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【書籍化&コミカライズ決定】会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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ブライスキャニオンの星空(前編)

 本日カクヨムのほうでサポーター専用SS『世界の代表選手は、シオと写真を撮りたい!』が公開されています!


 カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)

 午前5時45分。


 枕元で鳴り始めたのは、俺のスマホではなかった。

 ありふれた電子音に重なって、頭の中へシオの声が飛び込んでくる。


 『あさー!』


 シオの声だ。

 声に出して喋れないが、俺にだけはこうして直接声を飛ばしてくる。


 「止めて……」


 枕の下では、普通のアラームが鳴り続けている。


 『あさー!』


 「……分かったから」


 手を伸ばして画面を探すが、暗い室内ではどこにあるのか分からない。

 電子音は枕の下から聞こえている。


 『あさー!』


 ようやくスマホを引っ張り出し、画面の停止ボタンを押した。

 隣では、アラームを設定した本人が殻から身を乗り出し、こちらを見ていた。


 『おきた』


 「もう朝か…シオは朝から元気だな…」


 『しお いつも げんき』


 「……それはとても良いことで」


 俺はシオを抱えるとそのままベッドを出て、暖房の温度を上げた。

 ガラスの向こうはまだ暗く、天井には星が残っている。


 服を着替え、支援チームが用意した上着を羽織る。

 靴下まで厚手のものが入っていた理由は、ドアを開けた瞬間に分かった。


 「寒っ」


 吐いた息が白い。

 東京の10月を想像していた体に、ユタ州の高地は厳しかった。

 肩の上ではシオが既に移動していて、俺のフードの中へ半分ほど潜っている。


 『さむい』


 「起こしたときは元気だっただろ」


 『しお さむさ よそうがい』


 「それは同感」


 集合場所へ行くと、桐野はすでに準備を終えていた。

 昨日と似た服装だが、上着は厚くなり、頭にはニット帽をかぶっている。


 「おはよう。ちゃんと起きたじゃん」


 「起こされました」


 「誰に?」


 俺の肩でシオが専用スマホを操作し、画面を桐野へ向けた。


 『しお おこした』


 画面の文字を読んだ桐野が吹き出した。


 「シオちゃんが起こしたの? じゃあ明日は、私のスマホにも朝のメッセージ送ってよ」


 シオはすぐに文字を打ち込み、桐野へ見せる。


 『いいよ』


 「確実性はないですよ?」


 そんなやり取りを桐野としつつ、名取と特務隊員たちも周辺確認を終えて集まり始めており、続いて装備と人数の確認が始まった。

 ここからは桐野が連れて来た英国側の警護担当も同行する。


 観光客のトレッキングにしては、明らかに人数が多い。

 いや、これは既にちょっとした観光の集団を超えている気がする………。


 「これ全員で歩くんですか?」


 「一部は先行します。一般の来園者を排除する予定はありませんので、真壁さんたちは通常の利用者として行動してください」


 支援チームの女性がいつも通りに答えた。

 通常の利用者……通常の利用者とは……。


 「真壁さん、気にしたら負けよ」


 「もう負けてる気がします」


 そして俺らは車に乗り込むと、まだ夜が明けきっていない暗い道を走り、15分ほどで公園へ着いた。


 駐車場から外へ出ると、リゾートよりさらに空気が冷たい。

 靴底からは硬い地面の感触と冷えた空気が返ってきた。


 「あっちからブライスキャニオンの全体が見れるみたい」


 周辺は街灯が少ないが、先行してる見知った警護の人たちは確認が出来る。

 ちょうどその方向に見えるポイントがあるそうだ。


 俺たちは薄暗い中遊歩道を進み、日の出が見える場所で足を止めた。

 

 「ここは崖になっているんですね」


 「あっちに展望台あるよ? いこ!」


 桐野と俺とシオ、そして少しだけ距離を取って支援チームや警護隊が周囲をさり気なく固めているが、気にせず展望台方向へ足を向けた。


 ここから見えるブライスキャニオンの全貌はまだ暗くてよく分からない。

 けれど地平線の先の東の空が薄くなり始めている。

 

