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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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シオちゃんねる in ロンドン(前編)

 配信開始の字幕が流れた直後、俺のスマホにも通知が届いた。

 シオちゃんねるからの生配信だ。

 目の前で始まった配信を自分のスマホでも開き、音を消して画面を見た。

 ビッグベンを背にした俺とシオの下で、さっきの文字がそのまま動いている。


 『きんきゅうなまはいしん しおの ろんどん ぶらりたび』


 その下を、コメントが追い越していった。


 『え、シオちゃんねるの生配信!?』

 『回収屋の枠かと思って通知開いたんだが』

 『ここシオちゃん本人のチャンネルだぞ』

 『動画は見てたけど生は初めてだよな?』

 『しかもロンドンからってどういうこと??』

 『シオ神の初降臨に立ち会ってしまった……』

 『降臨ってww』

 『もう信者の席埋まってる?』

 『席じゃなくてコメント欄です』


 まだ景色を見せただけでこの騒ぎだ。

 シオは俺のスマホをのぞくより先に、自分の専用スマホへ文字を打っていた。

 触手の先が画面を動き、そこに出たメッセージと同じ文字が、俺の見ている配信画面の下へ載る。


 『しおちゃんねるの はじめての なまです!』


 「おお。本当にそのまま出るんだ」


 「前にテストしていたのは、これです。シオちゃんがいつものスマホで打ったメッセージを、配信の字幕に載せています」


 横にいる支援チームの女性の声を確かめようと、音を少し上げてみる。

 少し遅れて配信からも聞こえたので、すぐ音を消した。

 俺たちを映すスマホが、近くの声も拾っている。

 字幕はシオの言葉、ほかの人間は普通にしゃべる。やっと仕組みが分かった。


 「先に教えてくれればよかったのに」


 『おしえたら びっくりしない』


 俺のスマホにも、すぐ同じ字幕が出た。

 隣でシエルが笑う声まで配信に乗っている。


 『返事はやっ』

 『今シオちゃんが打った文字が字幕になったの?』

 『シオちゃんと生で会話できる時代が来た』

 『まだ真壁さんと話してるだけだぞ』

 『その会話を我々が見られるんだぞ、落ち着けるか』


 シオは満足そうに殻を揺らし、俺たちを映していたスマホの向きを変えた。

 先に映ったのは、俺の隣のシエルだ。


 「私から? じゃあ、ここを見たら広場を回りましょ。ウェストミンスター寺院もすぐ近くよ」


 シオは名取へカメラを向ける。


 「シオちゃんの初ライブを、こんな近くで見られるとは思いませんでした!」


 「仕事中だからな?」


 「護衛もしています。真壁さんのすぐ隣にいるでしょう」


 名取がシオのカメラを見て笑う。その肩越しに、支援チームの女性も映った。

 彼女は画角の外へ出ようとしたが、シオがスマホを追わせる。


 「私も映るんですか?」


 『いつも いっしょ!』


 「……そうですね。いつも一緒です」


 女性は少し照れた顔で、シオに手を振り返した。

 俺の仕事の時には連絡や確認に追われている姿ばかり見ていたから、こんなふうに笑うところが配信に映るのは新鮮だった。


 『あれ、今の人……名取芽衣?』

 『八咫烏の名取さんじゃないか』

 『えっ、あのS級の?』

 『探索者界隈じゃ有名だけど、動画で見るの初めてだぞ』

 『護衛って、真壁さんの?』

 『S級探索者が専属でついてるの??』

 『いや真壁さんなら、それくらい必要だろ』

 『今や国内有数のVIPだもんな』


 「名取さん、動画に出るのは初めてでしたよね」


 「ちゃんと映るのは初めてです。シオちゃんの初ライブで、私まで初出演ですよ」


 『名取さん、笑うとかわいいな』

 『八咫烏のS級がシオちゃんの前だとあのテンションなのかw』

 『真壁さん、あんな美女を侍らせてけしからん』

 『侍らせてない、護衛されてるんだよw』

 『隣の支援チームの女性もめちゃくちゃ綺麗なんだが』

 『シエルも一緒で、なんか家族旅行みたいだ』

 『普段の真壁さんの配信じゃ見られない顔ぶれだな』

