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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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算定不能

 大型表示盤には、まだ0層の数字が残っていた。


 ――――――――――――――――――――

 現在到達層:0層 …………

 ――――――――――――――――――――


 国別区画では話し声が重なっているが、各国語の内容までは俺に届かない。

 進行役も0層については説明せず、運営からの回答を待っていた。


 やがて、進行役が運営用の連絡を受けた。


 「確認が取れました。《千殻真球儀》本体と内部記録に異常はありません。正式測定は継続中です」


 その回答が会場通訳へ回り、各国語へ変換されていく。

 0層が故障による誤表示ではなく、球儀が出した正式な続きだというところまでは確認できたらしい。


 ――――――――――――――――――――

 現在到達層:0層

 現在到達節:第1節

 ――――――――――――――――――――


 《千殻真球儀》の表面に現れた古い刻文が、俺の読める日本語へ変わる。

 大型表示盤にも同じ文章が映し出され、会場通訳が翻訳を始めた。


 ――――――――――――――――――――

 《千殻真球儀・0層固定刻文》


 見えることを誇るな。

 見えたものを、己の都合で曲げるな。


 鑑定士とは、価値を告げる者ではない。

 沈黙するものの真実を見抜き、

 その真実に責任を負う者である。


 この核へ届いた者よ。

 我らが遺したものを求めよ。


 まずは、道なき場所で進むべき先を示し、

 帰るべき場所へ導く灯を手にせよ。


 記録者:エリアス・ヴェイン

 ――――――――――――――――――――


 《導きのレンズ》に追加された、千殻真球儀の深淵を暴き見ろという一文は、この中心核を指していたのだろう。


 俺は《千殻真球儀》に触れたまま、第1節へさらに深く鑑定を通していく。

 表面に現れた日本語を目で追うだけではない。

 刻文を構成する意味を一つずつ拾い、言葉の奥に込められた意図まで読み取っていく。


 エリアスが残したのは、鑑定士としての心構えだけではなかった。

 灯が何を指すのかは、まだ分からない。

 それでも、次に探すべきものを示しているのは分かった。


 記録者名を含め、第1節の意味を最後まで読み切ると、《千殻真球儀》が俺の解釈を正しいと判定した。

 大型表示盤の到達節が第2節へ進む。


 第2節に現れたのは、文章として読める刻文ではなかった。

 長さも区切りも違う意味のまとまりが、複数の列になって球体表面を巡っている。

 会場通訳からは、言語として翻訳できないという案内だけが流れた。


 第2節だけを見ても、何を示す列なのかは決められない。

 ただ、隣り合う単位の関係は、場所を表す座標に近かった。

 続く第3節へ鑑定を通すと、第2節の暗号を読み解くための規則が刻まれていた。

 2つを合わせて読むと、暗号列がひとつの座標として繋がる。

 示されているのは、次元の隙間に存在する隔離空間だった。


 ――――――――――――――――――――

 対象:《千殻真球儀・0層》

 分類:中心核/固定刻文

 状態:正式測定中

 刻文構成:全4節

 第1節:創始者理念

 第2節:暗号化隔離座標

 第3節:座標復号鍵

 未解読領域:第4節

 ――――――――――――――――――――


 座標は読み取れた。

 だが、座標が分かることと、そこへ行けることは別だ。

 第2節と第3節には、移動方法までは刻まれていなかった。


 《千殻真球儀》は第2節と第3節も正しいと判定し、大型表示盤を第4節へ進めた。

 最後の固定刻文は、それまでの3節を完全に読んだことで開いたみたいだった。


 第4節へ鑑定を通すと、球体表面に古い刻文が現れた。

 第1節とは違い、大型表示盤には文章が映らない。

 俺の鑑定にだけ、日本語の意味が重なった。




 ―――《第4節・継承刻文》―――


 後を継ぎし者よ。

 ここに、我が目を残す。

 これをもって、我らが遺したものを見定めよ。

 次代を、汝の目に託す。


 エリアス・ヴェイン


 ――――――――――





 署名を含めて意味を読み切ると、《千殻真球儀》が第4節を正しいと判定した。

 球体表面の刻文が消え、大型表示盤が最終結果へ切り替わった。


 ――――――――――――――――――――

 測定対象:真壁遼

 到達層:0層

 到達節:第4節

 解読状態:全節完全解読

 総解読数:全1001層/全4004節

 測定結果:全層読破

 鑑定位:算定不能

 ――――――――――――――――――――


 順位は出なかった。

