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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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天空樹の帰還③

 地上の大きな影を見ているうちに、もう1つ気になることが出てきた。


 「……これ、どうやって降りるんだ?」


 今いる踊り場から下を覗いても、赤い地面までは相当な高さがある。

 来た時は暗い通路を歩いて木の根元へ着いたのに、今はその根元まで宙に浮いているのだ。


 「真壁さん。あっち、人が増えてない?」


 桐野が、星門館の門がある方を示した。

 門前に小さな人影が集まり、その後ろからも次々と出てきている。

 離れているので顔までは見えないが、どうもこちらを見上げているらしい。


 「ああ……結構な人数になってるな」


 「まだ出てきてるわよ」


 「降りたら説明しないとな」


 その降り方が、まだ分からない。

 俺が戸口の方へ振り返ると、ミルが外の様子を眺めていた。


 「そういえば、偽装が解除されたままじゃな」


 「これ、隠せるんですか?」


 「うむ。この者の姿を、周囲から見えぬようにできる」


 俺は頭上へ広がる枝を見た。

 これが丸ごと見えなくなるなら、地上からは青空しか見えないことになる。


 「エリアスも、そうやって移動してたんですか?」


 「そうじゃ。こんなものが空を飛んでおれば、行く先々で騒ぎになる。わざわざ姿を見せて回ることもなかろう」


 ナバホへ戻しただけであの人だかりなのだから、町の上を通るたびに見つかっていては、落ち着いて暮らせそうにない。


 「それ、戻す前に聞きたかったです」


 「わしも、外へ戻れたのが嬉しくての」


 そう言われると、責めにくかった。

 俺も補給できるかどうかに気を取られていたし、ミルはここで100年以上も待っていたのだ。


 昔は姿を隠して空を飛び、エリアスが亡くなった後は、木ごと異界へ退避していた。

 これだけのものが今まで知られていなかったのも、それなら納得できる。

 ただ、もう大勢に見られている。

 姿を隠す前に、地上へ事情を伝えておこう。


 ミルは、戸口のそばにいるエリオットへ話しかけた。


 「お主の家にも、この木のことは伝わっておらなんだか?」


 エリオットが英語で答え、通訳が俺たちへ伝えてくれる。


 『レンズと、ナバホの地名、星門館の古い見取り図は残っていました。しかし、空を飛ぶ木についての記録はありませんでした』


 『ご家族の間にも、そうした話はなかったのですか?』


 ヘルガの問いにも、エリオットは頷いた。


 『ええ。少なくとも、私が聞いたことはありません。旅先から持ち帰った品の話はあっても、こんな大樹で旅をしていたとは……』


 エリオットは、開いた扉の向こうにある古い椅子を見た。


 『遺された品は調べてきたつもりでした。曾祖父が、その品をどこへ持ち帰っていたのかまでは、考えたことがありませんでした』


 持ち帰った品の方は記録に残っていて、家の方が知られていなかったのか。

 祖先の遺品を調べていても、まさか頭の上を飛ぶ木の中で暮らしていたとは思わないだろう。


 ミルは部屋の中を見てから、俺へ向き直った。


 「さて、降りるのじゃろう。こちらへ来い」


 案内されたのは、幹に沿って踊り場を回り込んだ先だった。

 木の柵で囲まれた広い床があり、入口のところだけが開いている。

 さっきの踊り場と同じ木肌で、言われなければ区別がつかない。


 「昔も、地上へ出る時はここを使っておった」


 俺は床と、その奥で幹につながっている部分へ鑑定を通した。


 ――――――――――――――――――――

 対象:《天空樹》乗降用昇降台

 状態:待機/使用可能

 現在位置:中層居住区

 移動先:地上乗降位置


 操作権者:真壁 遼

 操作方法:昇降台への接触/移動指示

 乗降機能:浮遊停泊・補給中も使用可能

 ――――――――――――――――――――


 「エレベーターみたいなものですね。これで降りられます」


 エリオットも、床と幹のつなぎ目を調べていた。


 『私には、木の床としか読めません。動かす方法まで読めたのですか?』


 「はい。床に触れて、降りるように指示すればいいそうです。補給中でも使えるって出てます」


 『帰還させて、補給を始めて、今度は乗り降りまで。真壁氏には、もう普通の住まいになりつつあるのですね』


 「いや、まだ帰り方を調べただけですけど」


 俺にとっては、ようやく地上へ戻れるという話だ。

 ここに住むかどうかを考えるには、知らないことが多すぎる。


 名取はスマホで地上へ連絡を取っていた。

 英語で話す声の合間に、俺の名前とエリオットの名前が聞こえる。


 「警備側へ伝わりました。降りたところで案内してくれるそうです」


 「ありがとうございます。ミルはどうします?」


 「わしは、ここで少し休んでおる。久しぶりの外は、眩しくていかん」


 ミルは白い尾を揺らし、部屋の方へ戻っていった。

 俺たちは昇降台へ移り、名取が最後に乗った。

 俺はシオを揺らさないようにしゃがみ、床へ右手を当てた。


 「地上へ降ろしてくれ」


 床が幹から離れて下がり始め、俺は思わず柵をつかんだ。

 揺れはほとんどなく、さっきまで横にあった踊り場が上へ遠ざかり、幹の木肌が目の前を流れていく。


 枝葉の陰を抜けると、地上から伸びる青白い光が見えた。

 俺たちを乗せた床は、補給の光と根の間を通って降りていく。

 頭上に巨木を残したまま、小さかった地面の石が1つずつ見えるようになった。


 地上では、連絡を受けた米軍の兵士たちが待っていた。

 床が止まり、俺は赤い地面へ足を下ろす。

 靴底で砂が鳴っただけなのに、ひどく安心した。


 名取が兵士と話し、俺たちはその案内で星門館の門前へ向かった。

 近づくにつれて、集まっている人たちの声が聞こえてくる。

 木を撮っていた人が俺たちに気づき、近くの人へ何かを伝えていた。


 『ヴェイン氏!』


 参加者の間から、連盟の運営担当者が出てきた。

 通訳も足を止め、俺たちへその言葉を伝える。


 『皆さん、あの木から降りてこられたのですか。一体、何があったのです?』


 エリオットはすぐには答えず、背後の天空樹を見上げた。

 運営担当者が返事を待つ間にも、近くの参加者たちが俺たちの周りへ集まってくる。

 周囲の話し声が収まったところで、エリオットはその人たちへ向き直った。


 『あれは、曽祖父が遺した《天空樹》です。見つけて、ここへ戻したのは真壁氏です』


 エリオットの言葉を聞いた人たちが、今度は俺の方を向いた。


 通訳が言い終わる前から、俺の名前を呼ぶ声が増えていた。

 遠くの枝葉を撮っていたスマホまで、こちらへ向けられる。


 『真壁氏に、あれを鑑定していただこうと、所在を確認させていたところなのですが……』


 運営担当者の言葉を聞いて桐野を見ると、困ったように笑っていた。


 降りてきたところへ、今いた木の鑑定依頼が待っていた。

 俺はまだ、地面に戻れてほっとしていたところなんだけど。

読んでいただきありがとうございます。

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