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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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両親とお茶会

 桐野の実家の居間にいると、父から電話がかかってきた。

 シオは隣で、両親への写真立てに入れる一枚を選んでいる。

 ニューヨークで買ってから何日も経つのに、まだ決まっていない。


 『遼、今もロンドンにいるのか?』


 「いるよ。友達の実家に泊めてもらってる」


 『そうか。今日、飯を食う時間は取れるか。母さんも一緒だ』


 「いいよ。父さんたちは、もうこっちにいるの?」


 『ああ。お前は今日、どこか行くのか?』


 「まだ決めてないけど、ビッグベンの方に行くかも」


 『なら、その近くにしよう。昼に会える店を探しておく』


 父はシオも連れてくるように言い、店の場所を送ってきた。

 ビッグベンからそれほど離れていないカフェだ。

 通話が終わると、シオが専用スマホを俺へ向ける。


 『きょう あう?』


 「昼に会う。写真、決まったか?」


 『いっぱい みせる!』


 決まっていないらしい。

 名取と支援チームの女性にも予定を伝え、俺たちは護衛と一緒に車で出かけた。



 ◇



 カフェでは、両親が先に席を取って待っていた。

 数年ぶりに会う母は、俺を見つけると席から手を振る。

 父の前まで行くと、顔を見たまま声をかけられた。


 「……本当に遼だな」


 「電話でも話しただろ」


 「電話じゃ顔色までは分からないでしょう。ちゃんと食べているの? 怪我は?」


 「食べてるし、怪我もしてない。ロンドンに来てからは、観光もしてたよ」


 母は俺の顔から肩のシオへ、ようやく話を移した。


 「シオちゃんも、よく来たわね」


 『こんにちは!』


 シオがスマホの文字を見せると、母は身をかがめて同じ高さで挨拶を返す。

 名取たちも両親に挨拶し、家族の席から少し離れた卓へ移った。

 ほかの護衛も店内と外に分かれている。


 「ずいぶん、たくさんの人と出かけるようになったな」


 「俺もそう思う」


 父は笑って、俺の分の椅子を引いた。


 「まあ、元気ならいい。座れ」


 昼食を頼むと、シオは俺の肩から隣の椅子へ降り、バッグから専用スマホと小さな包みを出す。

 包みの中は、ニューヨークの街並みが縁に描かれた写真立てだった。

 結局一枚に決められなかったので、中はまだ空のままだ。


 『おみやげ!』


 「あら、ありがとう。私たちに?」


 『しゃしんも みせる!』


 シオは母へ写真立てを渡すと、すぐスマホでタイムズスクエアの写真を開いた。

 次はブルックリン橋、その次はメリーゴーランドだ。

 母が「ここ、きれいね」と言うたびに、シオは同じ場所の別の写真まで出してくる。


 「遼、こんなに遊んできたの?」


 「仕事のない日にね。シオの方が、行きたい場所をよく知ってる」


 『しおの あんない!』


 「そうだな。俺は案内されてた」


 父にも画面が向けられる。

 橋の写真を何枚か見た父が「まだあるのか」と聞くと、今度は橋を渡った先の景色が出てきた。


 「それ、全部見せるつもりだったのか?」


 『いえす!』


 ロンドンで会うと決まった時から、シオはこのつもりだったのだろう。

 俺たちの食事が運ばれてきても、写真はまだニューヨークの途中だった。

 母が何枚目か分からない写真を見終えたところで、写真立てを持ち上げた。


 「この中に入れる写真を選んでいたのね」


 「そう。ロンドンまでには決めるつもりだったんだけど」


 シオがスマホいっぱいに写真を並べる。


 『ぜんぶ いい!』


 「それで決まらなかったのか」


 父が笑った。

 母は少し考えてから言った。


 「それなら、今日みんなで撮りましょう。パパと遼と、シオちゃんと私で」


 『きょうの!』


 シオは旅行写真を閉じ、今度はカメラを開く。


 「食べてからな」


 『みんなで とる!』


 これで、写真立てに入れる一枚もようやく決まった。

 父が、さっきの写真の話に戻った。


 「ニューヨークも、鑑定の仕事で行ったんだな。お前の【鑑定】は、中古品の真贋とか、備品の状態を見るくらいだったろ。学会の記事も読んだが、いつからそんな仕事をするようになったんだ?」


 「会社をクビになった日の夜かな。ゴミ拾いのバイトで、ダンジョンに入ったんだよ」


 「その日のうちに、もう働いていたの?」


 母が聞いてきたので、俺は食べていたものを飲み込んでから答える。


 「家賃は待ってくれないからね。捨ててあった短剣を鑑定したら、刃を替えて、どこを研磨すればいいかまで出たんだ。直せば価値も上がるって。前は壊れてることくらいしか分からなかったのに」


