回収屋チャンネルin世界鑑定学会①
本日カクヨムのほうでサポーター専用SS『WEG東京 鑑定競技を解説します!⑤』が公開されています!
本編エピソードに入っていたのですが、長すぎるという理由で泣く泣くカットした真壁のWEG東京鑑定競技のエピソードとなります。全5話形式で、本日は最終話を公開しています。よかったらお読みください!
11月1日の朝、配信へ向かう前にまた怒られた。
場所は、星門館の日本側共用室だ。
支援チームの女性がタブレット端末に表示しているのは、俺が昨日公開した配信の待機画面だった。
「真壁さん。昨日、名取さんに撮影できる範囲を確認して、そのまま配信予定を公開しましたよね?」
「配信しても大丈夫だと聞いたので」
「名取さんが確認したのは、会場でカメラを向けていい範囲です。日本側の配信設定まで飛ばしていいという話ではありません」
隣にいた名取も頷く。
「私が確認したのは、会議棟側と撮影禁止の札を映さなければいい、ってところまでですよー。日本へどうつなぐかは、私の担当じゃないですからね?」
内閣府特命チームの担当者からは、前回のモニュメントバレー配信で起きた混乱を説明された。
ダンジョンTubeが用意した予約枠へ切り替えるだけで、現地の両チームがかなりの時間を使ったらしい。
「配信は、やってもいいんですよね?」
「そこを今、確認するんですか……」
支援チームの女性は待機画面を残したまま、こちらへ向き直った。
「今度はこっちで設定をかけます。絶対に勝手に配信を始めないでください」
「はは……すいません」
「また怒られてるねぇ」
桐野が楽しそうに笑う。
肩の上では、シオも専用スマホへ文字を入力していた。
『りょう まて』
「分かってる。今日は待つから」
俺の返事を確認したところで、支援チームの女性が日本のダンジョンTubeへ遠隔通話をつないだ。
画面に映った相馬は挨拶を済ませると、こちらの様子を確かめる。
「あ、シオちゃんいる?」
呼ばれたシオが、肩の上から専用スマホを掲げた。
『しお いる』
「よかった。シオちゃんは撮影用スマホを持ってるよね。そっちも一緒に設定しよう」
シオは専用スマホを俺へ預け、撮影用スマホの設定画面を開いた。
相馬が共有した画面では、確認する順番が3つの番号に分けられていた。
今回使う配信枠、撮影用スマホの映像と音声、最後に開始と停止ができる状態かを確かめればいいらしい。
「シオちゃんは、撮影用の方で昨日作った予約枠を開いて。次に映像と音声を接続して、両方の表示が緑になれば大丈夫」
シオの触手が画面を続けて操作する。
支援チームと特命チームが自分たちのタブレット端末で配信枠を探している間に、撮影用スマホの映像と音声が日本側へ届いた。
シオは俺から専用スマホを受け取ると、相馬へ画面を向ける。
『せつぞく おーけー』
「うん、映像は来てる。音声も大丈夫。完璧」
『おんせい よし』
特命チームの担当者が、自分のタブレット端末に届いた映像とシオを見比べた。
「いまの説明だけで、もう終わったんですか?」
シオが触手で丸を作る。
支援チームの女性も、届いている映像と音声を確認した。
「……相馬さんが2人いるみたいなんですが」
「いや、シオちゃんの方が早いですね」
相馬まで認めたので、俺も一応言っておく。
「配信者は俺なんですけど」
誰も反応しなかった。
両チームが日本側の受信設定を終えると、相馬が最後に俺へ声をかけてくる。
「真壁さんも、いまの説明は大丈夫ですか?」
「開始許可が出るまで、何も触らなければいいんですよね?」
「だいたい合ってます」
配信者本人への説明が一番簡単だと言われたが、必要なところは押さえている。
俺たちは撮影用スマホを持ち、フリーマーケットが開かれている庭園へ向かった。
◇
共用サロン前の庭園へ出ると、昨日よりもこちらを見る参加者が増えていた。
箱や布袋を抱えた鑑定士まで、白い石畳の脇で俺たちを待っている。
名取が近くの参加者と言葉を交わした。
「昨日のランタンの話、もう広まってるみたいですよー。自分の品も見てほしいって言ってます」
