一本道
本日カクヨムのほうでサポーター専用SSシオシーリーズ2作 が公開されています!シオがブログを公開した話とダンジョンTubeで動画投稿デビューの話となっております。本編に少しだけリンクする話となっております。
※カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)
そして翌日の朝、ホテルを出る前に日本側の担当者から保管ケースを受け取った。
中に収められているのは、折り畳まれた《導きのレンズ》だ。
ミルには、今日もホテルで休んでもらっている。
まだ生命力が戻りきっていないうえに、今日は封鎖探索路の中へ入ることになるかもしれない。
何があるか分からない場所へ、今のミルを連れていくのはやめた。
俺たちを乗せた車がブルックリン橋へ近づくと、シオが専用スマホを持ち上げた。
画面には、昨日この橋で撮った写真が表示されている。
「昨日は、あの辺で写真を撮ってたんだけどな」
「同じ場所に向かってる感じがしないわね」
桐野の言う通りだった。
橋へ向かう観光客の姿は窓の外に見えているのに、俺たちの車はその手前で流れを外れた。
高い柵で囲まれた区画へ入り、工事用の施設にも見える灰色の建物の前で止まる。
ここがUS-DDAの管理区画らしい。
クロフォード局長とサイラスは、すでに現地の調査班と一緒に待っていた。
挨拶を済ませたあと、俺とシオ、桐野、名取、日本側の担当者、それに公式通訳が建物へ入る。
地上部分は、外から見た通り新しい施設だった。
しかし、地下へ降りると途中で壁の造りが変わった。
白い照明とコンクリートの補強壁が途切れ、その先に古い石を積んだ壁が残されている。
中央には、昨日の記録映像で見た金属扉があった。
扉の手前は、机と観測機器が置かれた四角い部屋になっている。
映像の中で、調査隊の帰りを待っていた職員たちがいたあの場所だ。
「昨日の映像で、調査隊が出発したのは、この部屋ですよね?」
『そうです。ここを待機区画と呼んでいます』
サイラスは、古い石壁の金属扉を示した。
『調査隊は、この扉から石造りの通路へ入りました。通路を前へ進み続け、やがて同じ形の扉を見つけた。その扉を開けたところ、ここへ戻ってきました』
桐野が金属扉を見る。
「奥にもう一枚、同じ扉があるわけじゃないのよね?」
『ありません。調査隊が開けたのは、出発時に使ったこの一枚です』
つまり、出発口と帰還口は同じ扉だ。
調査隊は自分たちで引き返していない。
それでも、前へ進んだ先でこの扉を開け、今いる待機区画へ帰ってきた。
実物を前にして確認すると、昨日の映像よりも分かりやすかった。
クロフォード局長から、昨夜のうちに入口周辺を調べた結果が伝えられる。
扉や石壁の魔力反応は、封鎖前の最終記録から大きく変わっていない。
入口付近に崩落や魔物の反応もないという。
調査班が待機区画の出入口を閉め、観測機器を動かした。
名取も扉の正面から外れ、俺たちへ少し下がるよう促す。
それから、金属扉がゆっくり開かれた。
向こうに見えたのは、記録映像と同じ石造りの通路だった。
天井も左右の壁も古い石で覆われ、床は正面へまっすぐ延びている。
入口から見える範囲には、過去の調査隊が残した目印もいくつか並んでいた。
分かれ道はない。
隠し扉らしい継ぎ目も見当たらなかった。
「本当に、一本道にしか見えないわね」
桐野が俺の横から通路を覗く。
「俺にも、今はそう見えます」
この正面の道を歩いた調査隊は、前方に同じ金属扉を見つけた。
そして、その扉を開けると、俺たちが立っている待機区画へ出た。
石造りの通路を普通に見ていても、その仕組みは分からない。
俺は保管ケースから《導きのレンズ》を取り出し、二枚を開いた。
まず片方のレンズだけで通路を見る。
石の床と壁、それに過去の目印が、肉眼と同じ位置に映っていた。
そこへ、もう片方の像が重なるように重ねていく。
床の上に、淡い光の線が現れた。
光は金属扉の下から始まり、石造りの通路を正面へ延びている。
ここまでは、見たままの一本道だ。