 『でも今日はシオちゃんの初ライブだからな』


 シオのカメラが広場のほうを向く。

 車の行き交う道の向こうに、緑のあるパーラメント・スクエアが広がっていた。

 建物に囲まれた中で、人は足を止めて時計塔を撮り、別の人は像の前で記念写真を撮っている。

 シオはまず塔を映すほうの画面を使い、次に広場の人の流れから離れたところへ、俺たちを映す画面を戻した。


 シオは俺の肩から降り、二台の撮影用スマホを持って歩き出した。

 広場を映す画面の端に、先を歩く黒っぽい服の護衛が入る。俺たちを映す画面にも、後ろにつく護衛の姿がちらりと映った。

 俺のスマホを覗くと、コメント欄には二人に気づいた声が流れ始めていた。


 『え、後ろにも人いる?』

 『護衛っぽいな』

 『名取さんが横について、周りにもいるのか』

 『普段の外出、こういう感じなのか』

 『家族旅行だと思ったら周囲の圧がやばいwww』

 『シオちゃん親衛隊?』

 『真壁さんのほうがついでかもしれんぞまじで』


 「俺がついでになってるぞ」


 「今日はシオちゃんの配信ですから」


 名取の返答は速かった。

 支援チームの女性まで笑っている。

 そうかもしれないが、俺のチャンネルで言われるよりかなり効いていた。


 『りょうも いっしょに かんこうする!』


 字幕が下から出た。

 シオは俺を画角に入れたまま待っている。


 「分かった。今日は案内される側で行くよ」


 「シオちゃん、次はあっちよ」


 シエルが示したのは、広場の先に見えるウェストミンスター寺院だった。

 シオはすぐにそちらへスマホを向ける。

 俺の返事を受けて次の場所を決めるまで、迷いがなかった。



 ◇



 寺院の前へ来ると、シオは入口を一度映し、それから上へカメラを動かした。

 石の壁に細かな飾りが続き、二つの塔が並んでいる。

 俺が建物全体を見ようと少し下がる間、シオは入口の上に並ぶ像を撮っていた。

 撮るところが俺と違う。

 目立つ塔だけでなく、近づいて初めて分かるものを選んでいる。


 『ここは どんなところ?』


 シオの字幕に、シエルがカメラの横から答えた。


 「ウェストミンスター寺院。王室の式典でも使われる、とても古い場所よ。今日は外から見ていきましょう」


 「中にも入れるの?」


 「見学できる日もあるけど、今はシオちゃんのぶらり旅でしょ。ここからでも十分きれいよ」


 シエルが話す間、シオは石の壁を映していた画面から彼女のほうへ切り替える。

 俺より先にシエルの答えを聞きたいらしい。

 画面に映ったシエルがそれに気づき、少し身をかがめてシオへ話しかける。


 「シオちゃんは、どこが気になったの?」


 『いりぐちの うえに いっぱい いる!』


 「ああ、あの像ね。よく見つけたわね」


 シオはカメラを像へ戻し、少しだけ角度を直した。

 視聴者も同じものを探し始める。


 『あ、本当だ。上に像が並んでる』

 『シオちゃんが寄せてくれなかったら見落としてた』

 『ちゃんと観光配信してる……』

 『真壁さんの枠ならもう別の物を見つけてる頃』

 『今日はシオちゃんの枠だぞ』

 『すみませんでした。観光ガイドのシオ様についていきます』

 『信者、ツアー客になるw』


 俺が「観光ガイド」まで読んで笑うと、シオが俺のほうを向いた。

 見せてきた画面には、今の動画コメントが流れている。


 「俺の時より、みんな建物をよく見てるな」


 『しおの あんないが うまいから!』


 「そうだな。そこは認める」


 シオは得意げに殻を揺らし、カメラを少し上へ向けた。

 観光客の頭越しに、像の並ぶ壁と二つの塔が映る。

 俺もスマホをしまって見上げた。

 塔のてっぺんまで見るには、首を反らさなければならない。


 「次は川のほうへ行きましょ。あの先がウェストミンスター橋よ」


 シエルが通りの先を指す。


 『はし いく!』


 「シオちゃん、人が多いからゆっくりね」


 支援チームの女性に声をかけられ、シオは前を横切る観光客を待った。

 人が通り過ぎると、橋へ向かって歩き出す。

 名取が俺の隣につき、俺たちも後に続いた。

読んでいただきありがとうございます。

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