↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
263/266

英国の勇者

 ビッグベン近くの道路で、乗用車が横倒しになった。

 赤い渦から出てきた巨人が車体を踏みつけ、窓ガラスが路上へ飛び散る。

 さらに別の巨人も渦を抜け、歩道の柵を押し倒した。


 「Keep moving! Away from the tower!(止まらないで! 時計塔から離れて!)」


 警察官が市民を次の通りへ誘導し、英国政府軍の兵士たちは車両と障害物で進路を仕切っていた。

 兵士が足の遅い市民に付き添い、転んだ者を警察官が起こして先へ急がせる。

 だが、巨人は柵をまたぎ、逃げ遅れた市民の背後へ迫っていた。


 そこへ、当局の要請を受けた探索者協会の探索者たちが駆けつけた。

 剣を持った探索者が巨人の脚へ斬りかかる。

 巨人が市民から顔をそらすと、盾の探索者が正面へ出た。


 「Over here! Keep it facing us!(こっちだ! こいつをこちらへ向けておけ!)」


 巨人が腕を振り下ろす。

 探索者たちは飛び退き、拳が路面を砕いた。

 その隙に警察官と兵士が市民を先へ逃がしていく。

 盾の探索者が注意を引きつける間、剣の探索者たちは脚への攻撃を続けた。


 刃は巨人の脛を切ったが、傷は浅い。

 巨人は構わず踏み込んでくる。

 巨人が腕を振ると、剣で防いだ探索者が宙へ弾かれた。

 仲間が駆け寄り、道路から引きずり出す。

 盾を構えた探索者も次の一撃を受け、靴底を削りながら後退した。


 「These are at least B-class! Don't try to take one alone!(相手は少なく見てもB級だ! 1人で相手にするな!)」


