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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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真壁とエリオット②

 「真壁さん、私のこと、おバカキャラだと思ってたでしょ?!」


 名取だけが日本語へ戻し、こちらを問い詰めてきた。

 俺はメニューへ目を落とす。


 「い、いえ……別に」


 シオが専用スマホを操作した。


 『めいは とてもゆうしゅう』


 「やっぱりシオちゃんは分かってるね!!」


 名取が嬉しそうにスマホで返事を打ち始める。


 シオへの返事を打ち終えると、俺が英語の会話についていけないと分かったらしく、その後も会話が一区切りするたびに、小声で内容を教えてくれる。

 通訳が終わると、エリオットが次の質問を口にした。


 『あれが、シオですか』


 名取の通訳が耳へ届く。

 エリオットの視線がシオへ集中した。

 次の瞬間、エリオットは眩しい物を見たように目を細めた。


 シオが専用スマホを持ち上げ、英語の文章を画面へ表示する。


 『Peeking without permission is bad manners.(許可なくのぞくのは、マナー違反)』


 桐野と名取は、表示された英文を同時に読んだ。


 「えっ? シオも英語?」


 『りょうは べんきょうが たりない』


 「ぐぬぬ……何も言い返せない」


 動画ばかり見ていると思っていたが、その中には英語の動画も混ざっていたらしい。

 俺より海外生活へ適応している気がする。


 『シオの言う通りですね。失礼しました、シオ』


 エリオットはそう言うと、シオは触手を一本だけ上に上げた。


 残る自己紹介は俺だけだった。

 知っている単語を頭の中で並べ、何とか名乗ろうとする。


 『あなたのことは、よく分かっていますよ。ミスター・マカベ』


 名取がすぐに訳してくれた。


 「そりゃそうですよね……」


 昨日、あれだけ長い時間、鑑定記録について聞かれている。

 今さら名前から説明する必要はなかった。


 『実は、ミスター・マカベとじっくり話す機会が欲しかったんです』


 エリオットは上着の内側へ手を入れた。

 取り出したのは、革紐のついた小さなレンズだった。


 曇ったガラスを銀色の縁が囲んでいる。

 形だけなら、古いルーペに近い。


 『ミスター・マカベ。これが何か、分かりますか?』


 名取の通訳を聞き、エリオットからレンズを受け取った。


 「これは……ルーペですか? ずいぶん古いですけど……」


 銀色の縁を持ち、庭から差し込む光へ向ける。

 その瞬間、使うつもりのなかった鑑定が勝手に走った。


 「……これは……」


 視界に表示された内容を、上から順番に読む。


 ――――――――――――――――――――

 対象:《導きのレンズ》

 分類:神秘系統魔道具/探索補助具

 希少度:SSS

 由来:伝説の探索者6名の1人、エリアス・ヴェインが探索中のダンジョンで入手したドロップ品

 所有者:エリアス・ヴェイン

 状態:正常/誘導対象未選択

 適合条件:鑑定士系スキル保持者による使用

 機能:レンズを覗いた使用者にとって、現在必要な物、大切な物、または人生の分岐点となる何かが存在する場所を映す。

 表示対象:使用者が探している物と一致しない場合がある。

 探索範囲:現世に限定されない。

 潜在用途:算定不能

 推定価値:算定不能

 備考:使い方と使用者の選択により、示される場所は変化する。

 ――――――――――――――――――――


 ただ古いだけのルーペではない。


 持ち主が欲しい物ではなく、その人生に必要な物の場所を映す。

 しかも、探せる範囲は現世に限定されていなかった。

 これが世に出れば、各国政府も大手クランも放っておかない。


 朝食の席で手渡されたのは、そんな魔道具だった。


 視界を埋めた鑑定結果を、上からもう1度読み返す。

 名前は《導きのレンズ》。希少度はSSS。

 初代所有者は、エリアス・ヴェイン。


 レンズを覗いた者にとって必要な物や、人生の分岐点となる何かが存在する場所を映す。

 おまけに、探索範囲は現世に限られない。


 情報量が多すぎて、思わず手を額に当てて考え込んでしまう。


 『もしかして、ミスター・マカベ。鑑定を通せたのですか?』


 エリオットが身を乗り出す。

 全部は分からなかったが、たぶん鑑定できたのかと聞いている。

 頷いてから、隣の名取を見る。


 「名取さん、通訳をお願いしてもいいですか」


 「もちろんです。どこまで伝えます?」


 「名前と、分かった機能を簡単にお願いします」


 俺が鑑定結果を日本語で話し、名取が英語へ直していく。

 《導きのレンズ》という名前。

 エリアス・ヴェインがダンジョンで手に入れたこと。

 鑑定士が使えば、その人にとって大切な物や必要な物、人生の分岐点となる何かが存在する場所を映すこと。


 そこまで聞いたエリオットは、視線を下げた。

 皿の横へ置かれた革紐を手元へ引き寄せ、料理にも手をつけないまま言葉を漏らす。


 『人生の分岐点……』


 名取が、その言葉まで訳してくれた。

 エリオットは返事を求める様子もなく、何度か革紐を撫でている。


 自分の家に長く伝わってきた物の用途が、今になって判明したのだ。

 すぐに言葉が出ないのも当然だと思う。


 「ねぇ、真壁さん。結局、そのルーペってなんなの?」


 桐野がテーブル越しに顔を近づけてくる。


 「簡単に言うと……めっちゃ貴重な、ダンジョン産の魔道具ってところでしょうか。エリアス・ヴェインがダンジョンで手に入れたみたいです」


 「えええっ! それ、イギリスだと国宝ものなんだけど……さすが子孫……」


 桐野の声は通りが良く、軽やかな音色のように庭へ抜けていく。

 近くの席にいた人が振り返り、桐野は慌てて口元を押さえた。


 まあ、あの鑑定結果を公表すれば、イギリスだけの話では済まないだろう。

 持ち主の人生に必要な物の場所を映し、探索範囲まで意味の分からないことが書いてある魔道具である。


 恐らくだが使い方次第では、国宝どころか国同士の取り合いになるだろう。


 『ミスター・マカベ。鑑定結果は、それだけですか?』


 考え込んでいたエリオットが顔を上げた。

 名取がすぐに訳してくれる。


 「うーん……そうですね…」


 そう答えながら、手元のレンズへ視線を戻す。

 表示された内容は十分すぎるほどだった。


 それでも、何かが引っかかる。


 センターを最初に鑑定した時も、表面には未成立ダンジョン核としか出なかった。

 その下に、本来の用途を隠す鑑定偽装が何層も重ねられていた。

 このレンズもエリアス・ヴェインに関わる物なら、見えている内容が全部とは限らない。


 銀色の縁を持ち直す。

 偽装があるなら、今度は最初からその奥へ鑑定を通す。


 そう考えてレンズを持ち上げた瞬間、曇ったガラスが右目の前へ重なった。


 「……え?」


 目の前の鑑定表示が、音もなく裏返った。


 テーブルが消える。

 英国式の庭も、朝食の匂いも、隣にいたはずの桐野たちの声もなくなった。


 代わりに、知らない部屋が見えた。


 石造りの壁に、細長い窓。

 窓の外は暗く、部屋の中央には木製の机が置かれている。


 机を挟んで、2人の男女が話していた。

 1人は、白髪交じりの男だった。

 向かいにいる人物へ、男が問いかける。


 「そっちは、もう3つに分けたのか?」


 顔を見た覚えはない。

 それでも手元にある革紐付きのレンズを見た瞬間、誰なのか分かった。


 エリアス・ヴェインだ。

読んでいただきありがとうございます。

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