回収屋チャンネルin世界鑑定学会③
次の鑑定士が、手のひらほどの真鍮製の枠を出した。
中央が丸く空いていて、片側には折り畳める短い柄が残っている。
値札は25ドル。
「古い観測道具の外枠だそうです。中に入っていた部品がなく、これだけでは動かないので、加工品として値段をつけたと言っています」
名取の通訳を聞き、俺は枠を手に取った。
内側には細い溝があり、その横に途中までの型式が刻まれている。
持ち主の説明におかしなところはない。
ただ、何を入れるための溝なのかまでは出ていないようだ。
俺は真鍮枠を1つの品として、鑑定を使った。
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対象:旧式携帯観測鏡の真鍮枠
分類:分離した構成部品
状態:外枠・取付溝・折り畳み柄は使用可能
欠損:同型式の煙色遮光板
復元条件:対応する遮光板を取付溝へ固定
復元後用途:停止中の古い魔道具に残る魔力の偏りを観察
復元後需要:鑑定教育機関/古式魔道具修復工房
復元後推定価値:10,000〜12,000ドル
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枠だけでは使えないという評価は合っている。
ただし、中央へ入る部品の形と、残っている場所までは表示されていた。
「中に、同じ型の煙色のガラス板が入るみたいです。角が1つ落としてあって、縁に型式の後半が刻んであります」
名取が英語へ訳した直後、列の途中にいた鑑定士が声を上げた。
布を開いて持ち上げたのは、煙色の厚いガラス板だ。
その品にも35ドルの値札がついていた。
「古い魔道具の遮光板だとは分かっていたそうです。ただ、対応する本体が見つからなかったので、板だけの値段をつけたと」
真鍮枠の持ち主とガラス板の持ち主へ、並べて確かめてもよいか確認する。
2人が頷くと、シオが両方を映せる位置まで下がった。
ガラス板は、1つだけ角が斜めに落とされている。
真鍮枠の溝にも同じ形の空きがあった。
枠の内側に残る型式の前半と、板の縁にある後半もつながる。
2人が布の上で仮組みすると、真鍮枠の中央へガラス板が収まった。
別々の店に並んでいた2品が、柄つきの小さな観測鏡へ戻る。
完成した形を見た周囲の鑑定士から、同じ名称が何度も聞こえた。
「旧式携帯観測鏡で間違いないそうです。停止させた古い魔道具へかざして、中に残っている魔力の偏りを見るための道具ですね」
名取が型式を検索する。
鑑定教育機関と古い魔道具を扱う修復工房が、欠損のない同型品を探していた。
公開されている買い取り額は、10,000ドルから12,000ドル。
名取が型式と金額の載った画面を撮影用スマホへ見せた。
「2つ合わせて60ドル。復元できれば、最高で12,000ドルですね」
桐野が真鍮枠の持ち主と、数人後ろにいたガラス板の持ち主を見比べた。
「別々の人が持ってたのに、なんで最初から一緒に見てたの?」
「元は同じ道具なので」
「そういうことを聞いてるんじゃないんだけど……」
元が同じなら、1つの物として出てもおかしくないと思う。
『25ドルの枠+35ドルの板=12000ドル??』
『今度は別の人の商品を合体させたぞ』
『列の途中まで鑑定対象に入ってるの何』
『店じゃなくてフリマ全体を1個として見てない?』
『やべぇ。関連部品まで鑑定してるとか意味が分からん』
『本人だけ普通の顔してるの怖いw』
『シオちゃん今の2つもう1回映して』
シオは仮組みされた観測鏡へ撮影用スマホを向け、真鍮枠から煙色のガラス板まで順に映した。
枠の持ち主は枠だけを見て、板の持ち主は板だけを見ていた。
どちらの鑑定も、自分が持っていた品については間違っていない。
俺の表示には、組み合わせた後の使い道まで出ていただけだ。
2人はその場で連絡先を交換し、個別に売るのをやめた。
名取によると、復元できる1組として修復工房へ持ち込むらしい。
それを見ていた周囲の鑑定士が、自分の品と近くの参加者が持つ品を見比べ始めた。
即席の列は短くなるどころか、さらに後ろへ延びていく。
次に出てきたのは、布に包まれた真鍮製の小鳥だった。
手のひらに収まる大きさで、畳んだ翼もくちばしも黒ずんでいる。
値札は30ドル。
「古い真鍮製の置物だそうです。魔力を流しても反応せず、動く部分も見つからなかったので、金属細工として値段をつけたと言っています」
名取の通訳を聞きながら、小鳥を近くで見る。
くちばしの下には、爪の先が入るほどの細い溝があった。
