予定外の招集⑥
「穴…穴って??」
「今の理解できたか?」
「いや…全く…」
「これは鑑定スキルの話だよな」
「そうなのだが…半分も理解できたか怪しい」
目の前に座っている世界でも最高位の鑑定士たちは困惑を口にする。
するとアメリカダンジョン省の主任鑑定官、サイラスが発言する。
「……その穴は、認証術式の欠損でしたか。それとも保守用の接続口ですか」
「……それは正直言うと分かりません」
サイラスは、質問の範囲をさらに絞った。
「特定の使用者だけを受け入れる、継承用の経路であった可能性は?」
「そこまでは見ていません。通れそうだったので、通しただけです」
「接続時に、氏名、魔力署名、血統、所有権、管理資格の確認はありましたか」
「そういう表示はなかったです。黒い接続端末が光って、簡易管理画面に切り替わりました」
サイラスはそれ以上聞かなかった。
認証や資格という言葉にこだわった理由は分からない。
ベルンハルトは、ここまでの説明を記録させてから質問した。
「その簡易管理画面に、何が見えていたのですか」
「魔物の難易度、出現率、鉱物資源、魔力霧濃度、階層接続補正です。ただ、全部に制限がかかっていて、個別には変更できませんでした」
「高負荷の操作も不可能だった?」
「はい。使えたのは、競技用コースのモード変更だけです」
答えるたびに、事務局員が新しい項目を書き足していく。
最初から資料にあった情報を確認しているのではない。
俺の説明で、あの日の内部表示が初めて記録になっていく。
だが俺の返答に周囲はどんどん険しい表情へと変わっていった。
「……操作結果は、すぐに反映されたのですか」
ベルンハルトの問いに、当時のエラー表示を思い出す。
「最初は失敗しました。地下3階層の補助センサーが、競技用の機材で遮られていると出たので」
そこで初めて、学会側にも独立した記録がある。
俺が示した場所へ向かった機器担当が、実際にセンサーを塞いでいた異物を発見している。
「異物の除去後、競技用コースがHARDからNORMALへ戻ったことも確認されています」
ベルンハルトは、現場報告と俺の説明が一致した箇所を示した。
「しかし、補助センサーの識別番号も、異常箇所も、現場班より先にあなたが特定していた。管理画面を見たという説明以外に、この結果を説明できません」
ヘルガが、入口からNORMALへ戻るまでの工程を整理する。
「真壁氏は、コア本体も管理資料もない場所で、未確認の管理系統を発見しました。そこから未登録の接続端末を探し、誰も把握していなかった上位権限層を読み、認証経路の穴へ鑑定を通した」
ヘルガはそこで一旦、自分自身でも整理するかのように言葉を切った。
「そして、接続した本人しか見ていない管理画面から、現実の異常箇所を言い当てた。制限された操作しかできなかったとしても、結果として当時のWEG東京側がやりたかったことを、真壁さんが実現したのは事実、です」
円卓に反論する者はいなかった。
世界最高峰の鑑定士がそろっていても、俺が見た画面を再現できる人はいない。
俺にとっては、表示された順に追っただけなのだが、彼らにとっては入口さえ見つからないらしい。
澪が、違いを一言でまとめた。
「大阪では、目の前にあるコアを深く読んだ。WEG東京では、映像から異常を見つけて、入口から誰も知らない管理系統までたどった。そこが違うのよ」
「うーん。自分としてはただ鑑定を通じて見えた物を見て、実行に移しただけなんですけど」
俺が付け加えると、ヘルガが首を横に振った。
「そうだとしても、ほかの鑑定士には管理系統の入口すら見えていません」
言われてみると、そうなのかもしれない。
ただ、あの場で止まっていたら、競技用コースはHARDモードのままだった。
そこでベルンハルトが、エリオットへ評価を求めた。
「大阪では、接触した対象を既存の鑑定より深く、広く、速く読んだと解釈する余地がありました」
通訳を挟み、エリオットは評価を続けた。
「WEG東京では、その解釈だけでは足りません。真壁氏は映像を手掛かりに離れたダンジョンの変化を読み、入口から未知の管理系統を探し、誰も接続できていない権限構造を操作可能な情報へ変えています」
エリオットの評価では、深度だけではなく、対象を見つける力、離れた場所とのつながりを捉える力、見えていない領域を鑑定に含める力まで考える必要があるという。
その評価を聞き終えたベルンハルトが、再現性の話へ戻した。
「ただし、画面越しの鑑定は一度しか確認されていません」
ベルンハルトは続けて、現地鑑定にシオの宝珠が関わっていたことにも触れた。
「シオの宝珠による補助も、真壁氏自身の鑑定から分離できない。記録があるからといって、いつでも再現できる能力と認定することはできません」
「それは、俺もそう思います」
俺の返答を受け、ベルンハルトが再現できるかと尋ねた。
「同じ条件を用意すれば、再現できますか」
「そのとき見えるものは鑑定します。でも、同じ結果が出るかは、やってみないと分かりません」
玄斎が腕を組んだまま笑う。
「その返事だけは、まともな鑑定士じゃのう」
「だけ、は余計ですよ」
ベルンハルトは、大阪とWEG東京の記録から確認できた内容をまとめた。
既存の上位鑑定士と比べても、俺の鑑定範囲、到達の仕方、情報を読む速度は大きく異なる。
しかし、俺自身が情報層の深さを数値で説明できず、画面越し鑑定の発動条件も再現条件も分からない。
「記録だけで、あなたの鑑定を既存の鑑定位へ当てはめることはできません」
「じゃあ、どうするんですか?」
「千殻真球儀による測定が必要だという、招待時点の決定を維持します」
今日、このまま測るということだろうか。
もともと順位式は最終日だと聞いていたが、予定外の聴取まで始まっているため、前倒しされてもおかしくない。
「あの、測定も今日やるんですか?」
ベルンハルトは、すぐに否定した。
「本日の緊急聴取は、順位式までに鑑定記録を整理するためのものです。測定の日程に変更はありません」
10月31日から11月4日までは、記録照合、個別審査、連盟内の順位協議が行われる。
そのすべてを終えたあとが、順位式だ。
ベルンハルトは、測定日を明言した。
「《千殻真球儀》を使うのは、予定どおり11月5日――世界鑑定学会の最終日です」
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