回収屋チャンネルinモニュメントバレー④
「……は?」
その一言で、コメント欄が急に沸き立った。
『え???? いま真壁さん、は?って言ったぞ!!』
『きたぁぁぁぁぁぁ!』
『見たかっ!! 我らが王の実力をっ!』
『まだ、は?って言っただけなのにこの沸きっぷり草』
『ほらな? リーチかかってただろ?』
『さすが事故配信王。こんな何もないところで事故を起こすその実力、お見それしました』
『ほんと事故に愛されてるよなぁ』
『マジで事故配信っていうスキル持ってそうだな』
「ま、真壁さん、何見えたの……?!」
桐野が横から声をかけてくる。
だが、俺は目の前の鑑定結果から目を離せなかった。
障害のようなちらつきが消え、その奥に隠されていた文字が並んでいく。
「いや……その……。どうも鑑定結果を欺くような処理が施されてるみたいなんですけど……」
「……けど?」
「鑑定結果が意味分かんないんですよ……。本当に」
――――――――――――――――――――
対象:ナバホ補給基点【センター】
分類:大型移動型ダンジョン由来生命体用・定置式エネルギー供給施設
設置者:エリアス・ヴェイン
状態:休止/供給対象未接続
供給源:周辺異界領域蓄積魔力
主機能:登録対象の生命核、移動器官および外殻へのエネルギー補給
偽装処理:ダンジョン形成残滓を装う多層鑑定偽装
偽装設計者:エリアス・ヴェイン
備考:本領域は独立したダンジョンではない。大型移動型ダンジョン由来生命体の停泊および補給を目的として、地上に固定された補給拠点である。
――――――――――――――――――――
何度読み直しても、表示は変わらない。
「大型移動型のダンジョン由来生命体に、エネルギーを補給する施設……みたいです。ここへ何かが来て、動くための力とか、身体を維持するための力を補給するらしくて」
「え? 補給地??」
桐野が黒い球体と俺の顔を見比べた。
「あと、鑑定結果では、ここは独立したダンジョンじゃないと出ています。何か大型の生物を停めて、補給するために地上へ固定された場所だって……」
『やべぇ、何言ってるのか分からん』
『まず何を補給するんだ?』
『この鑑定の通りだとすると、そもそもここはダンジョンではない?』
『ちょっと野生の有識者?!』
『野生の有識者だが、見当つかん』
俺にも、これ以上は分からない。
表示には登録対象とあるが、その名前や姿はどこにも出ていなかった。
この結果に一番慌てたのは、少し離れて配信を見守っていた支援チームと内閣府特命チームだった。
「いまの真壁さんの話……分かります?」
「いや、さっぱり分からん……」
特命チームの担当者は黒い球体を見たあと、周囲の担当者へ告げた。
「何にしても、ここで配信は中止だ。いいな?」
全員が頷いた。
「真壁さんっ! 配信中止してくださいっ!! 今すぐにっ!!」
荒野に大声が響いた。
俺と桐野は顔を見合わせる。
「まぁ真壁さん、仕方ないっしょ」
「はぁ……。すいません。ということで、緊急配信はここまでとします。視聴いただき、ありがとうございました」
俺が頭を下げる。
シオが撮影用スマホの画面を操作し、配信終了ボタンを押した。
配信が切れたのを確認すると、シオは専用スマホをこちらへ向ける。
『りょう ほんき だしすぎ』
「……何も本気なんて出してないんよ……」
俺はその場で項垂れた。
◇
その少し前。
真壁たちがセンターから配信していたころ、星門館では日本側の担当者たちが館内のサロンへ案内されていた。
サロンの扉の前で、内閣府特命チームの担当者が名取へ声をかける。
「すまんね、名取君。本来の護衛対象から外して、そばにいてもらって」
「あはは! 大丈夫ですよ!! あっちは魔物出ませんし、それに周囲にはうじゃうじゃと探索者が配置されてますから」
名取は明るく答え、さらに胸を張った。
「それに、向こうにも忍ばせているので問題ないですっ!」
その返事を聞いて、特命チームの担当者、支援チームの女性、外務省の担当者、名取の四人がサロンへ通された。
朝食用の円卓には、淹れたてのコーヒーから温かなパンまで、ホテルのモーニングが一式用意されている。
だが、日本側の四人は誰も手をつけていない。
「それで……わざわざモーニングに誘ってまで、何の話でしょうか」
特命チームの担当者が口を開いた。
円卓の向かいには、アメリカ側の二人が座っている。
そのうちの一人、ダニエル・クロフォードは、アメリカダンジョン省の国際ダンジョン協力局長だった。
外国政府との政策協議や共同案件を扱い、10月30日の正式面会にも同席する予定の高官である。
「ずいぶんとせっかちだね。まずは軽く朝食を頂いて、そしてゆっくりと話すのはどうだい?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、そんなことをするために呼んだわけではないでしょう?」
クロフォードは一瞬だけ目を丸くし、次いで大げさに胸へ手を当てた。
「これは手厳しい。朝食の誘いまで疑われるとは、少し傷つくな」
そう言いながらも、口元には楽しそうな笑みが浮かんでいる。
「まぁ、そうですね。本題は後日の公式会談で、と思っているのですが、ここはその前のすり合わせの時間と考えていただければ」
外務省の担当者が眉間にしわを寄せた。
「そういうことは困ります。事前の話し合いには一切取り合わないという約束だったではありませんか」
「まぁまぁ。そういう話だというのは聞き及んでいるが、そもそも、外交の世界でそれを真に受けて行動する者なんているかい?」
クロフォードがおどけるように両手を広げる。
「……そういう話をしているのでは――」
外務省の担当者の言葉へ重ねる前に、特命チームの担当者が片手を上げて制した。
「煩わしいのは抜きにしましょう。それで、何のすり合わせでしょうか」
「ははっ。話の分かる人を、私は好きですよ」
クロフォードはコーヒーカップを取り、一口飲んだ。
すぐには続きを話さず、静かにカップを受け皿へ戻す。
日本側の四人が待つ中、クロフォードはようやく口を開いた。
「真壁遼氏に、依頼したいことがあります」
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