針をつなぐ場所
専門家たちが改修案を調べていると聞いてから少し時間がたち、シエルの実家で過ごしていた俺へ、支援チームの女性が時計塔への正式な依頼を伝えてきた。
「接続できそうな場所が見つかったそうです。図面では使えそうなのですが、魔道具としての働きまでは確かめられないので、現場で鑑定をお願いしたいと。明日、前回と同じ保守区画へ入れるよう手配できたそうです」
「準備、進んだんですね。分かりました。もう一度見てみます」
今の針を外すのではなく、専門家が考えた接続先を確かめるための再訪だ。
「私も一緒に行くわ。伯父さんも現場に来るんでしょう?」
シエルが尋ねると、支援女性は当主と技術担当者が保守区画で待っていると答えた。
名取も同行することになった。
翌日、出かける支度を始めると、シオは専用スマホを抱えて俺の肩に収まった。
「今度も中で調べるから、少しかかるぞ」
シオは肩の上で殻を揺らす。
俺たちは予定の時間に時計塔へ向かい、アレクサンダーの許可を受けた管理担当の案内で、前回の保守区画まで上がった。
保守区画では、アレクサンダーと技術者が待っていた。
長針の現物は今日も壁の向こうだ。
「Thank you for coming again, Mr. Makabe. We have a proposal, but we need your help to check where it can be connected.(また来てくれてありがとう、真壁君。案は用意できたが、どこにつなげるかを確かめるため、君の力を借りたい)」
支援女性が互いの言葉をその場で通訳してくれるので、俺も技術者へ挨拶した。
シエルが伯父のそばへ行き、名取は俺の近くに残る。
技術者は図面を広げ、調べてほしい場所を示した。
「Based on your previous appraisal, we're considering a way to create correction instructions from what the needle and the tower detect. But we still need to find where the tower can receive them.(前の鑑定結果をもとに、次元針と塔が感知する情報から補正の指示を作る方法を考えています。ただ、その指示を塔のどこへ渡せるかが分からないんです)」
「The plans suggest this point might work, but we can't tell whether it can actually receive instructions. Could you check?(図面では、この場所が使えそうなんです。ただ、実際に指示を受け取れるかは分かりません。鑑定していただけますか?)」
「分かりました。見てみます」
示された場所へ【鑑定】を使うと、確かに今の針と塔の機構がつながっている。
ただ、詳しく調べてみると、少し違っていた。
ここは指示を送り込む場所じゃない。
今の針がどう働いているかを、外から確認するための場所だった。
――――――――――――――――――――
対象:時計塔・保守分岐
用途:稼働中の経路指示を保守・監視側へ取り出す
入力機能:補正機構への指示入力には使用しない
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「ここ、指示を入れる場所じゃないですね。今の針の状態を確認するための場所みたいです」
支援女性が訳すと、技術者は図面を見直した。
「So this is for monitoring, not for sending instructions to the tower?(つまり、ここは監視用で、塔へ指示を入れる場所ではないんですね?)」
「そういうことです」
技術者は図面に印を付けた。
どうやら、別の場所を探す必要がありそうだ。
「Then where can we feed the instructions in? If the only input is the one used by the current needle, we'll have to change much of our proposed connection.(では、どこなら指示を入れられるのでしょう。今の針が使っている場所しかないとなると、接続の案をかなり変えないといけません)」
そこまでは、まだ見ていない。
俺が答える前に、アレクサンダーが尋ねた。
「Does this mean we must abandon the proposal?(この案は諦めなければならないのか?)」
「二つの情報を使うというところまで駄目になったわけじゃないです。今、分かったのは、ここから指示を送れないということなので」
シエルが技術者へ英語で問いかけた。
「If we change the connection point, can we keep the rest of the design?(接続先を変えれば、今の構成を残せるの?)」
「If we can identify the route through which the correction mechanism receives instructions, we can revise our work around it. Our current proposal assumes this branch is the input.(補正機構が指示を受け取る経路が分かれば、そこに合わせて調べ直せます。今の案では、この分岐が受け口だと考えていたので)」
今の針は、今日も塔を動かしている。
なら、その指示がどこへ届いているのかを追えば、別の場所が見つかるかもしれない。
「今の針の指示を追ってみます。ほかにつなげられる場所がないか、調べてみますね」
俺はもう一度【鑑定】を使った。
今の針から送られている指示をたどっていくと、先ほどの保守用の分岐も見えてきた。
ただ、あそこは途中で分かれる枝道だ。
塔を動かす指示は、さらに先へ続いている。
そこを追っているうちに、別の経路が見つかった。
今は使われていないが、同じ補正機構につながっているようだ。
「……あれ、こっちにもあるのか?」
「何か見つかったんですか?」
名取が尋ねてきたので、俺は機構の下側を示した。
「使ってない場所があるみたいです。ちょっと調べてみます」
改めてその部分を【鑑定】する。
――――――――――――――――――――
対象:時計塔・未使用の接続経路
現在状態:未使用
接続先:次元補正機構の入力側へ続くと考えられる
適合確認:新たな経路指示の受け渡しは未確認
――――――――――――――――――――
「見つけました。こっちは指示を受け取る側につながっているみたいです。ただ、実際に使えるかどうかはまだ分かりません」
支援女性が俺の説明を訳すと、技術者は図面を確認し、先ほどとは違う場所に印を付けた。
「The plans couldn't tell us whether that unused route was an input or just for monitoring. Now we know where to look.(図面だけでは、その使われていない経路が入口なのか、監視用なのか分かりませんでした。これで次に調べる場所が決まりました)」
「それじゃあ、最初から全部やり直しにはならないんですね?」
「No. We can keep the basic design and revise the connection point. We still need to confirm whether it will actually work.(いいえ。基本の構成は残せます。接続先を変更して検討し直します。ただ、実際に使えるかどうかはこれから確かめる必要があります)」
それなら、ひとまず良かった。
俺には細かい設計のことまでは分からないけど、この人たちなら、ここから先を考えてくれるだろう。
アレクサンダーも説明を聞き、技術者へ話した。
「We now have a better place to investigate. Prepare the revised proposal, but do not move the compass needle.(次に調べる場所は見つかったな。案を修正して準備を進めてくれ。ただし、コンパスの針は動かすな)」
当主の指示を受けて、技術者は新しく見つかった接続先に合わせ、必要な部品と指示を渡すための調整を検討し直すと答えた。
塔の未使用感知機能と次元針の情報を、今の針と同じように補正へ使える指示にする課題も残っている。
実際の接続に進む前に、今の働きを損なわず試せる方法まで詰めて、当主へ改修案を戻すという。
「London depends on the needle that is working now. We will not put that at risk merely to test an idea.(今働いている針がロンドンを守っている。案を試すためだけに、それを危険にはさらせない)」
最初に調べた場所は使えなかったけど、代わりに別の場所が見つかった。
図面を囲んで話し始めた技術者たちを見る限り、どうやら無駄足にはならなかったようだ。
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