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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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202/241

鑑定位の洗礼

 11月2日、俺は前日に頼まれたとおり、上位鑑定士たちが値段をつけた品を見て回った。


 品の名前も、壊れている箇所も、元の用途も正しく鑑定されている。

 ただ俺が、修理した後の利用先や、別の道具と組み合わせた場合の使い道まで口にすると、何度も質問を受けることになった。


 それから11月3日と4日も、フリーマーケットを回り、頼まれた品を鑑定しながら過ごした。


 そして11月5日。

 10日間にわたって開かれた世界鑑定学会は、とうとう最終日を迎えた。


 順位式へ向かう準備を終えた俺は、客室のソファーに座っている名取へ尋ねた。


 「俺は、その千殻真球儀っていう球を一回鑑定すれば終わりなんですよね?」


 「真壁さんがやることだけなら、そうですねー」


 名取は、タブレットに表示された進行表を下へ動かした。


 「ただ、真壁さんは特別招待枠なので一番最後です。それまでは会場で待ってもらいますよ」


 すぐに終わると思っていたのだが、どうやら違うらしい。


 「最後って、今日は何人測るんですか?」


 「今の鑑定位保持者が238人。その後に、新しく鑑定位入りを狙う候補者が50人ほどですー」


 「その全員が、もう一度測るの?」


 桐野も名取のタブレットを覗き込む。


 「いえ。最初に測るのは、希望再測定を申請した人だけですね。その後で、新しい候補者が測ります」


 俺は、聞いた人数を頭の中でもう一度数えた。


 「保持者が238人なら、鑑定位も238位までじゃないんですか?」


 「そういう順位じゃないんですよ。千殻真球儀の測定結果を、1位から1000位までの位置へ当てはめるんです」


 名取がタブレットに現在の順位表を出した。


 最高位は、エリオット・ヴェインの56位。

 だからといって、1位から55位までに誰かがいるわけではない。そこはすべて空位だった。


 「上へ行くほど測定結果の差が大きくなるので、1位から899位までは空いているところが多いです。ただし、900位から1000位までは全部埋まっています」


 「上は空いてるのに、下だけ百人以上いるの?」


 「新しく鑑定位へ入る人の多くが、最初は900番台になるんですよ。そこから順位を上げられる人が少ないので、下に偏ってるんです」


 鑑定士は238人しかいないのに、1000位まで存在する理由は分かった。

 だが、下がすべて埋まっているなら、別の問題が出てくる。


 「新しい人が900番台に入ったら、1000位の人はどうなるんですか?」


 「一度だけ、残留再測定を受けられます。それでも1000位以内へ戻れなかった場合は、鑑定位を剥奪されます」


 希望再測定は、順位を上げたい保持者が事前に申し込むもの。

 残留再測定は、新しい候補者に押し出された者へ与えられる、最後の一回だ。


 「それも、みんなの前でやるの?」


 「判定の透明性と不正防止のため、誰が入って、誰が外れたのか、その場で表示されるそうです」


 名取によれば、鑑定位を失うと決まった瞬間に絶叫した者や、泣き崩れた者もいたらしい。

 桐野が露骨に顔をしかめた。


 「透明性って言えば聞こえはいいけど、それを全員で見るのは趣味悪くない?」


 制度として必要な面はあるのだろう。

 それでも、見ていて気分のよいものではなさそうだ。


 シオが専用スマホを持ち上げた。


 『しお 1い』


 すぐに次の文字へ切り替わる。


 『りょう 2い』


 「俺、まだ測ってもいないのに2位なのか」


 「シオちゃんランキングでは確定みたいね」


 では、どうすれば1位になれるのか。

 俺が聞いても、シオは画面を変えなかった。


 名取が時刻を確認して立ち上がる。


 「そろそろ行きましょう。大講堂まで少し歩きますから」



 ◇



