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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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桐野の実家

 支援チームの女性のスマホには、管理地の上に浮かぶ《天空樹》がまだ映っていた。

 現地の記者が何か話しているが、俺には聞き取れない。

 シオはそちらに興味を示さず、窓の外のロンドンを撮っている。


 「伯父さんの家までは、あとどのくらいだ?」


 桐野に尋ねたところで車が速度を落とし、高い石塀の切れ目に警備員の立つ大きな門が見えた。


 「先にうちでお昼よ。ロンドンにいる間の部屋も用意してあるわ」


 「ここが本家?」


 「違うわ。うちのほう」


 運転手が警備員と話す間に、桐野が俺の顔を見た。


 「言ってなかった?」


 「伯父さんのところへ行く、とは聞いた」


 「行くわよ。ママたちも真壁さんに会いたいって言うから、その前に寄るの」


 門が開き、車は公道から敷地内の道へ入った。

 シオが車窓からスマホを下ろし、俺に文字を見せる。


 『しえるの おうち?』


 「そうだって。今、門を入ったところ」


 シオは桐野のほうを向いた。


 「撮るのはいいわよ。公開はいつもどおり確認してからね」


 『わかった!』


 シオがまた窓へスマホを向ける。

 門が見えなくなっても屋敷はまだ現れず、木々を抜けてようやく石造りの中央棟が姿を現した。

 左右には同じ形の窓を並べた翼が伸び、シオがスマホを右へ振っても端まで収まらない。


 「……お城みたいなとこに住んでるんだな」


 正面全体を見終わる前に、俺のほうが先に口を開いた。


 「外からだと、そう見えるわね」


 「中からだと違うのか?」


 「古い家よ。階段を間違えたら、戻るだけで時間がかかるんだから」


 「部屋まで案内してもらわないと、俺は戻れなくなりそうだ」


 「そうして。探しに行くのは大変だから」


 車が玄関前で止まると、黒いスーツの執事が扉を開け、俺たちが薄手のコートと荷物をメイドたちに預ける間に、シオは屋敷の上のほうを撮りながら俺の肩に乗った。


 「シオ。挨拶する時はいったん撮影を止めよう」


 シオがスマホを下ろす頃、先に入った桐野が玄関の奥で足を止め、その向こうから男女が歩いてきた。


 「ただいま」


 「おかえり、シエル」


 桐野の隣に並んだ女性は、目元も輪郭も彼女によく似ていた。

 母親だと言われなければ、年の離れた姉だと思うほど若い。

 桐野が口元を緩めると、同じ形の笑みが返ってくる。

 女性の隣に立つ男性は、桐野と同じ青灰色の目をしていた。

 2人が俺たちへ向き直り、桐野が紹介する。


 「父のエドワードと、母の香織。こっちは真壁遼さんとシオよ」


 「エドワード・ロダンです。シエルがお世話になっています」


 「桐野香織です。ようこそ。長旅でお疲れでしょう」


 2人とも日本語だったので、俺もそのまま挨拶できた。


 「真壁遼です。こちらこそ、桐野にはずっと助けてもらっています」


 エドワードは俺の肩の上にいるシオにも顔を向けた。


 「君がシオだね。シエルから、撮影が上手だと聞いているよ」


 シオはもう一度スマホを持ち上げたが、今度はカメラではなく文字の画面だった。


 『しお! あとで みせる!』


 「楽しみにしているよ」


 桐野が俺の後ろにいた名取と支援チームの女性、同行の護衛たちも紹介すると、名取は警護担当として挨拶し、支援チームの女性も頭を下げた。


 「宿泊と警備については、内閣府の特命チームと話を済ませています。真壁さんのすぐ近くに、皆さんの部屋も確保しました」


 名取が礼を述べると、香織が俺たちに声をかけた。


 「お部屋へ案内しますね。昼食は15分後にしましょう」


 メイドに案内され、俺とシオは名取たちと同じ廊下へ向かった。

 桐野だけは別の階段を上がっていく。

 客室の扉の前で来た道を振り返ったが、曲がり角が2つもあって、もう玄関の位置が分からない。

 荷物が運び込まれると、シオは肩掛けバッグから魔石の小袋を取り出した。


 「昼ごはんも、それでいいか?」


 『これ たべる!』


 俺は洗面台で手を洗い、シオが選んだ小袋をバッグへ戻す。

 15分後、迎えのメイドについて食堂へ降りると、エドワード夫妻と桐野が待っていた。

 席へ着く前に、香織がシオを見て尋ねる。


 「シオちゃんは何を食べるのかしら。料理人に頼みましょうか?」


 「ありがとうございます。シオは魔石を持ってきています」


 シオが小袋を掲げると、香織は頷いた。


 「こちらは、うちのシェフが用意した昼食よ」


 席に着くと、給仕が飲み物を尋ね、前菜を運んできた。

 シオは俺のすぐ横でテーブルの上に座り、バッグから魔石を何個か出すと、一つずつ胴体へ押し当てて食べ始める。

 俺が前菜に手をつけると、エドワードと香織もシオを見た。


 「魔石って、そんなふうに食べるんだね」


 「かわいいわね」


 シオの殻の中で淡い光が揺れ、スープが運ばれてくる頃にエドワードが桐野へ声をかけた。


 「シエル、移動続きで疲れていないか」


 「平気よ。お父さんのほうが、顔を見るまで落ち着かなかったんじゃない?」


 「それは否定しない」


 魚料理が運ばれてきたところで、俺は玄関から気になっていた姓のことを桐野に聞いた。


 「さっき、お母さんは桐野、お父さんはロダンって名乗ったよな。日本でお母さんの名字を使うのはどうして?」


 「ああ、そのことね。日本で仕事を始める時に、ママの姓を使おうって決めたの」


 香織も「桐野」の話に加わる。


 「結婚してからも、姓は桐野のままよ。シエルに使いたいと言われた時は、驚いたけど嬉しかったわ」


 「ロダンのほうは有名すぎるから。探索者でも芸能の仕事でも、最初に聞かれるのは家のことなのよ。日本では先に仕事を見てほしかった。それに、ママの名前なら私にも自然だったし」


 「俺も、ロダン家のことを知ったのはずっと後だ」


 「でしょう? 家のことは後から話せばいいと思ったの」


 桐野の話が終わると、エドワードも俺に向き直った。


 「英国では、シエルがロダン家の子だと知られています。でも日本では、仕事に使う名前を自分で選んで始められた。それでよかったと思っています」


 「お父さん、今のは前から言ってよ」


 「反対したことはないだろう?」


 「そうだけど、ちゃんと言葉で聞きたかったの」


 「シエルが選んだ名前を、私も気に入っているよ」


 「うん」


 紅茶とデザートが運ばれると、エドワードが「出かけるまで時間はあるよ」と勧め、桐野はデザートに手をつけた。


 「桐野、伯父さんのところには何時頃行く?」


 シエルだけでなく、香織も俺を見た。


 「……シエルのほうです」


 「デザートを食べ終えたら出るわ」


 「そうよね。ここで桐野と呼ばれたら、私も返事をするわ」


 桐野シエルがにやにやしながら俺を見ている。


 「だって。どうする、真壁さん?」


 「この家ではシエルって呼ぶ」


 「じゃあ、さっそく」


 「……シエル。ここへ戻ったら、俺の部屋まで案内してくれ」


 「もちろん。1人だと迷いそうだものね」

読んでいただきありがとうございます。

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