両足の裏だけ、前後へ擦れた跡も残っている。
飾られていただけなら、こんな削れ方にはならない気がした。
俺は持ち主から撮影と鑑定の許可をもらい、小鳥へ鑑定を使った。
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対象:短距離伝言鳥
分類:音声記録・再生用魔道具
型式:初期実用型
状態:稼働可能
記録時間:最大10秒
記録方法:くちばし下の起動部を押している間の音声を記録
宛先登録:尾部を押した時、くちばしの正面5メートル以内にいる最も近い人物の魔力を一時記憶
配送動作:登録した魔力を追って歩き、1メートル以内で停止して音声を1回再生
使用範囲:段差のない場所で最大30メートル
特性:待機中は魔力の流れを抑え、記録内容を保持する
推定価値:2,800〜3,200ドル
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「壊れていません。使っていない時は、魔力がほとんど流れない作りみたいです」
名取が訳すと、持ち主は小鳥を裏返した。
くちばしの下にある溝へ指を当てると、そこだけが小さく沈む。
「そこを押している間だけ、周囲の声を記録します。指を離したところで録音終了です」
名取が持ち主へ訳してから、俺は小鳥の尾を示した。
「次は小鳥を平らな場所へ置いて、届けたい相手へくちばしを向けます。その状態で尾を押すと、正面5メートル以内で一番近い人の魔力を覚える。あとは、その人を追いかけて、1メートルまで近づいたら録音した声を1回だけ流します」
名取がそこまで訳すと、持ち主は尾と両足を順に確かめた。
「桐野さん、受け取る側をお願いできますか」
「いいよ。どこにいればいい?」
「そこから4メートルくらい先でお願いします」
桐野は出品台から離れ、店先の通路に空けてもらった場所まで移動した。
名取が周囲の参加者へ動作確認を始めると伝える。
シオは撮影用スマホを横へ向け、小鳥から桐野までの通り道を画面へ入れた。
俺は持ち主の許可を得て、真鍮の小鳥を通路の床へ置いた。
くちばしの下にある起動部を押し込む。
「桐野さん、届いたら手を上げてください」
起動部から指を離す。
これで録音は終わりだ。
床の小鳥を回し、くちばしを桐野へ向けてから尾を押す。
真鍮の両足が交互に動き、小鳥が桐野へ向かって歩き始めた。
途中で桐野が横へ2歩移動する。
小鳥も向きを変え、桐野の方へ進路を取り直した。
桐野の足元まで1メートルほどの位置で、小鳥が止まる。
「桐野さん、届いたら手を上げてください」
再生されたのは、さっき録音した俺の声だ。
桐野が片手を上げた。
「届いたよ。ちゃんと私についてきた」
『今の横移動にもついていったぞ』
『向きだけじゃなくて桐野さんを追ってる』
『録音→宛先登録→追尾→再生か』
『30メートルなら会場内の伝言に便利そう』
『30ドルで動作品は当たりだろ』
『真鍮の小鳥の配達員かわいい』
名取は小鳥の腹側に残っていた製造印を撮り、公開されている古い製品記録を検索した。
この型は、短距離伝言鳥が作られ始めた頃の品らしい。
正常に歩行と録音ができれば、2,800ドルから3,200ドルで取引されている。
「30ドルが、動けば最大3,200ドルですねー」
名取が金額の載った画面を撮影用スマホへ見せた。
俺が桐野の足元に止まっていた小鳥を拾って返すと、持ち主は30ドルの値札を外して両手で受け取った。
後ろでは、次の鑑定士がもう品を持ち上げている。
シオが撮影用スマホを右へ向けた。
画面の中に、色や形の違う魔石を並べた店が続いていく。
シオは専用スマホへ文字を入力し、その画面を撮影用スマホへ見せた。
『つぎ ませき』
魔石区画の出品者たちもシオに気づき、次々に自分の魔石を掲げる。
俺は品を持ち上げていた鑑定士へ頭を下げた。
「すみません。次は店を回るので、この列はここまでにさせてください」
名取が周囲の参加者へも伝えると、列から残念そうな声が上がった。
『魔石回きた!』
『シオちゃんの目利き参戦!?』
『食レポの予告にしか見えない』
『シオちゃんカメラ続投です』
『どの魔石選ぶんだろ』
俺は魔石を映し続けるシオへ、先に念を押した。
「シオ、食べ放題じゃないからな」
シオは返事をせず、撮影用スマホへ魔石区画を映しながら先へ進む。
俺たちも、その後を追って魔石を並べた店へ向かった。
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