 隣の班も、別の巨人に押されて後退していた。

 攻撃を重ねても進撃を止められず、仲間を助けるために下がるたび、巨人が避難路へ近づいてくる。


 そこへ、近くに配備されていたロダン家の探索者たちが駆けつけた。

 負傷者を後方へ下がらせると、協会の探索者と交代して前へ出る。

 二人が巨人の注意を引き、その間に別の者が背後へ回り込んだ。


 「Keep it here. Take the back of the knee!(ここで止める。膝の裏を狙え!)」


 協会の探索者も攻撃に加わる。

 膝裏を斬られた巨人が足を引いたところへ、ロダン家の前衛が押し込んだ。

 巨体が避難者のいない道路へ横倒しになり、地面が大きく揺れた。

 盾の探索者が持ち場を取り直し、隣の班にもロダン家の援護が入った。


 だが、赤い渦からまた巨人が現れた。

 転ばせた巨人が起き上がろうとする間にも、新たな巨人が続く。

 目の前の一体を止めるだけで手いっぱいだ。

 援護に回れば、別の巨人を止める手が足りなくなる。


 止めるよりも、渦から出てくる方が速い。


 探索者たちは再び押し戻され、簡易防衛線まで下がった。

 兵士が残った市民を急がせる目の前で、巨人が障害物を蹴り崩し、太い腕を振り上げる。


 そこへ、時計塔から現場へ向かっていたアレクサンダー・ロダンが踏み込んだ。

 剣も盾もなく、鎧さえ着けていない。

 その体から膨大な魔力が溢れ、握った右拳へ鋭く凝縮していく。


 振り下ろされた巨人の腕へ、アレクサンダーが拳を突き上げる。

 ぶつかった前腕が破裂し、肘から先が吹き飛んだ。

 巨人がのけぞるより早く、アレクサンダーは懐へ入った。

 跳び上がり、指を揃えた左手を胸へ突き込む。

 刃のように研ぎ澄まされた魔力が巨人の胸を深く裂き、血が噴き出した。

 着地したアレクサンダーの前で、巨人が膝をつく。

 巨人はそのまま地面に倒れ、動かなくなった。


 「Get the wounded back. I'll take the front.(負傷者を下げろ。正面は私が受け持つ)」


 ロダン家の探索者が負傷者を退避させ、協会の探索者たちも避難路の確保に動く。

 倒れた巨人に目を奪われていた盾の探索者も、すぐに仲間を連れて防衛線へ戻った。


 続けて、別の巨人が二体迫ってきた。

 アレクサンダーは振り下ろされた腕をかわすと、一体の膝を蹴り砕いた。

 崩れかけた巨体が、もう一体の攻撃を遮る。

 その隙にアレクサンダーは跳び上がり、立っている巨人の腹へ魔力をまとった拳を叩き込んだ。

 拳が腹を貫き、巨人が大きく身を折る。

 腕を引き抜いた瞬間、巨人が最後の力で爪を振り回した。

 アレクサンダーは身を引いたが、腕を浅く切り裂かれる。

 それでも、腹を貫かれた巨人はそのまま道路に倒れた。


 膝を砕かれたもう一体が、地面に手をついて掴みかかってくる。

 アレクサンダーは伸びてきた腕へ飛び乗り、屈んだ巨人の首へ手刀を振り抜いた。

 首筋から血が噴き出し、巨人も倒れる。


 地面に降りたアレクサンダーの腕で、浅い傷がみるみる塞がっていった。

 残ったのは、袖に付いた血だけだ。


 「He did all that with his bare hands...(あれを全部、素手で……)」


 協会の探索者が呟いた。

 だが、すぐにロダン家の探索者に呼ばれ、負傷者の運搬へ戻っていく。

 兵士たちも、巨人が倒れて空いた道から市民を逃がしていた。


 それでも、危機は終わっていなかった。

 アレクサンダーのいる通りでは巨人の進出が止まったものの、交差点では協会の探索者たちが押し戻されている。

 ロダン家が転ばせた巨人まで立ち上がり、別の通りへ向かっていた。


 赤い渦から現れた巨人たちは、それぞれ別の通りへ進んでいく。

 別の街路でも、ロダン家の探索者たちが必死に巨人を食い止めていた。


 「We can't hold this street much longer!(この通りは、もう長くは持ちません!)」


 交差点から切迫した声が上がった。

 その後ろでは、まだ市民が避難を続けている。

 アレクサンダーが救援へ向かえば、今度は自分の守る通りが危なくなる。

 どちらの避難路も空けるわけにはいかなかった。


 アレクサンダーは目の前の巨人を拳で押し退け、交差点へ声を張った。


 「Stay where you are. Hold those streets!(持ち場を離れるな。その通りを守れ!)」


 アレクサンダーが拳を握り直す。

 その体から溢れる魔力が、さらに大きく膨れ上がった。


 「You're not fighting alone!(お前たちだけで戦わせはせん!)」


 次の瞬間、【勇者】の広域強化――【勇者の号令】が解き放たれた。


 膨大な魔力がアレクサンダーを中心に広がっていく。

 その力は、交差点にも、隣の街路にも届いた。

 数百メートルの範囲で巨人と戦い続けていた探索者たちの体に、次々と力が漲る。


 交差点で巨人の攻撃を受け続けていた盾の探索者も、その変化に目を見開いた。

 腕はまだ震えている。

 それなのに、盾を握る手には信じられないほど力が入った。


 「What the……?(なんだ、これは……?)」


 巨人が再び腕を振り下ろした。

 男は仲間と並び、盾を突き上げる。

 激しい衝撃に膝が沈んだ。


 だが、今度は後ろへ滑らなかった。


 巨人の腕が、二人の盾の前で止まっている。

 男は力を込め、巨人の腕を押し返した。


 先ほどまで、受け止めるだけで精いっぱいだった相手だ。

 それが今、自分たちの力で押し返せている。


 男は剣の探索者へ叫んだ。


 「Now! The leg!(今だ! 脚を!)」


 剣の探索者が、先ほど浅い傷しか付けられなかった巨人の脛へ斬り込んだ。

 今度は刃が深く食い込み、巨人がよろめく。

 仲間が反対の脚を斬りつけると、巨体が道路へ崩れ落ちた。

 盾の探索者たちが暴れる腕を押さえ込み、剣の探索者たちが首へ攻撃を集中させる。

 巨人の体から力が抜け、動かなくなった。


 盾の探索者が仲間を呼び、倒れた巨人の向こうへ進む。

 押され続けていた防衛線が、ようやく前へ出た。


 別の通りでも、ロダン家の探索者たちが巨人を押し返していた。

 先ほどは押し込まれていた前衛が、今度は巨体を受け止める。

 その間に仲間が膝裏へ斬り込み、巨人の膝が崩れた。


 「Keep pressing! Don't let it stand again!(押し切れ! 立ち直らせるな!)」


 ロダン家の探索者たちが畳みかける。

 巨人が膝をつくと、振り回す腕を前衛が押さえ、別の者が首へ刃を走らせた。

 大きな手が路面を掻き、やがて止まる。

 探索者たちは隊形を保ったまま、赤い渦へ向き直った。


 防衛線の後ろでは、兵士が障害物の隙間を開けていた。

 警察官に促され、待っていた市民が歩き出す。

 兵士に支えられた者も、その列に続いていった。


 アレクサンダーも、目の前の巨人を迎え撃っていた。

 振り下ろされた拳を砕き、巨体が避難者へ倒れないよう腹を蹴って赤い渦の側へ押し戻す。

 苦し紛れに伸びた腕を躱し、下がった頭へ跳び上がって手刀を叩き込んだ。

 巨人は道路に崩れ落ちる。


 協会の班は交差点を、ロダン家の班は別の街路を守り続けていた。

 次々と巨人が倒れ、避難路へ迫る敵が減っていく。


 盾の探索者は、最初に弾き飛ばされた仲間が兵士に運ばれていくのを見届け、前へ向き直った。


 「Treat the wounded. Keep the evacuation moving, and watch the entrance.(負傷者を手当てしろ。避難を続け、入口の警戒を怠るな)」


 アレクサンダーの指示を受け、動ける探索者が負傷者のもとへ向かった。

 警察官は取り残された市民がいないか声を張る。

 前衛たちは避難路を背に守りを固め、最後の市民が警察官に付き添われて通り抜けていった。


 倒れた巨人の向こうでは、赤い渦がなお回り続けている。

 入口は閉じていなかった。


 アレクサンダーは渦の前へ進み、魔力をまとった拳を握り直す。

 背後に避難する人々の足音を聞きながら、じっとその入口を睨んでいた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。