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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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針を外す日

 英国と米国の協議があったと聞いてから数日後、シエルの実家の居間に来た支援チームの女性は、今度こそ針を外す日が決まったと教えてくれた。


 「英国政府から、針の取り外しと代替機構への交換作業に、正式な実施許可が出ました。切り替え手順と、監視・非常対応を含めた計画の審査が済んだそうです」


 「よかった! それで、いつ?」


 「3日後の午前9時に作業開始の予定です。米国側との調整も済んでいますし、技術者とロダン家も、その日時で準備を進めています」


 「……やっと、外せるんですね」


 「真壁さんの鑑定書、ちゃんと役に立ったのね」


 「うん。あとは、当日の確認だな」


 支援女性は続けた。


 「取り外した針は、英国政府の責任の下で一時的に管理します。所有権の扱いや米国への正式な引渡しは、交換とは別に協議が続きます」


 3日後の朝、俺たちは時計塔へ向かった。

 車窓から見上げた大時計の長針は、今日も変わらず動いている。

 あの中に組み込まれた《フロンティア・コンパス》の針を、いよいよ外すのだ。


 時計塔の周辺はすでに柵で囲まれ、観光客は離れた場所から大時計を見上げていた。

 英国側の警備担当が入口を守り、その奥にはロダン家の探索者の姿もある。

 俺たちも許可を確認してもらい、塔の中へ入った。


 「ここまで警備するんですね」


 思わず口にすると、隣を歩く名取が答えた。


 「今日は時計塔だけの問題ではありませんからね」


 その言葉の意味は、俺も分かっている。

 この塔が普段どおり動いているからこそ、今のロンドンは落ち着いているのだ。


 案内された保守区画には、アレクサンダーと技術者たちが集まっていた。

 代替機構のそばには監視用の画面が並び、英国側の担当者も数値を確かめている。

 壁の向こうの長針は見えないが、針が今も塔の機構を支えていることは、以前の【鑑定】で確かめたとおりだ。


 「Good morning. Everything is ready, but I want you to understand the risk before we begin.(おはよう。準備は整った。だが、始める前に一つ話しておこう)」


 アレクサンダーは俺たちを迎えると、そう切り出した。


 「When the needle is removed, the tower's correction will weaken until the replacement is fully synchronized. Even a short interval could allow a dungeon to form somewhere in London.(針を外せば、代替機構が完全に同期するまで塔の次元補正が弱まる。ほんの短い間でも、ロンドンのどこかでダンジョンが生まれるかもしれん)」


 シエルが表情を引き締めた。

 俺も、外で見かけた観光客のことを思い出す。

 補正が元に戻るまでの間に何も起こらない、と言い切れる者はいない。


 「Uncle, what about the rest of London?(伯父さん、ロンドンのほかの場所は大丈夫なの?)」


 「We haven't brought everyone here. Our teams are ready across the city, and the British authorities are helping us secure the tower.(ロダン家の者を全員ここに集めたわけではない。街の各所にも残してある。塔は英国側と一緒に守る)」


 シエルは伯父の言葉を聞いて、少しだけ肩の力を抜いた。


 「If a dungeon appears, our people will deal with it. We have prepared for what we can foresee.(ダンジョンが現れれば、街に残した者たちが動く。できる備えはしてある)」


 アレクサンダーは続けて俺を見た。


 「But the risk itself will not disappear.(それでも、何も起こらんとは言い切れん)」


 俺はうなずいた。

 何も起こらないと信じて作業するわけにはいかない。

 それでも、針を外すには今日の切り替えが必要だ。


 「俺の方で何か異常が見えたら、すぐに知らせます」


 「Please do. Your appraisal is part of our safety checks.(ああ、頼む。君の鑑定も頼りにしている)」


 アレクサンダーが技術者へ目を向けると、担当者が代替機構の前へ来た。


 「We'll operate the changeover and monitor the tower's readings. Please use your appraisal to check the internal instructions and how they reach the input route.(切り替え操作と塔の観測はこちらで行います。真壁さんには【鑑定】で内部の指示と、それが入力経路へ届く状態を確認してほしいんです)」


 技術者の説明は、以前に試験した範囲とつながっている。

 ただ、今日は実際に塔の機構を切り替える。

 俺が見つけた未使用の経路に、初めて本番の指示が流れることになる。


 「前に確かめた状態と違うところがあれば、そこで伝えればいいんですね」


 「Exactly. Tell us immediately if anything looks wrong. We won't proceed to the next step without checking it.(そのとおりです。異常があればすぐに知らせてください。確認しないまま次の操作へ進むことはありません)」


 「分かりました」


 代替機構は完成している。

 けれど、試験でうまく動いたからといって、実際の交換で何も起きないとは限らない。

 俺にできるのは、見落とさずに確かめることだけだ。


 「真壁さん」


 名取が、俺のすぐ隣で声をかけた。


 「作業の間は鑑定に集中してください。周りは私が見ますから」


 「お願いします。シエルとシオのことも」


 「もちろんです」


 シエルとシオは、作業員の邪魔にならない場所で待っていた。

 シエルは俺と目が合うと、小さくうなずいてくれる。

 いつもなら何か言いそうなシオも、今はスマホを抱えたまま静かにしていた。


 監視を担当する技術者が、画面から顔を上げた。


 「The correction readings are stable.(次元補正の数値は安定しています)」


 続いて英国側の現場担当が、塔周辺の警備と市内の対応要員が待機していることを報告する。

 アレクサンダーは両方を聞いてから、作業の責任者にうなずいた。


 時計塔は今も、普段どおりロンドンを守っている。

 その役割を代替機構へ渡すまでが、今日の仕事だ。


 俺は代替機構のそばに立ち、【鑑定】に備える。

 操作担当の作業員が準備を終えたところで、技術者がこちらへ声をかけた。


 「真壁さん、準備はいいですか?」


 「はい。いつでも」


 技術者が作業員たちを見渡す。

 俺は代替機構の内部へ意識を向け、開始の合図を待った。



 ◇



 ロンドン市内のWBの臨時拠点に、時計塔を監視する担当から新しい報告が届いた。

 ノアは右手でスマホを操作し、塔の周辺で立入規制が始まったという文面を読む。


 作業関係者らしい人間の出入りも増え、入口では警備が1人ずつ確認しているという。

 中で何をしているかは、外からでは見えない。


 「……そろそろ外す気か」


 これまでの資材搬入とは、周囲の動きが違う。

 針の交換が近いと見て、ノアは立ち上がった。


 「……さて、始めるか」

読んでいただきありがとうございます。

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