんの負担について、なぜ分別の利益を無視して全額請求した?」
柴崎さんの表情が固まった。
「……分別の利益?」
真壁さんが、わざとらしく私を見る。
「栞ちゃん、出番じゃない?」
「なんで急にちゃん付けなんですか」
「若い子のほうが圧が弱い」
「あなたの顔が強すぎるんですよ」
「悪かったな」
私は柴崎さんへ向き直りました。
「普通保証人が複数いる場合、それぞれの保証人は、原則として人数に応じた額だけ保証債務を負います」
メモ用紙を机に置く。
八百万円。
二人。
「森下さんと坂本さんが二人の普通保証人なら、森下さんについては四百万円」
「……」
「坂本さんについても四百万円」
「……」
「森下さん一人に、“八百万円全部払わなければ家を売ってください”という説明は、おかしくありませんか?」
柴崎さんの眉が動きました。
「いや、保証人である以上、債務全体を保証していることに――」
「それ、連帯保証人と混同してません?」
言った瞬間。
空気が止まりました。
真壁さんが横で、ほんの少し笑った。
柴崎さんは私を見ました。
「君は?」
「事務見習いです」
「……事務見習い?」
「はい」
「資格は?」
「まだありません」
そこは聞かないでほしい。
前世でも苦労してるんです。
「しかし、契約書の文言は変わりません」
私は言いました。
「“保証人”です」
そして一文字ずつ確認するように指を置く。
「“連帯保証人”とは書いてありません」
柴崎さんは契約書を見ました。
「それとも、別に連帯の特約がありますか?」
「……」
「あるなら見せてください」
沈黙。
ない。
その沈黙は、下手な答えより雄弁でした。
◇
柴崎さんは席を立ちました。
「少々お待ちください」
応接室から出ていく。
扉が閉まった瞬間、真壁さんが囁きました。
「お前、楽しそうだな」
「そんなことありません」
「口元上がってるぞ」
「理不尽な全額請求が四百万に減る瞬間って、ちょっと気持ちよくないですか」
「お前、法律向いてるわ」
「褒められてる気がしません」
森下さんは、まだ不安そうでした。
「栞ちゃん」
「はい」
「でも……私が四百万円払ったら、坂本さんが払わなかった分まで、あとから請求されることは?」
「普通保証のままなら、“坂本さんが払わないから、その分も森下さんへ”とは原則なりません」
「……!」
「それが分別の利益です」
私は微笑みました。
「森下さんの責任は、森下さんの分までです」
「私の……分まで」
その言葉を、森下さんは確かめるように繰り返しました。
たぶん昨日から、
八百万。
八百万。
家を売る。
八百万。
そんな数字ばかりが頭の中を回っていたのだと思います。
そこに初めて、境界線が引かれた。
ここまでがあなたの責任。
ここから先は、あなたの責任ではない。
法律には、人を縛る線もある。
でも。
人を守る線もある。
◇
十分ほどして。
柴崎さんが、上司らしい男性を連れて戻ってきました。
「お待たせしました」
上司が深く頭を下げます。
「融資課長の高瀬です」
所長は黙って頷きました。
高瀬課長は契約書を机に置いた。
「確認いたしました」
一拍。
「ご指摘のとおり、本件保証契約には連帯保証の定めがありません」
森下さんが小さく息を呑みます。
「したがいまして、保証人お二人については、それぞれ分別の利益が認められるものとして取り扱います」
来た。
「では?」
所長が聞く。
「森下様への請求額について、八百万円全額という当方の説明は訂正いたします」
高瀬課長は頭を下げました。
「申し訳ございませんでした」
私は心の中で、拳を握りました。
よし。
派手じゃない。
誰も殴っていない。
机もひっくり返していない。
でも。
八百万円が、四百万円になる。
こんなに静かな逆転劇もなかなかありません。
「昨日、“家を処分してでも”という趣旨の説明をしたそうですね」
所長が言いました。
高瀬課長の顔が曇る。
「……確認しております」
