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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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天空樹の使い道

 「じゃあ、少し様子を見てきます」


 俺が昇降台へ歩くと、近くにいた鑑定士が何かを言いかけた。

 さっき手を止められた場所を、そのまま通り過ぎる。

 何かに触れた感じも、押し返される感じもなかった。


 振り返ると、エリオットが笑っていた。

 ベルンハルトは俺の足元を見たあと、自分でも同じ位置へ手を伸ばす。

 指の先で波紋が広がり、それ以上は進まない。


 『……我々の見解を待つ必要もなかったようですね』


 名取がその言葉を訳しながら、桐野と一緒に俺のところまで歩いてきた。

 2人にも障壁は現れない。


 「真壁さんと一緒だと、本当に入れるんだね」


 「朝も、みんなで出入りしましたし」


 答えてから、外で待っている鑑定士たちの顔を見て、どうも説明になっていない気がした。

 俺たちが乗り込んだ昇降台を見て、誰かがまた木へ鑑定を試している。

 俺は床へ手を当て、中層の居住区まで上げてくれと指示した。

 床が地面を離れると、外にいた鑑定士たちは、その動きを追って顔を上げる。


 エリオットは議長たちのそばに残り、俺たちを見送ってくれた。

 さっきまで立っていた赤い地面が遠ざかり、枝葉の陰へ入る。

 昇降台が中層で幹につながると、戸口からミルが顔を出した。


 「帰ってきたか。下がずいぶん騒がしいのう」


 「木を調べたい人が集まってるんです。連盟で預かれないかって話もあったんですけど」


 「お前は、ここを手放すつもりなのか?」


 「いえ。所有物だと認めてもらいました」


 「ならば、それでよかろう。ようやく主が帰ってきたのじゃ。落ち着いて座るがよい」


 ミルは、部屋の中へ戻っていく。

 下での話し合いに比べると、ずいぶん簡単に済んだ。

 肩にいたシオも、戸口から中を覗いている。


 『ここ おうち』


 「そういうことになったな」


 家と呼べる場所が増えたのは、嬉しい。

 俺は戸口の木肌へ手を当て、根へ繋がる補給の光まで含めて鑑定した。

 朝より、どれくらい元気になったのだろう。


 ――――――――――――――――――――

 対象:《天空樹》

 分類:移動型高位生命体/浮遊樹

 希少度:SSS

 状態:浮遊停泊/補給中

 正統継承者:真壁 遼


 補給接続:ナバホ補給基点《センター》と接続中

 エネルギー残量:回復/長距離飛行必要量に到達

 長距離飛行:停止/再開可能

 内部居住空間:維持中


 視覚偽装:解除/使用可能

 偽装操作:正統継承者が樹体へ接触し、開始を指示

 偽装範囲:外部から見た樹体の姿

 内部への影響:視認・居住機能を維持

 ――――――――――――――――――――


 「もう、飛べるくらいには回復してるみたいです」


 桐野が、窓の外へ張り出した太い枝を見た。


 「朝からずっと補給してたもんね。これだけ大きいと、もっとかかるのかと思ってた」


 「100年余り、溜め込んでおったからのう。受け取る側が戻れば、早いものじゃ」


 ミルは椅子の上で、白い尾を身体へ寄せた。

 天空樹のために用意されていたエネルギーが、ようやく天空樹へと戻っているのだ。

 移動できるなら、ここへ置きっぱなしにする心配は減る。


 「姿を隠す方も使えそうです。ミル、少し試してみますね」


 「うむ。中におるわしらは、そのままでよい」


 名取が地上の警備担当へ電話し、天空樹の姿を隠す機能を試すことを伝えてくれた。

 俺は戸口の木肌へ手を当てたまま、鑑定で読めたとおりに指示する。


 「外から見えないようにしてくれ」


 部屋の中は何も変わらず、窓も椅子も、俺が触っている木肌も見えている。

 窓の向こうでは、さっきと同じ枝が葉を広げていた。


 効いていないのかと思ったところで、名取のスマホから大きな声が聞こえた。

 名取は窓へ近づき、地上の相手へ何度か返事をする。


 「木の姿が消えたそうです。補給の光は見えてるのに、その先には何もないって」


 「こっちからは、普通に見えますけどね」


 「私たちも見えなくなってるんだ。外から見たら、どうなってるんだろ」


 桐野は窓から身を乗り出しかけて、下までの高さを見てやめた。

 ここは、まだ空の上だった。


 俺は木肌から手を離し、椅子に座っているミルへ向き直った。


 「それで、俺たちは次にニューヨークへ行くことになったんですけど」


 桐野が、俺へ振り向いた。


 「だったら、これでニューヨークまで行けばいいじゃん」


 「ああ、そうか」


 天空樹で飛んでいけるなら、わざわざ飛行機へ乗り換える必要もない。

 ニューヨークまで連れていってもらえれば、移動中もミルと一緒にいられる。


 そう考えた途端、頭の中に赤い大地が広がった。


 黒い球体を中心にした地形を、空の上から眺めている。

