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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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代替機構、完成

 英国側が返還の協議を進めると回答してから数日後、シエルの実家へ来た支援チームの女性は、時計塔の技術者から連絡があったと告げた。


 「真壁さんが見つけた未使用の経路に合わせて、代替機構の組み立てと調整が終わったそうです。最後に【鑑定】で確かめていただきたいと」


 「もう完成したんですか?」


 「技術者の確認は進んでいますが、現行の針を外したわけではありません。今日は代替側の最終確認です」


 あの時は接続先を見つけただけだったのに、もう実物ができたのか。


 「分かりました。俺も見てみたいです」


 「私も行くわ。伯父さんもいるんでしょう?」


 シエルが尋ねると、支援女性は当主と技術者が現地で待っていると答えた。

 名取も同行し、シオは専用スマホを抱えて俺の肩に乗った。


 『こんどは できた?』


 「できたか、今から確かめるんだ」


 時計塔の保守区画では、アレクサンダーと技術者たちが待っていた。

 保護された代替機構には《次元針》が組み込まれ、そばには試験結果を確認する画面が設置されている。


 「The replacement mechanism is ready. The compass needle is still operating the tower, and we will not touch it today.(代替機構の準備は整った。今も塔を動かしているのはコンパスの針だ。今日はそれを動かさない)」


 支援女性はアレクサンダーの言葉を訳し、今日も双方の話をその場で通訳してくれる。

 《フロンティア・コンパス》の針は、今も大時計の長針の中にある。


 「それじゃあ、どうやって動くか確かめるんですか?」


 支援女性が俺の問いを伝えると、技術者は画面の2つの表示について説明した。


 「We compare its output with the instructions from the current needle, using an isolated test system. The tower's correction will stay as it is.(現行針の指示と代替側の出力を、切り離した試験用の系統で比べます。塔の実際の補正は今のままです)」


 片方には現在の針が出す経路指示、もう片方には代替側から出る指示が表示されるという。

 俺でも違いが分かるように、同じ形式で並べてある。

 前に入力先だと思って調べた保守用の分岐は、今回は本来の用途どおり、現行針の状態を読み取るために使われていた。


 「比べる方なら、あそこも使えたんですね」


 「Yes. Your appraisal helped us separate the monitoring route from the input route.(はい。鑑定のおかげで、監視用と入力用の経路を区別できました)」


 技術者は続けて、代替側から指示を渡す予定の経路を図面で示した。

 俺が前に見つけた入力側の経路だ。


 「では、お願いします」


 技術者が試験を始めた。

 現行針の指示に続いて、代替側の表示が出る。

 指示している経路は、どちらも同じだ。


 「合ってますよね、これ」


 「Yes. We'll check the other observation conditions as well.(はい。ほかに準備した観測条件でも確認します)」


 次の条件でも、代替側は現行針と同じ経路を示した。

 さらに条件を変えても、結果は一致する。

 技術者は用意した確認を最後まで進め、試験の記録にもずれがないと説明してくれた。


 《次元針》が読む今の流れと、塔の使われていなかった感知機能が捉える適切な流れをもとに、今の針と同じ経路指示が作られている。


 「The outputs match, but we cannot fully check how the instructions are produced inside or whether they are ready for the input route. Could you appraise that?(出力は一致しています。ただ、内部で正しい指示が作られ、入力側へ渡せる状態かまでは、私たちには読み切れません。そこを鑑定していただけますか?)」


 俺は代替機構へ向き直り、指示が作られるところから出ていく先までを、前に見つけた入力経路と合わせて【鑑定】した。


 ――――――――――――――――――――

 対象:時計塔・次元補正代替機構

 構成:《次元針》/時計塔の未使用感知機能

 作用:2つの感知結果から補正用の経路指示を生成

 指示出力:現行 《フロンティア・コンパス》の針と一致

 入力適合:次元補正機構の未使用入力経路へ指示の受け渡しが可能

 試験動作:正常

 本番切替:未実施

 ――――――――――――――――――――


 「……合ってます。今の針が出してる指示と、同じ働きになってます。こっちから補正機構へ渡す準備もできてます」


 支援女性が訳し終えると、技術者は俺へ尋ねた。


 「Then all the functions needed in the replacement mechanism are in place?(では、代替側として必要な仕組みが揃ったと言えますね?)」


