シオとロンドンお土産巡り
店先に並ぶ小さなブローチへ、シオが撮影用のスマホを近づけた。
その隣には革の小物や、ロンドンの街を描いた絵が並んでいる。
撮影できる店先を選んで回っているのに、シオは早くも足を止めてばかりだ。
「そういえば、シオ。お互いのプレゼントは最後まで秘密なんだよな?」
『さいごに みせる!』
「でも、生配信しながら選んでたら、何を買うか丸分かりじゃないか?」
シオは俺たちを映すスマホをこちらへ向け、専用スマホに文字を続けた。
『みせるのは ふつうの おかいもの!』
『ほんめいは ないしょ!』
「本命なんて言い方するのか。じゃあ、決めた物はカメラに映さないんだな」
『りょうにも みせない!』
俺のスマホにも同じ字幕が出て、その下へコメントが流れてくる。
『何を選んだか最後に当てるの楽しそう』
『真壁さん、ちゃんと隠せるか?』
『シオちゃんの方が先に見つけそうw』
「俺だって、それくらいできますよ」
そう答えて店先へ目を戻すと、赤い2階建てバスの絵が目に入った。
ロンドンの建物とバスを描いた布が、何枚も吊られている。
近くの商品札にはティータオルとあった。
食器を拭いたりする布巾らしい。
シオがいつも身につけている殻を見て、俺は外出後に拭く時のことを考えた。
せっかくロンドンに来たんだし、布もロンドン柄だったらいいんじゃないか?
店の人に断ってから、俺はバス柄の1枚を手に取った。
「シオ、これなんかどう?」
シオは布巾へカメラを向けたまま、動きを止めた。
「ロンドンのお土産だし、これなら殻を拭くのにも使えるだろ」
シオは布巾を見てから、俺を見上げた。
『まかべくん せんすない』
「いや、これ結構いいだろ?」
ずいぶんはっきり言ってくれる。
そのバス、さっき外を走っていたのと同じだぞ。
ちゃんとここで買ったお土産だって分かるじゃないか。
隣にいた名取が、俺の持つ布巾をのぞき込んだ。
「真壁さん! シオちゃんへのプレゼントに布巾ですか!?」
「毎日使えるし、便利じゃないですか。模様だってかわいいし」
「殻のお掃除用ですよね? せっかくシオちゃんのために選ぶのに!」
支援チームの女性まで、布巾の柄を確かめている。
「確かに実用的ですけど、シオちゃんへのプレゼントとしては……」
「そんなに駄目ですか?」
答えにくそうな彼女の隣で、シエルが笑った。
「真壁さん、それをもらってシオちゃんが喜ぶと思う?」
「だから、殻をきれいにできるし……」
言いかけたところへ、シオが専用スマホを出してくる。
『おそうじは りょうが して!』
「俺が使う物になっちゃったな」
シオのカメラには、布巾を持つ俺まで入っていた。
手元の配信画面を見ると、コメントもすっかりシオ側だ。
『シオちゃんに布巾www』
『お土産選びで掃除の仕事増やすなw』
『柄はかわいいけど用途がさぁ』
『今、真壁さん用になったぞ』
「いや、これはまだ候補だから。買うって決めたわけじゃないぞ」
『秘密にできるって言った直後に見せてるのも草』
……本人に聞いたら、秘密にはならないな。
ただ、これだけ言われるほど悪い品なのかは、まだ納得できない。
手に取った布巾へ、俺は【鑑定】を使った。
――――――――――――――――――――
対象:ロンドン柄のティータオル
分類:布製の生活用品
素材:綿
状態:未使用/破損なし
用途:食器や調理器具の拭き取り
品質:吸水性良好/縫製に不備なし
――――――――――――――――――――
ほら、ちゃんとした品じゃないか。
柄だけのお土産でもなく、布巾としても使いやすそうだ。
「ちょっと待ってくれ。これ、ちゃんといい品だぞ。綿で、水もよく吸うし、縫い方もしっかりしてる」
「なんでそんなこと分かるの?」
シエルに聞かれ、俺は布巾を持ち直した。
「【鑑定】したから」
「……え?」
「真壁さん、プレゼントを選ぶのに【鑑定】を使ったんですか!?」
「だって、どんな品か分かるだろ? ちゃんと使えるか確かめられるんだから、いいじゃないですか」
シエルは口元を押さえて笑っていた。
支援チームの女性も困ったように笑う。
「いつものお仕事なら、確かに安心できますけど。お土産選びでまで使われるとは思いませんでした」
『まかべくん おみやげまで かんてい?』
シオの字幕が、笑っているシエルの下へ出た。
「品質を確かめるくらい、いいだろ。変な物を買うよりは」
「その心配をする前に、シオちゃんが布巾を欲しがってたか思い出してみて」
シエルはまだ笑っている。
欲しがっていたかと言われると、そんな話をした覚えはない。
普段、殻を拭いているところから思いついたんだが。
『プレゼント選びに鑑定www』
『品質保証付き布巾』
『ダンジョンのアイテム見る時と一緒じゃねえかw』
『見る目はあるのに贈るセンスがないのか……』
『シエルさん助けてあげて』
「見る目はあるって、そこは認めてくれるんだな」
「今、褒められてると思いました?」
名取に聞かれて俺はスマホを下ろしたが、シオはもう別の品を撮っている。
「……分かった。これはやめておくよ」
布巾を元の場所へ戻すと、シエルが俺の隣に来る。
「もう。真壁さん、私が一緒に選んであげる」
「え、そこまで?」
