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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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209/240

二枚で一つ

 最後の殻が開き切っても、古いレンズは《千殻真球儀》の中心に残っていた。

 曇ったガラスを銀色の縁が囲んでいる。

 球儀の外殻との間には手を入れられるほどの空間ができていたが、俺は手を置いた位置から動かさなかった。


 ……えっ、これ、俺が壊した?

 何もしていないと言いたいが、普通とは違う読み方をした直後なので、まったく自信がない。


 進行役が一歩近づきかけ、運営用イヤホンへ手を添える。

 そのまま足を止め、機器管理席からの返答を待った。


 国別区画から上がっていた声も、すぐには戻ってこない。

 大型表示盤には「鑑定位:算定不能」が残り、その下に、形を変えた球儀の映像が映されていた。


 やがて進行役が小さくうなずいた。


 「《千殻真球儀》本体に破損はありません。外殻の展開は、全節完全解読を条件とする正規の動作です」


 案内が会場通訳を介して各国区画へ伝わる。

 止まっていた話し声が戻り、今度は開いた球儀と中心のレンズについて、通訳や随行員へ尋ねる者が増えた。


 正規の動作なら、俺が壊したわけではないようだ。

 そこは少し安心した。


 進行役は運営から次の指示を受けると、俺へ向き直った。


 「ま、真壁さん。安全が確認されるまで、中心の物品には触れないでください。ち、ちなみになんですが、その位置から、接触せずに鑑定することは可能でしょうか」


 「えっと……もう鑑定結果は出ています」


 「えっ? もう、ですか??」


 進行役は、俺が中心のレンズへ触れていないことを確認し、機器管理席へ報告した。

 触れてはいないが、球儀の一部として鑑定を通した時点で、新しく現れたレンズまで対象に含まれている。


 ――――――――――――――――――――

 対象:《導きのレンズ・主鏡》

 分類:神秘系統魔道具/探索補助具

 希少度:SSS

 由来:エリアス・ヴェインが探索中のダンジョンで、対となる2枚を入手したドロップ品

 所有者:エリアス・ヴェイン

 状態:正常

 機能:取得した座標・方位・経路情報を統合し、使用者の探索目的に沿う経路像へ変換する。

 連動対象:《導きのレンズ・導鏡》

 潜在用途:算定不能

 推定価値:算定不能

 備考:2枚の導きを交差させよ。

 ――――――――――――――――――――


 SSS級。

 潜在用途も推定価値も算定不能だが、何をする道具なのかは読める。

 朝食の席で鑑定した《導きのレンズ》も、同じ希少度と評価だった。

 片方だけでも各国政府や大手クランが欲しがる品なのに、その対になる1枚が、世界鑑定士連盟の最重要儀器へ隠されていたようだ

。

 主鏡は、0層の座標だけを映すための道具ではない。

 座標や方位、経路情報を1つにまとめ、使う人が目指す場所へ続く道を像に変えるらしい。

 0層で読んだ暗号化座標も、その材料の1つということだろう。


 第4節にあった「我が目」という言葉も、これなら意味が通る。

 何かの能力を受け継げという話ではなく、エリアスが球儀の中心へ残した主鏡を使えという指示と考えてよいだろう。


 「《導きのレンズ・導鏡》……?」


 その呼び方で、朝食の席にエリオットが持ってきた家伝品を思い出した。


 「ああ、あれか……」


 曇ったガラスを銀色の縁が囲む形も、球儀の中心にある主鏡とよく似ている。


 あちらの鑑定表示では、《導きのレンズ》としか出ていなかった。

 だが、主鏡の連動対象には《導きのレンズ・導鏡》と、もっと細かな名前が書かれている。

 備考の「2枚の導きを交差させよ」という一文も、この2枚を指しているはずだ。


 あの家伝品に残っていた過去の記録を追って、俺は《千殻真球儀》を鑑定した。

 その結果、0層を開いて主鏡を見つけている。

 先に見つけた導鏡が、名前の通り、対になる主鏡まで俺を導いたことになる。


 俺の位置からは、エリオットがどの国別区画にいるのか分からない。

 あのレンズが今も会場にあるなら、ここで確かめたほうが早い。


 「エリオットさん、まだいますよね?」


