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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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ロダン家当主

 「夕食は何時頃にしましょう?」


 給仕がデザートの皿を下げに来たところで、香織がエドワードに尋ねた。

 シエルは紅茶の残りを飲み、俺もナプキンを置く。

 シオは魔石の小袋を肩掛けバッグへ戻していた。


 「兄さんと話してみないと分からないな。終わったら連絡するよ」


 「分かったわ。慌てて戻らなくていいから」


 香織に見送られて食堂を出る。

 玄関への道でも俺はシエルの後を歩き、昼食前に預けたコートを受け取った。

 名取と支援チームの女性も、そこで合流する。


 「兄には、コンパスの針の件を伝えてあります。最初は私から話しましょう」


 エドワードがコートを着ながら、俺に言った。


 「お願いします。鑑定について聞かれたら、俺が答えます」


 「ええ。兄も真壁さん本人に会いたがっていましたから」


 俺がシオに声をかけると、シオは専用スマホに『いく!』と表示して肩へ乗った。

 玄関前では車が待っている。

 名取と支援チームの女性は別の車に乗り、俺はシエルとエドワードに続いた。


 桐野の実家から数キロ走ると、車道の先に大きな湖が現れた。

 シエルによれば、水路でテムズ川とつながっているという。

 湖岸に沿って進むうち、並木の向こうに石造りの城塞が見えてきた。


 「ここが《ロダン・ホール》よ。昔はこの辺りにも異界型ダンジョンが開いて、カーニバルが起きたの」


 「それで、あの城塞か」


 「ええ。ロダン家がここを守る拠点にしていた。今は本家の屋敷だけどね」


 車は城塞の門をくぐり、庭園を抜けて玄関前で止まった。

 降りると、待っていた使用人がエドワードへ英語で何かを告げた。

 エドワードはシエルと顔を見合わせた。


 「兄さんは、書斎にいるそうだ」


 「私たちを呼んだのに、玄関までは来ないのね」


 「いつものことだよ」


 エドワードはそう言いながらも歩く速さを上げた。

 俺たちは案内役の使用人について廊下を進む。

 壁には古い海図が掛かり、その下に帆船の模型が並んでいる。


 書斎へ入る前に、支援チームの女性が俺の隣に立った。

 当主や家族が英語で話す間、俺には彼女が訳してくれる。

 名取も同行し、護衛は扉の外に残った。


 エドワードが先に入って兄へ声をかける。

 机の向こうから立ち上がったのが、現当主のアレクサンダー・ロダンだ。


 「Alex, I've brought them. Ciel and Mr. Ryo Makabe.(兄さん、連れてきたよ。シエルと真壁遼さんだ)」


 当主はシエルに頷いてから、俺を見た。

 名乗ろうとしたところで、相手の動きが一瞬止まる。


 「真壁遼です。お時間をいただき、ありがとうございます」


 支援女性が英語に訳すと、当主は握手のために手を差し出した。

 俺も応じる。返ってきたのは「Welcome.(ようこそ)」の一言だけだった。


 席に着いてすぐ、エドワードが持参した資料を机に置く。


 「Let's talk about the minute hand, Alex. Mr. Makabe is here.(兄さん、長針の話をしよう。真壁さんが来てくれた)」


 支援女性が「長針」と訳し終えても、当主は机の資料を開かなかった。

 エドワードも言葉を足さず、兄の返事を待つ。

 俺は約束どおり、鑑定の説明を始めずにいた。


 「What are you talking about?(何の話だ)」


 通訳が告げる間も、当主は資料へ目を向けなかった。


 「The Frontier Compass needle. I told you it was inside Big Ben's minute hand.(《フロンティア・コンパス》の針だよ。ビッグベンの長針にあると、前に話しただろう)」


 「I know nothing about it.(そんなものは知らない)」


 「...Alex?(……兄さん?)」


 エドワードが資料に置いた手を離した。


 「When I came here, you spoke about the minute hand. You said you couldn't decide what to do on your own. Isn't that why you asked to see Mr. Makabe?(俺がここに来た時、兄さんは長針のことを話した。自分一人では決められないとも言っただろう。だから真壁さんを呼んだんじゃないのか?)」