 「何か、特別なことをしたのか?」


 「俺にも分からない。普通に拾って、いつもと同じように鑑定しただけだよ」


 あの日は理由より、来月の生活費の方が気になっていた。

 そのまま使っているうちに、表示される情報も増えている。


 「今も、夜中にばかり働いているの?」


 「今はそうでもない。こっちでは普通に寝てるよ」


 「ならいいけれど。眠れないほど仕事を入れないようにね」


 父は俺の仕事の続きを聞いてきた。


 「今も、壊れた物を見つけて直してるのか?」


 「そういうのもあるけど、最近は古い魔道具を見ることが多いかな。動かなくなってても、必要な部品とか、動かす条件まで出ることがある」


 「……そこまで分かるのか」


 「父さんたちも、そういうの作ってるの?」


 「作るだけじゃない。古い物を直す仕事もある」


 父の仕事の話も、昔からこのくらいしか聞いていない。


 「それで、ロンドンには何をしに来たんだ? こっちでも鑑定か」


 「元は旅行の予定だったんだけどね。ニューヨークで古い魔道具を調べたら、ロンドンにある物まで情報が出たんだよ」


 「ニューヨークから、こっちにある物の場所まで分かったのか?」


 「うん。仕事の話だから詳しくは言えないけど、場所までは出た」


 「じゃあ、それを調べに来たのか」


 母が少し首を傾げた。


 「読めなかったの?」


 「それとも違うんだよ。何かに押し返される感じで、表示が出るところまでいかなかった」


 「それ以上は試したのか?」


 「やろうとはしたけど、護衛に止められた。何があるか分からないからやめろって」


 父は少し黙ってから聞いた。


 「止められなかったら、そのまま最後まで見られたと思うか?」


 「たぶん」


 「……たぶん?」


 「前にも似たようなことはあったんだよ。でも、あっちとは全然違った」


 どう説明すればいいのか少し迷った。


 「前のは、奥までずっと霞んでる感じだったんだ。でも今回は……薄い壁が一枚ある、みたいな?」


 「薄い?」


 「うん。押し返されたけど、そんなに厚くない感じがした。もう少し深く見ようと思えば、たぶん普通に抜けられたと思う」


 父の返事が止まった。

 母も、さっきまでとは違って何も言わない。


 「……そんなに変な話?」


 「いや」


 父はすぐに首を振った。


 「分からないものに無理するな、って話だ」


 「父さんまで同じこと言うのか。もうやめたよ。今は、もう少し近くで調べられるか返事待ち」


 「……お前の【鑑定】、そんなことまでできるようになったのか」


 「見えるものは増えたよ。俺も、こんなにあちこち行くとは思ってなかったけど」


 食事の後、支援チームの女性に頼んで、両親と俺、それからシオの写真を撮ってもらった。

 送ってもらった写真を開くと、シオは母の肩から父にも画面を見せる。


 『これがいい!』


 母も同じ写真を見て笑った。


 「じゃあ、帰ったら印刷して写真立てに入れましょうね」


 『いれる!』


 『また ごはん!』


 「ええ。また一緒に食べましょう。遼も、今度は日本でちゃんと会いなさいよ」


 「母さんたちが日本にいればね」


 父も席を立ち、写真立ての包みを持った。


 「連絡先を変えたら、今度は知らせろ」


 「父さんたちもな」


 シオが俺の肩へ戻り、両親へ触手を振る。

 俺は名取たちと店を出た。



 ◇



 真壁修司と紗江は、息子たちが乗った車を見送ってから、カフェの席へ戻った。

 紗江は写真立ての包みをバッグへしまう。


 「元気だったな」


 「ええ。電話で話した時と同じだったわ。シオちゃんの写真は、あんなにあると思わなかったけれど」


 「俺は、遼の【鑑定】があそこまで変わっていた方に驚いた」


 「……パパ」


 「ああ」


 「遼、あれを『薄い』って言ったわね」


 「聞き間違いじゃなければな」


 「百年間守られてきたものを?」


 「本人は、そこまでの物だと知らない」


 「しかも、必要な部品や、動かす条件まで見えると言っていた」


 「止められなければ、あの守りも抜けられたとも言ってたな」


 「だったら、私たちが考えていた前提から変えた方がいいんじゃない?」


 「針を外せるかどうか、だけじゃなく?」


 「遼なら、別の方法そのものを読めるかもしれない」


 「代わりになる物があるかどうかまで?」


 「ええ。外さずに済むのか、それとも代わりを用意できるのか。それは、あの子に見てもらわないと分からないけど」


 「……そうだな」


 昨夜逃した相手は、まだ捕まっていない。


 「アレクサンダーに話してみるか。遼の【鑑定】で、別の答えを探してもらおう」

読んでいただきありがとうございます。

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