千殻真球儀
澪が《千殻真球儀》の前に着くと、世界鑑定士連盟の進行役が本人情報と申請内容を確認した。
頭上の大型表示盤が切り替わる。
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測定対象:御厨澪
現鑑定位:822位
測定区分:希望再測定
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「準備が整いましたら、《千殻真球儀》へ鑑定を通してください」
澪が球体に向き直り、《鑑定》を発動した。
球体の表面を覆っていた文字が切り替わる。
直後、大型表示盤にも測定中の情報が映し出された。
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現在到達層:1000層
現在到達節:第1節
暫定鑑定位:1000位
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1000層という表示は、すぐに999層、998層と更新されていく。
澪は前年にもこの範囲を読めているためか、数字が止まる様子はない。
俺が気になったのは、層とは別に表示された第1節の方だった。
「あの第1節っていうのは、同じ層の中がさらに分かれているってことですか?」
「はい。全部の層に、第1節から第4節まであります。層へ届いただけでは、同じ層にいる人同士の順位を決められませんからねー」
名取が説明している間にも、澪の到達値は900層台へ入った。
「第1節が、その層の識別と基礎情報。第2節が、性質と現在の状態です」
大型表示盤の到達節が、第1節から第2節、第3節、第4節へと切り替わり、次の層へ進む。
「第3節では由来や履歴、原因まで読めるかを見ます。第4節は、別の対象との繋がりや本来の用途、その先へ及ぼす作用ですねー」
「同じ層まで読めても、第4節に近い方が上になるのね」
桐野の確認に、名取が頷いた。
同じ節まで進んだ場合は、その中の文章をどこまで正しく読み取れたかで順位が決まるらしい。
球体の表面では、層が変わるたびに文字の並びも変わっていた。
ただ内側へ進んでいるだけなら、あそこまで文章そのものが入れ替わる必要はないはずだ。
「もしかして、あの文字って毎回同じじゃないんですか?」
「そこに気づきましたか。1000層から1層までは、測定するたびに《等価刻文》へ切り替わります」
同じ層と節なら、文章の内容が違っても、読み取る難しさは同じになるよう調整されている。
前回の答えを教えてもらっても、次に同じ文章が出るとは限らないという。
「それなら、前の人の答えを覚えても意味がないわけね」
「はい。それに、受けた人が答えを読み上げる必要もありません。どこまで正しく鑑定を通せたかは、《千殻真球儀》が直接判定します」
大型表示盤は、球体表面の判定を会場全体へ見せているだけだ。
暗記した答えを口にして、読めたことにする余地はないらしい。
到達値が800層台へ入ると、数字の更新が少し遅くなった。
823層。
822層。
そして821層へ変わる。
「これで、去年の順位は越えたってこと?」
「はい。もう前年より深く読めています」
測定前、玄斎は、去年の自分を越えて初めて成果だと言っていた。
その条件を満たしても、澪の鑑定は止まらない。
暫定鑑定位は800位を切り、700位台へ入った。
周囲の国別区画では、随行員が澪の到達値をタブレットへ入力し、鑑定士へ画面を見せている。
やがて表示は700位を切った。
前年の結果を少し更新するという話ではなくなっている。
600層台へ入ってからは、数字が1つ変わるまでの時間も長くなった。
澪は632層を越え、627層まで進み、622層へ到達する。
そこで層の数字は止まった。
大型表示盤の到達節は、第1節から第2節、第3節へと進んでいく。
第4節へ切り替わった後も、測定は終了しなかった。
球体の表面と大型表示盤に、澪が最後まで読み取った一文が表示される。
『物を知るとは、名や性質だけでなく、それが繋がる先まで読むことである』
物の名前と性質だけでなく、その先にある繋がりまで読む。
澪がこの1年、俺の鑑定記録から学ぼうとしてきたことと重なる一文だ。
解読状態が、第4節完全解読へ切り替わる。
次の621層へ入ったものの、第1節を最後まで読み切ることはできなかった。
数秒後、《千殻真球儀》が測定終了を告げた。
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測定対象:御厨澪
到達層:622層
到達節:第4節
最後に読み取れた一文:物を知るとは、名や性質だけでなく、それが繋がる先まで読むことである
解読状態:第4節完全解読
確定鑑定位:622位
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822位から622位。
ちょうど200位の上昇だった。
日本区画から拍手が起こり、ほかの区画からも続いた。
澪は進行役へ礼をして、中央の測定台から戻ってくる。
「622位。ならば成果じゃ」
「おじい様、それを褒めたとは言いませんからね」
「よくやった、澪」
宗一郎がそう言うと、澪は父親にだけ素直に礼を返した。
シオも専用スマホを持ち上げる。
『みお すごい!』
「でも622位って、今いる鑑定士だけで並べると、どのくらいなんですか?」
名取が、連盟の現行名簿をタブレットに呼び出した。
「今の238人を測定結果順に並べると、上から96番目ですねー」
「600番台でも、100番以内なんだ」
「上の方は空位が多いですから。澪さんは、これで世界上位100人入りです」
鑑定位の番号だけを見れば622位でも、実際に存在する鑑定士の中では上から96番目になる。
200位上げた結果が、世界上位100人入りというのは、かなり大きい。
「本当に200位も上がりましたね。俺の記録が、そんなに役に立ったんですか?」
「きっかけにはなりました。でも、記録を読んだだけで順位が上がるわけではありません」
澪は、席に座ってから続けた。
「真壁さんが、どこまでを1つの対象としていたのか。それを記録から私なりに分解して、自分の鑑定で同じ範囲を捉える訓練をしてきた結果です」
自分では、見えた情報をまとめて読んでいただけなのだが、それを研究材料にされると返す言葉に困る。
「まあ、真壁さん本人が説明できないので、記録から調べるしかありませんよね」
「名取さん、それは今言わなくてもよくないですか?」
次の希望再測定者が呼ばれ、会話はそこで終わった。
その後も、数位から10位ほど順位を上げた者や、前回とほとんど同じ結果だった者が続く。
順位を上げられず、測定台を離れても大型表示盤を振り返っている者もいた。
ただ、澪のように200位も上げた者はいない。
最後の希望再測定者が自国の区画へ戻ると、進行役が現鑑定位保持者の測定終了を告げた。
続いて、新しく鑑定位入りを狙う候補者の測定へ移る。
最初の候補者が《千殻真球儀》へ鑑定を通した。
確定した鑑定位は967位。
新しい鑑定士を迎える拍手が起こる中、大型表示盤が順位の再計算へ切り替わった。
900位から1000位までは、すでに全順位が埋まっている。
新しい967位が入ったことで、それまで967位から1000位だった保持者が、1つずつ下へずれた。
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順位再計算:完了
新規登録:967位
圏外対象:旧鑑定位1000位
残留再測定:対象
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拍手を続ける者はいなくなった。
大型表示盤に、旧1000位保持者の名前と所属国が表示される。
進行役はその人物の名前を読み上げ、残留再測定へ進むよう求めた。
だが、呼ばれた人物は客席に座ったままだ。
もう1度、残留再測定の呼び出しが大講堂へ流れた。




