全層読破者
本日カクヨムのほうでサポーター専用SS 真壁夫妻は、息子の近況についていけない が公開されています!
※カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)
「鑑定なら、もう済んでます。エリアスさんが住んでいた木で、今は下の施設から補給を受けているところです」
運営担当者は、天空樹から地上へ続く青白い光を見た。
俺たちの後ろに浮いている木と、その下にある《センター》を結びつけて考えているようだ。
『《センター》が補給施設だというのは、このためだったのですか』
「はい。この木のためだったみたいです。中に部屋があって、昔はエリアスさんが乗って旅をしていたそうですよ」
通訳が話を伝えると、エリオットも集まった人たちへ説明を加えた。
『連盟の紋章に描かれた木は、これだったのです』
紋章をスマホに表示し、知人に画面を見せながら天空樹の枝を示す人まで現れた。
毎日のように見ている紋章でも、あの大きさの木が実在するとは思わないだろう。
そこから先は、また質問が増えた。
俺だけでは答えきれず、家の様子はエリオットが、帰ってきた時のことは玄斎たちが説明してくれる。
運営担当者の案内で星門館へ戻る間も、後ろからついてくる人は減らなかった。
◇
午後の閉会式は、順位式と同じ大講堂で行われた。
日本区画へ座ると、大型表示盤に天空樹の写真が映っていた。
門前から撮られたもので、空へ広がる枝葉と、地面に届かない根がよく見える。
保留になっていた俺の鑑定位についても、昼の間に七鏡座で協議されたそうだ。
壇上へ出てきたのは、議長のコンラート・ベルンハルトだった。
俺を会議室へ呼び、今までの鑑定について詳しく説明を求めてきた人だ。
『本日の順位式で、真壁遼氏は《千殻真球儀》の1000層から0層まで、全1001層、4004節を完全解読しました』
会場通訳が、その言葉を各国語へ伝えていく。
結局、俺の鑑定位はどうなるんだろう。
『球儀が残した測定結果は、全層読破。鑑定位は算定不能です。七鏡座はこの記録に基づき、真壁氏を従来の順位とは別に扱うことを決定しました』
写真が消え、大型表示盤に俺の名前が大きく映った。
ベルンハルトは、俺が座る日本区画へ顔を向ける。
『世界鑑定士連盟は、真壁遼氏を順位外の《全層読破者》として特別認定します』
英国区画でエリオットが立ち上がり、拍手を始めた。
ほかの区画からも拍手が重なり、すり鉢状の客席を上へ広がっていく。
玄斎も、宗一郎も、俺の隣で手を叩いていた。
「真壁さん、立って」
桐野に促されて立ち上がると、思っていたよりずっと多くの人がこちらを見ていた。
俺は頭を下げたが、拍手はまだ続いている。
顔を上げると、反対側の客席でも何人もの人が立っていた。
学会への招待状を持ってこられた時は、俺が呼ばれても困ると思っていた。
論文を書いたこともないし、こういう場所で発表できるような話があるとも思えなかったのだ。
その俺のために、世界中から来た鑑定士たちが立って拍手をしている。
悪い気はしない。
ただ、ようやく腰を下ろせた時には、顔が熱くなっていた。
ベルンハルトの話は、それで終わりではなかった。
『さらに真壁氏は、我々が測定結果を検討している間に、創始者エリアス・ヴェインの遺産を発見し、ナバホへ帰還させました』
大型表示盤に、再び天空樹の写真が映る。
客席から、今度は笑い交じりの声が上がった。
順位の話が終わる前に、あんな大きなものを持って帰ってきたのだから、笑いたくもなるのだろう。
俺としては、レンズが示した先へ行って、補給が必要な木を元の場所へ戻したつもりだった。
それを学会の成果として紹介されると、どうにも落ち着かない。
『長く失われていた創始者の遺産が、鑑定士の手によって再びこの世界へ戻りました。今回の学会を、その発見とともに記録に残します』
ベルンハルトは、参加者たちへ礼をした。
閉会を告げる言葉が訳され、大講堂にもう1度拍手が起こる。
◇
日本区画を出る前に、エリオットがやって来た。
通訳もそばに残り、俺たちの話をつないでくれる。
『おめでとうございます、真壁氏。私にとっても、忘れられない学会になりました』
「ありがとうございます。最後まで、色々とお世話になりました」
『こちらこそ。あなたが来てくれなければ、私はあの大樹を知らないままだったでしょう』
エリオットは、まだ表示盤に残っている木の写真を見た。
『曽祖父の遺した品は、ずっと調べてきました。ですが、あの部屋で聞いた話は、どの記録にもなかったものです』
「片づけない話とかですか?」
『ええ。あれには、少し困りました』
俺が笑うと、エリオットもつられて笑った。
あの時は、伝記と違いすぎる話を聞かされて、ずいぶん戸惑っていたからな。
