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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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薄い壁の向こう

 本日カクヨムのほうでサポーター専用SS 【伝説の探索者エリアス外伝②】魔力ゼロの探索者 が公開されています!

 ※カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)

 その頃、ロンドン市内にあるWBの臨時拠点で、若い男は左肩の包帯を巻き直してもらっていた。

 教会から逃げたあとに移ってきた、短期利用のための部屋だ。

 古いソファと小さなテーブルがあり、治療道具が広げられていた。

 爆発で負った脚の傷は消えたままだった。

 だが、刀で斬られた左肩の傷だけは残っている。

 包帯を巻き直すあいだ、男は右手でスマホを取り、通信をつないだ。


 『Perthro。教会はもう使えませんね』


 スマホの向こうから、男の声が聞こえてきた。


 「ここじゃノアでいいよ、Hagalaz。教会は自分で吹き飛ばしたからな。地下の道がなかったら、まだあの女とやってたよ」


 『では、ノア。相手は、どうやって教会を見つけたのですか』


 ノアは、肩を動かさず答えた。


 「知らない。寝てたら呼び起こされた。建物ごと隠してたのに、門の前まで来てたんだよ。名前も所属も言わずに、俺を狩りに来たってさ」


 『その傷も、彼女が?』


 「そう。刀で肩を斬られた。爆発でやられた脚は【天術】で消せたんだけど、こっちは消えなかった」


 通信の向こうから、すぐには返事が来なかった。


 『あなたの【天術】でも、変えられなかったのですか』


 「そういうこと。顔は隠してたから、どこの誰かまでは分からない。女だったのは間違いないけどな」


 『心当たりは?』


 「ない。まあ、あんな場所まで追ってくるなら、イージスの連中だろ。そっちでも調べといてよ」


 『分かりました。こちらでも確認します』


 包帯を留めてもらい、ノアは左腕を袖へ通した。


 「あいつ、かなり強いぞ。もう一度やるなら、次も斬られるつもりで考えないと駄目だな」


 『相手を調べずに、また会いに行くのはやめなさい。針は、まだ手に入っていないのでしょう』


 「そっちもまだ。ロダン家の周りは警戒が上がってる。あの女がどこにいるかも分からないし、今、時計塔へ突っ込んでも面倒が増えるだけだ」


 ノアは通した袖の上から、包帯の収まりを確かめた。

 腕を下ろす分にはいいが、上げると肩が引きつる。


 『なら、無理に行く必要はありません。真壁遼は、まだロンドンにいるのでしょう?』


 「いる。コンパスの件で動いてる。あいつも針を見たいんだろうな」


 『彼が時計塔を調べるなら、先に調べてもらいましょう』


 「こっちは隠れて、待ってろって?」


 針を確保しろと言われるつもりで連絡したのに、Hagalazは急がせようとしない。


 『こちらが時間をかけても見つけられなかったものを、彼は何度も見つけています。なら、先に彼が何を見るのか確かめた方がいいでしょう』


 「じゃあ、あいつに先に調べさせてから、針をどう取るか決めるってことか?」


 『ええ。ですから、今は次の手を決めません。あなたは傷を治しなさい。真壁遼とロダン家の動きは、引き続き見ておいてください』


 肩の痛みは、座っていても抜けなかった。

 ノアは傷を押さえないようソファへ背を預け、スマホをテーブルに置いた。


 「分かった。時計塔には行かない。あいつが調べた後で、こっちも動くか決める」


 『我々が先に答えを出す必要はありません。真壁遼が、そこにいるのですから』



 ◇



 時計塔へ入れると連絡が来たのは、その翌日だった。

 シエルたちと車で向かうと、塔の入口ではアレクサンダーが英国側の管理担当と話している。

 俺の肩にはシオ、隣には名取と支援チームの女性がいた。

 今日は彼女が通訳をしてくれる。


 「You remember our agreement, Mr. Makabe.(約束は覚えているな、真壁君)」


 「触らないし、止めろと言われたら止めます」


 俺の返事が訳されると、当主は管理担当へ声をかけ、先に中へ入った。

 シエルもその後に続く。

 前に来た時は、人の流れを避けて外から見上げていた場所だ。

 入口を通っただけなのに、あの長針が急に近くなった気がする。


 中の階段を上がるにつれ、外の車や人の声は聞こえなくなっていく。

 代わりに、機械の動く音が壁の向こうから近づいてきた。

 途中の階では、歯車や太い軸を組み合わせた機械が並んでいる。

 近くで見ると一つ一つが思っていたより大きく、歯車の歯が噛み合い、軸の回転がその先へ伝わっていた。


 シオは俺の肩から機械を覗き込み、専用スマホに文字を出す。


