回収屋チャンネルin世界鑑定学会②
その方が俺も選びやすい。
値札を見ながら石畳を進み、80ドルと書かれた古い杖の前で足を止めた。
腕より少し短い杖で、表面には細かな擦り傷が残っている。
それでも折れた部分や欠けた部分はなく、昨日のランタンとは違って作動する品らしい。
シオが杖の全体と80ドルの値札を同じ画面へ収める。
俺は名取を通して、出品者へ撮影と鑑定の許可を求めた。
出品者は頷くと、杖を手渡しながら説明を始めた。
「かなり前の初心者用練習杖だそうです。魔力を流してから動くまでが遅くて、出せる魔力も弱い。いまの練習杖は使う人に合わせて補助してくれるので、古い品を選ぶ人はほとんどいないそうです」
「故障はしていないんですよね?」
俺の質問を名取が訳す。
出品者は杖の柄にある作動確認済みの札を見せた。
初心者用として見れば、80ドルという値段にも理由がある。
俺は手の中の杖を1つの品として、鑑定を使った。
――――――――――――――――――――
対象:旧式低出力練習杖
分類:初心者用魔力操作補助具
状態:作動可能/反応遅延/固定出力機構正常
通常用途:魔力を一定量ずつ流す初期練習
現行評価:現行品より反応が遅く、出力上限も低いため需要僅少
出力特性:作動するたびに同じ微弱出力を再現
転用先:旧式魔道具を扱う修理工房
転用用途:修理直後の魔道具へ弱い魔力を流し、動作を確認する
推定価値:5,500〜6,000ドル
――――――――――――――――――――
表示の前半は、出品者の説明と一致している。
反応は遅く、出力も低いので、初心者が練習に使う道具としては現行品に負けていた。
ただし、出力を弱いところで止めるための機構は正常だ。
使う人の魔力に合わせて補助する現行品と違い、この杖は誰が使っても同じところで出力が止まる。
修理を終えたばかりの古い魔道具へ、最初から強い魔力を流すのは危ない。
壊さないように弱い魔力から試すなら、毎回同じ出力になる方が比べやすい。
「弱くて使いにくいという説明は合っています。ただ、この杖、何回使っても同じ弱さで止まるみたいです」
名取が英語へ訳すと、出品者は杖の柄を見直した。
「弱いままだと、何に使うの?」
桐野が先に聞いてくる。
「修理したばかりの古い魔道具へ、いきなり強い魔力を流すと壊すかもしれません。最初に同じ弱い魔力を流して、予定どおり動くか確認する時に使えます」
初心者には不便でも、修理工房なら同じ条件で何度も試せる。
鑑定結果に出ているのは、そういう使い道だった。
説明を聞いた出品者は、店の奥から小型測定器を出した。
杖の先を測定器へ向け、1回目を作動させる。
画面には、弱い出力を示す数字が出る。
出品者は杖を止め、もう1度同じ条件で作動させる。
2回目に表示された数字は、1回目とまったく同じだった。
近くの鑑定士たちも、測定器を見える位置まで寄ってくる。
3回目も数字は変わらなかった。
シオの撮影用スマホには、杖と出品者の手元、それに3回とも同じ数字になった測定器が映っている。
出品者が、自分は初心者用の杖としてしか見ていなかったと話した。
名取がそれを日本語へ直しながら、杖に残っている製造元と型式をスマホで検索する。
「ありました。最高で6,000ドルですね。まったく同じ型を探している工房があります」
名取が撮影用スマホへ見せた公開ページには、旧式魔道具の修理工房が、同じ固定出力機構を持つ品を5,500ドルから6,000ドルで買い取ると載っていた。
『3回とも同じ数字だ』
『弱いままなのに値段上がった?』
『弱さを直すんじゃなくて、そのまま使うのか』
『修理した道具を最初に試す用ってことね』
『使う人が変わったら欠点じゃなくなったのか』
『80ドルから6000ドルは草』
『世界の鑑定士の前でも、いつもの回収始めたぞ』
『しかしこの回収はえぐいなwww』
『これ店を回るたびに値段跳ねるの?』
「毎回そんなに上がるわけではないです」
『またまた』
『説得力がないんよ』
『本日の回収、まだ1店目です』
公開されている買い取り情報まで出品者へ見せた上で、俺は値札どおり買っていいか確認した。
出品者は80ドルの値札を外さず、そこへ売約済みの印をつける。
「初心者用の杖として80ドルをつけたのは自分で、修理工房での使い道を見つけたのは真壁さんだから、値段は変えないそうです」
「ありがとうございます」
俺は80ドルを払い、旧式練習杖を購入した。
桐野がスマホの計算画面をこちらへ見せる。
「昨日のランタンが60ドルで、今日の杖が80ドル。使ったのは合計140ドルだね」
「そうなりますね」
「9,000ドルと6,000ドルで、再評価は約15,000ドル。もう100倍を超えてるよ」
「まだ2つしか買ってないんですけど」
『140ドル→15000ドル??』
『約107倍でございます』
『世界学会さん、回収屋を市場へ放って大丈夫だった?』
『まだ2つしか、じゃないんだよ』
『しかし鑑定士と鑑定士の静かなバトルもなんかいいね』
『全店制覇したら国家予算いくな』
『行きません』
『シオちゃん、次の店お願いします』
国家予算には行かないと言おうとしたら、先にコメントで訂正されていた。
現地でも、品を持った鑑定士がさらに集まっている。
名取が周囲の言葉をいくつか聞き、内容を教えてくれた。
「売りたいというより、自分の品を真壁さんならどこまで見るのか知りたいみたいですね」
白い石畳に、即席の列ができかけていた。
名取がスマホで、配信終了までの残り時間を確認した。
「あと少しなら、先頭から何人かは見られます」
「じゃあ、1人1つ。撮っていい物だけね。全部は無理だから」
桐野が決めた条件を名取が英語へ訳すと、列にいる鑑定士たちは自分の品につけた撮影可否の札を確かめた。
シオも撮影用スマホを列へ向けたあと、先頭の品が画面の中央へ入るように持ち直す。
俺としては、列を作ってまで見せるほどのものなのかと思う。
「世界の鑑定士がそう思ってないから、列になってるんでしょ」
桐野に先回りされた。
「最近桐野さんって俺の思考を先回りしてきますよね」
その言葉を聞いた桐野は胸を張って「ふふん」とこちらを見る。
「私も一応、真壁通だからね」
「なんですかそれは」
そんなことを言い合いつつ、目の前に差し出された物に目を向けた。
先頭の鑑定士が出したのは、擦り減った探索用ベルトの留め具だった。
値札は15ドルだ。
金具が歪み、固定用の爪も摩耗している。
持ち主の鑑定でも、交換部品としては使えないと出ているらしい。
許可をもらって鑑定を使ったが、表示された内容は持ち主の説明と変わらなかった。
「15ドルで合っています。交換部品として使える状態ではないです」
名取が訳すと、持ち主は値札を持ち上げ、自分の鑑定と同じだったと話した。
高く売りたいのではなく、本当に俺と見比べに来たらしい。
『上がらないこともあるんだ』
『当たり前だろw』
『何でも100倍にするスキルじゃなかった』
『世界の鑑定士が答え合わせに並んでるのか』
「最初からそう言っています」
『言ってたっけ?』
『毎回上がってるから覚えてない』
俺も言った記憶はあるのだが、少し自信がなくなってきた。
読んでいただきありがとうございます。
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