予定外の招集④
本日カクヨムのほうでサポーター専用SS『WEG東京 鑑定競技を解説します!②』が公開されています!
本編エピソードに入っていたのですが、長すぎるという理由で泣く泣くカットした真壁のWEG東京鑑定競技のエピソードとなります。全5話形式で、本日は2話目を公開しています。数日後に3話目を公開予定です。
「……まだあるんですね」
「あります」
ベルンハルトは即答した。
さっきまで確認していた大阪ダン博事件の報告書の上へ、WEG東京の記録が重ねられる。
開会式では、偽のヴァイスマン会長と中央演出塔の仕込みが見つかった。
闇の加護や光の屑まで聞かれるなら、午前中には終わらない気がする。
「今回は、競技用ダンジョンの記録に限定します」
少し安心した直後、円卓の中央に置かれたモニターで、踏破部門の公式配信が再生された。
映っているのは、東京ダンジョン・有明臨海ゲートだ。
競技用コースの前では、各国の代表選手が開始の合図を待っている。
映像の隅には、当時の配信時刻も残っていた。
「この時点で、あなたは競技用ダンジョンを鑑定しようとしていましたか」
「していません。公式配信の解説席で、モニターを見ていただけです」
「鑑定を使う意思もなかった?」
「はい。あのときまでは、画面越しに鑑定できたこともありませんでした」
通訳機が俺の返答を各国語へ変えていく。
翻訳が終わると、ヘルガがモニターの表示内容を確認した。
「映像に対して鑑定を行った場合、通常は何が見えると思いますか」
「映っているものじゃないんですか?」
ヘルガは眉間にしわを寄せた。
「モニターの材質、投影術式、映像データの記録形式。読めたとしても、その範囲です。映像は、離れた場所から届いた光と音を表示しているにすぎません」
カメラに剣が映っていても、画面から剣の材質は鑑定できない。
魔物の姿が見えても、撮影先にいる魔物の能力までは読めない。
まして、映像に収まっていないダンジョンの管理設定へ鑑定を届かせることなど、一般的な鑑定士にはできないらしい。
「ですが、あなたはこの映像から競技用コースの設定変更を読み取っています」
ベルンハルトが、当時の書き起こしを読み上げる。
書き起こしの最初には、東京ダンジョン・有明臨海ゲートと記されている。
対象はWEG競技用コースで、現在設定はHARDモード。
罠の作動条件、疑似魔物の反応速度、魔力霧濃度、階層接続補正が、通常競技設定から変更されている途中だった。
「この内容に間違いはありませんか」
「はい。画面の上に、その鑑定結果が出ました」
「配信映像にも、同じ情報が表示されていた可能性は?」
「俺以外には見えていませんでした。実況の人たちも、俺が声を出すまで普通に進行していましたから」
公式配信の映像は、そのまま選手たちを映し続けている。
俺が思わず声を出した場面まで進むと、映像が止められた。
円卓にいる鑑定士たちが、それぞれモニターへ鑑定を使う。
何人かが読み取った内容を事務局員へ伝えたが、表示装置の構成や保存形式ばかりで、東京ダンジョンの名前は一度も出てこない。
「現時点では、誰も撮影先へ到達できていません」
ベルンハルトが確認すると、エリオットが発言した。
「これは保存映像です。当時の生中継と、完全に同じ条件ではありません」
「生中継なら、映像の先とつながっているんですか?」
俺が聞くと、エリオットは首を横に振った。
「少なくとも、既存の鑑定術では接続として扱いません。もし生中継の映像を座標として利用できるなら、世界中の監視映像から危険物やダンジョンを鑑定できることになります」
そんな鑑定士は、これまで確認されていない。
そしてサイラスが質問する。
「映像を見たとき、カメラの位置や、東京ダンジョンまでの距離を意識しましたか」
「いえ……していません。何かにつながった感じもなくて、いつものように鑑定結果が出ただけです」
「当時の運営室では、大阪でダンジョンコアを扱った経験が関係したかもしれないと説明していますね」
「ほかに思い当たることがなかったので。あくまで予想です」
だがヘルガは、その経験だけでは映像とダンジョンの間にない接続を補えないと指摘した。
「録画映像で、同じことを試した経験は?」
「ないです」
俺の横で、シオがスマホを上げる。
『しおも みてた』
「そうだな。シオも隣にいたよな」
『せき あった』
「専用台座の報告はしなくていいから」
玄斎が笑い、通訳された各席からも声が漏れた。
ベルンハルトは、シオの画面越し鑑定への関与を確認した。
「あのとき、シオに鑑定の補助を求めましたか」
「頼んでいません。だよな?」
シオへ同意を求めると、もう一度スマホへ文字を打ち込んだ。
『ただ みてただけ』
これでシオが関係していないと断定できるわけではない。
ただ、少なくとも俺たちのどちらにも、特別なことをした覚えはなかった。
「成功した記録はある。しかし、本人にも発動条件が分からず、同じ映像を見た鑑定士にも再現できない」
ヘルガはそこで言葉を切り、通訳を待った。
そしてタイミングをはかって続ける。
「現段階では、術式として分類できません」
「そうですね。俺も、もう一度できるかと言われると分かりません」
「その後は、現地で鑑定していますね」
ベルンハルトの言葉に合わせ、公式配信の映像が消えた。
次に示されたのは、競技用コース入口と現場報告の図面だった。
俺は入口の外装を鑑定し、公開されていなかった逆侵食遮断用複合封印フレームの機能を読み取った。
その後、競技用の回廊と、その先にあるダンジョン領域をまとめて鑑定している。
「どこまでを、一つの鑑定対象としたのですか」
質問したのはヘルガだった。
「HARDモードになっている競技用コース全体です」
「入口から見えない階層も含めて?」
「奥まで続いているのは分かっていましたから。どこで設定が変わっているのかを探しました」
ヘルガは、俺の返答が翻訳されてから説明を加えた。
通常、見えない領域まで鑑定対象に含めるには、構造図や探査術式、魔力経路など、範囲を指定する手掛かりが必要になる。
競技用コース全体という言葉だけで、地下階層まで正確に含められるものではない。
「このときは、シオの宝珠が出ていました」
俺が補足すると、ベルンハルトが確認する。
「光聖の宝珠が4つ、あなたの周囲へ現れたという記録です」
「はい。暗い穴の中を照らしてくれるような感じで、いつもより鑑定を通しやすくなりました」
「シオへ、補助方法を指示しましたか」
「していません。シオが何をしてくれたのかも、詳しくは分からないです」
念のため、シオにも聞いてみる。
「シオ。このとき、俺の鑑定を補助してくれたのか?」
シオはしばらく考えてから、文字を浮かべた。
『んー わからない』
そのため、どこまでが俺の鑑定で、どこからがシオの補助なのかは分けられない。
ベルンハルトは、この部分だけを俺の能力として扱わないと明言した。
読んでいただきありがとうございます。
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