 「はい。少なくとも今、確かめた範囲では」


 「With the assembly, adjustments, tests and your appraisal, we can confirm that the replacement mechanism is complete.(組み立てと調整、試験、それにあなたの鑑定が揃いました。代替機構の完成を確認できました)」


 技術者は機構を見て笑い、隣の担当者と言葉を交わした。

 何を話しているかは聞き取れなかったが、二人とも嬉しそうだ。


 「Thank you. We can now prepare for the actual replacement.(ありがとう。これで実際の交換へ向けた準備に進める)」


 アレクサンダーの言葉を聞いたシエルが、俺の方を向いた。


 「じゃあ、もう針を返してもらえるの?」


 「代わりはできたってことだよな。外すのは、これからだけど」


 俺たちの話を支援女性が伝えると、技術者が答えた。


 「The mechanism is complete, but today we ran only the test system. During the changeover, London's correction will weaken briefly, until the replacement is fully synchronized.(機構は完成しましたが、今日動かしたのは試験用の系統だけです。切り替えの際は、代替側が完全に同期するまで、短時間だけロンドンの次元補正が弱まります)」


 指示が同じでも、実際に塔を動かす役目を移す時には、今の状態をそのまま続けられないのか。


 「短い時間でも、ロンドンには影響が出るんじゃないですか?」


 「That is why we will wait for permission and have the necessary precautions in place. The decision is not mine alone.(だからこそ、許可も備えも整ってから交換する。私1人の判断で実施できることではない)」


 アレクサンダーは答えると、技術者とロダン家の担当へ指示を出した。


 「Submit the completion report, test results and proposed procedure to the Ministry. Prepare for approval, monitoring and emergency response, and coordinate the schedule with them.(完成報告と検証結果、交換手順を省へ提出してくれ。実施許可と、作業中の監視・有事対応に向けた準備を進め、日程も英国側と調整するんだ)」


 ロダン家の担当者が応じ、技術者と提出する検証結果について話し始める。


 「Mr. Makabe, will you help us check the condition during the replacement as well?(真壁君、交換の際にも、鑑定で状態を確かめるのを手伝ってもらえるか?)」


 「はい。俺が何を確かめればいいか、作業の前に教えてください」


 支援女性が伝えると、アレクサンダーは確認内容が決まり次第知らせると答え、技術者との相談に戻った。

 そこでシエルが、小声で言った。


 「これなら、返せるかもしれないのね」


 「うん。使える場所を見つけた時は、実物はまだできてなかったからな」


 交換の相談を続ける人たちに挨拶して、俺たちは保守区画を出た。


 肩の上でシオが、専用スマホを俺の方へ傾ける。


 『もうすこし?』


 「うん、あと少しだ」


 名取とシエルも一緒に時計塔を出ると、俺は大時計を見上げた。

 あの長針の中には、まだ元の針がある。

 交換の許可が下りれば、俺も【鑑定】で最後の確認をすることになる。



 ◇



 ロンドン市内のWBの臨時拠点に、時計塔を監視する担当から報告が届いた。

 ノアは右手でスマホを操作し、ここ数日の動きを読む。

 技術者の出入りと資材を運ぶ作業車が確認され、搬入時には警備の人間も付いていた。


 「作業の準備は進めてるみたいだな」


 人や資材が入ったからといって、針を外せるようになったかまでは分からなかった。

 アレクサンダー本人の出動記録を調べる追加照会も、まだ結果待ちだ。


 ノアは監視担当への返信を開いた。


 『技術者と作業車の動きは引き続き見てくれ。塔の警備や出入りする連中に変化があったら、すぐに報告しろ。誰がどこへ向かったかも、分かる範囲で押さえておけ』


 そこまで書いて、ノアは送信した。

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