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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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ロンドン到着!

 本日カクヨムのほうでサポーター専用SS 真壁夫妻は、息子と連絡を取りたい(前編) が公開されています!

  ※カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)

 シオにチャンネルの更新を促され、俺は自分のスマホをポケットへ戻した。

 登録者数まで調べてから返事をするのは、何だか負けた気がする。


 「俺のチャンネルまで心配されるとはな」


 「え、シオちゃんにですか?」


 名取が運転席から振り返りかけ、すぐ前を向いた。


 「更新が止まってるのは事実ですよねー」


 「今、ニューヨークで仕事してるんだけど」


 「それを動画にしたらいいじゃない」


 桐野まで横から言う。

 俺たちがニューヨークで何をしたのか、動画にできる部分はほとんどない。

 それに、シオのアメリカ旅行編には俺の姿が見当たらなかった。


 「シオ。次は俺も映るのか?」


 シオは帽子のつばを持ち上げ、専用スマホへ文字を打った。


 『ろんどんへん つくる!』


 答えになっていない。

 桐野が笑う横で、シオは車の窓へスマホを向けた。

 まだニューヨークなのに、もう次の旅を撮り始めている。



 ◇



 ホテルへ戻ると、店から送られた箱が部屋に届いていた。

 俺が数えるのをやめた頃より、さらに増えて見える。


 「本当に全部うちのですか?」


 「お会計した品は全部ありますよ」


 支援チームの女性は淡々と答えた。

 聞かなければよかった。


 窓際で休んでいたミルが、シオの帽子を見て首を傾ける。


 「ずいぶん立派になって帰ったのう」


 シオは肩掛けバッグまで見せようと、俺の肩からソファへ移った。

 帽子がずれないように殻を傾け、ミルの前で1回転する。


 シオはスマホへ打った文字をミルに見せた。


 『にあう?』


 「うむ。おぬしが選んだのなら、なおさらじゃ」


 シオは満足したらしく、今度はバッグの中へ両親に贈る写真立てを入れようとした。


 「それは割れるから、俺が持つよ」


 シオは少し迷ってから渡してきた。

 入れる写真は、まだ決まっていない。


 桐野が腕を上げた。

 店で選んだ時計が、服の袖からのぞく。


 「これ、ロンドンにも着けていくから」


 「うん。さっきも言ったけど、似合ってる」


 「今度はすぐ言えた」


 桐野に笑われ、俺は写真立てを箱へしまった。

 そこへ名取が居間へ入ってくる。


 「真壁さん、渡英の調整がつきました。出発は明日の朝です」


 シオがバッグをかけたまま跳ねた。

 明日にはロンドンか。



 ◇



 翌朝、車でニューヨーク郊外の管理地へ戻った。

 《天空樹》は、俺たちが置いていった場所に浮かんでいる。

 荷物を持って昇降台へ乗ると、シオはミルより先に居住区へ入っていった。


 「今度はロンドンまで頼むよ」


 幹へ手を当てる。

 頭の中に浮かんだ地図には、英国側が受け入れのために空けた地点が示されていた。

 名取たちが出発前の連絡を済ませてから、俺はそこを目的地に選んだ。


 窓の外でニューヨークの街が遠ざかり、スマホの電波が切れる。

 あとは《天空樹》が運んでくれる。


 シオは窓に映る海を撮りながら、帽子とバッグが一緒に入る角度を探していた。

 その隣で桐野が買ったばかりの腕時計を眺めている。


 「実家に戻るの、久しぶり?」


 「そうでもないわ。でも、真壁さんと一緒に行くのは初めて」


 「そりゃそうだ」


 「伯父さんから呼ばれたからって、仕事のことだけ考えないでよ」


 桐野は、俺がロンドンへ来ることをずっと楽しみにしていた。

 今回は本家に、コンパスの針のことで話を聞きに行く。

 けれど、最初に俺をロンドンへ誘ったのは桐野だった。


 「観光もする約束だったな」


 「覚えてたんだ」


 「忘れてないよ」


 シオがこちらへスマホを向ける。


 『ろんどん かんこう!』


 「そう。シオちゃんのロンドン編もね」


 桐野がシオの帽子を直した。

 シオは撮影を再開し、海の先に見える陸地を大きく映した。


 陸地は窓いっぱいに広がり、やがて屋根と道路が見分けられるほど近くなった。

 シオはスマホを窓へ向けたまま、画面を確かめている。

 流れる景色が少しずつ遅くなる。足元には、到着を知らせる揺れもない。

 桐野がシオの隣に並んだ。


 「……帰ってきた」


 俺は頭の中の地図を確かめる。

 現在地を示す点が、ロンドン南西郊の目的地で止まっていた。

 窓の下では、英国側の車が数台並ぶ敷地の外を、車が走っている。

 こちらからは地上が見えるのに、道路の人たちは誰も空を見上げない。

 《天空樹》は、まだ亜空間にいる。


 「現実空間に戻ったら、現地へ連絡します。昇降台は先方の確認が取れてからにしてくださいねー」


 名取が業務用スマホを手に言った。

 俺は帰還先に人や建物が重なっていないことを確かめ、幹に触れる。


 「戻ります」


 偽装を解き、現実の空へ戻るよう伝えた。

 部屋の中は静かなままだった。



 ◇



 管理地の門の内側で、英国側の受け入れ担当が時計を見た。

 予定時刻が近い。車は待機し、昇降台を迎える区画も空けてある。

 それなのに、見上げた空には雲しかなかった。


 「It's almost time. Can you see it?(もうすぐ予定時刻だ。見えるか?)」


 隣の職員が首を振る。


 「Nothing yet.(まだ何も……)」


 返事が途中で止まった。

 担当者がその視線を追うと、何もなかった空に巨大な幹が立っていた。

 近づく音も、枝が現れるまでの動きもない。

 根は地面に届かず、空けておいた区画の上に浮いている。

 担当者は一瞬、職員と顔を見合わせた。

 そこへ業務用スマホが鳴り応答すると名取からの到着連絡だった。

 昇降台を下ろしてよいか尋ねられ、担当者はもう一度、樹の真下を確かめた。

 職員たちは区画の外にいる。


 「We can see you. The area below is clear. You may lower the platform.(こちらでも姿を確認しました。下の区画は空いています。昇降台を下ろして構いません)」