 『なかも おおきい!』


 「小さかったら、あの時計は動かせないでしょ」


 シエルが画面を読んで答えると、シオは機械のほうへスマホを向けた。

 腕時計なら蓋を開ければ済むのに、ここでは俺たちのほうが時計の中へ入っている。


 ただ、管理担当はそこで止まらず、その先の階段へ進んだ。

 俺たちも続いて、さらに上へ上がっていく。


 途中で見えていた大きな歯車の代わりに、上へ続く軸や細い機構が増えていった。

 さらに階段を上がったところで、管理担当がようやく足を止めた。

 支援女性によると、今回立ち入れるのはここが一番上の保守区画らしい。


 「ここから長針を見られる?」


 俺が聞くと、支援女性が管理担当へ訳してくれた。

 長針そのものは壁の向こうで直接は見えないが、それを動かす機構はこの先につながっているという。

 アレクサンダーが俺を見た。


 「This is as far as we can take you. You may begin when you're ready.(案内できるのはここまでだ。準備ができたら始めてくれ)」


 「分かりました。じゃあ、ここから見てみます」


 ニューヨークで所在を追った、長針内部の小さな針へ【鑑定】を向ける。


 すぐに、押し返された。

 針を読もうとした先で意識が止まり、いつもの表示が出てこない。


 やっぱり、これだ。

 外から見た時と同じ抵抗だった。

 ただ、前よりも押し返されるところがはっきりしている。

 奥まで何もかも霞んでいるのではなく、読む先を薄い壁が塞いでいた。


 「どう、真壁さん?」


 「まだ出ない。外と同じところで止まる」


 シエルに答えて、いったん針から意識を離す。

 このまま同じ所を見続けても、先には進めそうにない。

 ここまで上がってくる途中で見た歯車や軸を思い出す。

 どこまでが長針を動かす仕組みで、コンパスの針がその中で何をしているかは、見た目ではさっぱりだ。


 ニューヨークの核も、最初はそれだけを見ていた。

 格納台や帰り道までまとめて見た時に、ようやく外す手順が出たのだ。

 今回も、欲しい針ばかり気にしていたら、その周りを見落とすかもしれない。


 「針だけじゃなくて、塔ごと見てみます」


 支援女性が訳すと、アレクサンダーが答えた。


 「Yes. That is what I asked you to do.(ああ。それを君に頼んだ)」


 「Uncle, let him concentrate for a while.(伯父さん、少し集中させてあげて)」


 シエルが伯父へ話し、俺たちのそばから少し離れる。

 名取は俺の近くに残った。


 外にいる時は、文字盤と長針ばかりが目に入っていた。

 でも、その針を動かしている物がここにある。

 目の前の歯車は軸につながり、ほかの機械と組み合わされて、外の大きな時計を動かしている。

 長針の中に隠された針だって、目では見えない。

 今いる部屋の機械だけを見ても、外にある長針が抜け落ちてしまう。

 外の長針も、ここから続く機構も、その間に何があるのかも含めて、この時計塔を見たい。


 今度は、長針の中の一点へ意識を絞らず、俺たちが入ってきた塔そのものへ【鑑定】を通す。

 機械のある部屋だけで切らず、階段を上ってきた下の部分も、頭上に続く部分も同じ塔として捉えた。

 その中にコンパスの針があるのなら、それが周りとどうつながっているかまで、まとめて読めばいい。


 また、あの抵抗に当たった。

 針へ向けた時よりも広く捉えているのに、押し返される感覚は同じだ。

 鑑定を先へ通そうとすると止まる、その手前までは意識が届いている。

 近くの歯車へ戻しても、塔全体を捉え直しても、押し返されるところは変わらない。

 ただ、どこから先へ進めないのかは、さっきよりはっきり分かる。


 これなら、もう少し先までいけそうだ。


 「真壁さん、大丈夫ですか?」


 「まだ大丈夫。もう少し見てみる」


 「はい。何かあったら、すぐに言ってくださいね」


 俺は時計塔へ意識を戻す。

 押し返された拍子に、また針だけを追いかけそうになる。

 そこだけに気を取られず、時計を動かしている機械と、それを収めた塔まで含めて捉え直した。


 薄い境目に、もう一度鑑定を向ける。

 手前で止まりかけた意識を、向こうにある塔へ、もう一段深く通した。

 一瞬だけ、押し戻される感覚が強くなる。

 それでも対象を針だけへ戻さず、時計塔を捉えたまま、その先を読もうとした。


 抵抗がなくなった。


 一瞬、何も見えなくなる。

 どこかへ動いたわけでも、手を伸ばしたわけでもないのに、さっきまで届かなかった先へ【鑑定】が抜けていた。


 「……通った」


 視界の中に、いつもの【鑑定】結果が浮かび上がった。

読んでいただきありがとうございます。

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