「本来の保証債務額を超える請求を前提に、その話をした」
「はい」
「森下さんは昨夜、自宅兼店舗を売るしかないと思ったそうだ」
「……」
所長は怒鳴りませんでした。
この人は怒鳴らない時のほうが怖い。
「数字を間違えれば、人の人生が変わる」
「申し訳ありません」
「金融屋なら、そこを忘れないでいただきたい」
「はい」
柴崎さんも深く頭を下げました。
私は横で思いました。
所長。
今日、三割増しで格好いいです。
口にすると調子に乗りそうなので黙っておきます。
◇
「ただし」
帰り道。
私は森下さんに言いました。
「四百万円の保証債務そのものが消えたわけではありません」
「はい」
「そこは、これから返済方法をきちんと相談する必要があります」
「分かっています」
森下さんは頷いた。
でも、来た時とは顔が違いました。
まだ問題はある。
でも、“何が問題なのか”が分かっている顔です。
人間、訳の分からない八百万円より、分かっている四百万円のほうが戦えます。
「店は売らずに済みそうでしょうか」
真壁さんが聞いた。
「主人とも相談します。でも……」
森下さんは少し笑いました。
「少なくとも、今夜いきなり“不動産屋さんに売却をお願いしなくちゃ”とは言わずに済みます」
「それなら良かった」
真壁さんも笑った。
「鉛筆一本でも買いに来てください」
「え?」
「俺、昔から森下文具店の鉛筆使ってるんですよ」
「さっき息子さんが買ってたって言ってませんでした?」
私が突っ込む。
「俺も買ってた」
「後付け感がすごい」
「うるさい」
森下さんが声を出して笑いました。
事件が始まってから、初めての笑顔でした。
◇
ところが。
事務所に戻って三十分後。
今度は黒電話が鳴りました。
「はい、大槻不動産です」
私が取る。
『もしもし』
男性の声。
『森下さん、そちらにいますか』
「先ほどお帰りになりましたが」
『ああ……そうですか』
「失礼ですが、どちら様でしょう」
『坂本です』
「坂本さん?」
『保証人の、坂本清です』
私は背筋を伸ばしました。
「少々お待ちください」
所長に代わろうとすると、
『いや、ちょっと聞きたいだけなんです』
「何でしょう」
『森下さん、信用組合から八百万請求されたって本当ですか』
「……はい」
『俺にも来たんです』
なるほど。
「で、俺、払えないって言ったら、“森下さんから回収することもできます”みたいなこと言われて」
私は眉をひそめました。
「坂本さん」
『はい』
「契約書、お持ちですか」
『あります』
「そこに“連帯保証人”と書いてあります?」
電話の向こうで、紙をめくる音。
『いや……保証人、ですね』
「なら、坂本さんも同じです」
『え?』
「原則として、あなたにも分別の利益があります」
沈黙。
『……ぶんべつ?』
「簡単に言うと」
私は机の上の鉛筆を二本見ました。
「二人で保証してるなら、保証責任も二人分に分かれる、という話です」
『じゃあ俺も四百万?』
「今回の前提なら、そう考えることになります」
『八百万じゃない?』
「はい」
『……よかったぁぁぁ……』
受話器の向こうから、ものすごい安堵の声が聞こえました。
電話って、こんなに人間の魂まで運ぶんですね。
『あの、ありがとうございます』
「いえ」
『森下さんにも謝っといてください』
「何を?」
『俺……信用組合から“森下さんに全部請求するかもしれない”って聞いて、正直、助かったって思っちゃったんです』
「……」
『自分のところに来なきゃいいって』
声が小さくなる。
『でも、違うんですね』
「はい」
『俺の分は俺の分なんですね』
私は少しだけ笑いました。
「そういうことです」
『……分かりました』
坂本さんは言いました。
『逃げずに話してきます』
「はい」
電話を切ったあと。
真壁さんが聞きました。
「誰だった?」
「もう一人の保証人です」
「何だって?」
「自分の分は、自分で払うって」
「そりゃ立派だ」
