予定外の招集⑤
画面越しの鑑定は再現できず、現地で深く鑑定できた理由もシオの宝珠と切り分けられない。
ベルンハルトはそこまでの確認を終えると、現地記録の続きを表示させた。
モニターに映ったのは、競技用回廊の壁から黒い盤面が現れた場面だった。
学会側が俺の発言とは別に確認できたのは、黒い盤面の出現、地下3階層へ向かった機器担当による異物の発見、競技用コースのNORMAL復帰だけだ。
「ここから先、外から確認できる経過は記録されています。しかし、あなたに何が見えていたのかは残っていません」
ベルンハルトは、映像を止めた。
「競技用コース全体を鑑定したあと、最初に何を見つけたのですか」
「管理系統につながっている、術式ラインみたいなものです」
翻訳が終わると、円卓の各席から通訳機越しの問い返しが重なった。
「WEGの施設資料には、そのような接続先はありません」
聞き返したのは、北欧封印監査局のヘルガだった。
「はい。そこへ鑑定を通したら、ダンジョン管理コンソールと表示されました」
今度は、通訳が終わっても質問が続かなかった。
並んでいるのは、世界でも上位の鑑定士ばかりだ。
その誰からも、管理コンソールを既知の設備として扱う説明は出なかった。
ヘルガは、確認する言葉を慎重に選んだ。
「その管理コンソールとは、何を指しているのですか」
「競技用コースの管理画面です。接続先と対象、権限が有効かどうかが表示されていました」
「実在する装置が見えたのではなく、鑑定結果の中に操作画面が開いた?」
「はい。鑑定結果の中に出ました」
ヘルガは、俺の返答が各国語へ訳されるのを待った。
「ダンジョンコアは、世界でも研究が進んでいる領域の一つです。ですが、制御系の解析は進んでいません」
大阪の記録を確認したときにも聞いた話だ。
コアの構造や魔力出力は、多くの国が長年調べている。
それでも、制御部分は深い情報層と複数の権限に守られ、外部から操作する仕組みがあると分かっていても、接続口へ到達すること自体が難しい。
「通常はコアを隔離し、解析術式と専用設備を用意します。複数の上位鑑定士と魔導工学師が段階を踏んで、ようやく制御系の断片に触れられるかどうかです」
ヘルガの説明に、何人もの鑑定士が同意している。
「大阪では、少なくともコア本体と手動制御パネルが目の前にありました。WEG東京では、コア本体に触れてすらいません。なぜ競技用コースの入口を見ただけで、管理画面へ到達できるのですか」
「……入口から奥まで鑑定を広げたら、管理系統につながっている線があったので。それを追いました」
「見つけようとしたのではなく、見えたから追ったと?」
「そうですね、はい。見えた線を追っただけです」
ヘルガはそこで閉口した。
専門家を集め、設備を整え、順番に探すはずの入口が、俺には最初から鑑定結果として出ていたことになるらしい。
ベルンハルトが、話を先へ進めた。
「管理コンソールには、何が表示されていましたか」
「管理権限の照会中で、管理者コードが必要だと出ていました。コア本体への直接接続はできていないとも書かれていました」
ベルンハルトは、その説明を円卓全体へ向けた。
「同じように、ダンジョンの入口から管理系統を見つけ、管理コンソールまで鑑定を届かせられる方はいますか」
問いが各国語へ訳されても、誰も答えなかった。
世界上位の鑑定士が集まる円卓で、自分にもできると名乗る者は一人もいない。
しばらく待ったあと、エリオットが現地での調査状況を補足した。
「現地で同じ入口を鑑定したWEG側の技術者も、管理コンソールを確認していません。報告書にある名称は、すべて真壁氏の発言を書き取ったものです」
つまり、この場の人たちは報告書を読んで知っていたのではない。
俺がそう呼んだから、その名前だけが記録に残っていたらしい。
「えーと…続けますね? それで管理者コードは見えませんでした。ただ、近くに接続端末の反応があると表示されたので、その場所を鑑定しました」
俺が続けると、円卓の何人かが同時に報告書を見直した。
「待ってください。その接続端末は、施設の設備台帳に登録されていません」
ベルンハルトの言葉に、俺は当時を思い出す。
「現場の人たちも知らないみたいでした。鑑定結果に場所が出たので、壁の外装を開けたら、黒い接続端末がありました」
モニターの映像が再開される。
何もなかった壁が開き、黒い盤面が現れると、会議室の鑑定士たちは映像へ集中した。
「現物が発見されたことは事実です。しかし、WEG側は現在も、これがダンジョンコアへ接続する装置だと独自には確認できていません」
ベルンハルトが明かした事実に、今度は俺が驚いた。
「あれから調べても、分からなかったんですか?」
「外装の構造と、ダンジョン側へ続く術式反応までは確認されています。ですが、認証方法も接続先も読めていません」
物があっても、その先が見えなければ用途を確定できない。
俺の鑑定結果を除けば、黒い盤面が何なのかさえ、まだ研究途中ということになる。
「あなたは、その場で接続先まで確認したのですね」
「はい。鑑定で接続端末の奥へ入ったら、ダンジョンコア側につながっていました」
「ちょっと待ってください。その入った、という表現からして理解できません」
ヘルガは、黒い盤面の静止画を示した。
「鑑定は、対象の情報を読む術式です。接続先を調べることはあっても、鑑定そのものを経路にして内部へ入るものではありません」
ヘルガの言葉に俺は内心、確かに…と思ってしまう。
だが入れてしまったのは事実なので、とりあえず質問に返答する。
「でも、鑑定を通すと権限の壁が見えました。管理者コードの層より上に、Admin権限と表示された領域もありました」
Adminという言葉が訳された途端、会議室が静まり返った。
報告書に単語だけは残っていても、それが管理者コードより上位の情報層を指すと理解していた者はいなかった。
事務局員が、Admin権限は管理者コードより上位の情報層だと議事記録へ追記した。
「……もう一度聞きます。管理者権限よりも上位の層があると、鑑定結果に表示されたのですか」
「はい。ただ、逆に下位の管理者コードは分かりませんでした」
「ならば、通常…いや、真壁さんの通常はそこで終わります」
ヘルガの言葉に、俺も頷く。
「俺も最初はそう思いました。でも、Admin権限のところに穴みたいなものがあったので、そっちへ鑑定を通しました」
誰も、すぐには次の質問をしなかった。
俺としては、閉じている場所より、開いている場所を試しただけだ。
どうやら、その考え方からして鑑定士の手順ではないらしい。
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