真壁式鑑定
しばらくして、進行役に運営からの回答が届いた。
「お待たせしました。運営からの回答をお伝えします」
読み方の正誤は、運営が事前に決めるものではないらしい。
測定の判定を担うのは、あくまでも目の前の《千殻真球儀》だ。
「《千殻真球儀》が到達点と解釈の正誤を判定し、測定を継続できる限り、その結果を正式な測定記録として扱います」
進行役の回答は、会場通訳を介して各国区画へも届いている。
順番どおりでなくても、球儀が正しいと判定できれば問題はないようだ。
「念のため、もう一度確認しますが、途中の層を読まず、最深部へ直接鑑定を通す、という意味でしょうか」
「いや、飛ばすわけじゃないです。全部まとめて読めないかなと思って」
会場通訳が俺の返事を各国語へ変えていく。
翻訳が届いた区画から、また話し声が増えた。
飛ばすよりも、全部まとめて読むという説明の方が分かりにくかったらしい。
進行役も、1000層をどうやってまとめて読むのかまでは分かっていない。
それでも、運営から届いた回答に従い、測定の続行を案内した。
「《千殻真球儀》の判定が続く限り、測定を続けていただいて構いません」
「じゃあ、これ。全部まとめて見ていいですか?」
俺が《千殻真球儀》に手を置くと、進行役はすぐに答えなかった。
それから、もう1度《千殻真球儀》の判定が前提になると伝えた。
「……《千殻真球儀》が測定を続けるのであれば、どうぞ」
もともと、1000個の別々の物を読んでいたわけではない。
第1節の識別情報も、第2節の状態も、第3節の成り立ちも、第4節の作用も、同じ殻について書かれていた。
その殻も、全部が同じ球体の外側から内側へ続いている。
同じ物を1層ずつ切り離して読むから、時間がかかって疲れる。
最初から1個の球体なら、1個として見ればいい。
一度止めた鑑定を、《千殻真球儀》全体へ通した。
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対象:《千殻真球儀》
分類:鑑定深度測定用魔道具
状態:正式測定中
構造:外殻1000層/中心核
測定対象範囲:球体全体
解読状況:1000層から1層まで、全4000節完全解読
未解読領域:中心核
備考:各層は独立した対象ではなく、同一の核から形成された一つの球体構造である。
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鑑定で確かめた範囲では、1000層から1層までの情報は全部つながっていた。
まだ読んでいないのは、中心核だけだ。
《導きのレンズ》の備考には、千殻真球儀の深淵を暴き見ろと書かれていた。
エリアスが示したのは、この中心核なのかもしれない。
その内容へ鑑定を進める前に、《千殻真球儀》の表面を覆う刻文が一斉に切り替わった。
俺の鑑定に反応し、球儀が自動判定を再開する。
止まっていた大型表示盤の数字も、再び動き始めた。
◇
日本区画では、シオが『あいつ やるぞ』と表示した専用スマートフォンをまだ一同へ向けていた。
大型表示盤の更新が再開すると、一同は動き始めた数字を追った。
到達層が短い間隔で下がり、到達節は第1節から第4節まで何度も切り替わっていく。
1層ごとの表示を追える速さではない。
「飛ばしてない。層を飛ばしたのなら、暫定鑑定位がこんなに上がり続けるはずがない。少なくとも球儀は、途中も全部読めていると判定してる」
「あの小僧。1000層を別々の問いとして読んでおらん」
宗一郎は、玄斎の言葉を受けて尋ねた。
「では、真壁さんは何を読んでいるのですか?」
「《千殻真球儀》そのものを1個の対象として、鑑定へ入れおったのじゃろう」
名取は手元の進行情報から、球儀が記録している途中結果を確認した。
「未読扱いになった節は、1つもないですねー」
「大型表示盤の不具合でもありません。球儀本体の内部記録にも、同じ判定が積み上がっています」
真壁専属支援チームの女性担当者が読み上げている間にも、暫定鑑定位は上がり続けた。
やがて、大型表示盤の暫定鑑定位が、玄斎の83位の記録より上へ入った。
「……公の数字でも、わしを越えおったか」
玄斎は真壁の実力を早くから認めていた。
それでも、世界共通の測定結果で自分の鑑定位を越えたのは、これが初めてだ。
日本区画が玄斎の83位突破を受け止める前に、大型表示盤の数字はさらに動いた。
「まだ止まらない……」
エリオット・ヴェインの56位は、現在の《千殻真球儀》による最高記録だ。
その56位を、真壁の暫定鑑定位が越えた。
エリオットが、自国の国別区画で席を立つ。
他の区画からも話し声が上がり、大講堂全体が大きなどよめきに包まれた。
現在の世界最高記録を越えても、測定は終わらない。
大型表示盤の到達層は10層を通過し、9層から8層へさらに内側へ進んでいく。
各国区画の話し声が減り、大型表示盤の数字だけが動き続けた。
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現在到達層:1層
現在到達節:第1節
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《千殻真球儀》の最深部は1層だと、その場にいる鑑定士たちは考えていた。
残っているのは、1層の4つの節だけのはずだった。
到達節の表示が、第2節から第3節へ進む。
そして、第4節へ切り替わった。
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現在到達層:1層
現在到達節:第4節
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1層第4節の解釈が正解と判定された。
これで1000層から1層までの全4000節が、球儀の内部記録で完全解読としてそろう。
進行役は、測定終了の表示へ切り替わるのを待った。
日本区画でも、名取が手元の進行情報を確かめている。
しかし、大型表示盤に測定終了は出なかった。
《千殻真球儀》の表面から、測定ごとに切り替わっていた《等価刻文》が消える。
代わりに現れたのは、これまでと並び方の違う、古い刻文だった。
古い刻文が何を示すのか、会場が確かめる前に、大型表示盤の到達層が更新された。
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現在到達層:0層
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「……0層じゃと?」
「待って。1層が最深部でしょ。0層なんて、どこにあったの?」
澪の問いに、玄斎もすぐには答えなかった。
他の国別区画でも、鑑定士たちが大型表示盤の0を示し、随行員や通訳へ説明を求めている。
各国語の話し声が重なり、大講堂のざわめきが一気に広がった。
進行役は運営へ確認を求めたが、回答はまだ届かない。
運営の回答を待つ間も、大型表示盤には同じ数字が残っていた。
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現在到達層:0層 …………
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