予定外の招集①
「……何も本気なんて出してないんよ……」
俺がその場で項垂れていると、星門館側からUS-DDAの職員と探索者たちが駆けつけてきた。
支援チームと内閣府特命チームが前へ出て、到着した職員たちと話を始める。
配信が停止していること。
センターには誰も近づけず、現場の監視をUS-DDA側へ引き継ぐこと。
俺が読み取った鑑定結果は、日本側から改めて共有すること。
短いやり取りの後、特命チームの担当者が俺たちのところへ戻ってきた。
「真壁さん。現場はUS-DDAへ引き継ぎます。私たちは、ここを一旦離れます」
「……はい」
黒い球体の周囲には、誰も近づけないよう規制線が張られていく。
俺が読み取った鑑定結果も、日本側とアメリカ側の担当者へ共有された。
星門館へ戻る途中、俺は何度か後ろを振り返った。
鑑定表示は、最後まで【供給対象未接続】のままだ。
「結局、何に補給する場所なんですかね」
「それを配信で調べようとしないでくださいね」
「もう配信は切れてますって」
「……そういう意味ではありません」
結局、何を注意されているのか分からないまま、俺は星門館へ戻った。
◇
日本側の逗留施設では、名取が先に待っていた。
「真壁さん、おかえりなさーい! いやぁ、朝からやらかしましたね!」
「名取さんまで……」
シオが名取のところへ駆けていく。
二人は目の前にいるのに、それぞれのスマホを取り出した。
シオが先に文字を表示する。
『やっぱり じこはいしん』
名取も、自分のスマホへ素早く文字を打ち込んだ。
『さすが我らの王』
「……毎回言ってますが、目の前にいるんだから、普通に話してくださいよ」
「これはシオちゃんと私の、いつもの挨拶なので!」
『いつもの』
「二人とも、そのくらいにしてください」
支援チームの女性に止められ、名取がスマホをしまった。
「私たちからも話があります。アメリカ側から、真壁さんに鑑定してほしいものがあるそうです」
「俺が鑑定するんですか?」
「詳しい話は、正式な資料が来てからです。今は、そういう依頼があるってだけで」
「はぁ……」
何を鑑定してほしいのか尋ねようとしたところで、日本が借り受けているこの施設の玄関から来客が入ってきた。
世界鑑定士連盟の事務局員だった。
事務局員は日本側の担当者へ身分証と書状を示した。
「真壁遼様に、七鏡座から緊急の出席要請が出ております」
「俺に?」
「はい。本日の予定にはありませんでしたが、先ほど行われたセンターの鑑定について、直接ご説明いただきたいとのことです」
俺は支援チームの方を見た。
「やっぱり、開催場所を配信で言ったことですか?」
「そちらについては、アメリカ側と日本側の担当部署で協議されると伺っております」
「じゃあ、星門館を映したこと?」
「星門館の映像についても、別途協議されます」
「……ほかにもあるんですか?」
事務局員は俺と支援チームのやり取りに苦笑いを浮かべつつ、言葉を挟む。
「七鏡座が確認したいのは、エリアス・ヴェインによる鑑定偽装を、どのように突破したかという点です」
「普通に鑑定しただけなんですけど」
この言葉に事務局員が思わず黙り込む。
支援チームと特命チームもお互い視線を合わせつつ黙っている。
「それを説明しに来なさいってことじゃない?」
桐野が小声で俺に向かって話す。
シオも専用スマホをこちらへ向ける。
『はやく しゃくめい してこい』
「……えぇ?」
七鏡座から求められたのは、一般参加者へ向けた研究発表ではなかった。
星門館の会議棟で行われる、関係者だけの非公開聴取だという。
日本側は、俺一人だけを出席させることを認めなかった。
同行者には支援チームと特命チーム、外務省の担当者が選ばれ、護衛として名取も加わった。
センターで俺と同じ違和感を示していたことを話してしまったため、シオにも同行要請が出ていた。
桐野は世界鑑定学会の関係者ではないため、施設に残ることになった。
「いってらっしゃい、事故配信王」
「だから事故配信王じゃないですって」
◇
案内されたのは、大勢が入る講堂ではなかった。
星門館の会議棟にある、重い木製扉のついた円形会議室だった。
扉の前では、連盟所属の警備員が参加証と同行許可証を一人ずつ確認している。
「なんか、裁判みたいですね……」
「大丈夫ですよ。いざとなったら連れて逃げますから!」
名取が明るく答えた。
「逃げたら駄目な場所じゃないですか?」
シオが専用スマホを見せる。
『ひこくにん りょう』
「被告人じゃないから」
会議室へ入ると、すでに各国の鑑定士たちが集まっていた。
中央の円卓を囲んでいるのは、世界鑑定士連盟の最高意思決定機関である七鏡座の構成員たちだ。
その周囲にも、鑑定位を持つ上位鑑定士が座っている。
鑑定位56位。現役最高順位のエリオット・ヴェイン。
鑑定位67位。北欧封印監査局のヘルガ・ノルド。
US-DDA歴史遺産鑑定室の主任鑑定官、サイラス・グレイ。
御厨玄斎の隣には、御厨宗一郎と御厨澪が並んでいた。
知っている顔を見つけ、少しだけ安心する。
「朝から随分と大きなものを見つけたわね」
澪が声をかけてきた。
「黒い球体なら、前からあそこにあったみたいですけど」
「そういう意味じゃないわよ」
玄斎が隣で笑う。
「相変わらずじゃのう。本人だけが、何をやったのか分かっておらん」
「いや、鑑定結果はちゃんと読みましたよ」
「読めたこと自体が問題なのじゃ」
俺たちは指定された席へ座った。
シオは俺の隣に用意された低い椅子へ乗り、専用スマホを机の上へ置く。
席へ着くと、連盟の事務局員が日本側の出席者へ小型の通訳機を配ってきた。
俺も渡されたイヤホン型の通訳機を右耳につける。
事務局員が英語で作動確認をすると、ほとんど間を置かず、日本語へ変換された声が耳元から聞こえた。
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