 担当者が通話を終えて顔を上げると、門の外を通る配送車が速度を落とし、運転手もフロントガラス越しに空を見上げていた。

 つい先ほどまで道路の向こうには雲しかなかったのに、今は太い幹から枝を広げた木が、根を地面につけないまま敷地の上空に浮いている。

 運転手は車を道路脇の空いた場所へ寄せて降りた。


 「What is that?(なんだ、あれ?)」


 歩道にいた女性も足を止めた。

 彼女がスマホを向けるより先に、向かいの車から降りた人が撮影を始めている。

 女性は数歩戻り、さっき通り過ぎたバス停の標識と木を一緒に画面へ入れた。

 標識は昨日からそこにあった。

 その上に広がる枝は、今までなかった。


 「It just appeared!(今、現れたのよ!)」


 彼女が隣の人に画面を見せると、相手はスマホから顔を上げて実物を見た。

 道路の先でも車が1台、また1台と速度を落とす。

 道にいた人たちは、誰1人として知らなかった。



 ◇



 名取が業務用スマホを下ろし、俺にうなずいた。


 「受け入れ側から確認が取れました。昇降台を降ろしてください」


 俺たちは乗降口へ向かった。

 昇降台が地上へ降りる途中、敷地の外に人だかりが見えた。

 みんな俺たちの方ではなく、《天空樹》を見ている。

 スマホを構えた人も何人もいた。


 「これ、また隠した方がいいですか?」


 「突然消えたら、その瞬間も撮られますよー」


 名取の言うとおりだった。

 しばらくは、空に置いておくしかなさそうだ。


 「見えちゃうものね」


 桐野が言った。


 「場所は管理されてるんですよね?」


 「敷地の中はね。空は隠せないわ」


 俺がニューヨークで見た時より、人がずっと多い。

 シオは俺の肩で、皆と同じように頭上の枝を見ていた。


 地上へ着くと、英国側の担当者が名取に声をかけた。

 名取が応じる間に、俺たちは用意された車へ乗る。

 道路の人たちは管理地へ入ってこない。

 ただ、車が走り出すまで、空を見上げ続けていた。


 名取のスマホへ通知が立て続けに届いた。


 「もうZに動画が出ています」


 見せてもらった画面には、さっきの管理地の空が映っていた。

 投稿の文は自動翻訳で日本語になっている。


 『ロンドンの空に木が浮いてる。これ見えてるの私だけ?』


 別の投稿には、道路の反対側から撮った《天空樹》があった。

 どちらにも同じ管理地の門が映り、枝の形も一致している。


 『合成かと思ったけど、別角度の動画も来た』

 『そこ、今朝通った時は何もなかった』

 『門の中の人たち、逃げてない。知ってたのか?』

 『これ、ニューヨークで出てた画像の木とそっくりだろ』


 「似てるんじゃなくて、それなんだけどな」


 「写真と実物が同じだなんて、すぐには思いませんよー」


 名取が画面を切り替えた。

 今度は現地の配信者が、管理地の外から樹を映している。

 カメラを上下に振っても、幹の端から枝の先まで収めきれないらしい。

 配信者の声は早口の英語で、俺にはほとんど聞き取れなかった。


 「何を言ってるんです?」


 「道路を歩いて来たら、本当に浮いていたそうです。現地で見るまで編集だと思っていたみたいですね」


 配信者は自分の足元の道路からカメラを上げ、枝を映す。

 画面の端には、同じ木を撮る人たちのスマホまで入っていた。


 車が市街地へ近づく頃、支援チームの女性の業務用スマホに英国のTV局の映像も流れ始めた。

 画面には、公道から撮られた《天空樹》と、現地へ向かう記者が映る。

 局は正体を確認中としながら、見える範囲と複数の目撃映像を報じているという。

 画面が切り替わり、今度は管理地の向かいから撮った生中継になる。

 投稿だけなら作り物と言えた人も、まだ浮いている樹を見れば黙るだろう。


 「ロンドンへ来ただけで、ニュースになるんですか」


 「来ただけ、の部分が普通じゃないんですよー」


 名取は当然のように返した。

 桐野まで笑っている。


 シオは専用スマホへ、自分が撮った窓の景色を並べていた。


 『しおちゃんねる ろんどんへん!』


 「今いる場所が分かる映像は、後で確認してからにしましょうね」


 支援チームの女性が言うと、シオは画面を保存して帽子のつばを上げた。

 待つことには慣れているらしい。


 「じゃあ、次は伯父さんのところね」


 桐野が時計を見て俺に言った。

 俺が返事をする前に、シオはまた車窓のロンドンを撮り始める。

 支援チームの女性のスマホには、空に浮かぶ俺の家がまだ映っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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