↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
225/239

災厄を払っておこう

 翌朝、ホテルを出た車は、セントラルパークの近くで止まった。


 高層ビルの間から公園へ入った途端、周囲を占める色が変わる。

 頭上には黄色や赤に染まった木々が広がり、舗装路の脇には落ち葉が積もっていた。


 「昨夜、上から見えていた暗い場所は、ここだったんですね」


 「昼に来ると、全然違って見えるでしょ」


 桐野は昨日の夜から調べていた地図を開き、迷わず湖の方へ歩き始める。

 ミルもその横を歩きながら、木々の隙間に見えるビルを見上げていた。


 「高い家をあれだけ建てておきながら、真ん中には森を残したのか」


 「森じゃなくて公園ですけど、広いですよね」


 俺の肩で撮影していたシオの殻へ、黄色い葉が1枚落ちてきた。

 触手が伸びたものの、シオは葉を払わない。

 代わりに専用スマホのカメラを自分へ向け、殻に載った葉まで画面へ収めた。


 「待って、シオちゃん。そのまま」


 桐野が葉の向きを少し直し、今度は自分のスマホで撮り始める。


 シオは殻を右へ傾け、次は左へ傾けた。

 黄色い葉が帽子のようについてくる。


 「朝からずいぶん撮るのう」


 ミルが呆れていると、シオの触手が地面へ伸びた。

 落ち葉の中から赤い1枚を選び、ミルの頭へ載せる。


 『おそろい』


 「わしまで飾るでない」


 そう言いながら、ミルは葉を落とさなかった。


 白い二匹は、黄色と赤を1枚ずつ載せたまま先へ進む。

 桐野は少し歩くたびに、その後ろ姿を撮っていた。



 ◇



 木々の間を抜けると、湖の上に白い橋が見えた。


 水面のすぐ近くを、弓のような緩い曲線が渡っている。

 橋の上では何組もの観光客が足を止め、湖と色づいた木々を背景に写真を撮っていた。


 「ここがボウ・ブリッジ。次は4人で撮ろう」


 桐野が、当然のように俺の立つ場所まで決め始める。


 「昨日も撮ったばかりですよ」


 「昨日は夜で、今日は昼。場所も違うから別の写真」


 「1枚あれば十分じゃないですか」


 「足りません」


 シオは俺の肩から下りると、専用スマホへ文字を打った。


 『りょうも』


 「分かったよ」


 撮影役は名取が引き受けた。

 俺と桐野が並び、その前にシオとミルが座る。


 シオの殻には黄色い葉が残っていた。

 ミルの頭に載った赤い葉も、まだ落ちていない。


 「ミル、そのままでいて。すごくかわいいから」


 「かわいいと言われるために載せておるのではないぞ」


 「でも、取らないんだ?」


 ミルは答えず、湖の方を向いた。


 名取が笑いながら何度かシャッターを切る。

 撮れた写真には、秋の湖と白い橋、その手前で葉を載せた白い二匹がきれいに収まっていた。


 桐野は昨日の夜景写真と並べて保存し、満足そうにうなずいた。



 ◇



 午後は車でロウアー・マンハッタンへ移動した。


 通りの先に、2本の石造りの塔と、そこから伸びる無数のケーブルが見えてくる。

 ブルックリン橋だった。


 歩行者用の入口から上がると、木の通路が川の上へ続いていた。

 両側には街が広がり、イースト川を船が行き交っている。


 石の塔が近づいたところで、俺は足を止めた。


 「ここ、見たことあるぞ」


 「来たことあるの?」


 「いえ。大阪のダン博で見ました」


 「あそこにブルックリン橋の展示なんてあった?」


 「米国館にあったグランドドラゴンの骨です。1970年代のブルックリン橋事件で出た個体だって、プレートに書いてありました」


 「橋じゃなくて、ドラゴンの骨から思い出したんだ……」


 「先に見たのがそっちなので」


 当時、この橋を中心にオープンワールド型ダンジョンが発生し、周辺の街までダンジョン領域へ取り込まれた。

 グランドドラゴンが現れたのも、その最中だったという。


 探索者研修で見た映像の橋は封鎖され、辺りにはダンジョンの光が漂っていた。


 しかし、今は違う。


 復旧工事はずいぶん前に終わり、橋は事件以前に近い姿へ戻されている。

 木の通路を観光客が歩き、自転車用の道には途切れることなく人が通っていた。