 「I don't know anything about it. I have nothing else to tell you.(知らないものは知らない。それ以上、答えようがない)」


 話すつもりがないのは分かる。

 それでも、鑑定で確かめた場所を間違いとして扱われるわけにはいかない。


 「俺の鑑定では、針はここのビッグベンの長針内部にあります」


 女性が訳し終えるのを待って、俺は続けた。


 「アメリカにある外殻と核も調べました。三つを一つの《フロンティア・コンパス》として読んだ結果です。エドワードさんには以前、長針の話をされていたんですよね。なぜ今になって否定するんですか」


 通訳が俺の問いまで伝えると、当主はエドワードのほうを見た。


 「An appraisal isn't infallible, is it?(鑑定の結果が、絶対に正しいとは限らないだろう?)」


 「Mr. Makabe was recognized at the World Appraisers' Conference for reading every layer. You knew that, Uncle.(真壁さんは世界鑑定学会が認めた《全層読破者》よ。伯父さんだって、そう知っていたでしょう)」


 シエルの声が強くなる。

 支援女性が俺のために訳し終えるより早く、エドワードが兄に向き直った。


 「If you doubt Mr. Makabe's appraisal, say so. But how can you say you know nothing about what you told me?(真壁さんの鑑定を疑うなら、そう言えばいい。だが、俺に話したことまで知らないと言うのはおかしいだろう)」


 当主はシエルにも弟にも答えなかった。

 机の上の資料に手を置き、エドワードへ押し返す。


 「This conversation is over.(話は終わりだ)」


 「Alex, we still need to—(兄さん、まだ――)」


 「Please leave for now.(今日は帰ってくれ)」


 エドワードが立ち上がらないので、俺たちも席を離れられなかった。

 当主は書斎の扉を開き、そこで待った。

 屋敷へ招いた本人に出口を示されては、これ以上押し問答を続けても答えは出そうにない。


 エドワードは机の資料を取り上げ、そのまま兄の横を通った。

 俺も席を立ち、後を追った。

 シエルと支援女性も続く。

 扉を抜けるとき、脇に立つ当主と一瞬だけ目が合った。

 だが当主は何も言わず、先に目をそらした。



 ◇



 帰りの車では、シエルが父の顔を見てから俺へ向き直った。


 「ごめんなさい。あんなことになると思わなかった」


 「シエルが謝ることじゃない。俺を呼んだのは伯父さんなんだろう?」


 「ええ。父に、あなたを連れてこいと言ったのも伯父さんよ」


 エドワードは窓から目を離さずに言った。


 「兄さんが何か知っているのは確かだ。もう一度、本人に聞くよ」


 分家の邸宅へ戻ると、エドワードは香織に本家での話がまとまらなかったとだけ伝えた。

 書斎へ向かう父をシエルが見送り、俺たちは名取と一緒に玄関近くの部屋へ入る。


 「真壁さん、鑑定結果のほうに、気になる点はありますか」


 「ない。場所については、俺が読んだ結果を説明できる」


 「では、当主の発言が変わった理由ですね」


 「それが分からない。間違いだと思うなら、俺を呼ぶ前に言えたはずだ」


 俺は客室に戻ろうとして、廊下の分かれ道で足を止めた。


 「こっちよ」


 約束どおりシエルが案内してくれる。

 俺はその後ろを歩きながら、当主が資料を押し返した時のことを思い返した。


 針の場所を知らないと言うなら、どうして先に俺を呼んだのか。

 エドワードには自分一人では決められないと話したのに、今日は兄弟の間でも知らないと言い切った。


 客室の前でシエルが足を止める。


 「伯父さん、私にも何も言わなかった」


 「うん。何か話したくないことがあるのは分かった」


 「父なら、もう一度聞けると思う」


 シエルは扉を開けずに、しばらく俺と一緒に廊下にいた。

 俺も急いで部屋に入る気にはなれなかった。


 《フロンティア・コンパス》の針がどこにあるかは、変わっていない。

 だが『知らない』と言い切った当主が、最後に目をそらした相手は俺で、それが妙に頭の中から離れなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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