『ですが、あの椅子に座って、使った道具をそのままにしていたのが、私の曽祖父なのですね。今日初めて、身近な人のように感じられました』
エリオットが、俺へ右手を差し出す。
『会わせてくださって、ありがとうございます』
俺はその手を握った。
遺産を受け取ったこととは別に、エリオットにも持ち帰れるものがあったのなら、来てよかった。
「また、話を聞きに行きましょう。ミルも、嬉しそうでしたから」
『はい。ぜひ、ご一緒させてください』
エリオットと別れたあとも、俺たちは何度も呼び止められた。
差し出される名刺の所属先を、通訳が説明してくれる。
名前を聞いても俺にはよく分からないのだが、隣にいる玄斎や宗一郎は知っているらしい。
『私どもの保管庫にも、長年用途が分からない品があります。ご都合がつく時に、見ていただけないでしょうか』
「今すぐは難しいですけど、まずは内容を送っていただければ」
そう答えると、相手は礼を言い、詳しい連絡は日本側へ入れると約束した。
ほかにも、研究中の魔道具について意見を聞きたいという人や、自分たちの施設へ招きたいという人がいる。
誰も、その場で俺の鑑定を試そうとはしなかった。
今日の仕事を見たうえで、今度は自分たちのところへ来てほしいと言う。
会議室で説明を繰り返していた時とは、ずいぶん違う。
「今度は、向こうがお主に会いに来る番じゃな」
玄斎は、俺が受け取った名刺を見ていた。
「こんなに来られても、俺は1人しかいませんよ」
「じゃから、頼む側も待つことを覚えねばならん」
玄斎がそう言うと、澪が口を挟んだ。
「私も、帰国後にお話を聞く約束は忘れていませんからね」
「覚えてますよ。澪さんも今日は200位上がったんですから、お祝いとかはしないんですか?」
「しますよ。でも、そのあとにあの木を見せられたんです。次に調べたいことが増えてしまいました」
200位上がった喜びに、次の研究を考える楽しさまで加わったようだった。
◇
玄斎たちと別れ、共用サロンまで戻って、ようやくソファに座れた。
名取も近くの椅子へ腰を下ろし、桐野が俺の隣へ座る。
「お疲れさま。これで学会は終わりね」
「長かった……。今度こそ、ゆっくり観光できますかね」
「ロンドンでは、少しは落ち着いてくれると助かるんだけど」
「観光に行くだけですよ」
「こっちにも、学会に出るだけだったでしょう?」
そう言われると、返しに困る。
珍しい物を見て、少し買い物もして、学会の用事を済ませるつもりだった。
気がつけば、空に浮かぶ家の持ち主になっている。
「学会で空飛ぶ家まで手に入れる人は、初めて見ましたねー」
名取は笑っているが、俺はあの木をどこへ持っていくかも、まだ決めていない。
今は《センター》で補給を続けてもらっている。
『つぎは ろんどん』
肩のシオから、俺だけに思念が届いた。
シオも、まだ行ったことのない場所を楽しみにしているらしい。
「そうだな。次はロンドンだ」
桐野がスマホで見せてくれた街の写真を、俺は隣から覗き込んだ。
「着いたら、まず何を見に行きます?」
学会も終わったし、あとはロンドンを楽しむだけだ。
……しかし何か1つ、忘れている気がする。
なんだっけ? とを思い返していると、桐野が声をかけてきた。
「どうしたの、真壁さん?」
「いや、なんかまだ、やらなきゃいけない用事があったような……」
「何かあったっけ?」
桐野も思い当たらないらしい。
俺はもう1度考えたが、結局、何も出てこなかった。
まあ、いいか。
皆様こんばんは。
夏の間に世界鑑定学会編終わらせる詐欺の小狐です。
世間は既に秋の風が吹いている頃でしょうか。
まずはここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この219話で世界鑑定学会編は終了となります。
159話から始まったこの学会編ですが、60話で終わるという当初の想定をはるかに超えたボリュームとなってしまいました。。。
この章は今までの展開から一転して終わりに向けた章として作った、いわば転換点の章とも言えます。
天空樹が出て、フロンティアコンパスが出て、伝説の探索者が出て、と今後のキーになりそうな単語がいっぱい出て来ましたが、次もそれに続いて多くの謎が明かされていく、そんな章となっています。
これまで以上にスピード感をもちつつ、進めてまいりますので、引き続きお楽しみいただけると嬉しいです。
そして前書きのところに記載していますが、とうとう真壁両親が登場します。
次章にも深く関わっており、本編の裏側を進むエピソードとなっております。
※見なくても本編には問題ない作りにはなっています。ただ、見たほうが面白さが増す作りになっております。
一旦、いつもの間章を挟んで次章へすすみますので、引き続き応援よろしくお願いいたします。