 「人間は、壊されたものを同じ形に戻したのじゃな」


 ミルは石の塔を見上げ、そこから川の両岸へ続く街を眺めた。


 「全部を新しくすることもできたはずじゃ。それでも、この姿を残したかったのか」


 「この橋が好きな人が多かったんだと思います」


 塔をくぐった先で、桐野が足を止めた。


 「ここなら、橋も街も入る。写真撮ろう」


 「今度は全員ですか?」


 「もちろん」


 警護担当の1人に撮影を頼み、俺たちは通路の片側へ集まった。


 シオは専用スマホへ文字を打ち、頭上へ掲げる。


 『ぶるっくりん!』


 ミルはもう赤い葉を頭から下ろしていたが、シオの黄色い葉はまだ殻に残っている。

 桐野は俺の隣へ立ち、シオとミルを間に入れるように少し前へ押し出した。


 撮れた写真の背後には、復旧した石の塔とケーブルが伸びている。


 ダン博で見たのは、ここから回収されたグランドドラゴンの骨だ。

 同じ場所で、今度は俺たちの写真が1枚増えた。



 ◇



 橋を渡ったあとは、ブルックリン側のダンボ地区へ向かった。


 赤煉瓦の建物の間に石畳が続き、通りの先ではマンハッタン橋が建物に挟まれて見える。

 そこから川沿いへ出ると、ブルックリン橋の下にガラス張りの建物があった。


 中では、色鮮やかな木馬が音楽に合わせて回っている。


 《ジェーンズ・カルーセル》


 100年以上前に造られた回転木馬らしい。


 「ブルックリン橋事件の時、この辺りもダンジョンに飲み込まれたんだけど、カルーセルはほとんど被害を受けなかったんだって」


 桐野は、ガラスの向こうで回る木馬を見ながら続けた。


 「事件のあと、災厄が来ないように祈ってから乗る人が増えたみたい」


 「じゃあ、真壁さんは災厄を払っておいた方がいいね」


 桐野がスマホをしまい、俺を見た。


 「どうして俺だけなんですか」


 「それは、やっておいた方がいいと思いますよー」


 名取まで、すぐに桐野へ加わった。


 「真壁さんと一緒にいると、警護の予定が普通に終わったためしがないので」


 「俺が起こしたわけじゃないですよね?」


 「祈るだけで済むなら、念入りにやっておけ」


 ミルにも勧められた。


 シオは専用スマホを俺へ見せる。


 『ねんいりに』


 全員から言われると、断る方が難しい。


 俺はガラス越しに回るカルーセルへ向かい、胸の前で手を合わせた。

 明日からも、何も起きませんように。


 隣では、シオが2本の触手をぴたりと合わせている。

 ミルも目を閉じ、桐野と名取まで同じように祈り始めた。


 「俺だけじゃなかったんですか?」


 「一応ね」


 祈りを終えると、シオはガラスの向こうで回る白い木馬へ触手を伸ばした。


 『のる』


 支援チームの女性が係員と話し、シオとミルも馬車なら一緒に乗ってよいことになった。


 「わしまで乗るのか?」


 『ミルも』


 「一度だけじゃぞ」


 白い二匹が馬車の前側へ座り、俺と桐野がその後ろへ乗る。

 名取は外に残り、スマホのカメラをこちらへ向けていた。


 音楽が始まると、馬車がゆっくり動き出す。


 ガラス越しにブルックリン橋が現れ、木馬に隠れ、1周するとまた戻ってきた。

 シオは橋が見えるたびに触手を上げ、ミルも途中から尾を高く振るようになった。


 「ミル、楽しんでるよね?」


 「せっかく乗ったのじゃ。楽しまねば損じゃろ」


 「さっきまで嫌そうだったのに」


 桐野が笑い、シオとミルの間から見える橋を撮った。

 外では名取も、馬車が前を通るたびにシャッターを切っている。


 カルーセルを降りたところで、支援チームの女性に連絡が入った。


 「クロフォード局長たちも、ニューヨークへ到着したそうです。明日の朝は、予定どおりホテルを出発します」


 「分かりました」


 「災厄も払ったし、今度こそ予定どおり終わりそうね」


 桐野の言葉を聞いたシオが、専用スマホへ新しい文字を打つ。


 『やくばらい かんりょう』


 明日は、伝説の探索者が残したコンパスの鑑定だ。

 俺はもう一度、まだ回っているカルーセルへ向かって手を合わせた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。