代わりになるもの
「分かりました」
俺の返事を、支援チームの女性がアレクサンダーへ伝える。
当主はそれを聞くと、今回の調査はここまでにしようと告げた。
訳を聞いて保守区画の入口へ向かうと、名取も俺のそばを離れずについてくる。
シエルとシオ、通訳の女性と一緒に、上ってきた階段を下りた。
塔の外へ出ると、シオが専用スマホをこちらへ向けた。
『おわり?』
表示を読んで、俺は答える。
「今日はここまで。帰ろうか」
針が何をしているかは分かった。
ここでもう少し粘ったところで、まだ存在すら知らない代わりの品までは調べられない。
アレクサンダーとはそこで別れ、俺たちは名取と支援チームの護衛のもと、車へ向かった。
シエルも隣を歩いている。
「家に戻るのでいい?」
「うん。そうしよう」
俺の肩へ戻ったシオは、スマホをしまった。
揃って車に乗り込み、シエルの実家へ向けて塔を離れる。
◇
時計塔での調査が終わった後、真壁修司と紗江はアレクサンダーから連絡を受け、当主の招きに応じて《ロダン・ホール》を訪れた。
塔の鑑定で分かったことについて相談したいという用件だった。
書斎でアレクサンダーと向き合った修司は、まず息子の仕事について尋ねる。
「遼の鑑定は、どうだった?」
「塔全体を一つの魔道具として調べて、針が何をしているのかまで読み取った。針は次元の流れに正しい道を示し、塔がその道に沿って流れを整えているそうだ」
「そこまで読めたのか」
先日のカフェでは、古い魔道具の部品や作動条件まで読めると聞いた。
塔でも何か分かるのではないかとは思っていたが、あの建物を丸ごと読むところまでは想像していなかった。
「それで、針を外す話は?」
「今のまま抜けば危険だと、本人がはっきり言った。外してから対処を考えても間に合わんそうだ」
修司はすぐに次を尋ねず、当主の話を聞いた。
「自分が欲しがっている針だ。それでも、こちらが取り外しを断ることになる結果まで隠さなかった。その上で、別の物に働きを引き継がせられないか調べていた」
「……そうか。そこも、ちゃんと話したんだね」
あの席では、元気で仕事をしていると分かっただけでも嬉しかった。
今は、遼がどんな顔で当主へ説明していたのか、少し見てみたい。
修司が黙っていると、隣から紗江が尋ねた。
「代わりの品があれば、外せる可能性はあるのね?」
「ああ。ただし、先に用意しなければならん。遼にもまだ心当たりはないそうだ」
アレクサンダーが続けた。
「お前たちの知る品に、使えそうな物はないか」
修司は、いま聞いた針の働きを手掛かりに、次元の流れに関わる魔道具を思い起こそうとした。
修司が考えていると、紗江が先に口を開いた。
「……次元針はどうかしら」
その名を聞いて、修司もすぐにどの品か分かった。
以前の調査で発掘された魔道具だ。
イージスが行った一次鑑定で『次元の流れを正確に示す』という効果が出たため、ひとまず《次元針》と呼ぶことになった。
「あれか。流れを読むだけの品だったね」
流れを変えたり、乱れを鎮めたりする力はない。
次元の流れも時間の流れも絶えず変わる場所での探索なら、役に立つ場面もあると考えられていた。
ただ、同じ目的で使える感知の術式は既にある。
そのため、イージスではさほど重要な発見とは受け止められていなかった。
「ええ。でも、流れを整えるのは塔の方なのでしょう? 次元針で読み取った情報を、塔に使わせられないかしら」
「……人が流れを知るためではなく、塔に伝えるために使うのか」
修司はこれまで、次元針を探索に持ち込むことしか考えていなかった。
塔が針から受け取っている情報を、あの品でどこまで補えるだろうか。
「その次元針で、今の針の代わりになるのか?」
アレクサンダーに尋ねられ、修司は答えた。
「まだ分からない。次元の流れを読むことと、流れを正しい経路へ導くことは違うからね。ただ、読み取った情報を塔の補正に使えるなら、代わりにできるかもしれない」
ただ、その情報を塔へどう渡すかは、修司にも分からなかった。
「今の針を外して試すわけにはいかんぞ」
「もちろん。そこまで危ない橋を渡るつもりはないよ」
紗江が続けた。
「そのままでは使えなくても、塔に合うように手を加える方法があるかもしれないわ」
修司は、先日の食事の席で遼に聞いた修復の話を思い出した。
最初に拾った短剣は、刃を替えて、どこを研磨すればよいかまで分かったという。
古い魔道具でも、必要な部品や作動条件が出ることがある。
この品についても修復の時のような情報が出れば、塔に合うよう手を加えるための手掛かりになるかもしれない。
修司はアレクサンダーへ尋ねた。
「その品も、遼に調べてもらえるかな」
「本人も、候補があれば、この塔で使えるか調べると言っていた」
遼は、今日の調査の時点でそこまで引き受けていたのか。
「その品を手配できるか」
アレクサンダーに問われ、修司は答えた。
「こちらから話を通すよ。遼への依頼は、そちらからお願いできるかな」
遼には、まだ自分たちがイージスに関わっていることを明かしていない。
修司から次元針の話を切り出せば、どうしてその品を知っているのかと聞かれるだろう。
今は、そこまで話すつもりはなかった。
「分かった。こちらで鑑定の場を用意しよう。手配の見通しが立ったら知らせてくれ」
その返事を聞き、修司は発掘品の管理先へ連絡を取るために携帯を取り出した。
どこまで分かるだろうかと考えると、調べてもらうのが少し楽しみになった。
修司は紗江へ向き直った。
「まずは、遼に見てもらおう」
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