昨日までの鑑定位
2度目の呼び出しが終わっても、その人物は席を立たなかった。
大型表示盤には、名前が残ったままだ。
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マルコ・ベルティーニ(イタリア)は、残留再測定の対象です。
マルコ・ベルティーニの再計算前の鑑定位は1000位でした。
マルコ・ベルティーニの現在の順位は圏外です。
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イタリア区画では、白髪の混じった男を囲むように随行員が座っている。
誰も彼を急かさないまま、3度目の呼び出しを待っていた。
会場の中央では、進行役も次の案内へ移らずにいる。
国ごとに区切られた客席から話し声は消え、通訳用のイヤホンを外す者もいなかった。
新しい鑑定位保持者が生まれた直後に、昨日までの保持者が席から立てなくなっている。
澪が言っていた順位式の悪趣味さを、俺もようやく実感した。
その前に、マルコが隣の通訳へ顔を寄せた。
日本区画まで、その声は届かない。
「……受けなければ、どうなる」
通訳は座席の連絡機で進行席へ確認し、返ってきた答えをマルコへ伝えた。
「残留再測定は強制ではありません。ただし、辞退した場合は現在の順位再計算が最終結果となります。その場合も、鑑定位は失われます」
返答を聞いたマルコは、前の席へ手をかけて立ち上がった。
随行員たちは声をかけず、中央へ続く通路を空ける。
大講堂の観客全員が見ている中を、マルコは1人で測定台まで歩いた。
客席から中央までは、普通に歩けば1分もかからない距離だ。
それでも、マルコが《千殻真球儀》の前へ着くまで、進行役以外は誰も話さなかった。
「それでは、残留再測定を開始します」
進行役の案内に従い、マルコが《千殻真球儀》へ鑑定を通した。
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マルコ・ベルティーニの残留再測定を開始します。
マルコ・ベルティーニの現在の順位は圏外です。
《千殻真球儀》は、マルコ・ベルティーニが1000位以内に残留できるかを測定しています。
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大型表示盤の数字が更新されていく。
今回は希望再測定の時と違い、会場から声は上がらない。
やがて、数字の更新が遅くなった。
何度か切り替わったあと、その動きが止まる。
直後、大型表示盤へ比較結果が加わる。
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マルコ・ベルティーニは、前回記録に到達できませんでした。
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前年に読めていたところまで、今回は届いていない。
イタリア区画の随行員からも声は上がらなかった。
測定が終わり、順位の再計算が始まる。
前回記録に到達できなかったという表示は残ったままだった。
その下へ、順位結果が追加された。
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マルコ・ベルティーニは、前回記録に到達できませんでした。
マルコ・ベルティーニの今回の順位は圏外となり、1000位以内への残留は成立しませんでした。
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「前回の記録にも届かなかったんですね」
「はい。前年に1000位を取った時より、今回は手前で止まっています」
名取の説明と同時に、進行役が最終結果を告げる。
「残留判定は不成立です。世界鑑定士連盟は、マルコ・ベルティーニ氏の鑑定位剥奪を確定します」
進行役が読み上げたのは、測定結果ではなく、世界鑑定士連盟としての決定だった。
大型表示盤が、連盟の決定へ切り替わった。
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世界鑑定士連盟は、マルコ・ベルティーニの鑑定位剥奪を確定しました。
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マルコは《千殻真球儀》の前に立ったまま、表示を見ていた。
連盟職員が退出経路を案内しても、すぐには動かなかった。
「昨日まで、私は鑑定位保持者だったんだ……」
その言葉は、そばにいた連盟職員にだけ届いた。
イタリア区画では随行員の1人が通路まで迎えに出たが、マルコへ何を言えばいいのか決められない様子だった。
マルコは連盟職員に促され、イタリア区画へ戻っていく。
表示から彼の名前が消えると、進行役は次の新規候補者を呼んだ。
数分前、澪の名前と622位を映していたのと同じ大型表示盤だ。
測定した結果を正確に出しているだけなのに、今度は1人の鑑定位を奪ったことまで会場全体へ知らせている。
「前より読めなかったことまで、みんなの前で出す必要あるの?」
桐野が進行席の方を見ながら言った。
「だから、趣味が悪いと言ったんです」
澪が見ていたのは、マルコが戻ったイタリア区画だった。
「公開せねば順位の信用は保てん。じゃが、気分のよいものではない」
澪に続いて、玄斎が答える。
制度そのものを否定する者はいないが、剥奪の表示を見た直後に次の候補者を応援できる者もいない。
測定台では、次の候補者が《千殻真球儀》へ鑑定を通していた。
その結果は、1000位以内へ届かなかった。
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測定を受けた新規候補者は、1000位以内に入りませんでした。
世界鑑定士連盟は、測定を受けた新規候補者へ鑑定位を認定しませんでした。
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候補者は表示を見て唇を結んだものの、自分の足で測定台を下りた。
先ほどとは違い、失う鑑定位はない。
認定されなかった悔しさと、持っていた資格を失う重さは同じではなかった。
続く候補者の測定結果は984位だった。
新しい鑑定位保持者を迎える拍手が起こり、大型表示盤では順位の再計算が始まる。
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新規候補者が、鑑定位984位へ登録されました。
この登録により、再計算前の1000位保持者が順位圏外となりました。
順位圏外となった保持者は、残留再測定の対象です。
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今度の旧1000位保持者は、最初の呼び出しで席を立った。
中央へ出ると、進行役の確認を受けて残留再測定を始める。
さっきのマルコと同じように圏外へ出た者だが、辞退しても結果が変わらないことは、もう会場の全員が知っている。
前回記録を越えてからも鑑定は続き、確定した順位は998位だった。
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残留再測定を受けた旧1000位保持者は、鑑定位998位へ復帰しました。
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本人が大きく頭を下げ、自国区画の随行員たちが立ち上がって拍手を送った。
先ほどの剥奪を見た後だからこそ、残れたことへの喜びは大きい。
998位でも、鑑定位保持者であることに変わりはない。
だが、998位に1人が戻れば、それまで998位から1000位だった保持者は1つずつ下がる。
拍手が続く中、大型表示盤は次の内容へ切り替わった。
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残留再測定者が、鑑定位998位へ復帰しました。
この復帰により、再計算前の1000位保持者が順位圏外となりました。
順位圏外となった保持者は、残留再測定の対象です。
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次の圏外者が表示されると、別の国の区画が静かになる。
進行役が次の名前を読み上げるより先に、その人物は自国区画の席から立ち上がった。
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