 「エリオット・ヴェイン氏、ですか?」


 「はい。前に見せてもらった物を、今日も持っているか知りたいんです」


 進行役は質問の理由を求めた。


 「これは、エリアス・ヴェインの遺産です」


 「それで、エリオットさんが持っている物と対になっているみたいなので、ちょっと、こっちまで来てもらえますか?」



◇



 進行役は中央マイクを使い、真壁の鑑定結果を会場へ伝えた。

 球儀の中心から現れた物は、エリアス・ヴェインが残した遺産であること。

 そして、エリオットの家伝品と対になっている可能性があることだけが、会場通訳を介して各国区画へ広がっていく。


 英国区画では、立ったまま大型表示盤を見ていたエリオットが、上着の内側を押さえた。

 革紐の先にある硬い感触を確かめてから、区画通訳へ答える。


 『持っています。ここに』


 家伝の手帳にも、祖先からの口伝にも、主鏡や導鏡という呼び分けは残っていなかった。

 エリオット自身、レンズが2枚で使う物だとは、今この場で初めて知らされている。

 それでも、球儀の中心に現れた品と、上着の内側にある家伝品は、曇ったガラスも銀色の縁もよく似ていた。


 返答は英国区画の随行員から連盟運営へ回り、進行役のイヤホンへ届いた。

 携行しているのが、先ほどまで話題になっていたヴェイン家の家伝品だと確認される。


 「エリオット・ヴェイン氏より、該当する家伝品を現在お持ちとの回答がありました」


 進行役の案内が訳されると、各国区画の随行員が相次いで本国への報告を更新した。

 連盟運営は球儀から出た遺産の安全確認と、エリオットの私有品の扱いを分けて相談し始める。



 ◇



 日本区画では、桐野が中央のレンズを指した。


 「エリオットが朝食の席で出した、あのレンズよね」


 「はい。真壁さんが鑑定した物です」


 名取の答えを聞き、澪が大型表示盤へ顔を向けたまま尋ねる。


 「真壁さん、球儀の中から出てきた物を見る前に、もう片方を鑑定していたんですか?」


 「そうなりますね。あの時は、片方だとは分かっていませんでしたけど」


 玄斎は開いた球儀と、英国区画で上着を押さえるエリオットを見た。


 「小僧は、片方に導かれて、もう片方を見つけたことになるのか」


 「では、エリオット氏も、もう一枚が存在するとは知らなかったのでしょうか」


 家伝品として守られてきたSSS級魔道具が、世界鑑定士連盟の最重要儀器の中身と対になっていた。

 宗一郎の疑問へ、名取が答えた。


 「知っていたのなら、用途の分からない家伝品として真壁さんへ鑑定を頼む必要はありませんからね」


 その答えを聞き、宗一郎はようやく椅子へ腰を戻した。

 シオは専用スマートフォンへ何も入力せず、机に置いたまま中央を見ていた。


 進行役は運営との確認を終え、英国区画へ向けて告げる。


 「ヴェイン氏。ご同意いただけるのであれば、家伝品をお持ちのまま中央までお越しいただき、外観と鑑定結果を照合させていただけますか」


 会場通訳が伝えると、エリオットは上着の内側から革紐を引き出した。

 曇った小さなレンズを掌へ載せ、銀色の縁が見えるように持ち上げる。


 『分かりました』


 連盟職員が英国区画から中央までの通路を空けた。

 エリオットはレンズを預けず、革紐と本体を両手で支えたまま歩き始める。


 その姿を見たヘルガは、以前、星門館の古い回廊で見た物と同じレンズだと気づいた。

 あの時、エリオットが誰にも説明しなかった家伝品が、今は大講堂中の視線を集めている。


 各国区画の鑑定士は中央へ向かうエリオットを撮影し、本国へ新しい情報を送る。

 先ほどまで真壁の鑑定位を問い合わせていた連絡網へ、今度はエリアスの遺産とエリオットの家伝品が同じ場所にそろうという報告が流れた。


 エリオットは測定台の一歩手前で止められた。

 開いた《千殻真球儀》の中心には主鏡が残り、手元にはヴェイン家のレンズがある。


 『これです。以前、あなたに鑑定していただいた物は』


 通訳された言葉を聞き、真壁がレンズへ鑑定を通した。

 表示は、以前より詳しい名称へ変わっている。


 対象:《導きのレンズ・導鏡》


 「たぶん、その二枚で一つみたいです」

読んでいただきありがとうございます。

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