けれど、少し先で光の線が持ち上がった。
床を離れ、通路の途中で大きく曲がっていく。
俺はレンズを動かし、曲がった先を追った。
光は通路の奥へ続いていない。
空間の中を折り返し、今見ている金属扉の上へ戻っていた。
光の始まりも、終わりも、同じ扉の枠に重なっている。
肉眼ではまっすぐな一本道に見える。
だが、レンズに映る進行方向は、大きな輪を作って入口へ戻っていた。
「分かりました。人が途中で引き返しているんじゃありません」
俺の言葉を、通訳が英語へ変える。
「前へ歩いているのは間違っていません。ただ、道の進む先が、この扉へ曲げられています」
サイラスが隣まで来たので、角度を変えないままレンズを渡した。
彼は二枚の向こうを覗き、すぐに調査班へ過去記録を出すよう伝えた。
大型画面に、調査隊が残した目印の番号が表示される。
サイラスは、レンズの中で光が通る順番と記録を一つずつ確かめていった。
『一致しています。彼らが通過した目印は、この帰還経路の上にすべて並んでいる』
調査隊は間違った場所を歩いたわけではなかった。
目印の順番も、前へ進み続けたという証言も正しい。
その道自体が、最後には入口へつながっていたのだ。
クロフォード局長が、調査班から説明を受ける。
距離や歩いた方向は、これまでの機器でも記録できた。
しかし、通路の奥が入口の扉につながっていることまでは、外から観測できなかったらしい。
これで、帰ってくる仕組みは見えた。
ただ、この光をたどっても、また待機区画へ戻るだけだ。
《フロンティア・コンパス》の核へ近づくことはできない。
俺はレンズを受け取り、もう一度、二枚の像を合わせた。
今度探すのは、帰る道ではない。
この先にある、《フロンティア・コンパス》の核。
そう考えた瞬間、片方のレンズの奥で小さな光が点滅した。
最初は通路の下に見えた。
次に瞬きをした時には、もっと奥の右側へ移っている。
場所は一つに定まらない。
鑑定結果にあった、核の現在座標は固定されていないという言葉を思い出す。
それでも、光へ向かう道の始まりだけは消えなかった。
何度レンズを合わせ直しても、金属扉を越えてすぐ左側、何もない石壁から細い光が延びている。
俺は、その光へ二枚の像を重ねた。
レンズの中だけで、石壁が透けた。
その向こうには通路があり、石の階段が地下へ向かって延びている。
肉眼へ戻せば、そこにあるのは継ぎ目のない石壁だ。
調査班の記録でも、壁の中は石が詰まっていることになっていた。
正面に見えている一本道は、入口へ帰るための道。
核へ向かう道は、同じ場所に重なったまま、その帰還経路に隠されていたようだった。
「たぶん、こっちが行くための道です」
俺はレンズ越しに、左側の石壁を示した。
「帰る道とは別に、地下へ降りる階段が見えます」
通訳を聞いたサイラスが、過去の記録を開いたまま石壁へ近づく。
『これまでの調査隊は、全員が正面の通路を進んでいます。この壁を進路として扱った記録はありません』
見た目は壁なのだから、当然だと思う。
《導きのレンズ》がなければ、俺も正面を選んでいたはずだ。
調査班は壁を壊さず、俺が示した階段の位置だけを入口の見取り図へ加えた。
クロフォード局長はその結果を受け、次は《導きのレンズ》を持つ俺を中心に、少人数で入口を通ると決めた。
名取とUS-DDAの調査班が、安全を確保しながら同行することになる。
桐野とシオも一緒に入るかは、最初の数歩を確認してから決めることになった。
俺は、最後にもう一度レンズを覗いた。
正面には、入口へ戻る光の輪がある。
その脇では、肉眼で見えない石段が下へ続いていた。
「道は、正面だけじゃなかったみたいです」
サイラスは、開いたままの金属扉を見た。
『正面へ進むことばかり考えていました。まさか、扉を越えた直後に道が分かれていたとは……』
レンズの中で、地下へ続く石段の一段目が淡く光っていた。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。