まだ配信も始めていないのに、先に店を回るのは難しそうだった。
シオは撮影用スマホを横向きにし、俺と桐野、それから撮影可能な店だけが映る位置を探している。
名取は画面の外から、会議棟へ続く通路と撮影禁止の札が入っていないか確認した。
「この向きなら大丈夫です。右へ振る時だけ、一度こちらを見てください」
シオが触手で丸を作る。
俺は配信用スマホで待機画面を開いた。
開始ボタンは見えているが、今日はまだ押さない。
少しして、名取のスマホへ日本側から開始許可が届いた。
「真壁さん、始めて大丈夫です」
「やっと始められますね」
「昨日のうちに勝手に始めなかっただけ、まだよかったと思ってください」
これ以上は何も言わず、俺は39回目の個人配信を始めた。
「お疲れさまです、回収屋です。前回は途中打ち切りになってしまってすいませんでした」
シオが撮影用スマホを動かし、白い石畳の両側に並ぶ店を映していく。
「今日は、世界鑑定学会のフリーマーケットを回ります。世界の鑑定士が自分で値段をつけた品を並べて、その場で鑑定して買える伝統行事です」
例年は市民や観光客も入れるが、今回は星門館の中なので学会参加者と関係者しかいない。
そこまで説明したところで、コメント欄が一気に流れ始めた。
『始まったーー!』
『ほんとに世界鑑定学会から配信してる』
『シオちゃんカメラ助かる』
『去年のローマ動画より人少ないと思ったら今回は関係者だけか』
『世界の鑑定士が値段つけた店を回収屋が回るの、危険な組み合わせだろ』
『事故じゃなくて掘り出し物配信だからセーフ』
『そのセーフ判定、信用していい?』
最後のコメントは見なかったことにして、昨日の袋を開けた。
「配信を決める前に、昨日1つだけ買いました」
袋から出したのは、外側のガラスが割れ、持ち手も曲がった探索用ランタンだ。
出品者が一緒に入れてくれた60ドルの値札も、シオが映せる位置へ置く。
「値段は60ドルです」
『もう買ってるw』
『いや壊れてるじゃん』
『世界学会まで来て最初に選んだのがそれ?』
『待機コメントで壊れた物から見るって言われてたぞ』
『予言的中してて草』
「ランタンとしては壊れています。修理代をかけるなら、新品を買った方が安いという出品者の見立ても合っていました」
俺はランタンの割れた外装をカメラへ見せたあと、内部の集光レンズについて説明する。
「ただ、中の集光レンズは壊れていませんでした。同じ製造元の旧式救難信号灯にも使える部品で、そちらの修理工房が探しています」
名取が、昨日見つけた公開買い取り情報を撮影用スマホへ見せた。
同じ規格の集光レンズを、状態に応じて最大9,000ドルで買い取ると書かれている。
「なので、ランタンとしては壊れていますが、中のレンズには9,000ドル前後の使い道があります」
『60ドルが9000ドル??』
『150倍はおかしいw』
『海外まで行って壊れた物を拾ってる』
『世界学会でも品川とやってること変わらんの草』
『昨日のうちにもう当たり引いてたのかよ』
『回収屋チャンネル世界編、通常運転です』
『ランタン見てた鑑定士さん、部品の行き先まで出ると思わんだろ』
『シオちゃん、値札もう1回アップお願いします』
最後のコメントを読んだシオが、本当に60ドルの値札を画面いっぱいへ寄せた。
「シオ、そこまで近づけなくても見えてるから」
「始まって何分も経ってないのに、もう昨日の買い物が山場になってるじゃん」
桐野が笑っている間にも、現地の鑑定士が俺たちの周囲へ集まってくる。
それぞれが自分の店や、手に持った品を示しながら英語で話しかけてきた。
「自分の品も見てほしい、だそうです。全部は無理ですよー」
名取の通訳を聞いて、桐野が左右の店を見た。
「高そうなのから見たら、普通のお宝紹介になっちゃうでしょ。安いのからいこうよ」
読んでいただきありがとうございます。
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