守護者の出陣
本日カクヨムのほうでサポーター専用SS シオのアメリカ旅行① 怪獣とMVP が公開されています!
※カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)
「Begin the final connection checks.(本番接続の確認を始めてください)」
技術者が操作すると、俺の【鑑定】にも代替機構の内部が見えてくる。
《次元針》と塔の未使用感知機能から、補正に必要な経路指示が作られていた。
俺が見つけた未使用の入力経路へ、いよいよ本番の指示を流す。
「こちらは大丈夫です。指示もできていますし、入力経路へ渡せる状態になっています」
支援チームの女性が伝えると、技術者は接続準備を終え、長針側の撤去班へ呼びかけた。
保守区画の通信から、準備完了の返事が届く。
「Remove the needle.(針を取り外してください)」
俺は塔の補正機構へ流れている指示を追った。
壁の向こうでどんなふうに作業しているかは見えないが、今のところ、現行の針は変わらず働いている。
取り外しが進む間も、技術者たちは画面の数値と長針側からの報告を受け、次の操作に備えていた。
やがて、針からの指示が途切れた。
長針側の通信から、撤去を終えた声が届く。
「The needle is out.(針の取り外しが完了しました)」
それまで続いていた塔の補正が弱まり、監視担当もすぐに変化を報告する。
「Correction readings are dropping.(補正の数値が下がっています)」
俺は息を詰めたまま、塔の内部を見ていた。
外せた。
けれど、今はまだ喜んでいる場合じゃない。
「Connect the replacement.(代替機構へ切り替えてください)」
代替機構の指示が、本番の入力経路へ流れ込む。
俺は【鑑定】を続けながら、塔の内部へ受け渡されるところを確かめた。
途中で途切れてはいない。
補正機構が新しい指示を受け、弱まっていた働きを戻していく。
「届いています。経路にも異常はありません」
女性が訳し終えるより先に、監視画面の数値が変わり始めた。
技術者は画面を確かめ、長針側へも状況を聞く。
完全同期の報告が来るまでが、やけに長く感じた。
「Fully synchronized. The correction readings are back to normal.(完全同期を確認。補正の数値は正常に戻りました)」
俺も、代替機構から塔へ続く働きを見た。
《次元針》と感知機能で作られた指示が、今は時計塔の補正を支えている。
「【鑑定】で見た限り、塔もちゃんと動いています」
責任者は俺の報告まで聞くと、ようやく操作担当へうなずいた。
「The changeover is complete.(切り替え成功です)」
近くの技術者が息を吐き、作業を見守っていたシエルの顔にも笑みが戻る。
俺も【鑑定】から意識を戻したところで、今度こそ肩の力が抜けた。
「真壁さん、外せたんだよね?」
「うん。塔の方も大丈夫だって」
「やった! あの針、やっと時計塔から出てきたのね」
シエルの声を聞いて、俺にも笑いが出た。
ニューヨークで探していた針が、まさかロンドンの大時計に組み込まれているとは思わなかった。
見つけても外せないと言われた時はどうなるかと思ったが、これでようやく、塔とは別に扱える。
「……長かったな」
「ほんと。真壁さんが、代わりに動かせるところを見つけてくれたおかげよ」
「作ってくれた人たちのおかげでもあるけどな。俺だけじゃ、さすがに交換まではできないし」
近くにいた技術者へ女性がその言葉を伝えると、相手は笑って答えた。
「We couldn't have done it without that input route.(あの入力経路がなければ、私たちにもできませんでしたよ)」
シオも、スマホを俺たちへ向けてくる。
『はずせた?』
「外せたよ。まだ、ここに持ってきてもらったわけじゃないけど」
長針側では針の回収も済んだらしく、英国側の現場担当が連絡を受けていた。
この後も英国政府の管理の下で保護する、と女性が俺たちにも伝えてくれる。
その担当者へ、別の連絡が入った。
「A new dungeon entrance has appeared south of the river.(川の南側に、新しいダンジョンの入口が現れました)」
シエルの笑みが消えた。
俺も担当者へ顔を向けるが、アレクサンダーはすぐに対応を指示する。
「Have the nearest team check it. Keep the public away.(近くの部隊に確認させろ。市民を近づけるな)」
担当者は連絡を返し、現地ではすでに周辺の封鎖が始まっていると報告した。
ロダン家の探索者も向かっているという。
針を外していた間に、やはりダンジョンが生まれてしまったらしい。
そう思ったところで、今度は市内北側からの報告が届いた。
路上に渦が現れ、人を離れさせているという。
「Another entrance in the west. Near a busy street.(西側でも入口を確認。人通りの多い通りの近くです)」
現場担当が返事をする間もなく、さらに別の場所から報告が入った。
「……こんなに?」
俺は代替機構をもう1度だけ【鑑定】した。
指示は正しく届き、塔の補正も復旧している。
監視担当の技術者も、正常値を維持していると責任者へ伝えていた。
それなのに、外からはダンジョンの報告が続く。
補正が戻ったからといって、できてしまった入口まで消えるわけではないのだ。
「Uncle, are there enough people?(伯父さん、人は足りるの?)」