 だが、球儀にあった情報は全部読み終え、測定結果も表示されている。

 鑑定位の扱いは運営が後で決めるとして、測定自体は終わりを告げていた。



 ◇



 大型表示盤に算定不能と出た直後、大講堂の話し声が途切れた。

 少し間を置いたあとすぐに意味を受け止めた国別区画から、各国語の質問が続けて上がった。


 随行員たちは公的な測定結果の画面を保存し、真壁遼の氏名、0層第4節、全層読破、算定不能という4項目を本国の鑑定機関へ送る。

 別の区画では、0層の過去記録を照会する者と、既存の順位表へ登録できるのかを連盟職員へ尋ねる者が同時に動いていた。


 会場通訳と各国付きの通訳にも、質問が集中する。

 算定不能は測定失敗なのか、1位より上なら0位ではないのか、過去に0層へ到達した記録はあるのか。

 通訳を介した確認が進行席へ集まったため、進行役は運営から届いた回答だけを会場へ伝えた。


 「繰り返します。《千殻真球儀》は正常に測定を完了し、内部記録へ結果を保存しています。鑑定位の扱いは、この場では決定できません」


 連盟運営では、担当者が球儀本体の表示と内部記録を突き合わせ、大型表示盤の中継記録とも一致するか調べていた。

 日本区画でも、名取と真壁専属支援チームの女性担当者が、共有された3系統の記録を確認する。


 「球儀本体、内部記録、大型表示盤は、すべて同じ結果です。未読、誤読、判定保留は1件もありません」


 澪が、支援チームの女性担当者へ問い返す。


 「全部って……1001層、4004節を、本当に全部ですか?」


 「そのようです。途中まで到達したという記録ではありません。全節完全解読です」


 宗一郎も大型表示盤を見上げた。


 「そんな測定結果は、これまで一度も……」


 その先は言葉にならなかった。

 玄斎も険しい顔で表示を見据えていた。


 「あるはずがない。誰一人として、0層へ届いたことすらなかったのじゃ。それを、あの小僧は一節も残さず読み切りおった」


 「やっぱり、全部読んじゃいましたねぇ」


 「やっぱりって何ですか!?」


 「だって、真壁さんですからねー」


 名取は驚いてこそいたが、その声には妙な納得も混じっている。

 額へ手を当て、小さく息をついた。


 「途中で、順番に読むのが面倒だと言い出した時点で、普通の結果にはならないと思っていました」


 澪たちの前に置かれたシオ専用のスマートフォンへ、一文が浮かぶ。


 『あいつ やったぞ』


 「シオまで……」


 「納得しているわけではありません。慣れているだけです」


 名取の言葉を、桐野も否定しなかった。

 一方、御厨家の3人は、表示された数字をまだ受け止め切れていない。


 玄斎は、なぜ算定不能になったのかを現行制度から説明する。


 「これまでの鑑定位は、《千殻真球儀》を途中まで読めた者同士へ付けた順位じゃ。すべて読み終えた者に置く数字など、制度の中に用意されておらん」


 「では、真壁さんは0位という扱いになるのでしょうか」


 宗一郎と同じ疑問は、すでに複数の国別区画から進行席へ届いていた。

 その要望を受けた進行役は、表示は0位ではなく算定不能であり、新しい鑑定位をこの場では決定できないと改めて案内する。


 進行役の案内が会場通訳を通じて各国区画へ伝わっても、エリオットは大型表示盤から目を離さなかった。

 <真壁遼>の暫定鑑定位が56位を越えた時に席を立ってから、一度も座っていない。

 自分の記録を越えられた時には、随行員の言葉にも反応していた。

 だが、エリアス・ヴェインの名が公開されてからは、祖先の名と真壁と言う名の測定結果が並ぶ表示を見たまま、声をかけられても返答が遅れるようになっていた。



 ◇



 各国区画が本国との連絡を続け、連盟運営が正式記録を照合する中、俺は中央の測定台に立っていた。

 世界規模の騒ぎの中心にいる当人だけが、第4節で読んだ言葉を考えている。


 「次代を託す……?」


 俺は誰に聞かせるでもなくつぶやき、首を傾げた。

 その声は大講堂の騒ぎに紛れ、日本区画までは届かない。


 俺が首を傾げたことが、合図だったわけではない。

 全1001層、全4004節の完全解読を内部記録へ保存した《千殻真球儀》が、あらかじめ組み込まれていた解放機構を動かした。


 進行役が変化を運営へ伝え、機器状態の確認を求めている間にも、球体を構成する殻が外側から順に剥がれるように開き始めた。


 破損ではない。

 開いた殻は球体へ繋がったまま周囲へ退き、その内側にあった殻の継ぎ目を露出させる。

 1つ開くたび、次の殻が同じ動きで中心への道を空けていった。


 各国区画から上がっていた声が、再び途切れる。

 俺も手を置いたまま、形を変えていく《千殻真球儀》を見つめた。


 最後の殻が開き、《千殻真球儀》の中心から、一枚の古いレンズが姿を現した。

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