 少し離れたところには谷があり、その向こうにも乾いた土地が続いていた。

 今まで見ていた部屋は目の前にあるのに、それとは別に、地形の細かいところまで思い浮かべられる。


 「……何だ、これ」


 「どうしたの?」


 「頭の中に地図が出てきました。ゴーゴルアースみたいに、地形が立体で見えるんです」


 「地図? どこに?」


 桐野が近づいてきたが、地図は俺の頭の中にしかない。

 説明しながらもう少し遠くを見ようとすると、地図の中の黒い球体が小さくなった。

 赤い土地の外へ景色が広がり、大陸の形まで見渡せる。


 ニューヨーク、と思うと、今度は東の海岸へ地図が移った。

 そこを行き先に選べばいいらしい。

 指で画面を動かす必要すらなかった。


 「行きたい場所を選ぶと、そこまで運んでくれるみたいです」


 「えっ、自動で?」


 「たぶん。先に、この辺で少し動かしてみます」


 名取に地上への連絡を頼み、俺は地図の表示を現在地へ戻した。

 いきなり大陸を横切るより、止められるかを確かめたい。


 連絡がついたところで、補給をいったん終えるよう念じる。

 名取の電話へ、根に繋がっていた光が消えたという報告が返ってきた。


 右へ、少しだけ。


 窓の外で、遠くの岩山が左へ動いた。

 足元はほとんど揺れず、俺たちのいる部屋ごと横へ滑っている。

 停止を念じると景色の動きも止まり、下がれと考えれば、地面が近づいてきた。


 「本当に動いてる……」


 桐野が窓から外を覗き込んだ。

 俺も、さっきまでとは位置の変わった地上を見てから、元の高さへ戻す。


 「これ、ずっと操縦してなくてもいいんですよね?」


 「行き先さえ定めれば、あとは運んでくれる。エリアスも、その間に好きなことをしておったぞ」


 ミルは椅子に座ったまま答えた。

 昔から乗っていた側にとっては、珍しいことでもないらしい。


 大きさを考えると、もう少し難しくてもよさそうなものだ。

 俺が右だの左だの考えただけで、下にいる人たちが見上げていた天空樹全体が動いている。


 ひとまず停めて、名取に試運転を終えたことを伝えてもらった。

 次はニューヨーク側への連絡だ。


 「クロフォードに、これで行っても大丈夫か聞いてもらえますか。降りる場所も分からないので」


 「その話は、早めにしておいた方がよさそうですねー」


 名取が電話をかけ直し、俺の話を伝える。

 向こうの返事を聞いた名取は、こちらへスマホを向けた。


 『天空樹そのもので、ニューヨークへお越しになるのですか?』


 「はい。行き先を決めれば、飛んでいってくれるみたいなので」


 『……連盟が調べられずにいたものを、もう操縦できるのですか?』


 「はい。今、少し動かしてみました。止まるのも、高さを変えるのも、考えるだけでいいみたいです」


 『分かりました。ただ、施設へ直接来ていただくには大きすぎますね。郊外でお待ちいただける場所を確認します。そこからの車はこちらで手配しましょう』


 「助かります」


 普通の車で迎えに来てもらえると聞くと、ようやく知っている旅行の話になった。


 返事を待つ間、桐野はミルにニューヨークの写真を見せていた。

 高い建物の並ぶ街並みを前に、白い顔がスマホへ近づく。


 「これが次に行くところ。着いたら、少し見て回りたいんだよね」


 「随分と高いものを並べておるのう。このあたりは、歩けるのか?」


 「歩けるよ。気になる?」


 「うむ。近くで見てみたい」


 桐野が別の写真を開くと、ミルは画面に写ったものについて尋ね始めた。

 ずっとここで待っていたミルも、今は次に行く場所を楽しみにしている。


 俺も窓から離れ、2人が見ている写真を覗いた。

 頭の中の地図ではすぐに見つかった場所でも、実際に行くのは初めてだ。

 コンパスを見終わったあと、何をするか。

 そんなことを話しているうちに、名取のスマホが鳴った。


 クロフォードが知らせてきたのは、ニューヨーク郊外にある管理地の位置だった。

 上空で待機し、俺たちは昇降台で地上へ降りればいいという。


 名取から示された座標を思い浮かべると、脳内の地図が動き、街の中心から離れた土地へ表示が寄った。


 「場所、分かりました」


 目的地に指定しようとしたところで、名取に止められた。


 「待ってください。下にいる警護チームと支援チーム、それに荷物を先にどうにかします」


 言われてみれば、そのとおりだった。

 俺たちだけ出発すれば、ニューヨークへ行くために同行してくれた人たちを、今度はナバホへ置いていくことになる。


 「すいません。すぐ動かせるものだから、そのまま行ける気になってました」


 「そこまで普通の旅行みたいに扱えるの、真壁さんくらいですからねー」


 名取は地上へ電話をかけ直した。

 頭の中では、ニューヨーク郊外の地点が行き先の候補として残っている。

 だが出発する前に、人間の方の準備が必要みたいだった。

読んでいただきありがとうございます。

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