「We're sending the teams already in the city. Stay here for now.(街に配置した部隊を向かわせている。今はここにいなさい)」
アレクサンダーはシエルへ答え、現場担当に新しい報告を求めた。
人の退避と探索者の出動は進んでいる。
ただ、その連絡が済む前に、また別の現場の話が入る。
担当者の返事は短くなり、シエルも伯父の仕事を邪魔しないよう口を閉じた。
そこで、塔のすぐ近くからの報告が届いた。
「There's a large vortex near Big Ben. We're getting the camera feed now.(ビッグベン付近に、大きな渦が出ています。今、監視映像を受信します)」
英国側の現場担当が受信した監視映像を開き、アレクサンダーへ見せる。
俺も近くから、その画面をのぞき込んだ。
大時計塔の近くに、巨大な渦が広がっていた。
映像には路上の車も映っているが、入口の大きさがまるで違う。
そこへ吸い込まれそうに見えるほど、車が小さい。
「……これ、すぐそこですよね?」
俺の問いを聞いた名取が、そばにいたシエルとシオにも注意を向けた。
「はい、すぐ近くです。皆さん、離れないでください」
画面の向こうでは、警備の人間が人々を遠ざけている。
移動する人たちの後ろで渦が大きくなり、その色が変わった。
赤い。
「A Carnival! It only just formed!(カーニバルだ! 今、生まれたばかりなのに!)」
映像を見た英国側の現場担当が叫んだ。
俺にも、その赤が何を意味するかは分かる。
けれど、新しくできたばかりのダンジョンが、もうカーニバルになっているなんて。
渦の中から、大きな人影が出てきた。
映像が乱れたのかと思ったが、そうではない。
歩いているそいつの体は、そばにある車よりもはるかに大きかった。
巨人だ。
しかも、その後ろからも人影が続いてくる。
「Giants! Get everyone back!(巨人族です! 全員を下がらせてください!)」
映像と一緒に届く現地の声に、保守区画の中で上がる声が重なった。
ロダン家の者が現地へ連絡を取り、英国側の担当も避難の状況を尋ねている。
「Silence!(静まれ!)」
アレクサンダーの一声で、保守区画のざわめきが止まった。
現場担当もロダン家の者も、口を閉じて当主を見る。
「Evacuate the civilians and tourists. Seal off the danger areas, especially around that Carnival.(市民と観光客を避難させろ。危険区域を封鎖するんだ。あのカーニバルの周辺を最優先に)」
英国側の現場担当はすぐに応じ、当局への連絡を始めた。
監視映像の音声からは、人々を渦から遠ざける声が聞こえる。
アレクサンダーは続けて、ロダン家の担当へ命じた。
「Split our teams between the other new dungeons. Clear them and protect the residents.(各部隊は、ほかの新規ダンジョンを手分けして攻略しろ。住民を守るんだ)」
ロダン家の担当は、市内各所に残した探索者たちへ指示を伝え始めた。
「Get the recovered needle to the underground magical vault at Rodan Hall. Take an escort. Immediately.(回収した針をロダン・ホールの地下魔導金庫へ移せ。警護を付けろ。大至急だ)」
英国側の現場担当が、連絡の合間に答えた。
「Agreed. We'll arrange the emergency transfer. It remains in British government custody.(了解しました。緊急移送を手配します。英国政府の管理は継続します)」
アレクサンダーは、塔の警護担当にも移送隊との連携を命じた。
「I'll handle the giants and that Carnival myself.(あの巨人どもとカーニバルは私が引き受ける)」
支援女性が俺へ訳を伝えたところで、思わず声が出た。
「えっ、1人でですか!? そんな、無茶ですよ!」
画面では、巨人がまだ渦から出てきている。
俺がさらに言おうとすると、シエルがそばへ来た。
「まあまあ。おじさんならいけるっしょ」
「いや、いけるっしょって……」
「真壁さんは、まだおじさんが戦うところを見てないもんね」
シエルは俺へそう言うと、伯父に声をかけた。
「Uncle, take care of them.(伯父さん、あいつら、お願いね)」
英国側の担当も、ロダン家の者も、当主を止めようとはしない。
それぞれが受けた指示を実行しながら、当主が現場へ向かうための連絡を進めていた。
アレクサンダーは、画面に映る巨人へ目を向けた。
さっきまでの短い命令とは違い、その口元にはわずかな笑みがある。
「I don't know who thought they could pull a stunt like this. But I'll remind them who protects this country.(誰がこんな舐め腐った真似を仕掛けたか知らんが……この国の守護者が伊達じゃないところを見せてやらんとな)」
ロダン家の担当が出入口のそばへ下がり、当主に道を空けた。
「Don't underestimate the power of a Hero, WB.(勇者の力、舐めるなよ。WB)」
読んでいただきありがとうございます。
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