 客室を出て通路を進むと、同じ方向へ歩く人が次第に増えていった。


 鑑定士だけではない。

 各国の行政職員には通訳と警備担当が付き、式の判定を残す記録係も同行している。


 「本人一人の順位じゃないんですね」


 「鑑定位は、国際取引や危険物認定で、その国の信用にも関わりますからねー。候補者の多くは、国や公的機関の推薦を受けています」


 俺に鑑定位がつけば国益になると、日本政府が言っていた理由を改めて理解した。


 連盟職員による招待証の確認を受け、大講堂の扉を抜ける。


 その先には、代々木第一体育館を思わせるほどの空間が広がっていた。


 すり鉢状の客席が、中央の床を囲んで何段も続いている。

 中央には円形の測定台があり、その上に球体が一つ固定されていた。


 あれが《千殻真球儀》のようだ。

 さらに上には、四方向から見える大型表示盤が吊られている。


 「あの表示盤は、千殻真球儀に出た判定を大きく映すためのものです。判定するのは、あくまで千殻真球儀の方ですよー」


 客席は国ごとに区切られていた。

 区画の入口に国名と小旗が掲げられ、鑑定士、候補者、随行する職員たちがまとまって座っている。


 二百五十人近い保持者と、約50人の新規候補者。

 その付き添いまで含めれば、客席にいる人数はさらに多い。


 新規候補者らしい人たちは、手元の進行表を何度も見直していた。

 900番台の認定証を胸につけた人の中には、測定台よりも大型表示盤ばかり見ている人もいる。


 まだ誰も測っていないのに、新人の結果を警戒しているのだろう。


 「日本の区画はこちらです」


 連盟職員に案内された先では、御厨家の三人が俺たちを待っていた。


 挨拶を終えると、澪が中央の測定台を見る。


 「この認定式、趣味が悪いと思いません?」


 「全員の前で鑑定位を失うとは知りませんでした」


 「私が去年入った時も、押し出された人がいたんです。透明性が必要なのは分かりますけど、泣いているところまで見せなくてもいいでしょう」


 「順位に公的な信用を持たせる以上、密室で入れ替えを決めるわけにはいかん」


 玄斎が中央を見たまま答えた。


 「あれは、世界的な鑑定士となるための洗礼じゃ」


 「おじい様は、去年もそう言ってましたよね」


 二人の意見は、今も変わっていないらしい。


 「御厨家の皆さんも、今日は測り直すんですか?」


 玄斎と宗一郎は、今回は申請していなかった。


 「私は希望再測定を申請しました」


 答えたのは澪だった。


 「822位でしたよね」


 「はい。去年測った時は、そこまででした」


 この一年、澪はAICで多くの鑑定記録を見てきたという。

 その中には、俺が機器だけでなく、接続先や運用経路、過去の原因までまとめて鑑定した記録も含まれている。


 「真壁さんと同じことができるわけではありません。でも、どこまでを1つの対象として見るのか。考え方はかなり変わりました」


 澪は、中央の千殻真球儀を見た。


 「考え方を変えたことで、今の私が822位より上へ行けるのか。それを知りたいんです」


 「去年の自分を越えて、初めて成果じゃ」


 玄斎は、結果が出る前から褒めるつもりはないようだ。


 「順位を上げられるといいですね」


 「真壁さんは、自分の心配をしてください」


 俺は最後まで待って、一度鑑定するだけだ。

 そう答えると、桐野と名取がそろってこちらを見た。


 大講堂の照明が落ちた。


 中央の測定台と《千殻真球儀》へ光が集まり、客席の会話が止まる。


 進行役が、最初に現鑑定位保持者の希望再測定を行うと告げた。

 続いて新規候補者を測り、その結果に応じて残留再測定を行う。


 大型表示盤が切り替わった。


 そこに、現鑑定位と最初の測定対象者の名前が表示される。


 『希望再測定――現鑑定位822位、御厨澪。測定台へ』


 澪が席を立った。

 玄斎と宗一郎は何も言わず、中央へ向かう澪を見送る。


 澪は日本区画を出ると、照明の集まる《千殻真球儀》の前へ歩いていった。

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