 やがて、遠くの山の輪郭が赤く縁取られた。

 光が差し込むにつれ、眼下に並ぶ無数の岩の柱が一本ずつ姿を現す。


 赤色を基調とした元々の岩柱が朝日に照らされて、それは燃えるような赤色を帯び始めていく。

 その赤く細長い岩が無数に重なり、谷の底まで続いていた。


 「……すごいな」


 思わず感嘆の声が出た。


 写真で見たことはある。

 シオの動画でも、渡航前に何度か流れていた。


 実物は、どこを見ればいいのか迷うほど広く、そして普通ではない光景がそこに広がっていた。

 近くの岩を見ている間に、その奥にも同じような岩が何重にも続いている。


 『おしろ』


 シオがフードから顔を出した。


 「城に見えるのか?」


 『しおの おしろ』


 「シオのお城か。随分とまた派手なお城だな」


 桐野は柵に手を置き、朝日に染まる岩柱を見ていた。


 「ここ、ブライスキャニオンって名前だけど、川が削った普通の峡谷とはちょっと違うのよ」


 「詳しいんですね」


 「昨日、ちょっと調べたのよ」


 「昨日?」


 「知らないまま案内するよりいいでしょ」


 得意そうに話していたので、何度も来たことがあるのかと思った。


 「雨や雪が岩の割れ目に入って、凍ったり溶けたりしながら削っていくんだって。あの柱はフードゥーっていうみたい」


 「あの塔みたいな岩柱全部に、ちゃんと名前があるんですね」


 『ふーど』


 シオが俺の頭を見上げた。


 「フードゥだ」


 『しおの ごはん』


 「それは…フードだな」


 隣で名取がカメラを下げた。

 今、朝日ではなく俺たちを撮っていなかったか?


 空が明るくなると、周囲の観光客も動き始めた。

 俺たちは人の流れから少し外れ、トレイルの入口へ向かう。


 案内板には、ここから谷へ下り、岩柱の間を抜けて別の地点へ戻るコースが表示されていた。


 下りた分だけ、最後に上る。

 当たり前のことが、地図に描かれた高低差を見ると急に足が重くなる。


 「これ、本当に初心者向けですか?」


 「ちゃんと整備されてるから大丈夫」


 「聞きたいのは道の状態じゃなくて、体力の方です」


 「疲れたら休めばいいのよ。今日は時間あるんだから」


 桐野は先に歩き出した。

 その足取りに迷いはなく、階段状になった坂を軽く下りていく。


 俺もあとを追った。



 ◇



 上から見下ろしていた時と、岩柱の間へ入ってからでは景色がまるで違った。


 道の両側に赤い壁が立ち、曲がるたびに細い塔や窓のような穴が現れる。

 乾いた土を踏む音に、ときどき松の葉が擦れる音が混じった。


 日が高くなるにつれ、上着の中が暑くなってくる。

 朝は手袋まで必要だったのに、今は額に汗が浮いていた。


 「桐野さん、速くないですか?」


 「合わせてるけど?」


 「誰に?」


 「真壁さんに」


 嘘だ。

 絶対に嘘だ…。


 桐野は息一つ乱していない。

 少し後ろを歩く名取も同じで、英国側の警護担当たちにも余裕がある。

 苦しそうなのは俺だけだった。


 「レベルの差って、こういうところで出るんですね」


 「真壁さんが特殊すぎるのよ。あれだけダンジョンに入って、どうして1のままなの?」


 「魔物を倒してないからです」


 「ダンジョンコアは?」


 「止めたり、直したりはしました」


 「うーん。それだと経験値入らないのは、ありえる……かな?」


 俺に言われても困る。


 道の脇に、手のひらほどの赤い石が転がっていた。

 周囲の岩と同じように見えたが、表面だけ妙に黒く光っている。

 立ち止まって目を向けると、いつもの鑑定結果が短く浮かんだ。


 ――――――――――――――――――――

 対象:鉄分を多く含む堆積岩片

 分類:自然由来

 状態:風化進行中

 備考:公園区域外への持ち出し禁止

 ――――――――――――――――――――


 「どうしたの?」


 桐野が数歩先で振り返る。


 「ちょっと石を見てました」


 「いいのあった?」


 「普通の石です。持ち出し禁止と出ています」


 「鑑定にも注意されるんだ」


 「俺だって持っていこうとはしてませんよ。でもお土産に少し欲しいかなとは思いました」


 シオが肩から身を乗り出し、石へスマホを向ける。


 『きんし』


 「そう。見るだけ」


 『しお もってない』


 「えらい」


 念のためシオの足元を見た。

 本当に何も持っていない。


 「今、シオちゃん持ってないか疑ったでしょ」


 桐野がこちらを見ている。


 「確認です」


 『りょう しつれい』


 「シオは前科があるだろ」


 『……ない』


 魔石の小箱から勝手に取った回数は、前科に数えないらしい。

【新作のお知らせ】

新作『人間嫌いのハイエルフ、父になる』の連載を開始しました!

※ハイファンタジーです。要注意!


人間を嫌っていた長命種のハイエルフが、ひょんなことから人間の赤ちゃんを拾い、慣れない子育てに奮闘するお話です。

本人はあくまで一時的に保護しているだけのつもりですが、周囲から見ると、どう見ても父親になりつつあります。


本作とはまた少し違った、ほのぼのとした子育てファンタジーになっています。

楽しんでいただけましたら嬉しいです!

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