↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
240/246

シオの初生配信


 シオは時計塔の写真を俺たちに見せたまま、画面を下ろそうとしなかった。


 「塔の中へ入れるかは、まだ返事待ちだぞ」


 『そとから みる!』


 「今から?」


 『いま!』


 俺も長針をこの目で見たい。

 ただ、エドワードは兄と省からの連絡を待っている。


 「俺は行ってみたいけど、みんなはどうする?」


 「私はここに残ります。兄から何か伝えてくるかもしれません。シエル、案内を頼めるかい」


 「ビッグベンね。道は私が案内するわ」


 「名取さんは?」


 「真壁さんたちの護衛ですから、同行します」


 支援チームの女性も同行できるという。

 英国側から返事が来れば、移動中に知らせてもらえる。


 「じゃあ、行こう。塔の中に入れるかは、英国側の返事が来てからだ」


 『はやく いこう!』


 シオに急かされ、俺たちは車に乗った。



 ◇



 ロンドンの街を進むうち、建物の向こうに時計塔が見えてくる。

 シオが肩から身を乗り出す。

 俺が窓越しに見上げていた時計を、シオはもうスマホで撮っていた。


 車を降り、人の流れを避けて塔が見える場所に立つ。

 時計の長針は遠くからでも分かった。

 鑑定文には、あの大きな針の内側に《フロンティア・コンパス》の小さな針があると書かれていた。

 ニューヨークで得たのは、あくまで文章だけだ。


 「真壁さん、どれか分かる?」


 シエルが時計を見上げた。


 「たぶん、あの長針かな。鑑定してみる」


 見えている長針に鑑定を向けた瞬間、意識を向けた先から押し返された。


 表示が出ない。


 いつもなら、鑑定の表示を見ながら読める範囲を探す。

 今回は、その入口にさえ届かない。俺は時計の位置を見直して、もう一度試した。

 同じところで弾かれる。


 「……駄目だな」


 「駄目って、遠すぎるの?」


 「距離のせいかも分からない。長針に鑑定を向けると、途中で弾かれる」


 「そんなことがあるの?」


 シエルは時計を見上げたまま聞いた。名取は俺のほうを向く。


 「真壁さんの鑑定が弾かれたんですか?」


 名取にそう聞かれると、俺も妙な気分になった。

 大抵の物は、読めるか読めないかを判断するところまでは行ける。


 「前にも似た感じがあった気がするんだけど……どこだったか思い出せない」


 その時はどうしたんだったか。

 もう少し深く通せば何か拾える気もして、時計へ意識を戻す。

 名取が俺の隣へ来た。


 「真壁さん、そこまでにしましょう。何が弾いているか分からないまま無理に覗こうとすると、それなりの代償を払う可能性があります」


 さっきまでシオの撮影を見ていた時とは、名取の声が違った。

 言われてみれば、俺には弾かれた理由すら分かっていない。

 そこで鑑定をやめた。


 「……分かった。無理はしない。塔に入れるかもまだ分からないし」


 「ええ。現物の調査は、英国側の返事を待ちましょう」


 支援チームの女性が答えた。

 シオはその間も時計を撮っている。

 俺たちが長針の話をしている横で撮影する位置を変え、今度はシエルまで画面に入れようとしていた。


 「外からじゃ無理そうだし、一度戻るか」


 シオがスマホを俺の前へ差し出した。


 『ろんどん かんこうなまはいしん やりたい!』


 「配信?」


 シオは自分のチャンネルで旅行動画を出している。

 ついこの前にもアメリカ編を見せられたばかりだ。

 だが、今ここで生配信まで始めるとは思っていなかった。


 『しおちゃんねる なまは まだ! ここで やる!』


 画面が近い。

 いったん下ろしても、また俺の前に出てくる。


 「いや、そう言われてもな……」


 支援チームの女性が、通話を終えて戻ってきた。


 「特命チームと確認しています。当然さっきの鑑定や調査の話は配信に出せませんよ? ちなみにシオちゃんの生配信の設定自体は、ダンジョンチューブ側で整えてあります」


 「いつの間に? 確認早くない??」


 「真壁さんと配信の準備が段違いね……」


 シエルが俺にだけ聞こえるくらいの声で言った。

 名取はシオのスマホをニコニコしながらのぞいている。


 「やりましょう! シオちゃんの初生配信ですよ!」


 「待て待て。シオ、配信には致命的な要素が欠けてるぞ。おまえ、しゃべれないだろ。どうすんのよ」


 『ふっふっふ まかべくん しおはつねに しんかする いきもの!』


 そう表示したシオは、今度は支援チームの女性へ画面を見せる。


 『あれのよういは?』


 「あれの用意?」


 「結構前にテストは終わって、いつでもいけますよ。シオちゃん」


 「え、何? 俺に黙って何かやってたのか?」


 シオは俺の質問より先に相馬へ連絡した。

 今からロンドンで生配信をしたい、と打ち込んでいる。

 返事はすぐに来た。


 『いつでもできる準備は整えているよ』


 シオは時計塔の見える場所からロンドンを案内したい、と企画の内容を文章で送った。

 調査の話はしない、と支援チームの女性が画面を見ながら付け加える。

 相馬から次の返事が届いた。


 『OK、じゃあこっちも立ち上げるから連携よろしく』


 シオはもう配信設定を開いていた。

 画面の切り替えが速く、俺がやり方を聞く暇もない。


 「あれ? シオはいつの間に配信について俺を超えていたんだ?」


 「かなり前に通り抜けていってますよ」


 名取が即答する。

 俺が顔をしかめると、シエルまでシオの画面を見て笑った。


 「シオちゃんシゴデキね」


 「……親の教育がいいんですよ」


 「なにそれ」


 シエルが声を出して笑った。

 シオは俺たちの話に加わらず、自分のチャンネルを更新する。


 『いまからきんきゅうなまはいしん』


 予告が表示された。シオはバッグからスマホを二台取り出し、伸ばした触手でそれぞれのカメラの向きを決める。

 一台には自分たち、もう一台には時計塔が入っていた。


 「あれ? スマホ増えてない?」


 「シオちゃんのチャンネル収益で機材を更新したんですよ」


 支援チームの女性が言った。


 「え?」


 知らない間に稼いで、知らない間に使っている。

 車の中でチャンネルを見せられた時も驚いたが、今はその先まで進んでいた。


 「なんか俺の配信と全然違うんだけど」


 「真壁さんの配信を見て、シオちゃんが『あれはだめなはいしん』って反面教師にしたんですよ」


 「ええ? ダメな配信……」


 「無計画と計画性。ほんとシオちゃんは優秀ね」


 シエルの評価はありがたいが、比較対象は俺だ。


 支援チームの女性がシオに向け、両手で大きな丸を作った。

 シオは二台の画面を確認し、配信を開始する。


 シオがカメラを少し動かすと、ビッグベンを背にした俺とシオが映り、名取とシエルも横から画面に入った。

 声の代わりに、画面の下へ字幕が流れる。


 『きんきゅうなまはいしん しおの ろんどん ぶらりたび』

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。