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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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拒否

 翌朝、英国ダンジョン省に米国ダンジョン省、US-DDAから正式な返還要請が届いた。

 《フロンティア・コンパス》の欠けた針を返せという。

 遺産担当官が驚いたのは、所在がビッグベンの長針と記されていることだった。


 自国の大時計から何かを返してほしいと言われるだけでも厄介だ。

 しかも、相手は伝説の探索者6人の1人、アビゲイル・ローワンの魔道具だという。

 省で参照できる時計塔の記録に、その名はない。

 要請書の読み違いを疑った職員も、添付の鑑定書を見て黙った。

 長針までたどった鑑定士の署名は、真壁遼だった。


 世界鑑定学会が順位を付けられず、《全層読破者》と認めたばかりの日本人。

 担当官も最初に「順位外」と聞いた時は、1000位にも入らなかったのかと思った。

 意味を知った後では、その名前が英国の文化遺産の返還要請にまで現れたことのほうが落ち着かない。


 鑑定を無視する理由はない。

 ただ、真壁は時計塔の長針を直接調べたわけではない。

 英国側の記録にもない物を、鑑定書1枚で「あった」と認めることもできなかった。


 担当官はその日のうちにロダン・ホールへ向かった。

 テムズ川につながる湖の向こうに旧城塞が見え、車が門から本邸まで進む間、庭師が並木道の枝を片づけていた。


 ロダン家は、この一帯で異界型ダンジョンと魔物の大量発生を抑えてきた家だ。

 省が古い遺物のことで当主を頼るのは、これが初めてではない。

 ビッグベンにそんな物が隠されているなら、時計塔の記録よりこの家のほうが古い話を知っているかもしれなかった。


 書斎に入ると、アレクサンダーは担当官を座らせた。

 壁の海図と帆船の模型は、探索者の家になる前のロダン家のものだと聞いている。


 「今朝、米国から《フロンティア・コンパス》の針を返してほしいと、正式な要請が届きました。ビッグベンの長針に入っているそうです。省の記録にはありませんから、最初は要請先を間違えたのかと思いました」


 「なるほど。それで、うちに聞きに来たわけか」


 「真壁遼の鑑定書が付いています。あの署名を見て、米国の勘違いだと突き返すわけにもいかなくなりました」


 「真壁君は、あの時計も見たのか」


 「いいえ。米国に残るコンパスから、欠けた針の場所を追ったそうです」


 「なら、まず塔で確かめればいい」


 「もちろん調べます。ただ、アビゲイルの魔道具があの時計に入っているのなら、保守担当だけでは分からない来歴があるかもしれません。ロダン家には、何か伝わっていませんか」


 省には、前日に真壁たちがここで面会を打ち切られたとの報告も来ていた。


 「昨日、真壁さんには『知らない』とお答えになったそうですね。そのまま省への回答としてよろしいですか」


 「……それはやめてくれ。昨日はああ答えるしかなかった。今も針の由来は話せんが、私が知らないと省に報告されるのは困る」


 担当官は、昨日の「知らない」を当主の証言として持ち帰れなくなった。


 「それでは、省は返還の判断ができません。せめて、長針を取り外した時に何か起きるのかだけでも――」


 「悪いが、それも言えん。塔は国のものだ。調べるなとは言わない。だが、針を外すためにロダン家の力を借りるつもりなら、断る」


 古い遺物の判断を任せてきたロダン家が、理由も明かさず取り外しを拒んだ。

 担当官は、現物の状態も知らずに米国へ返還を約束するわけにはいかなかった。


 「承知しました。塔の保守側にも当たります。米国への返事は、調査が済んでからにします」


 「そうしてくれ」


 本邸を出た担当官は省へ電話を入れ、米国への回答案を止めてもらった。

 時計塔の保守担当にも、長針の現状を確認するよう伝える。



 ◇



 昼過ぎ、エドワードが自宅へ戻ってきた。

 朝、兄と話すと言って出かけた時とは違い、玄関でシエルに見つかっても、すぐに口を開かなかった。

 俺と支援チームの女性も、シエルに続いて玄関へ出た。


 「どうだった?」


 「……会えなかった。兄さんは屋敷にいるのに、今日は通さないと。省の人間とは話したらしい」


 「昨日は自分で真壁さんを呼んだのに、今日はお父さんも追い返すの?」


 「私にも訳が分からない。使用人が知っていたのは、省の人間が来たことだけだ」


 エドワードは俺に向き直った。


 「真壁さん。兄が自分で話すと思って、昨日は黙っていました。でも、兄に会えないなら私から話します」


 昨日、エドワードは兄が長針の場所を知っていると訴え、「自分一人では決められない」と言われたことも明かしていた。

 あの場で口にしなかった話が、まだあるのか。


 「100年間、《フロンティア・コンパス》を外から追って長針にたどり着いた人間はいなかった。兄はそう言ったんです」


 「……100年間、ですか?」


 俺はそれを聞いて一つの疑問にぶち当たる。

 100年間、誰もいなかったと、どうして当主は言い切れるんだろうか。

 長針のありかを知っているだけでは、外から探し当てた者がいなかったことまで分からないはずだ。


 「お父さん、それ昨日言ってよ。伯父さんが知らないって言った時に」


 「すまない。兄が真壁さん本人に話すと思ったんだ。まさか、私まで会えなくなるとは」


 昨日、当主は俺の鑑定の範囲を一度も尋ねなかった。

 知っていたのなら、何を確かめたくて俺を呼んだのだろう。


 名取に声をかけ、エドワードにも隣の部屋へ来てもらった。

 兄に会えなかったことと、百年間の話を伝えると、名取も俺と同じところを気にした。


 「エドワードさん、お兄さんがどうやってそれを知ったのか、理由も聞いていますか」


 「いいえ。兄が長針の場所を知っていたことに驚いて、そこまでは聞けませんでした」


 「今日、省の人間は当主に会えたんですよね。英国側が何を聞けたか、こちらからも確認してみます」


 当主の答えは待つしかない。

 だが、長針そのものについては、まだ確かめていないことがあった。


 「俺は長針を見たいです。コンパスから分かったのは場所までで、時計の中でどう使われているかは見ていません。外せるかどうかも、現物を見る前には答えられません」


 支援チームの女性が言った。


 「英国側には、その目的をはっきり伝えましょう。米国から返還要請が届いた今、『長針を見たい』だけでは、取り外すための下見だと思われます」


 名取が内閣府特命チームに通話をつなぐと、担当者は話を聞いてから答えた。


 『まず申し入れるのは、長針の現物調査です。取り外しについては、調査の結果を見てから話しましょう』


 支援チームの女性が英国側への連絡を引き受けた。

 塔の中へ入れるかどうかは、その返事を待つことになる。


 俺の肩の上で大人しくしていたシオが専用スマホを開き、大きな時計塔の写真を選んだ。名取にも読めるように画面を向ける。


 『ビッグベンを みにいこう!』

読んでいただきありがとうございます。

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