「というか本来そうなんですけど」
「身も蓋もねえな」
「法律は蓋を開ける仕事なので」
「何それ、うまいこと言ったつもり?」
「ちょっとだけ」
「七点」
「厳しい!」
◇
数日後。
森下さんが事務所にやって来ました。
今日は鞄ではなく、紙袋を持っています。
「先日は本当にありがとうございました」
「その後どうです?」
「信用組合と話をして、主人とも相談しました。店は売らずに済みそうです」
「良かった」
「それから坂本さんとも会いました」
「坂本さんと?」
「はい」
森下さんは笑いました。
「“お互い、自分の分はちゃんとしよう”って」
保証人同士で、そんな健全な結論になることあるんですね。
「これ、皆さんで」
紙袋を差し出されました。
中には、鉛筆が何箱も入っていました。
「こんなに?」
「主人が、“不動産屋さんに何を持っていけばいいか分からん”って言うので」
「それで鉛筆?」
「文房具屋ですから」
強い。
専門店の贈答、迷いがない。
真壁さんが一本取り出しました。
「お、これいい鉛筆だな」
「分かるんですか?」
「昔から使ってるって言ったろ」
「本当だったんだ」
「お前、俺を何だと思ってる?」
「話を盛るタイプ」
「おい」
所長まで一本取りました。
「栞」
「はい?」
「勉強に使え」
「所長まで私の宅建不合格を前提にしてません?」
「受かるまで使え」
「一本で足ります」
「その自信、試験会場まで持ってけ」
全員が笑いました。
◇
その日の夕方。
私はもらった鉛筆で、ノートの端に書きました。
分別の利益。
保証人が複数いる場合、
原則として、
その人数に応じて保証債務を分ける。
今日なら。
八百万円。
普通保証人が二人。
一人あたり四百万円。
昨日までだったら、ただの割り算に見えたと思う。
でも、今は違う。
八百万と四百万。
数字の差は四百万円。
でも森下さんにとっては、
店を手放すかもしれない夜と、
夫婦で返済方法を考えられる夜との違いだった。
法律では「利益」と呼ぶ。
分別の利益。
正直、初めてテキストで見た時は、
何が利益なんだ。
株の配当か。
くらいにしか思わなかった。
でも今日、初めて分かった気がします。
これは本当に、“利益”なんだ。
保証人が二人いるのなら、
一人に全部を背負わせない。
ここまでがあなたの責任です、と線を引く。
その線が一本あるだけで、人は少しだけ息をつける。
「栞」
「はい?」
真壁さんが向かいの机から声をかけました。
「もし俺と所長がお前の借金の保証人になったら、半分ずつか?」
「まず保証人になってくれるんですか?」
「いや」
「じゃあ聞かないでください」
「仮定の話だよ」
「普通保証なら分別の利益があります」
「じゃあ半分」
「ただし連帯保証なら――」
「……全部?」
「それぞれ全額について責任を負います」
真壁さんが黙った。
「所長」
「なんだ」
「俺、連帯保証人にはなりません」
「誰も頼んでない」
「栞」
「はい?」
「俺たち、今いいこと学んだな」
「“連帯”の二文字を見落とすな、ですね」
「いや」
真壁さんは、森下文具店の鉛筆を一本持ち上げました。
「人の借金には近づくな」
「法理を台無しにしないでください」
所長が笑った。
窓の外では、夕立のあとに薄い虹が出ていました。
私は机の上の鉛筆を見ます。
二本。
同じ長さ。
同じ重さ。
並べれば、ちゃんと二本。
一人に二本分持たせない。
そんな当たり前のことを守るために、
法律は時々、やたら難しい名前をつけます。
分別の利益。
名前は難しい。
でも意味は、とても人間らしい。
あなたの責任は、
あなたの分まで。
私は、その言葉をノートの最後に書きました。
そして隣に、小さく付け足す。
――ただし「連帯」の二文字があったら、話は別。
……やっぱり契約書って、
小さい文字ほど怖いです。
以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。