「だって、このままだと次も布巾を選びそうなんだもの」
「次まで布巾にはしないよ」
とはいえ、ほかに何がいいかと言われても、すぐには思いつかない。
見ているだけでも品は多いし、使えそうかどうかなら選べるんだけどな。
「……じゃあ、ちょっと相談に乗ってくれる?」
「もちろん。真壁さんが選んで、私が感想を言えばいいでしょ」
シオは俺たちの会話を撮った後、隣に並ぶ小物へカメラを向けた。
名取は俺から離れず、シオにも声をかけている。
こちらが映っていない間に、俺はシエルと並んで売り物を眺めた。
バスの形をしたキーホルダーなら、掃除には使わない。
ニューヨークではシオが黄色いタクシーのを選んで、買い物袋を何度も見ていたっけ。
「たとえば、こういうのならどう?」
「さっきよりはいいんじゃない?」
「さっきよりって……」
「布巾と比べたら、かなりよくなったわよ」
「まだそこが基準なのか」
シエルが笑いながら、隣に並ぶ小物も見ていく。
俺もシオの方を見た。
どんな品を撮っているのか、まずはそこから気にしてみよう。
◇
マーケットを見て回った後、シエルの案内でピカデリー・サーカスへ向かった。
歩いている間も店が続き、シオはショーウインドーの前で何度か立ち止まる。
俺たちもその歩調に合わせ、名取やほかの護衛と一緒に進んだ。
通りが開けると、建物に沿って曲がった大きな広告画面が見えた。
映像が変わるたび、シオがカメラを上へ向ける。
『おおきい!』
『ピカデリー・サーカスだ!』
『買い物しながらここまで来たのか』
『シオちゃん、上撮るのうまいな』
「この先に、紅茶やお菓子を選べるお店があるわよ。日本へ持って帰る分も探してみましょ」
シエルの話を聞き、俺は店の並ぶ通りへ目を向けた。
「紅茶か。向こうで使いやすいのがいいかな」
「真壁さん、また便利そうな物を探してない?」
「今度はちゃんと考えてるって。茶葉だけ渡しても、道具がないと飲めない人もいるだろ」
「あ、それはいいと思う」
シエルがうなずいたので、少し安心した。
俺たちを映すシオのスマホをのぞくと、字幕とコメントが増えている。
『りょう そうだんちゅう』
『買い物が指導つきになってるw』
『シエルさんがついてれば安心だな』
『今度こそいいの選べるか?』
「相談だから。指導って言うな」
シオは俺を撮ったまま、殻を小さく揺らしていた。
◇
《フォートナム&メイソン》は、通りに面した建物の正面に時計がついている店だった。
シエルが店名を教えると、シオも入口へスマホを向ける。
店内へ入る前に、支援チームの女性が相馬へ連絡した。
ここからは買い物の間、映像も音声も休止する。
『おみせの なかでは ひとやすみ!』
『かったら そとで みせるね!』
俺のスマホが待機画面へ切り替わり、相馬側からの返事も確認できてから、シオは撮影用の2台をしまった。
専用スマホを持ったまま、俺たちと店へ入る。
売り場には紅茶や菓子の箱が並び、ビスケットは缶入りのものもあった。
似た大きさでも中身は違うようで、俺はシエルに表示を教えてもらいながら選んでいく。
茶葉の缶も気になるが、相馬たちの分ならティーバッグの方が飲みやすいか。
菓子もあれば、紅茶を飲まない人にも渡せる。
「相馬さんたちには、この紅茶とビスケットでいいかな? みんなで分けられるし」
「うん。これなら休憩の時に楽しめそうね。缶もロンドンのお土産って感じがするし」
「よかった。今度は大丈夫そうだな」
選んだ箱を持つ俺に、名取が笑いながら聞いた。
「真壁さん、今度は【鑑定】してませんよね?」
「してないよ。普通に選んでるだろ」
「はい。それ、私もいいと思います」
布巾の時と違って、支援チームの女性も賛成してくれた。
「日本で待っている方にも渡しやすいですね」
その横でシオは、ビスケット缶に描かれた模様を眺めていた。
俺が別の缶を見せると、今度はそちらにも近づく。
同じビスケットでも、シオが気にするのはそこらしい。
俺も一緒に缶の絵を眺めたが、シオへの贈り物はもう少し探したい。
一般のお土産を買って店の外へ戻ると、シオが撮影用のスマホをまた2台出した。
俺が持つ紅茶の箱とビスケット缶へカメラが向き、配信も再開する。
『ただいま! にほんへの おみやげ!』
「相馬さんたちの分です。お互いへのプレゼントは、まだ選んでるところなので」
『ちゃんとお土産になってる!』
『お茶とお菓子なら職場で分けられるな』
『相馬さん、これ見たら待ちきれなさそうw』
「帰るまで待っててくださいね」
カメラへそう言ってから品を袋へ戻すと、シオが専用スマホを俺へ向けた。
地図と一緒に、おもちゃの並ぶ店の写真が出ている。
『つぎ ここ!』
「……おもちゃ屋?」
「ハムリーズね。リージェント・ストリートにあるのよ。ここから歩いて行けるわ」
シエルが画面をのぞいて教えてくれた。
シオはもう次の文字を打っている。
『いきたい!』
「シオ、自分の欲しいものを探してない?」
『りょうの おみやげ!』
シオはその文字を俺に見せたまま、触手で店の写真を指した。
「……本当か? まあいいか。じゃあ、ハムリーズに行こう」
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